概要
航空自衛隊の支援戦闘機F-1の後継として、航空阻止、近接航空支援、海上航空支援、防空作戦及び対領空侵犯措置を実施する。[1]
開発時は「支援戦闘機」に区分される機体だったが、平成16年12月に閣議決定された16大綱(平成17年度以降に係る防衛計画の大綱)で「要撃」と「支援」という区分そのものが廃止されたため、[2]F-2は単に「戦闘機」と呼ばれる。
機体のバリエーションとして単座型のF-2Aと複座型のF-2Bが存在する。
生産数は当初141機を予定していたが、状況の変化などに伴い生産機の減産が繰り返され、2009年をもってアメリカ生産分が終了。2011年納入機分で最終となり、試作機4機を含む計98機の生産にとどまった。
開発に至るまで[3]
F-1の後継機の話が持ち上がったのは昭和57年(1982)である。その年の国防会議で了承された56年度中期業務計画において、最終年度である62年度にF-1後継機を24機購入する計画が盛り込まれた。海外の戦闘機メーカーは早速売り込みを開始、一方で空幕や技術研究本部は独自開発を目指して動き出し、まず国産機の開発に必要な時間を稼ぐために、F-1の耐用命数見直しや燃料費の高騰による訓練時間の短縮などで、昭和65年(1990)から必要といわれた後継機の取得時期を昭和72年(1997)ごろまで延長できることを確認した。
昭和59年(1984)末に防衛庁は次期支援戦闘機(FS-X)を国内開発するにあたっての技術的可能性を検討するために運用要求案を技術研究本部に送り検討を依頼、「エンジンは輸入するしかないが、その他は国内開発可能で、開発期間は約10年は必要」という回答を得た。そこで昭和60年(1985)に決定した中期防衛力整備計画では、当初の「外国機導入」に「国内開発」と「現有機の転用」という選択肢を加え、具体的に機種選定を開始した。外国機の候補についてはF-16、F-18、パナビア・トーネードの3機種に絞り、送付した質問書に対して得られた回答を検討したが、この時点ではいずれも要求を満たさない(=国内開発による外はない)としていた。
そこで海外メーカー3社は追加質問に対する再回答を提出する際にF-16、F-18については能力向上型の共同開発を、トーネードについても能力向上型を提案してきた(トーネードは法律上日本と共同開発はできなかった)。防衛庁としてもこれを無視するわけにはいかず、安全保障会議への報告の中で「国内開発」を「開発」と改め、米国との共同開発の可能性を含めた。
昭和62年(1987)になるとアメリカ議会の上院議員が対日貿易赤字と絡めてFS-X問題を取り上げるようになった。米国防総省は前年は「FS-Xについては日本が決めること」という立場だったが議会の押しには弱く、6月に訪日したワインバーガー国防長官は「米国の機体をそのまま購入するか、日米共同で米国機を改造してあてたい」と提案、栗原防衛庁長官は単独国内開発がだめなら日米共同で新しい機体を開発したいとの意向を伝えた。日本側はF-16、F-18、そしてトーネードの代わりに候補に上がったF-15について、日本の技術をどれぐらい入れることができるか、共同開発の費用、出来上がった機体は空自の運用要求をどれぐらい満足させるか、生産単価などを調査し、防衛庁はF-1の後継機としてF-16を改造開発する方針を決定した。
開発
共同開発とはいっても、実態は日本側にベース機体のF-16とエンジンのライセンス生産を許可するというもので、アメリカ側は総生産額の40%の作業分担の確約、提供するソースコードには制限をかけ、日本側の技術は全て提供する、という内容だった。[4]
開発費は約3200億円、機体単価は120億円で、当初予算の2倍になった。スケジュールについては、開発期間10年で1990年代半ばの実用化という目標は達成できず、2004年までずれ込んだ。また、開発中は主翼に亀裂が入ったとして強度の不足を指摘する報道がなされたが、亀裂が生じたのは「全機強度試験機」と呼ばれる、もともと壊れるまで負荷を与えて不具合を洗い出す機体で、試作機の主翼に亀裂が生じたわけではない。むしろ配備された量産機に搭載していたレーダー「J/APG-1」の不具合の方が深刻で、F-2がスクランブル待機可能になったのは最初の飛行隊にF-2の配備が始まってから4年後だった。[5]
F-16からの変更点[7]
- 面積を25%増大させた複合材一体成型の主翼
- AESAレーダーや統合電子戦システムなどの国産アビオニクス
- 胴体を49cm延長しアビオニクスや燃料の搭載スペースを増大
- 主翼ハードポイントの追加
- バードストライク対策の強化型キャノピー
- IPE(性能向上型エンジン)
- ドラッグシュート追加
