橄欖型駆逐艦とは、読めない!書けない!意味分かんない!と日本語名詞表現の極北を突いたかのような名前が特徴の日本の駆逐艦である。その上その経歴も並大抵のものではなく、なかなか面白い駆逐艦なのである。
1914年、第一次世界大戦が勃発すると、日本は日英同盟によって協商国側に立って参戦する。そのころ敵である同盟国側は優秀な潜水艦戦力を有しており、無制限潜水艦作戦の発動も相まって英国の生命線たる地中海航路は危機に瀕していた。援軍を送ろうにも、バルト海の向こうのドイツ大海艦隊を考えればむしろ本国に艦隊を集めたい程の状況であり、困った英国政府は太平洋・インド洋に続き地中海でも日本海軍の援助を求めることとなる。
そこで日本海軍が地中海に送ったのが防護巡洋艦<出雲>及び三個駆逐隊からなる第二特務艦隊である。この第二特務艦隊、潜水艦が跳梁跋扈する地中海中部で多くの商船や兵員輸送船を護衛し活躍したのだがそれはまぁ横においておいて、その活動を支援するために英国から駆逐隊2隻を貸与し日本の艦艇として運用することとなった。
その貸与艦として白羽の矢が立ったのがH級駆逐艦<ネメシス>と<ミンストレル>だった。「H」級なのはA級から数えて八番目の駆逐艦級だからなのだが、英国海軍はデアリング級を「D級」と呼ぶように同型艦の頭文字を統一してその文字で呼ぶこともあってややこしいので注意が必要である。ちなみにネームシップは<エイコーン>。同型艦20隻という日本海軍からすれば大所帯で、日本では二等駆逐艦にあたる740tクラスのフネであった。
貸与に至った経緯はおそらく「フネはあるが乗員や軍港に割く要員を地中海に回したくない」といった所と思われる。なにせ第一次世界大戦中に建造された英国海軍の駆逐艦は339隻もあるんだからフネはあっても人員が足りるはずもないのである。だがともかくも<ネメシス>が<橄欖>、<ミンストレル>が<栴檀>と名乗り、日本海軍の第二特務艦隊(第11駆逐隊)に混じって日本海軍の乗員により運用されるようになった。
こうももってまわった言い方をしているのは、あくまで「貸与」であって「譲渡」ではないから。どれだけ日本艦っぽい状態(余談だがこの頃の日本駆逐艦は「英国艦っぽい」設計である)でも、日本海軍の軍籍には編入されていないのだ。そういうわけで、1917年の10月と9月にそれぞれ英国から受け取った<橄欖>と<栴檀>は地中海での二年弱の活動ののち、第一次世界大戦の終結に伴い1919年には英国に返却された。
日本に貸し出される駆逐艦が<ネメシス>と<ミンストレル>だったのは、ちょうど艦内でゴキブリが大繁殖し扱いに困ったから、なんて噂がある。ところで昔のイギリスの船員は割と普通にゴキブリ食ってたそうである。
また、英国海軍は相変わらず駆逐艦の船員不足に悩んだのか、あと22隻貸すぞ!と気前のいい事を言い出したりしている。そして同じころ海軍艦艇の不足に悩んでいたおとなりの国フランスはというと、第二特務艦隊にも配属された樺型駆逐艦の同型艦を12隻、アラブ級駆逐艦として購入している。駆逐艦貸してもらったり買ってもらったり、日本海軍としてはウハウハだが、そんな余ってるならフランスにも貸してやれよ英国海軍。
「かんらんがた」と読む。
一番艦<橄欖>は「かんらん」、二番艦<栴檀>は「せんだん」である。
とあり、「欖」は同じく当該記事によれば
とある。あ、そうですか。
さて、今度は<栴檀>を見てみたいのだが、記事作成時点ではどちらも当該記事が無い。
それでも一応例を上げてみると、<栴檀>の「栴」は「栴檀」以外の通常の名詞としては相変わらず全く出てこないが、人名としてならば「栴岳承芳」が存在する。かの有名な東海一の弓取り、今川義元の号である。
