チキサゲビマブ・シルガビマブ 単語

チキサゲビマブシルガビマブ

2.8千文字の記事
医学記事 医学記事
医療や健康に関する相談は各医療機関

チキサゲビマブ(Tixagevimab)/シルガビマブ(Cilgavimab)とは、SARS-CoV-2感染症COVID-19)の発症抑制に用いられる抗体医である。販売名エバシェルド®

概要

エバシェルド®は、モノクローナル抗体のチキサゲビマブおよびシルガビマブから構成される抗体医である。抗体医として本邦3例となる新型コロナウイルス感染症COVID-19)治療である。治療だけでなく発症抑制の適応を取得した剤としては、ロナプリーブ®に続き2例免疫が抑制されておりワクチン接種が推奨されない方、ワクチン接種をしても十分な免疫の獲得が期待できない方に対する、ウイルス曝露前の投与が可剤としては本邦初。抗体カクテルと形容されたロナプリーブ®は2種類の抗体を混合して静脈内注射するが、エバシェルド®は2種類の抗体を混合せずにそれぞれ筋肉注射する。

構成 化学 分子量
チキサゲビマブ
(遺伝子組換え)
アミノ酸残基216個のL鎖(κ鎖)2本
アミノ酸残基461個のH鎖(γ1鎖)2本
からなる糖タンパク質
C6488H10034N1746O2038S50 約149,000
シルガビマブ
(遺伝子組換え)
アミノ酸残基219個のL鎖(κ鎖)2本
アミノ酸残基461個のH鎖(γ1鎖)2本
からなる糖タンパク質
C6626H10218N1750O2078S44 約152,000

アメリカ合衆国ヴァンダービル大学医療センターで発見され、イギリスの製企業アストラゼネカにライセンス供与されて開発が進められた。曝露前予防のためのとして2021年12月アメリカ合衆国における緊急使用許可を取得し、2022年3月欧州連合EU)における販売承認を取得した。2022年8月、治療および発症抑制のためのとして日本での特例承認を受けた。海外では予防のため使用されており、治療としての承認は世界初である。ただし、安定的な供給が難しいことや治療に使用可剤がほかに存在することから、発症抑制を的とした投与に限り使用が認められている。

チキサゲビマブ(Tixagevimab)とシルガビマブ(Cilgavimab)に共通する“-vimab”は、抗ウイルスモノクローナル抗体を意味するステム(語幹)である。また、“Evusheld®”という販売名は、“Shield for Everyone”に由来する。

効能・効果

世界的に供給量が限られており、安定供給が難しいため一般には流通していない。上記のとおり「治療」の適応を取得しているが、2022年9月時点では「発症抑制」を的とした投与に限り使用可病院や診療所からの依頼を受けて厚生労働省から配分される。あらかじめ在庫しておくことは認められていない。

ワクチン接種が推奨されない方、ワクチン接種をしても十分な免疫の獲得が期待できない方が対となる。具体的には、積極的に治療を受けている白血病や悪性リンパ腫など血液がんの患者、抗体産生不全または複合免疫不全を呈する原発免疫不全症の患者、1年以内に移植以外の固形臓器移植を受けた患者など[1]。ただし、COVID-19患者の同居家族のような濃厚接触者における有効性は示されていないため、濃厚接触者になった方は本剤投与の対外となる。

用法・用量

治療の場合、成人または12歳以上かつ体重40kg以上の小児に対し、チキサゲビマブ300mg/3mLおよびシルガビマブ300mg/3mLをそれぞれ筋肉内に注射する。ただし、前述のとおり2022年9月時点では治療に用いることはできない。

発症予防の場合、成人または12歳以上かつ体重40kg以上の小児に対し、チキサゲビマブ150mg/1.5mLおよびシルガビマブ150mg/1.5mLをそれぞれ筋肉内に注射する。SARS-CoV-2変異の流行状況などに応じて、治療用量と同量(300mg/3mLずつ)用いることもできる。

