浸透圧とは、同じ溶質が溶けている濃度の異なった溶媒が半透膜(一定の大きさ以下の分子・イオンのみを透過させる膜のこと)を境にして接触させるときに生じる圧力のこと。単位はPa(パスカル)。
概要
半透膜を境にして溶媒・溶質が同じで濃度の異なる2つの溶液があると、高濃度と低濃度の差を小さくするように、低濃度の溶媒が高濃度側へ流れ込むことである。
このときに生じる圧力を浸透圧という。
浸透圧の大きさは濃度差が大きいほど大きくなる。
数式を用いると、純溶媒・溶液間の浸透圧は次の式で表される。
Πが浸透圧,Vが溶液側の溶媒の体積、nBが溶質の物質量、Rが気体定数、Tが絶対温度
別の表記として、辺々Vでわると
Π=[B]RT ・・・浸透圧Πが濃度と温度に比例することを意味している
[B]は溶液中の溶質のモル濃度[1]
具体例
具体例として、関連動画でもあるナメクジに塩をかける例を挙げる。
ナメクジに塩をかけると、ナメクジに触れた水気のある塩は高濃度の食塩水と考えることができる。
つまり、「ナメクジの塩分濃度の低い細胞」と「ナメクジの周りにできた高濃度の食塩水」が存在することになる。これはふたつの濃度が異なる溶液とみなすことができる。
概要でも述べたように、高濃度と低濃度の溶液があると差を小さくするように、低濃度の溶媒(水)が高濃度側へ流れ込む。つまり、この場合
「ナメクジの塩分濃度の低い細胞」⇒「ナメクジの周りにできた高濃度の食塩水」
のように水が移動する。
したがって、ナメクジの体からどんどん水が漏れだす現象が起きる。
すると、ナメクジはどんどん水分を失い、ナメクジは小さくなってしまう。
式の証明
注:この証明はちょっと難しいかもしれません(`;ω;´)わかったら最強です。
簡単のために、理想溶液とした純溶媒・溶液間の浸透圧について考える。
溶媒をA、溶質をBとする。
純溶媒にかかる圧力をp,溶液の溶媒のモル分率をxAとする。
「*」は純溶媒を表す。
μ(p)は純溶媒の化学ポテンシャル、μ(p+Π,xA)は溶液の化学ポテンシャル。また
μ*(p+Π)は純溶媒の圧力がp+Πのときの化学ポテンシャルを表す。
次に、純溶媒のモル体積をVmとして
①、②、③をまとめると
xA+xB=1より
ここで、ln(1-x)はマクローリン展開すると、ln(1-x)=-x-x2/2-x3/3-x4/4-・・・
なので、xB≪1ならば、ln(1-xB)=-xBとなる。よって
また、xB≪1のとき、xB=nB/nAと近似できるので
nAVm=V(Vは溶液側の溶媒の全体積)となる。
浸透圧に関する雑学
アロワナを海に放つと死んでしまうし、クマノミを真水の金魚鉢に入れるとやはり昇天してしまう。なぜなのか。
原因のひとつが、浸透圧である。
淡水魚は真水に包まれて生きている。淡水魚の体液のほうが周囲の水より塩分濃度が高い。よって浸透圧により水がどんどん魚体に染み込んでこようとする。ゆえに淡水魚は自分から水を飲むことはほとんどなく、常時浸透してくる水を排出するためごく薄い尿をひっきりなしに排泄している。
逆に、海水魚の場合、体液よりも海水のほうが塩分濃度がよほど高い。浸透圧で魚体から水分がどんどん逃げていく。そのままでは水のなかに居ながらにして脱水症状で死んでしまうので、海水魚はガブガブ水を飲み、非常に濃い尿をごく少量排泄することで対応している。
このように淡水魚と海水魚では浸透圧の対処法がまったく正反対なのだ。淡水魚が海水で、また海水魚が淡水で生きていられないのはこのためである。淡水魚が海水に放り込まれたら、水を飲むことを知らない淡水魚はたちまち水分を奪われ、体液の濃度ばかりが高くなりすぎてしまう。水を飲んだとしてもそれは海水だ。塩分を排出して水分だけ吸収するという機能がないため、やはり体液の濃度バランスが狂って天に召されてしまう。
映画「ファインディング・ニモ」の公開中、アメリカでは、ペットショップでカクレクマノミを購入してきて「自然に帰してあげる」とトイレに流す行為が流行したことがある。クマノミは海水魚でトイレや下水道は淡水だ。トイレから放流されたクマノミたちがどのような運命を辿ったのかは、当記事をお読みいただいた諸氏には容易に想像できるだろう。
ちなみに、淡水魚の一部には、低濃度の海水でなら生存可能な種類が存在し、また海水魚にも塩分濃度の薄い環境にも耐えられるものがいる。つまり、塩分に耐性のある淡水魚を低濃度の海水に、塩分濃度の低い水に適応できる海水魚を薄い海水に、それぞれ時間をかけて馴致させると、淡水魚と海水魚をおなじ水槽で飼育することができるようになる。金魚とサバが混泳する珍妙な光景も作れるわけだ。
ただし、シルバーアロワナやディスカスのようなアマゾン産の熱帯魚の多くは、海と切り離されて長い星霜を経ているため、いくら慣らそうとしても薄い海水で飼うことはできないようだ。淡水魚と海水魚の雑居水槽をお考えの際は、くれぐれも生体に無理を強いることのないようご留意いただきたい。
関連動画
関連項目
脚注
- *溶質が電解質の場合、電離後のイオンの粒子数(通称オスモル)で考えることに注意せよ。例えば炭酸ナトリウム1molは、ナトリウムイオン2molと炭酸イオン1molに分かれるので合計3molとして計算する。
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