ソニー・ビーン(Sawney Bean)とは、15世紀頃のスコットランドに実在したとされる殺人鬼である。
ソーニー・ビーンとも。
概要
『ニューゲート・カレンダー 犯罪者たちの血塗られた記録』によると、以下のような話となる。
アレクサンダー・"ソニー"・ビーン(Alexander "Sawney" Bean)は、14世紀後半のスコットランドで、日雇い労働者の家に生まれた。
粗野で怠惰な性格で、労働を放棄して家出したビーンは、自分と同じくらいにだらしなく性悪な女と出会った。意気投合した二人はスコットランド南西部のギャロウェイ(サウス・エアシャー)の岬、バナーン・ヘッドに面した洞窟を住処に選んだが、この洞窟は満潮時には海面下に隠れ、人目につきづらいという利点があった。
真面目に働く事を嫌った二人が選んだのは、旅行者を襲って金品を奪い、犯行が露見しないよう殺害するという犯罪だった。当初は奪った金品で食料や生活品を購入していたが、徐々に彼らは一般人との交流を避け、殺した人間の肉を食う事を覚えた。
ビーンとその妻は、男8人・女6人の子を成した。更に子供達と近親相姦を繰り返し、孫となる男18人・女14人が産まれる。
最終的に一家は48人となったが、子供達は教育を受ける機会もなく、言葉もおぼつかず、理性らしき理性もない獣同然だったという。信仰も倫理も知らぬ彼らは殺人および死体の解体のみを生業とし、この地方を通る旅行者を集団で襲い続けた。
勝ち目のない相手と見れば決して手を出さず、5人以上の集団は見逃した。襲撃する際には包囲しつつ退路を塞ぎ、絶対に逃げられないように追い込んでから犯行に及んでいたという。この「人食い一家」による被害者の数は定かではないが、25年にわたり300人以上(1,500人以上とも)が殺害されたという。
当時の人々はかの地に悪魔が住んでいると噂し、当局は見当はずれの容疑者を捕まえては次々に処刑していったが、失踪事件が解決する事はなかった。
だが遂に、一家の凶行が露見する日がやってきた。
その日彼らが襲いかかったのは、二人連れの夫婦だった。妻は馬から引きずり降ろされたが、夫は必死に反撃して脱出、まさかの逃亡を許してしまう。更に後から旅行者の集団が近づいている事を知った一家はそれ以上追撃できず、根城の洞窟に退却せざるを得なくなった。
九死に一生を得た夫はグラスゴーの役所に駆け込み、妻が殺されたと訴え出る。報告を受けたスコットランド国王ジェームズ1世はただちに400人の兵士を率い、自ら捜索に乗り出した。
現場周辺を探索していた所、捜索隊が連れていた猟犬が洞窟を発見し、兵士達は潮が引くのを待って突入。さしもの一家も武装集団にはかなわず、一人残らず捕縛された。
洞窟内には、おびただしい数の人骨が犠牲者達の金品と共に打ち捨てられ、並べられた壺には保存食の人肉が漬け込まれていた。また天井からは燻製にされた人肉が吊るされ、攫われた妻の死体もその中にあった。殺されて間もない彼女は服をはぎ取られて鹿か豚のように吊るされ、肉が削がれていたという。
尋常でない惨状に、捜索隊は遂に失踪事件の犯人を捕らえたと確信した。
エジンバラに移送されたソニー・ビーンとその一家は、その鬼畜の所業をもって裁判なしの極刑が確定した。
刑場に引きずり出された男達は性器と四肢を切断され、失血によって死ぬまで放置された。女達はそれを見せられた後、男達の死体と共にじっくりと火に炙られたが、一家全員が改悛を口にするどころか、最後まで呪いを喚き散らしていたという。
補遺
- ソニー・ビーンと一家については、同時代の文献(公文書、日記など)に存在が確認できない。この事から、架空の逸話である可能性も示唆されている。イギリスの報道機関が「スコットランドを野卑な地方と決めつけ、嘲笑の対象とすべく作り上げたプロパガンダ」という説も強い。
- 一方で、あまりにも残虐な事件に政府が国を挙げてあらゆる記録を抹消させたという説もあり、謎に包まれている。
- ビーンの妻は名前が伝わっていないが、スコットランド地方に伝わる妖怪「ブラック・アニス(鬼女)」であったとするバージョンもある。娘が生き残り、近在の村に移住したという伝承も存在する。
- 1977年の映画「サランドラ(原題:The Hills Have Eyes)」はソニー・ビーン一家をモチーフとしており、舞台をアメリカの元核実験場に移したホラー映画。放射能物質により奇形化したキチガイ一家という、だいぶヤバイ題材となっている。その後2006年にリメイクされ、続編も作られた。
- また「旅行者を襲うキチガイ一家」という一点において、1974年の映画「悪魔のいけにえ」の元ネタの一つとして示唆されている。
- バナーン・ヘッドに今も残るソニー・ビーンの洞窟は、観光名所となっている。とは言え周囲は人家もまばらで、さほど観光地化はされていない。洞窟の深さは200ヤードほどで、トレッキングやサイクリング、ドライブかたがた立ち寄る人が殆どらしい。
- ロンドンのテーマパーク『ロンドン・ダンジョン』は切り裂きジャックや火薬陰謀事件など、ロンドンの陰惨な歴史をモチーフとした、見世物めいたホラーアトラクションで知られている。姉妹店としてベルリン、サンフランシスコなどの他に『エジンバラ・ダンジョン』があり、「ソニー・ビーンの洞窟巡り」と称したウォーターライドが稼働している。
- 『ニューゲート・カレンダー』は、本来ニューゲート監獄の看守によって発行される官報だった。しかし別の出版社がタイトルを丸パクリし、悪名高い犯罪者を紹介するポケットブックとして出版されるようになった。内容の真偽については疑わしい所も多く、刺激的な事件を集めたゴシップ誌的な内容だったが、時事問題や倫理に対する言及も多く、「悪い事をしたらこんな報いがありますよ」という道徳本としての役割もあった。その為聖書と並び、一般家庭に置かれてよく読まれていたという。
- 諌山創の漫画『進撃の巨人』において、調査兵団に捕獲され観察実験対象となった二体の巨人は、ハンジ・ゾエにより「ソニー」「ビーン」と命名。ハンジ曰く、「伝説的食人鬼」が元ネタとなっている。
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関連項目
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