真空管とは、電子部品の一種。トランジスタの先輩に当たる部品である。
概要
熱電子を利用して信号増幅やスイッチング、整流などを行う能動部品である。
半導体が発達する前は増幅素子やスイッチング素子として当たり前のように使われていたが、半導体が発達して安価に高性能な半導体部品が世に出てくると、省エネ性・耐衝撃性・寿命などの面で不利な真空管は次第に姿を消していった。
ただし真空管を用いたオーディオ機器は真空管というデバイスの特性からくる柔らかい音や、真空管自体の見た目の美しさなどで今なおコアな人気を保っている。また半導体では考えられないような大電力を扱うことができるので、TV・ラジオ送信所などの高出力が要求される場面では未だに真空管が現役のこともある。
また、電子レンジでマイクロ波を発生させるために使われている「マグネトロン」という部品は真空管の一種である。
真空管の原理
まずここに金属線があり、この金属線に電流を流すと赤く光って発熱する。この時、熱や光のエネルギーだけでなく「熱電子」というものが金属線から放出されている。熱電子だろうと「電子」には変わりない、つまり空間を「熱電子」という形で電流が流れているということでもある。
そこで「熱電子を吐き出す金属線の向かいに熱電子を受け止めるための金属板を置いてやれば「回路」になるんじゃね」「その熱電子の飛んでいる途中になんか電圧をかけるものを置いて、途中で熱電子の流れを邪魔してやると("受信側"の金属板が受け取る熱電子の量で)信号を増幅できるんじゃね?」というのが真空管の超大雑把な理屈である。
真空管の電極
- プレート
プラス極、いわゆるアノード。電子を受け止める「受信側」。NPNトランジスタでいうコレクタ。
名称の由来はそのまんま、板状の電極であることが多いから。 - カソード
マイナス極。熱電子を吐き出す「送信側」。NPNトランジスタでいうエミッタ。 - グリッド
信号を加える電極。熱電子の流れを電圧で制御する。NPNトランジスタでいうベース。
真空管の分類
形状による分類
- ナス管 - 野菜の茄子の実のような、先のほうが膨らんだ形状。
- ST管 - ナス管の頭の部分に「たんこぶ」のように出っ張りがでている形状。
- GT管 - 円筒形の形状。
- ミニチュア管/mT管 - 小型の真空管。GT管をスケールダウンしたような形状。
構造による分類
- 二極管
電極がプレート(プラス極)とカソード(マイナス極)のみ。整流・検波用。
ちなみに「ダイオード」とは本来この二極管を表す言葉であった。 - 三極管
プレート、カソード、グリッドの3つの電極を備えるタイプ。
グリッドに印加する電圧で熱電子を制御する(=信号増幅やスイッチングを行う)。 - 四極管
グリッドをさらにもう一つ追加し、低電圧でも動作できるようにしたタイプ。 - 五極管
四極管にグリッドを(ry、動作を安定させたタイプ。
まとめ
「熱電子って基本的にあっつい方から冷たい方への一方通行じゃん、これって整流とか検波に使えんじゃね?」(二極管)
↓
「いいこと考えた、この熱電子の流れを電圧を使って制御してやったら信号を増幅できそうじゃん」(三極管)
↓
「制御用のグリッド電極がひとつだと増幅率しょぼいな、じゃあグリッドをもう一つ追加して増幅率引き上げじゃwww」(四極管)
↓
「四極管って結構動作が不安定だな…安定化するためにさらにグリッド特盛り一丁!」(五極管)
真空管の変わり種とか親戚たちとか
マグネトロン
マイクロ波発信用の真空管。
「マグネ」トロンというくらいなので磁石が使われている。
フィラメントから吐出された熱電子を強力な磁場で軌道を曲げ、複数の穴の空いた陽極に飛び込ませて共振させることによりマイクロ波を発生させる。
レーダーや電子レンジの文字通りの心臓部。
サイラトロン
大電力スイッチング用の真空管。
「増幅」ではなく「スイッチング」に特化しており、線形増幅ができない(要するに信号をきちんとn倍に大きくすることができない)。
ちなみに電車の制御装置でお馴染みのサイリスタは、元々は「サイラトロンみたいな挙動のトランジスタ」という意味の造語である。
マジックアイ
ステータス表示用の真空管の一種。
ラジオ電波の受信状態などを表示するために使われる。
ブラウン管
液晶ディスプレイが普及する前は表示素子の花型だったブラウン管、実はこいつも真空管の親戚である。
カソードで生成した熱電子を加速し、グリッドで方向をコントロールして「画面」の蛍光体にぶつけて発光させ、絵や文字を表示する。
余談
- 旧ソ連のMiG-25戦闘機はレーダー回路に真空管を使っていることで有名である。
これに関しては当時は半導体自体が不安定かつ高価だったので「信頼と実績の真空管」を重量増加を承知のうえであえて採用した、高出力レーダーを実現可能な増幅素子が当時は真空管くらいしかなかった、或いは核戦争上等の機体なので核爆発時のEMPに耐えられる真空管をあえて採用したなどの説がある。 - またボーイング747旅客機の一部の部品にも真空管が使われていたそうで。時代を感じる。→日本航空特設サイトより
- 真空管の原理を応用した「真空マイクロ素子」という電子デバイスが研究開発されているらしい。なぜ今どき真空管かというと、それは結晶の中を流れる電子より熱電子のほうが移動度が遥かに大きい≒超高速素子を作れる可能性を秘めているからである。
- ENIACなどの初期のコンピュータはスイッチング素子に真空管を使用していた。
創作作品における真空管
真空管はその独特の美しさや雰囲気からフィクションの世界においても魅力的な一要素として様々な作品で扱われている。レトロ成分を醸し出す要素であったり、サイエンスフィクションとして独自の発展を遂げた分野であったりその役割は様々である。
- 紅の豚 - 1930年代を舞台にしたスタジオジブリ作品。作中に真空管ラジオが登場する。
- YAT安心!宇宙旅行 - 本作に登場する宇宙船「YATダブ」の中枢部に真空管を用いていることを示す描写がある。
- オメガブースト - 歴史を変えるためにENIACの真空管を別の物に組み替えようとする場面がある。
- サージュ・コンチェルトシリーズ(「シェルノサージュ」及び「アルノサージュ」) - 真空管に基づいた文明が発達した世界観となっており、大型機械から家電製品まであらゆる物が真空管で動いている。
関連動画
関連商品
関連項目
- 科学
- 電気
- ニキシー管
- 白熱電球(構造上はある意味親戚)
- オーディオ
- ラジオ
- テレビ
- 電子レンジ
- トーマス・アルバ・エジソン - 後の真空管につながる「エジソン効果(熱電子放出効果)」を発見した
- スチームパンク
- SF
- MiG-25
- B747
- ENIAC
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