早明浦ダム

早明浦ダムとは、高知県長岡郡本山町と土佐郡土佐町に跨るダムである。

四国四県のうち、香川県と徳島県の利水に大きく影響する。

完成まで

四国地方は昔から、太平洋に面する高知県と徳島県では雨が多く洪水に、瀬戸内海側にある愛媛県と香川県では渇水に悩まされてきた。特に日本三大暴れ川として名高い吉野川は、幾度と無く洪水によって大きな被害を出してきた。しかし瀬戸内海側では雨が少なく、特に香川県では毎年のように渇水が発生し農業や生活にも影響を与えてきた。 

そこで、高知県と徳島県を流れる吉野川の上流に大規模ダムを建設し、台風などでの増水時に下流の被害を防ぎつつ、渇水が頻発する香川県への利水も兼ねた早明浦ダムが建設されることになった。

なお、建設に際しては国の他に四国四県も共同出資しており、全体の建設費のうちの出資割合は徳島72%・香川13%・愛媛6%・高知1.5%である。香川県がよく徳島は14％と言ってるが新規用水の話であって実際には不特定用水と治水分を支払っている。

建設工事に際し、高知県本山町・土佐町・大川村の3町村の一部が水没することとなり、地元では大規模な反対運動が行われた。村の大部分がダム湖に沈む大川村では、水没予定地にあえて村役場を建設し、抗議意思を表す事態にまで発展した。
この旧村役場は現在でも水位低下時に姿を表し、渇水時の風物詩となっている。 ちなみにこの旧村役場は貯水率が30％以下になると見えるため、通常時は完全に水底に沈んでいる。そのため着工までに10年以上の交渉期間があり、最終的に3町村が多額の保証金で折れる形となり建設が決定した。

1963年に着工後、香川県へと水を通す香川用水などの建設と平行して進み、1975年にようやく完成した。

完成後

吉野川での洪水調整には多大な威力を発揮した早明浦ダムだが、香川県の渇水問題はそう簡単に解決しなかった。

ダム建設中の1973年に香川県が深刻な水不足で大ダメージを受けた際、早明浦ダムの建設を主導してきた当時徳島県は「橋建設の優先権くれるのなら水はあげるよ」と言うスタンスであったためすんなり許可を出した。特に徳島県知事であった武市恭信の尽力があった点が大きい。翌年の1974年に暫定豊水水利権による香川県への通水をわずか一ヶ月で実現させた。 

なお香川県は手のひらを返し瀬戸大橋の建設を優先させ恩を仇でかえした。

ダム完成後は徳島県が48％、香川県が29％、愛媛県が19％、高知県が4％の配分での送水が開始された。
完成時にダム施設に設置される予定だったモニュメントには「四国はひとつ」と刻まれる予定だったが、当時の高知県知事に「水はひとつになったが、他の事がまだだ」と反対され、結局「四国のいのち」と刻まれることになった。これが、今でも続く四国四県同士の対立を予言していたのかもしれない…

その後はしばらく安定した治水・利水能力を発揮していたが、1994年に大規模な渇水が起こり貯水率が0％になる事態に。早明浦ダム完成後、その水に頼りきっていた香川県では各地で夜間断水などが発生し大問題となった。

現在でも2～3年に一度の頻度で貯水率が大幅に低下し、各県への送水量をカットする取水制限が行われる。

香川県水乞い事件

香川県は1994年7月、かつて無い渇水に見舞われていたが、徳島県は早明浦ダム枯渇後の分水に難色を示した。早明浦ダム枯渇間際の1994年7月20日、香川県知事・香川県副知事・香川県議会議長の三役が徳島県庁を訪れ、徳島県知事に「水をいただけますよう、何分の御高配をたまわりたい」と水乞いをした。特に香川県議長は徳島県知事にたいして膝をつき、手を握りしめ「生活用水を助けてもらいたい！102万県民を何とか助けて欲しい！！」と懇願したと言われてる。

この1時間後、香川県庁の食堂のメニューからうどんが消えたそうな。

結局、徳島県知事に「徳島も水困ってんだよ、特に農作物。もっと自助努力しろよ。」と言われて食い下がった結果、連絡用の事務員を徳島県庁に置いていくことを許可してもらった。

ただ、「早明浦ダム枯渇後の分水に難色を示した」というのは誤解であり、基本的徳島県は香川県に同情的であった。徳島県の定例議会が閉会直後であったため連絡やコンセンサスを得るのが遅れて、回答するのを引き延ばそうという意図であった。香川もOKを出すのは枯渇前まで待ってくれるだろうと、徳島側が香川側の「焦り」を理解していなかった。徳島県知事は地元紙から「なぜ即答でOKを出さなかったのか。即答して欲しかった。困ったときはお互い様だ。讃岐砂漠に命の水を。」とバッシングに晒された。

結果として、徳島県知事も頑張って交渉してくれた結果、許可のコンセンサスを得ることができ、香川は枯渇後も早明浦ダムの水を得ることができた。

友情の分水

1994年7月の渇水は早明浦ダムは早夏の台風おかげでおかげで回復したが、香川県内のダムには降雨がなく枯渇し始め、香川県内は8月末から時間断水を行う自治体が出始めた。特に高松市は主要水源の内場ダムが枯渇していた。そこに再度早明浦ダムの貯水量が枯渇し第二次取水制限が始まった。

