ISD条項とは、「投資家対国家間の紛争解決条項」(Investor State Dispute Settlement)の略語であり、主に自由貿易協定(FTA)を結んだ国同士において、多国間における企業と政府との賠償を求める紛争の方法を定めた条項である。ISDS条項とも呼ばれる。
簡単に定義するなら、「ある国の政府が外国企業、外国資本に対してのみ不当な差別を行った場合、当該企業がその差別によって受けた損害について相手国政府に対し賠償を求める際の手続き方法について定めた条約」ということである。
もっと簡単に訳すなら、「自由貿易協定を結んだから、あたしたち外国企業だけいじめないでね!いじめたら賠償請求しちゃうから!!」ということである。 (だいたいあってる)
これはアメリカ・カナダ・メキシコによる北米自由貿易協定(NAFTA:ナフタ)で導入された。
反論:ISD条項は古くから導入されている条項である。まるでNAFTAで初めて導入されたかのような記述は間違っている。また日本でもすでに数多くの国とISD条項を締結している。
ISD条項とは「投資家の紛争解決手続のための条項」であり、以下のような手続きが行われる。
反論:ISD条項は双方向に対して適応される条項であり、別にアメリカの投資家だけが使える条項ではない。例えばアメリカで日本の自動車だけを排斥するような制度が作られたら(このような「日本の企業だけ」を狙い撃ちにした規制は過去に存在する。「スーパー301条」で検索して見よう)、トヨタやホンダはその事についてアメリカ政府を訴えることが出来る。そもそもISD条項の対象になるのは非関税障壁(外国企業を不当に差別するような制度や法律)に対してであり、「ただアメリカの企業が損をした」だけでは訴えても損害賠償は認められない。
反論:投資家の被害だけでなく、問題になっている制度が当該外国企業だけを差別しているのかどうか(非関税障壁であるかどうか)についても審議を行う。非関税障壁と認められなければ、どんなに当該企業が被害を受けていたとしても、損害賠償は認められない。
反論:結審の際には判断理由と共に、事件や議論の概要についても公開される。詳細な内容については原則非公開だが、当事者双方が合意すれば審議内容を公開することも可能であり、ほぼすべての事例に置いて当事者の合意のもとに詳しい経緯が公開されている(そもそも完全に非公開だとしたら、下の事例の情報をどこから入手すると言うのだろうか)。
反論:判例そのものに拘束されないが、実際のところ過去の判例を参考にして判例を出していることが多い(そっちの方が文句を言われにくいから)。そもそも、過去の判例に拘束されないという点は日本の裁判だって一緒である。(日本の裁判の判例は以降の判決に対し、一定の拘束力を持ってはいるが、「絶対に従わなければならない」ということではない)
反論:上訴は出来ないが、結果に不服があれば審議結果の取消を請求したり、再審を請求したりすることはできる。
反論:そもそもISD条項による賠償責任は「当事国の政府が外国企業だけを差別することに対しに外国企業を保護するため」に存在するので、その審議の内容に当事国の法律が適応されないのは「当たり前」である。もし当事国の法律が適応されるのなら、それは「仲裁を受ける一方だけの言い分を聞く」ということであり、これは審議そのものの公平性を欠く行為である。
この条項は治外法権的というそしりを受けている。
反論:ISD条項は外国政府の不当な差別から自国企業を守るために締結されるものである。確かに、こうした条約は国内法より優先されるが、そもそも外国に対して批准した条約の遵守を求めることを治外法権とは言わない。それにISD条項で行えるのはあくまでも「損害賠償請求」であり、その審議の結果に当事国の法律や制度を変える効力はない。
実例1
当時カナダの国内法では使用禁止されていなかった有害物質MMT含有の石油の輸入を輸入禁止した。しかし、有害性が立証されていなかったので、これは輸入規制だということになり、カナダに輸出したアメリカの石油会社Ethylが損害を被ったとしてアメリカの石油会社がカナダ政府を訴えた。
「投資家を損させた」と判断されたため、カナダ政府が有罪となり、上告がないため
・有害物質を規制する法律の撤廃
・カナダ政府がアメリカに石油会社に推定1000万ドルの賠償の支払い
が行われた
反論:そもそもこの規制は、MMTがカナダの規制水準に当たるほどの毒性がなかったにも関わらず規制を行い、結果的に当該外国企業のみ規制をされたという、典型的な非関税障壁と言える規制だった。そのため同じカナダのアルバータ州政府から「不当な差別法である」という提訴が行われており、カナダの最高裁にて「MMTは毒性が低く、有害物質として規制することはできない」という判断が行われ、違憲判決が出ていた上、ISD条項の結審が出る前にカナダ政府が損害賠償を払うことで和解している。最高裁にて規制の違憲性が認められた以上、この規制は違憲な規制であると同時に外国企業だけを不当に差別する非関税障壁であり、損害賠償が認められるのは当然のことである上、そもそもこの例ではISD 条項に基づく判断は下されておらず、ISD条項の適用例とは言えず、例に挙げることすら間違っていると言える。
実例2
政府の許可を取った上で、メキシコの廃棄物会社から廃棄物処理の権利を買い取った。
その後、メキシコが地下水汚染を防ぐため、アメリカの廃棄物会社Metalcladの設置の許可を取り消した
埋め立て許可の取り消しにより、投資家が損をしたと判断されたため
メキシコ政府が、アメリカの埋め立て業者に1670万ドルの支払い
反論:当該会社はメキシコの法制度に基づき、正当な手続を経た上で廃棄物処理事業の許可を一旦得ていた。にもかかわらず、メキシコ政府は「地下水汚染の危険があり、地域住民の賛成が得られていない」という理由で一方的に許可を取り消した。しかしこの「地下水汚染」自体科学的根拠の無い風評に近いものであり、そもそも住民の賛成が必要なら許可を与える前に予め告げておくべきことである。それを怠り一旦出した許可を一方的に取り消すのは、メキシコ政府側の行政上の過失であると言わざるを得ない。要するに、メキシコ政府側に明らかに過失があったのだから、その損害に対する賠償請求が認められても、「アメリカ側が一方的に有利な判決」とは言えないのである。
このような紛争件数が200件を超えている。
反論:紛争件数が200件を超えていても、その全てがアメリカ有利の判決を受けたのではない(戦績はほぼ五分五分である)。そもそも提訴されること自体は問題ではない(それなら個人が個人を一方的に提訴できる民事裁判も問題になってしまう)のだから、この批判自体的外れである。
もし過剰な提訴を減らしたいのなら、簡単に企業側が濫用できないような条項を加えれば無用な提訴を減らすことができる。NAFTAでは当初内国民待遇を悪用し企業側に有利に解釈出来る余地のある条文(通称「毒素条項」)が存在したが、これはのちにアメリカ側の提案で撤廃され、それ以降同様の条文がISD条項に盛り込まれた例は無い。
現在日本が結んでいる12のEPA(経済連携協定)と15のIIA(投資保護協定)のうち、対フィリピンと対ASEANの2つのEPAを除く25の協定にISD条項が含まれているが、現状日本政府が訴訟の対象となった例はない。逆にTPP参加国でありアメリカ、オーストラリア等とはまだ条約を結んでおらず、これらの国とはTPPに付随する形でISD条項を結ぶ形となる。
http://taste.sakura.ne.jp/static/farm/society/tpp_isd.html
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最終更新:2024/12/21(土) 21:00
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