Calibriとは、Microsoftからリリースされている欧文書体及びフォント製品である。書体分類はヒューマニストあるいはモダンスタイルのサンセリフ体。デザインはLuc(as) de Groot。
2007年から2023年まで、英語版などのMicrosoft Officeにおけるデフォルトフォントであった。
概要
2007年に発売されたMicrosoft Office 2007において、デフォルトのフォントとして採用されたことで一躍有名になり、以後、世界中のMicrosoft製品ユーザーに広く愛用されるようになった。日本で言うところのメイリオのような立ち位置である(OSバンドルであるため厳密には異なるが)。開発者はルーカス・デ・グロート(Luc(as) de Groot)であり、彼はシンプルでモダンなサンセリフ体を目指してデザインしたという。
Calibriは、MicrosoftがWindows VistaとOffice 2007のリリースを控えていた時期に、従来のデフォルトフォントであった「Times New Roman」や「Arial」に代わる、新しい「クリアタイプ」フォントファミリーの一部として開発された。クリアタイプとは、液晶画面上での視認性を向上させる技術であり、Calibiriはそれを最大限に活用するようデザインされている。その結果、印刷物だけでなく、画面上でも非常に読みやすいフォントとして完成したのである。本書体は2005年のWindows Vistaβ版リリースに含まれ、2007年より正式リリースとなった。
Calibriの特徴は、その柔らかな曲線と適度な字間の広さにある。文字の端にかけての「丸みを帯びた」デザインは、親しみやすさと同時に視認性の良さを引き出しており、文書作成やプレゼンテーションにおいて視覚的に心地よい印象を与える。また、適度に細いストロークと、上下の比率(Xハイト)のバランスが程よいので、フォーマルな場面からカジュアルな場面まで幅広く利用できる。
ウエイトはLight、Regular、Boldの3種で、またイタリック体バージョンもファミリーに含まれる。このイタリック体は機械的に斜体をかけた「オブリーク」とは異なり、カリグラフィーに影響された手書き感を持つ専用の骨格で設計されている。
文書偽造事件とCalibri
Calibriが一般に知られるきっかけとなったのは、実はその書体の視認性やデザイン性が評価されたからだけではない。ソフトウェア(主にMicrosoft Word)のデフォルトフォントであったために「Calibriが存在するはずのない文書」が複数の事件で使用され、偽造文書の作成年月日を推定させる要素としてしばしば注目されてきたという経緯がある。
日本向けのWordは「MS 明朝」(1992年リリース)、2016年以降では「游明朝体」(2002年リリース)がデフォルトフォントとなっているので、国内でCalibriのような判例はあまりない。
ナワーズ・シャリフ氏の汚職事件
2017年、パキスタンの元首相ナワーズ・シャリフ氏が関与した汚職事件(いわゆるパナマ文書事件)は、Calibriの影響した著名な事件の一つである。この事件では、彼の娘であるマリヤム・ナワズ氏が「2006年」に作成したとされる信託文書にCalibriが使用されていた。
この書体は2007年以降に一般的にリリースされたため、法廷では偽造の証拠としてこのフォントの使用が指摘され、大規模な政治スキャンダル「フォントゲート」へと発展。この一件は、名前と書体の分類名から「Sans-Sharif」とも揶揄された。
破産申告での偽造
カナダの実業家ジェラルド・マゴイ氏は破産を申し立てた際に2つの不動産が3人の子供に信託されていると主張し、証拠として2004年・1995年に作成されたとする文書を提出した。
しかし、2004年作成とされた文書にはCalibri、また1995年作成とされた文書には同じくクリアタイプのCambria(2007年リリース)を使用していた。
当然フォントのリリース時期から矛盾しており、マゴイ氏の申告内容は偽造であると判断された。さらに、文書に特有の「等幅ライニング数字」が用いられており、これは2005年以降のフォントバージョンにしか存在しない仕様だった。
トルコ・クーデター関連文書の疑惑
2012年、トルコ政府は約300人に対してクーデター計画に関与したとして起訴し、その際に押収された文書にCalibriが使われていた。この一連の文書はリリース前の2003年に作成されたとされていたため、信憑性を疑問視する声が上がったが、政府は依然有罪とした。
リリース以降
Calibriは、リリース年の2007年より前の日付が記された文書に使用されていると、その内容が偽造とみなされやすいフォントである。こうした事件の蓄積により、Calibriは「偽造文書検出フォント」の代表例としても知られるようになった。
しかし2021年、MicrosoftはCalibriをOffice製品のデフォルトフォントから外すことを発表し、Bierstadt、Grandview、Seafordなどの新しいフォントを候補として提案、投票を募った。この中から「Bierstadt」が選ばれ、「Aptos」という名前で2023年からCalibriに換わるデフォルトフォントとなっている。今後はAptosが、文書の偽造を明らかにする役割を担うのかもしれない。
Calibriもまた、デフォルトでなくなっただけで搭載は継続しており、「やはりCalibriが一番見やすい」と根強い支持を寄せる層もあるため、完全にその役割を終えたわけではないだろう。
使用方法
Microsoft Officeのライセンスを購入する
Microsoft Officeのバンドル書体であるため、これを導入することで使用が可能となる(HG創英角ポップ体などのHG書体などもこれと同様)。デフォルトフォントでなくなった現在も利用は可能。
なお、Microsoft Office用に書体ライセンスがされているため、使用可能範囲は確認しておく必要がある。
MyFontsで購入する
Microsoftは、Monotype運営のフォント販売サイト「MyFonts」に出店しており、Calibriも例にもれず購入可能である。
2024年現在、1ウエイトの単品で3,848円、6書体ファミリーのまとめ売りで23,090円となっている。
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関連項目
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