- 水平尾翼形状変更…等々。
要するに要求性能(ASM4発搭載で戦闘行動半径830km)を実現するためにF-16を大型化して兵装や燃料の搭載量を増やし、大型化によって起きる運動性の低下をエンジンの強化と新規素材採用等の重量軽減、CCVで補おうとしたのである。当初はインテイクの下に垂直カナードを付ける予定だったがこれはCCVのプログラム追加である程度代替出来るということで廃止になった。FBWシステムはF-16のソースコードが米議会の反対で提供されなかった為、日本側で三重系統のデジタルFBW+アナログバックアップのシステムを新規に開発した。
改良・性能向上化[8]
- FLIR…夜間での低高度航法能力向上の為に外装型のFLIR装置であるJ/AAQ-2を開発。2005年度以降の契約で製造された18機はAAQ-2を装備可能。
- JDAM…2004年度契約分以降の機体にはJDAMが運用出来るように製造段階でGPS受信機を搭載。既存の機体にも搭載改修が行われている。
- 空中給油機との適合性確認…航空自衛隊のKC-767との適合性確認を2008年度末まで実施
- AAM-4…搭載レーダーをJ/APG-1からAAM-4の性能を発揮できるJ/APG-2に改修、AAM-4の初中期誘導コマンドを送る指令送信装置の組み込みが2010年度から開始されている。
- AAM-5…ソフトウェアとランチャーの改修。2013年度から適合性確認試験を開始。
- TDL(戦術データリンク)端末…既に航空自衛隊ではTDL端末としてリンク16の端末がAWACSやF-15 MSIPに装備され始めている。F-2にリンク16端末を搭載するためにはスペース確保のための大規模改修が必要になるのでF-2とF-15J Pre-MSIP用のTDL端末であるJDCS(F)[自衛隊デジタル通信システム(戦闘機搭載用)]を新規に開発している。リンク16端末搭載機とはJADGE(自動警戒管制システム)経由で情報を共有する。
- LJDAM…LJDAMはJDAMにレーザー誘導装置を取り付け命中精度向上と移動目標への攻撃も可能にしたもの。ミッションコンピューターの改修及びターゲティングポッドとしてAAQ-33「スナイパー」の取得を予定。
- XASM-3(新空対艦誘導弾)…実用試験は2016年度に終了予定。その後に機体改修が行われる。
その他
非公式ながら「バイパーゼロ」という愛称が存在する。これはベースとなったF-16の非公式愛称「バイパー」と、自衛隊の兵器において正式に配備された年(F-2の量産機は2000年に初めて納入された)の下2桁を使って「○○式~」と呼ぶ慣習(ただし実際には戦闘機については適用されていない)からである。この他に、かつての日本製の有名な戦闘機「零戦」がかけられている(ちなみに零戦・F-2ともに三菱重工業製)。この他に前述した対艦攻撃力の強さから「対艦番長」という愛称も存在する。
F-2 SuperKai
2004年、ロッキード・マーティン社によってF-2の改良プランとしてF-16E/FのようなCFT(コンフォーマル・タンク…機体追加型増加燃料タンク)と、新型電子機器を取り付けた「F-2 SuperKai(スーパー改」が提案された。もっともこれはイベントに出展したメーカーによるモックアップ提案に過ぎず、このような改造プランが採用されたわけではない。
F-2に対する複雑な評価
主に政治的思惑によって横槍が入ったFS-X計画はその後も様々な問題を含むことになり、たとえばソースコードの提供に制限を受けたり、アメリカの役割分担があらかじめ決められたり、日本の開発技術すべてはアメリカ側に提供するようになどといった「不平等条約」をはじめ、アメリカ議会でエンジン技術供与を認めないなど問題が続出した。
開発中や配備後に問題が明らかになるたび、また最終的に配備機数が94機となったことなどからその都度「F-2は失敗作ではないか」「やはりあのとき国産にしておけば」という発言が行われる破目になった。
しかしながら、80年代当時(も今も、だが)、国内開発で戦闘機が開発できたかどうかについては、疑わしいといわざるを得ない部分がある、というのが実際のところである。
当初の目標通りにアヴィオニクスまわりはどうにかなったとしても、依然として日本の弱味である航空機エンジン技術がネックとなるであろうことは容易に想像がつく(イスラエルのラビ計画などのケースを見ても)。その後のATD-X(心神)の開発にあたっては、わざわざフランスで電波暗室設備を借りざるを得ないところなど、依然として日本の航空機産業のおよび航空機技術に関しては限界も存在する。