ちなみに、注射部位は重要な血管神経の少ない臀部(お尻)である。2剤を混合せずに投与する必要があるため、2回注射することになる。どちらの成分を先に投与してもよいが、別々の部位に注射する。注射後は座ってもよいが安静にし、注射部位を強く擦ったり揉んだりしないこと。

作用機序

チキサゲビマブとシルガビマブは、SARS-CoV-2表面にある突起(スパイクタンパク質)を認識する中和抗体である。それぞれ、スパイクタンパク質の異なる部位に結合する。SARS-CoV-2スパイクタンパク質を介して宿細胞に侵入するが、チキサゲビマブおよびシルガビマブがこれを阻するため、ウイルス増殖が抑制されると考えられる。

また、抗体のFc領域を部分的に改変(タンパク質を構成する一部のアミノ酸を別のアミノ酸に置換)しており、半減期が延長(作用持続時間が延長)、抗体依存性感染増強(抗体による症状の増悪)リスクが低減している。

禁忌・副作用

エバシェルド®の成分に対する重篤な過敏症の既往歴がある患者への投与は禁忌である。

副作用としてアナフィラキシーがある。一般的なアナフィラキシーの症状は、かゆみ、発、動悸、息苦しさ、冷めまい、ふらつきなど。また、剤による副作用というより注射そのものへの反応だが、注射した部位が硬くなったり、く腫れたり、かゆくなったり、出血したりすることがある。

同じく抗体医であるロナプリーブ®ゼビュディ®と異なり、エバシェルド®は筋注であるため、抗体医の点滴で起こることのあるインフュージョンリアクション(急性輸液反応)の報告はない。

同種同効薬

カシリビマブ/イムデビマブロナプリーブ®
COVID-19の治療・発症抑制に用いられる抗体医
アメリカ合衆国リジェネロン社によって創製され、スイスのロシュ社と共同で開発された。2021年7月承認。2種類の抗体を混合して単回点滴静注、または混合せずに単回皮下注する。
ソトロビマブゼビュディ®
COVID-19の治療に用いられる抗体医
アメリカ合衆国ウィルバイオテクノロジー社によって創製され、イギリスのグラクソスミスクライン社と共同で開発された。2021年9月承認。1種類の抗体を単回点滴静注する。

関連リンク

関連項目

脚注

  1. *日本感染症学会COVID-19に対する薬物治療の考え方 第14版exitp17-18
この記事を編集する
関連記事

親記事

子記事

  • なし

兄弟記事

掲示板

  • 1 ななしのよっしん

    2023/03/18(土) 18:21:34 ID: gyrgt0548p

    投与対として「積極的な治療を受けている血液悪性腫瘍の患者」があるけど
    この「積極的な治療を受けている」とは、既に何らかの治療を使って治療中であることだけを意味しないので
    たとえば白血病と診断がつき今後継続して治療を受ける予定があるのであれば、投与可になる。
    でも、濃厚接触者は投与対外なので、投与直前に患者の同居家族COVID-19発症しちゃうと中止。
    ……まあ、そうなるな

  • 👍
    0
    👎
    0

おすすめトレンド

ニコニ広告で宣伝された記事

記事と一緒に動画もおすすめ!
ミリオン一座[単語]

提供: 猫ネッコ

もっと見る

急上昇ワード改

最終更新:2025/12/11(木) 10:00

ほめられた記事

最終更新:2025/12/11(木) 10:00

ウォッチリストに追加しました!

すでにウォッチリストに
入っています。

OK

追加に失敗しました。

OK

追加にはログインが必要です。

           

ほめた!

すでにほめています。

すでにほめています。

ほめるを取消しました。

OK

ほめるに失敗しました。

OK

ほめるの取消しに失敗しました。

OK

ほめるにはログインが必要です。

タグ編集にはログインが必要です。

タグ編集には利用規約の同意が必要です。

TOP