ダイネーゼ(Dainese)とは、イタリア・ヴェネト州ヴィチェンツァ県モルヴェーナに本社を持つレーシングスーツ製造企業である。
MotoGPなどのモータースポーツで、多くの有名レーサーがダイネーゼの製品を着用している。
ダイネーゼの創業者であるリノ・ダイネーゼという人は、銀行員の息子として1948年6月19日にアルツィニャーノで生まれた。名門のヴェネツィア大学で経済と商業を学んだあと、生まれ故郷の隣町であるヴィチェンツァで働いていた。
トレンティーノ=アルト・アディジェ州の山岳地帯でスキーをして遊ぶ人たち向けの商売をしていたが、次第にバイクレース向けの商売をするようになった。当時のバイクレースで使われるレーシングスーツは北ヨーロッパから輸入されるものだったが、品質が不十分だった。リノ・ダイネーゼの故郷のアルツィニャーノや、そのそばのマロースティカに優れた皮革製造業者がいることを知ったリノ・ダイネーゼは、バイクレース向けのレーシングスーツ製造企業を立ち上げることを決意した。
1972年に、24歳の若さでモルヴェーナにダイネーゼという会社を設立した。ここは先ほど挙げたマロースティカの隣町である。2019年現在も、本社はモルヴェーナに置かれ続けている。
ちなみに、ダイネーゼのライバル企業であるアルパインスターズは、モルヴェーナから東に23kmしか離れていないアーゾロに本社を構えている。
1976年には、当時の大スターであるジャコモ・アゴスティーニと契約を結んだ。ジャコモはレースに関して非常に細かいところまで気を遣う性格なので、創業わずか4年のこの時点でダイネーゼの製品は業界トップクラスの品質になっていたと言える。
2014年に、中東の産油国バーレーンに本社を持つ投資企業のインベストコープ(Investcorp)が、ダイネーゼを1億3000万ユーロで買収し、ダイネーゼの過半数の株を取得した。創業者のリノ・ダイネーゼはダイネーゼの20%を確保するのみとなった。
2019年現在のCEOはクリスチャン・シレイ(Cristiano Silei)で、会長はフェデリコ・ミノリ(Federico Minoli)なのだが、この2人ともドゥカティにいたことがある。テキサコ・パシフィックグループという投資企業がドゥカティを所有していた時代に、両者ともにドゥカティに所属していて、上司と部下の関係だった。
近年のダイネーゼは、モータースポーツ向けレーシングスーツのみではなく、宇宙服の開発にも参加している。欧州宇宙機関(ESA)やアメリカ航空宇宙局(NASA)やマサチューセッツ工科大学(MIT)と協力し、ダイネーゼが得意とするエアバッグ技術を盛り込みつつ、宇宙服を作っている。(記事1、記事2)
ダイネーゼは、ヘルメットメーカーのAGVを傘下に収めている。2007年にダイネーゼがAGVを買収し、2014年にはダイネーゼの親会社であるインベストコープ(Investcorp)がAGVを買収した。
このため、ダイネーゼとAGVは一体不可分の間柄である。ダイネーゼのレーシングスーツを販売するとき「一緒にAGVヘルメットはどうですか」と奨めることになる。
ダイネーゼは「dalla testa ai piedi(testaは頭、piediは足という意味)」をイタリア向け標語としている。これを英語訳すると「from head to toe」となり、日本語訳すると「頭からつま先まで」となる。
AGVはジーノ・アミサーノ(Gino Amisano)という人物がヴァレンツァ(Valenza)という土地で起業した。創業者の頭文字2つと、創業の土地の頭文字1つをとって、AGVという社名にした。(資料)
AGVのロゴマークは、ヘルメットの中にイタリア国旗を収めた図柄となっている。
ダイネーゼのロゴマークは、創業以来のデザインである。レーシングスーツの肩や、レーシングスーツの腰に付いている。
このダイネーゼのロゴマークは、悪魔をモチーフにしたものとされていて、「デビル・マーク」という通称で呼ばれている。
ダイネーゼの日本語版Wikipedia記事には、次のような文章が記述されてる。ただし、出典は明記されていない。
ダイネーゼのロゴマークは「デビルマーク」と呼ばれ、悪魔をモチーフにしている。これは設立した1970年という時代が、既得権益層に対する反発を生んでいた時期であった事に由来する。当時の若者の怒りを象徴するものとして、悪魔がロゴマークに選ばれた。
ダイネーゼ・ジャパン公式ウェブサイトのこのページには、創業者リノ・ダイネーゼのデザインが載っている。悪魔が駆ける姿の絵や、悪魔がレンズを通してこちらを覗き込んでいる姿の絵が描かれている。
特に、レンズを覗く悪魔の姿は、「他の人達が想像すら出来ないものを見ている」ことを意味しているという。
