XF5U フライングパンケーキとは、アメリカが試作した艦載戦闘爆撃機にして珍兵器にして空飛ぶ円盤である。
下ごしらえ
1930年代、チャンスボート社にある男がいた。その名はチャールズ・H・ジンマーマン。彼は常日頃ある疑問を感じていた。
「凧は、どうして弱い風でもあんなに高く揚がるのだろう?」
そうだ、凧の原理を使えばカタパルト無しで離陸できる艦載機を作ることができるに違いない!
そこで彼はとある構想を思いついた。それは円盤翼を持った航空機である。
なぜ円盤翼なのか。航空機は主翼の両翼端から後方へ発生する空気の渦、翼端流が存在する。これは航空機を後ろに引っ張るために抵抗になってしまう。そこで彼はこの翼端流を解決すべく、円盤翼の端にプロペラを取り付け、プロペラによって生まれる渦で翼端流を相殺しようとしたのだ。
また、彼が考慮のうちに入れていたかは不明だが、円盤翼というのは事実上の全翼機であり翼面積も大きくなる。その為揚力が稼ぎやすいという特徴がある。
この理論は模型実験にてその有用性を証明してみせ、それに米海軍は目をつけた。
米軍の支援を受けジンマーマンはV173という試験機を開発、飛行に成功した。60馬力×2という正直非力なエンジンでのテストではあったが、高い性能を示して見せ、特に離陸性能についてはたった6mで離陸が出来た。
ちなみにこのV173、その形状からUFOとして誤認されたという逸話がある。
こうして米軍はこの試験機の結果をもってフライングパンケーキの開発を命じることとなった。
遅れる調理、そしてゴミ箱へ
さっそくチャンスボート社はフライングパンケーキの製作に取り掛かったがそれには多くの困難が伴った。
もちろん機体構造が革新的過ぎて戦闘機として実用的にするのに梃子摺った。これはまぁ仕方ないともいえる。
次に米海軍の要求が高すぎた。
よほどその短距離離着陸性能に期待していたらしく、一説には空母以外の巡洋艦や戦艦での運用をまじめに考えていたといわれる。その為超低速での安定性と戦闘機として重要な高速性のどちらもが求められたのである。
とくにあたかもヘリコプターのごとく飛行するための低速安定性を得るのに必要なプロペラ、フラッピングブレードの製作に難航し、実機はF4Uのプロペラを流用した。
さらにチャンスボート社は戦争に合わせてF4Uの製造に手一杯で十分なリソースをまわすことが出来なかった。
ようやく実機が完成したものの、時は1945年8月20日。戦前から研究が行われていたがいつの間にか戦争が終わってしまっていた。
ちまちまと研究は続けられフラッピングブレードも完成したものの、時代は既にジェットエンジンに移りつつあり、わざわざプロペラ機の円盤翼機を使う必要はどこにもなかった。さらに言えば巨大なプロペラ2基にさえぎられるため長砲身の機関砲とか大型ロケット弾の搭載が出来ないというのも大きな欠点であった。
こうして1947年3月に計画破棄、XF5Uは即スクラップとなる。
ちなみに円盤翼という構造とチャンスボート社の特許であるハニカム上のバルサ材にアルミを張った材料の相乗効果で機体は非常に頑丈であり、スクラップにはかなり苦労したらしい。
なお、上記の試験機V173は解体されずにスミソニアン航空宇宙博物館の倉庫に長らく眠っていた。しかし、21世紀になってから民間団体の手で8年かけてレストアされ、テキサス州ダラスの航空博物館に展示されている。
IF…
ジェット化の流れがXF5Uの命運を奪ったと上では書いたが、中にはXF5Uは当初からジェット化を考慮していたという説もある。理由は特徴的なエンジンナセル。故障のリスクを考えてもわざわざプロペラシャフトとずれた位置に作ったのは、将来的にはジェットエンジンへの換装を考慮していたと考えるのが自然というのが根拠である。とはいうものの、この形状では亜音速域以降では抗力が大きいだろうからたとえジェット化してもただの延命措置にしかならなかっただろう。
また、そもそもがプロペラの翼端流を利用するがための形状であるため、この説の妥当性にはいささか疑問が残るといえよう。
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