1994年9月8日、第二次取水制限を決める会議の席上で徳島県利水関係者（おそらくは吉野川北岸用水の人間）から、徳島県が一番渇水で困っていた7月15日～7月26日の期間に不特定用水を削減し、早明浦ダム貯水した貯留水663万トンを香川に譲りたいと申し出があり、ただちに貯留水は香川用水へと流された。これにより内場ダム一杯分の水が寄付された。

また、第二次取水制限より取水制限が強化された後も香川用水の50％取水制限を強化しないことに徳島側から提案が行われ、香川用水からの最低限の供給が保証された。時間給水を行う必要性がなくなり、次第に香川県内は水道の制限を緩和していった。

これを四国新聞は友情の分水と評して地方欄一面で報じた。

早明浦ダムと渇水

ニュースなどでよく「早明浦ダム貯水率低下、取水制限へ」と流れるが、これにはいくつかの段階がある。

• 段階1…貯水率が60％になった時点で、影響が殆ど無い高知県への取水をゼロに。他県へは約10～20％程度の削減。
• 段階2…貯水率が50％を切ると、さらに取水量を削減。香川県への送水は35％削減となる。
• 段階3…貯水率が35％を切ると、さらに（ｒｙ　香川県へは通常時の半分となる。この辺りから香川・徳島両県では生活に影響が出始める。（プール閉鎖、上水道の送水圧を減圧）
• 段階4…貯水率が25％を切ると、さらに（ｒｙ　今度は徳島県側への送水も半分以上カット。
• 段階5…貯水率が0％になると、水力発電用の水を緊急放流。
• 段階6…それでも貯水率が回復しない場合、夜間断水→日中も一部時間帯断水となる。

そもそも早明浦ダムは発電や農業用水、生活用水、洪水時の治水といった多目的ダムであり、下流に流さなければならない水量が多いダムである。吉野川の河口付近においては、一定の流量がないと海水が逆流し塩害が発生するため常に流し続けなければならない。

近年はどれだけ貯水率が下がっても段階4ぐらいまでにしかならないが、2005年は貯水率が完全にゼロになり一部市町村では夜間断水の実施を計画するところも出た。香川県内にあるダムを有効活用し、ここ数年は貯水率が0％になっても一定日数は生活用水が確保出来るようになっている。 

2005年に貯水量が0％となった際は、9月5～6日にかけて接近した前線と台風14号の記録的な大雨で、
わずか1日で0％から100％まで回復（最終的に洪水調整分含む169％まで上昇）、取水制限も6日に全面解除となった。奇しくもこの大雨での大量の流入を受け止めた結果、下流域での洪水被害も防ぐこととなった。 
もし9月5日の時点で貯水率が60％以上あった場合、下流の吉野川市などでは大規模な洪水被害が出るとともに、ダム自体も放水が追いつかず一部施設が損壊するなど危険な状況になる可能性があった。この時、早明浦ダムへと流入した水は最大で毎秒5,640トンであり、25mプール約11杯分もの水が1秒で流れ込んでいた。

問題と対策

上記の通り、渇水に何度も悩まされている早明浦ダムであるが、これ以上のダム増設はほぼ不可能といえる状況である。
四国の山間部は切り立った渓谷が多く、日本三大秘境の一つである祖谷があるほどの秘境である。
そのため、新規にダムを作ろうとしても適当な場所がない、もしくはそこまで到達出来ないという場合が多い。

渇水の影響を真っ先に受ける香川県では新しく中規模のダムを建設し、渇水時でも生活用水の確保が出来るような設備が完成しつつある。

法律上の水利権の取り扱い

香川用水にかぎらず、現行の新規用水では損害を防止する施設を取得し、影響を与えないようにしなくてはならない（河川法40条の2）が、たいていの新規用水はそういう施設を作らずに、ダムが取水をできなくなるような非常渇水になれば、取水をしないようにすることを誓約した上で取水を申請している（標準水利使用規則第4条）。

香川用水も同じように損害防止施設を作らずに誓約を行っている（香川用水水利使用規則第4条）のであるが、1994年、2004年、2008年には早明浦ダムが枯渇したにもかかわらず一切取水停止しなかった。

これは、河川法に特例措置があり非常渇水時に水利権を一時的に譲ることができる（河川法法53条の2）ためであって、優先権のある徳島県から毎回徳島県の取水量よりやや少ない量を割り当ててもらっているからである。

要するに、早明浦ダム枯渇時に香川用水を流れている水は徳島が互助の精神に基づき譲った水である。

早明浦ダムのデータ

ダム型式	重力式コンクリートダム
高さ	106.0m
幅	400.0m
流域面積	約472km2
総貯水量	316,000,000m3 25mプール75万杯分
貯水池面積	7.5km2
最大放水量	毎秒2000m3 1秒で25mプール約4杯分

このように、日本全国のダムでもかなり大きなダムであり、総貯水量では2015年現在で日本で第9位である。（1位は岐阜県・徳山ダム。日本一の堰堤高を誇る黒部ダムは17位。）

関連動画

関連項目

• 高知県
• ダム
• 吉野川
• うどん茹で放題