2017年にダイネーゼ京都の人が、イタリアのダイネーゼ本社に研修へ行き、そこで新たな事実を知らされた。
創業者リノ・ダイネーゼの描いたデザインの本当のモチーフは、古代イタリアの神話に出てくるファウヌス(Faunus)という神がモチーフだという。
ファウヌスは「半分がヤギ、半分が人」という姿で描かれたり、「半分が羊、半分が人」という姿で描かれたりする。画像検索すると、半獣・半人の絵や彫像が多く見つかる。農耕や豊穣を司る神であり、多産をもたらし、家畜や田畑を守ってくれる。
したがって、ダイネーゼのマークは、「ファウヌス・マーク」と呼ぶのがより正確なのだという。
Faunus(ファウヌス)はラテン語で、現代イタリア語だとFauno(ファウノ)になり、英語だとFaun(ファウン)になる。どの表記でも意味は同じである。
※この項の資料・・・ダイネーゼ大阪の人のブログ記事、ファウヌス(日本語版Wikipedia記事)、Fauno(イタリア語版Wikipedia記事)
転倒したMotoGPライダーをエアバッグで保護しようという取り組みを世界で最も早く始めた企業として知られる。
2000年にエアバッグ作動システムの開発が始まり、次第に開発が進んで、D-Air(ディー エアー)という商品名でエアバッグ作動システムを販売するようになった。この画像を見ると、ジャック・ミラーのお尻の右側に「D air」という文字が入っていることがわかる。
しかしながら、縦線が入っているせいで、どうしても「P air」に空目してしまう。画像検索すると、そのことがよく分かる。
2018年には、MotoGPの全ライダーに対し、エアバッグ作動システムの組み込まれたレーシングスーツを着用することが義務づけられるようになった。エアバッグ作動システムを製造できるのはダイネーゼと、そのライバル企業であるアルパインスターズだけである。
ダイネーゼのエアバッグは、0.015秒でエアバッグを膨らませるかどうか判断し、その判断をしてから0.030秒でエアバッグを完全に膨らませる。合計0.045秒でエアバッグが膨らむことになる。(参考資料)
ライバルのアルパインスターズは、「0.050~0.060秒でエアバッグを膨らませる」と言っているので、両社はほぼ互角の性能を持っていることになる。
アルパインスターズのエアバッグ作動システムはGPS(宇宙空間に浮かぶ人工衛星を使って位置情報を把握するシステム)を使っていないが、ダイネーゼのエアバッグ作動システムはGPSを使っている。
このため、低速移動しているときやバイクから下車しているときは、エアバッグが決して作動しない。レース参加者向けのエアバッグは時速50km以下で移動している際に決して作動しないようになっているし、公道移動者向けのエアバッグは時速30km以下で移動している際に決して作動しないようになっている。
2019年ドイツGPでマルク・マルケスが優勝して、パルクフェルメに帰り、いつものようにうつ伏せで胴上げされた。そのとき、マルク・マルケスの着用するアルパインスターズ製のエアバッグが作動してしまい、マルクの上半身がパンパンに膨れていた。ダイネーゼのエアバッグなら、そういう事態が発生しない。
2019年オランダGP予選でファビオ・クアッタハッホが快走してポールポジションを獲得した。ファビオは喜びのあまり車上で左腕をブンッと振り回したのだが、そのせいで着用するアルパインスターズ製エアバッグが作動してしまい、上半身をパンパンに膨れさせながらピットに戻ることになった。ダイネーゼのエアバッグなら、そういう事態が発生しない。
2019年カタルーニャGPでマルク・マルケスが下車して観客の声援に応えているが、そのときにもエアバッグが作動してしまった。
アルパインスターズとはライバル関係にあり、MotoGPのスター選手を引き抜き合っている。
また、エアバッグ作動システムの特許をめぐり、ヨーロッパ各国でダイネーゼがアルパインスターズを提訴している。ドイツ、イタリア、イギリス、フランスで訴訟が行われている。
2019年2月には、ドイツ南部のミュンヘン地方裁判所でダイネーゼが勝訴した。そのためアルパインスターズは、ドイツ国内で「TECH-AIR」というエアバッグが付いたレーシングスーツを販売できなくなった(記事)。
ヴァレンティーノ・ロッシはダイネーゼの大株主である。このためダイネーゼとその子会社のAGVは、ロッシ御用達企業となっている。また、ロッシに憧れるライダーがダイネーゼとAGVに身を包む姿がしばしば見受けられる。
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最終更新:2024/05/13(月) 09:00
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