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チキサゲビマブ(Tixagevimab)/シルガビマブ(Cilgavimab)とは、SARS-CoV-2感染症(COVID-19)の発症抑制に用いられる抗体医薬である。販売名はエバシェルド®。
エバシェルド®は、モノクローナル抗体のチキサゲビマブおよびシルガビマブから構成される抗体医薬である。抗体医薬として本邦3例目となる新型コロナウイルス感染症(COVID-19)治療薬である。治療だけでなく発症抑制の適応を取得した薬剤としては、ロナプリーブ®に続き2例目。免疫機能が抑制されておりワクチン接種が推奨されない方、ワクチン接種をしても十分な免疫の獲得が期待できない方に対する、ウイルス曝露前の投与が可能な薬剤としては本邦初。抗体カクテルと形容されたロナプリーブ®は2種類の抗体を混合して静脈内注射するが、エバシェルド®は2種類の抗体を混合せずにそれぞれ筋肉内注射する。
| 構成 | 化学式 | 分子量 | |
|---|---|---|---|
| チキサゲビマブ (遺伝子組換え) |
からなる糖タンパク質
|
C6488 |
約149,000 |
| シルガビマブ (遺伝子組換え) |
からなる糖タンパク質
|
C6626 |
約152,000 |
アメリカ合衆国のヴァンダービルト大学医療センターで発見され、イギリスの製薬企業アストラゼネカにライセンス供与されて開発が進められた。曝露前予防のための薬として2021年12月にアメリカ合衆国における緊急使用許可を取得し、2022年3月に欧州連合(EU)における販売承認を取得した。2022年8月、治療および発症抑制のための薬として日本での特例承認を受けた。海外では予防のため使用されており、治療薬としての承認は世界初である。ただし、安定的な供給が難しいことや治療に使用可能な薬剤がほかに存在することから、発症抑制を目的とした投与に限り使用が認められている。
チキサゲビマブ(Tixagevimab)とシルガビマブ(Cilgavimab)に共通する“-vimab”は、抗ウイルスモノクローナル抗体を意味するステム(語幹)である。また、“Evusheld®”という販売名は、“Shield for Everyone”に由来する。
世界的に供給量が限られており、安定供給が難しいため一般には流通していない。上記のとおり「治療」の適応を取得しているが、2022年9月時点では「発症抑制」を目的とした投与に限り使用可能。病院や診療所からの依頼を受けて厚生労働省から配分される。あらかじめ在庫しておくことは認められていない。
ワクチン接種が推奨されない方、ワクチン接種をしても十分な免疫の獲得が期待できない方が対象となる。具体的には、積極的に治療を受けている白血病や悪性リンパ腫など血液がんの患者、抗体産生不全または複合免疫不全を呈する原発性免疫不全症の患者、1年以内に肺移植以外の固形臓器移植を受けた患者など[1]。ただし、COVID-19患者の同居家族のような濃厚接触者における有効性は示されていないため、濃厚接触者になった方は本剤投与の対象外となる。
治療の場合、成人または12歳以上かつ体重40kg以上の小児に対し、チキサゲビマブ300mg/3mLおよびシルガビマブ300mg/3mLをそれぞれ筋肉内に注射する。ただし、前述のとおり2022年9月時点では治療に用いることはできない。
発症予防の場合、成人または12歳以上かつ体重40kg以上の小児に対し、チキサゲビマブ150mg/1.5mLおよびシルガビマブ150mg/1.5mLをそれぞれ筋肉内に注射する。SARS-CoV-2変異株の流行状況などに応じて、治療用量と同量(300mg/3mLずつ)用いることもできる。
ちなみに、注射部位は重要な血管や神経の少ない臀部(お尻)である。2剤を混合せずに投与する必要があるため、2回注射することになる。どちらの成分を先に投与してもよいが、別々の部位に注射する。注射後は座ってもよいが安静にし、注射部位を強く擦ったり揉んだりしないこと。
チキサゲビマブとシルガビマブは、SARS-CoV-2表面にある突起(スパイクタンパク質)を認識する中和抗体である。それぞれ、スパイクタンパク質の異なる部位に結合する。SARS-CoV-2はスパイクタンパク質を介して宿主細胞に侵入するが、チキサゲビマブおよびシルガビマブがこれを阻害するため、ウイルスの増殖が抑制されると考えられる。
また、抗体のFc領域を部分的に改変(タンパク質を構成する一部のアミノ酸を別のアミノ酸に置換)しており、半減期が延長(作用持続時間が延長)、抗体依存性感染増強(抗体による症状の増悪)リスクが低減している。
エバシェルド®の成分に対する重篤な過敏症の既往歴がある患者への投与は禁忌である。
副作用としてアナフィラキシーがある。一般的なアナフィラキシーの症状は、かゆみ、発疹、動悸、息苦しさ、冷汗、めまい、ふらつきなど。また、薬剤による副作用というより注射そのものへの反応だが、注射した部位が硬くなったり、赤く腫れたり、かゆくなったり、出血したりすることがある。
同じく抗体医薬であるロナプリーブ®やゼビュディ®と異なり、エバシェルド®は筋注であるため、抗体医薬の点滴で起こることのあるインフュージョンリアクション(急性輸液反応)の報告はない。
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最終更新:2025/12/11(木) 10:00
最終更新:2025/12/11(木) 10:00
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