では「檀」は、というとこちらは橄欖型の漢字4つのなかでもっともポピュラーで、「檀家」とか「白檀」とか「檀臣幸」とかでごく普通に使われる漢字である。良かった良かった。
分かっていればともかく、突然「カンランって漢字で書け」って言われても書けないよね。栴もちょっと怪しいな……
と、ここまで書いて欖のつくりが「覧」じゃないことに気づいた。何だこの字、と思ったら旧字体でした。
こうなると気になるのが「橄欖」「栴檀」とはそもそも何ぞや?ということである。
まず「橄欖」というのはカンラン科の植物のこと。果実に食用ほか色々と使用法があり、見た目や使用法が似るオリーブも混同して「橄欖」と呼ばれるようになった。たしかに「二等駆逐艦は植物名」という命名規則には合致しているが、果たして何故こんな難しい名前をつけたものやら。ちなみに地学で出てくる「かんらん岩」も漢字では「橄欖岩」で、オリーブ色をしていることから「Olivine」と名付けられたのが先出の誤訳と混ざって「橄欖岩」となった。
「栴檀」も当然植物で、センダン科センダン属の植物センダンのこと。紫の花をつける木で、そのままは食べられないが薬になる実がつく。ちなみに「栴檀は双葉より芳し」の栴檀は実はセンダンじゃなくてビャクダンなのでややこしいが、乳香がカンラン科の植物から取れることを考えると、ともに「芳しい香りをもつ植物」ということを共通点として名前が選ばれたようである。
ついでに「ネメシス」と「ミンストレル」の意味をあげておくと、「ネメシス」はギリシャ神話の神罰の女神、「ミンストレル」は吟遊詩人のことである。ミンネジンガーとかトゥルバドゥールとか、世界史で聞いたことあるよね。なんでそんな関係なさそうな単語が同じ型の駆逐艦についてるかは英国の謎。
掲示板
18 ななしのよっしん
2019/04/09(火) 20:55:42 ID: Ku+xkmFTjm
19 ななしのよっしん
2020/12/15(火) 19:56:39 ID: mm/zZQ0+1+
平安~鎌倉時代の鎧には脇を防御するための板が2枚ある。
そのうちの1枚が栴檀板(せんだんのいた)という名前。
ちなみにもう1枚は鳩尾板(きゅうびのいた)という。
だから何だと言われればそれまでのネタだけどねw
20 ななしのよっしん
2021/03/16(火) 23:12:09 ID: MzslY+AGT4
>>17
駆逐艦の艦名の頭文字が(ある程度)艦級と統一されたのは1913年9月30日に駆逐艦をアルファベット艦級化したところからっぽい。等級でいえば初代L級のころ。
橄欖と栴檀は1909年計画艦の初代H級(改級前名称エイコーン級)所属艦だから名前が神話伝説系から無造作につけられていたころのものかと。20隻中頭文字がHなのは1隻のみで、一番多いのはNとRが3隻づつ所属してるみたい。
最も、アルファベット化後もあんまり真面目に統一されてないのがイギリスクオリティで、完全に頭文字が統一されてるのは半分ほど。ところどころ戦利艦やらそもそもアルファベット艦級じゃないのも混ざるし、かと思えば・・・みたいなこともある。
とりあえず確定なのはトライバル級、バトル級、ウェポン級、フラワー級、タウン級、リバー級、カウンティ級みたいにアルファベット以外で艦名になってないのが艦級名に入ってるのは名前に規則があるもの、っぽいね。
日米中は規則が割とがちがちな方で、伊は人名主用、豪ウクライナは地名主用、仏独露台は地名人名併用、イ
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最終更新:2025/12/10(水) 15:00
最終更新:2025/12/10(水) 14:00
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