結局、航空機、特に戦闘機開発とは国家レベルの技術力の集大成であり、単に複合材料であるとか、AESAなどのアヴィオニクスとか言った要素技術を組み合わせただけでは飛行機は飛ばないのである。そこにはシステムとして、あるいはシステムの一部としての戦闘機を構築する「システム・インテグレーション」の能力が要求されるのである。逆に言えば、日本が国産開発を通して得たかったのもそのシステム・インテグレーションに関わる経験だったわけだが。
もう一つのIFとして,設計母機にF-16ではなくF/A-18を選択していれば…というのも時々言われるが、艦上戦闘機はその特性上構造重量などで不利なこと、基本設計がF-16ほど空力的に洗練されていないこと、などを考えれば、結局は開発ベースとしてはF-16に軍配が上がるだろう。アメリカもその後F/A-18E/Fスーパーホーネット(ライノ)を開発する際に、機体ほとんどにわたって改設計を必要とした(にも関わらず加速性能の不利とかはあいかわらず)のを鑑みても、F/A-18をベースにしたFS-Xにも依然として大きな困難がつきまとったであろうことは予測できる。
導入当初の国内開発のAAM-4を運用できない(そのための機器を搭載するためのスペースがない)といった指摘も、もともと開発期間にズレがあり、設計時の要求に含まれていなかったことや、F-15でもJ-MSIPと呼ばれる改良型でないとAAM-4は運用できないなど問題があったりするため、若干無理めというか言いがかりに近いとも言える。その辺も含めてうまく設計要求を出せ、というのであればそれはF-2ではなく防衛省の装備調達体制に対する定義として検討すべきであろう。もちろん上述したように、現在ではAAM-4の搭載が可能になるよう改良計画が進められている。
その後の開発の紆余曲折も航空機開発ではつきもので、こと昨今の軍用機開発が「炎上」しないケースは稀ともいってもいい。FS-Xと同時期に開発がスタートしたユーロファイター・タイフーンにしてもいまだ完全能力発揮(トランシェ3)ではないことを踏まえると、共同開発・改良のみとはいえよく10年程度で運用にこぎつけたというべきか。
配備数が純減させられたのも、ミサイル防衛(MD)予算を捻出するためなどの点もあってF-2そのものに問題があったというわけではない(…と思いたいが、当時の防衛庁長官や、その長官とつながりが強い軍事評論家のF-2に対する考え方を見聞すると、どうもF-2に対して何がしかの偏見があるような気がしないでもないが)。
しかしながら、開発~配備当初にかけて表面化した種々の問題点は、現在では機器のアップデートや飛行プログラムの修正などでほとんど問題が解決しており、一般公開時には模擬弾(実際の重量は本物と同じ)とはいえASMを四発フル装備の上軽々と空中機動しているほか、対領空侵犯措置におけるスクランブル任務も通常通り行っている。
また共同訓練で参加したアメリカ空軍の将官も特にAESAについて絶賛しているほどで、一部における「欠陥機」という認識は覆されつつあると言ってもいいだろう(いや、まだ一部の人達は頑強に言い張っているのも事実ですが)。
生みの苦しみを味わったがゆえに今も駄作機扱いをされている不幸な機体であるともいえるかもしれない。
またこのF-2の開発などによって実用化された複合素材による機体構造体開発能力はその後、ボーイング社旅客機787の開発に生かされることになり、主翼、機体などのかなりの部品を国内で分担生産していることにもつながっていることを特に書いておきたい。経験は無駄にはならなかったのだ。
このように、様々な問題を抱えていたF-2ではあったが、以後の日本の航空技術において重要な役割を果たしたのは事実であるし、現在では今後何十年かに渡って日本の空の守りの一翼を担う欠くべからざる存在であることもまた確かである。
関連動画
関連項目
外部リンク
脚注
- *次期支援戦闘機”XF-2”の開発
- *http://www.kantei.go.jp/jp/singi/ampobouei2/dai8/sankou.pdf
- *「F-16改に決まったFS-X」久野正夫 エアワールド1988年1月号
- *揺れる国産戦闘機開発、断念か継続か どうなる空自F-2後継機問題
2018.3.9
- *空自F-2欠陥機論の顛末 大きく騒がれた主翼のヒビ、貧弱レーダーは結局どうなった?
2018.5.22
- *航空自衛隊向け戦闘機F-2の最終号機を引き渡し 名古屋航空宇宙システム製作所小牧南工場で完納式を開催
2011.9.27
- *「世界航空機年鑑2013-2014」p.72
- *「マルチロールファイター"F-2"の進化」宮脇俊幸 軍事研究 2013年10月号
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