オタクくんさぁ...とは、日本のロックバンドWANIMAのメンバーが言っていない台詞である。
2017年に紅白歌合戦への出場を果たし、今や日本を代表するメロコアバンドとも呼ばれるようになったWANIMA。その底抜けに明るい音楽性やメンバーの強めのビジュアルから、いつしかインターネット上では彼らを「陽キャ」や「リア充」のアイコンのように扱う風潮が生まれ、広まっていった。いわゆる風評被害である。
インターネットの、特にTwitter等のSNSでコミュニティを形成していたオタク層の中には、学生時代にスクールカーストの下位に甘んじ、上位の者から虐げられた経験を持つ者が存在している。そんな彼らから見てWANIMAは、まさにスクールカースト上位の存在のファッションや文化を顕現させたような存在に映ったのだろう。実際WANIMAの主要なファンが、まさに現役のスクールカースト上位層で占められていた(ように見えた)ことも、これらの偏見の醸成に繋がった可能性がある。
「オタクくんさぁ…」という表現自体は最初のブームが起こる2018年以前から存在していたが、Twitter上でのWANIMA画像を使って何かを言わせるミームの初出はパソ・コン氏の「おたくさー」とされている。
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https://twitter.com/tkmk_sw/status/744534852016340993
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https://twitter.com/pasotokon/status/877445158245064704
2018年ごろから徐々に「おたくクン」という表現に変化していき、「おたくクンさー」という今のものと似た表現も登場した(参考)。これらの一連のツイートが第一次ブームのきっかけになったと思われる。
2018年の半ば頃から、ネット民が受けた過去の経験(あるいは想像)を元にWANIMAがオタクをいじめている・ちょっかいをかけている様のコラージュ画像や大喜利ツイートが作られるようになった(参考/参考2)。これらはミーム的に広がり、特にWANIMAが閲覧者を「オタクくん」と呼んでいるシチュエーションがテンプレートとして固定化した。ここで1回目のブームを迎えることになる。
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https://twitter.com/She4Ma/status/972075011753127936
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https://twitter.com/scoop_364364/status/1012374444172427264
2019年下半期になると再び加速的にブームが広がり、大喜利が量産されるようになっていった。2019年末から2020年初頭にかけて、特にブームは盛り上がりをみせた。この頃になると更に状況の固定化が進み、大喜利に用いられる画像の種類が絞られていき、遂にはほとんどが熊本地震復興支援ドラマ『ともにすすむ サロン屋台村』の公式サイトに掲載された、WANIMAが熊本地震についてインタビューを受けているときの写真(あるいは『Musicman』誌などがそのサイトについて報じる記事に転載した写真)を題材として用いられるようになった。このドラマの主題歌にはWANIMAの楽曲「ともに」が起用されていた。WANIMAのメンバーは全員が熊本県出身であり、この写真でWANIMAらが真剣な表情をしているのも故郷を襲った地震やその復興について、楽曲に込めた思いを語っているためである。
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https://twitter.com/hicyori02/status/1216683636247781377
内容の傾向としても今までが「満面の笑みのWANIMAが何か嘲るようなことを言う」というものが主流だったのに対し、この画像を使う場合は「オタクくんさぁ…」という象徴的な出だしから始まり、なにか相手(≒オタク・ネット民)の言動を叱責したり牽制したりする内容がほとんどになる。以前のWANIMAネタでは理不尽ないいがかりが多かったのだが、この場合は取り上げられる内容もより内省的なものになったり、言われている相手が薄々気付いていそうなことにズバッと言及する系のネタが持て囃されるようになり、様々なジャンル・視点からの大喜利が作られるに至った。
大喜利が広まる過程で、上記のインタビュー画像自体を加工したり、画像をトレースして別のキャラクターに仕立てたり、またWANIMAと対のミームである『三色チーズ牛丼顔』を元ネタとしたコラージュが製作されてバズるなど、界隈が大きな盛り上がりをみせた。同時に出だしを「じゃあなんすか」としてWANIMAが何かに言い返すコラも製作されはじめた。
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https://twitter.com/fuxxxxxroxxka/status/1215358723020845056
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https://twitter.com/abiko_bot/status/1215583513178599427
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https://twitter.com/moyasi05/status/1216011140146200584
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https://twitter.com/himuron/status/1215994537765531649
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https://twitter.com/maaaarceeeey/status/1217032549270089729
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https://twitter.com/Snusmumriken12/status/1216705054616383489
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https://twitter.com/kihana_khn/status/1215877862479187968
念の為付記しておくが、これらのミームはあくまでもネタとして用いられているものであって、決してWANIMAに特別な恨みや偏見を持って接しているユーザーが大半を占めているわけではない。
コラージュ製作者の中にはツイートにぶら下げで謝意や懺悔を書く人もおり、またポジティブな文脈からの大喜利もなされている。筆者はブームを通じてWANIMAの曲に興味を持ったりファンになったりしたユーザーも一定数確認できた。
少し乱暴な論評かもしれないが、ネット民が抱えがちな思春期のトラウマを、WANIMAという分かりやすいアイコンを通して乗り越えようとしている形が、一連の大喜利群なのかもしれない。
ただし、本人や復興ドラマの関連団体が自由に画像を使っていいと言ったわけではなく、「元は偏見から生まれている」「勝手に他人に言わせている台詞である」という性質上、このミームを嫌う人もいるということには注意を要する。
上記の、熊本地震復興支援ドラマ『ともにすすむ サロン屋台村』の主題歌に起用されたWANIMAの楽曲「ともに」の公式MUSIC VIDEO。WANIMAの公式Twitterアカウントのツイートからの引用。
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https://twitter.com/WANIMA_OFFICIAL/status/758995491887517696
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最終更新:2024/10/16(水) 05:00
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