非正規雇用とは、労働に関する言葉である。
概要
定義
非正規雇用とは、正規雇用に当てはまらない雇用形態のすべてを表す言葉である。
法律で定められた呼称ではない
非正規雇用という言葉は法律で定められておらず、労働行政を担当する官公庁や企業の間で慣習的に使われて定着した言葉である。
労働基準法などの労働法では正規雇用労働者も非正規雇用労働者もすべて一括で労働者と扱われる。
様々な形態がある
非正規雇用には主に3つの形態があり、パートタイム(アルバイト)と派遣社員と契約社員である。本記事の『非正規雇用の3形態』の項目で改めて解説する。
派遣社員によく似た存在として請負社員というものがある。偽装請負という違法行為を生み出しやすい。本記事の『請負社員』の項目で改めて解説する。
また、企業が個人事業主に対して業務委託の契約をすることは事実上の非正規雇用と見なされることが多い。それについては本記事の『個人事業主に対する業務委託』の項目で改めて解説する。
長所
非正規雇用は、正規雇用にくらべて責任が軽くなりがちで自由が多くなりがちである。残業を依頼されにくく長時間労働になりにくいし、不得意な分野の業務への配属を命じられる可能性が低いし、見知らぬ土地への転勤を命じられる可能性が低い。
非正規雇用は、解雇規制に守られないことが多いので、景気の調整弁にすることが容易である。非正規雇用が一般的な社会になれば、好景気の時に雇用を拡大して収益を増やして不景気のときに雇用を縮小させて費用を削減するという企業経営を実行しやすくなり、企業が税引後当期純利益を増やしやすくなり、使用者(株主)の利益を高めやすくなり、株主資本主義(株主至上主義)を実現しやすくなる。
短所
非正規雇用は、正規雇用にくらべて賃金や福利厚生に恵まれず待遇が悪い傾向にある。
非正規雇用は、雇用期間や労働時間が短いため、雇用保険や社会保険に加入することができないことが多い。
また、非正規雇用の中の期間限定雇用は、契約が終了した後に再契約できるかどうか保証がないので、収入の安定性が低く、自動車ローンや住宅ローンを組みにくく、銀行からの融資を受けにくい。
また、非正規雇用の中の期間限定雇用は、「使用者に嫌われると契約が終了した後に再契約してもらえなくなる」と考える傾向にあり、使用者に対して平静な気分でいることが難しい。そのため「仕事に利益をもたらすかどうかよりも使用者に好かれるかどうかの方が重要だ」と考えるようになり、仕事に利益をもたらすかどうかについて集中しにくく、職務専念義務を果たしにくく、企業の生産性や国家の労働生産性Y/L(実質GDPを労働量で割った数値)を高める存在になりにくい。
また、非正規雇用の中の期間限定雇用は、「使用者に嫌われると契約が終了した後に再契約してもらえなくなる」と考える傾向にあり、気骨ある労働者になりにくく、必要に応じて使用者に意見を具申することが難しく、下意上達(ボトムアップ)の組織を作り上げることができず、上位下達(トップダウン)の組織しか作り上げることができず、組織内の情報流通の促進をもたらしにくい。
非正規雇用の3形態
3形態が代表的
非正規雇用は、パートタイム(アルバイト)、派遣社員、契約社員の3形態が代表的である。
パートタイム(アルバイト)
パートタイム(アルバイト)の雇用形態とは、雇用期間を定めたり定めなかったりして使用者が労働者を直接雇用してフルタイムに満たない短時間労働に従事させることをいう。
パートタイムとアルバイトの間に厳密な区別は存在しない。強いて言えば、主婦・主夫の短時間労働者をパートタイムと呼ぶことが多く、学生のような独身の短時間労働者をアルバイトと呼ぶことが多い。
多くの場合においてパートタイム(アルバイト)は雇用期間を定めて有期雇用契約を結ぶが、雇用期間を定めず無期雇用契約を結ぶこともありうる。無期雇用契約のパートタイム(アルバイト)は短時間正社員とほぼ同じ存在になる。
フルタイムの最も典型的な例は1日8時間で週5日勤務といったものである。それに満たない短時間労働をする労働者をパートタイム労働法第2条で短時間労働者と呼んでおり、各企業でパートタイム(アルバイト)と呼んでいる。
フルタイムのことを常勤と呼び、パートタイムのことを非常勤と呼ぶこともある。
派遣社員
派遣社員の雇用形態とは、雇用期間を定めて使用者が労働者を間接雇用してフルタイム労働に従事させることをいう。
間接雇用とは、業務に関する指揮命令をする者と賃金の支払いをする者が別個の存在である雇用形態のことをいう。派遣社員は派遣会社に就職してそこから給与を受け取り、業務先企業に派遣されて業務先企業から業務に関する指揮命令を受ける。
派遣社員と非常によく似た存在として請負社員というものがある。本記事の『請負社員』の項目で解説する。
契約社員
契約社員の雇用形態とは、雇用期間を定めて使用者が労働者を直接雇用してフルタイム労働に従事させることをいう。
直接雇用とは、業務に関する指揮命令をする者と賃金の支払いをする者が同一の存在である雇用形態のことをいう。
契約社員のことを嘱託社員ということもある。嘱託社員は定年を迎えた後に再雇用された契約社員に対して使うことが多い言葉である。
2つの形態の混合
2つの形態が混合することがある。
雇用期間を定めて使用者が労働者を間接雇用してフルタイムに満たない短時間労働に従事させる場合は、パートタイム(アルバイト)と派遣社員の混合である。
雇用期間を定めて使用者が労働者を直接雇用してフルタイムに満たない短時間労働に従事させる場合は、パートタイム(アルバイト)と契約社員の混合である。
請負社員
請負社員と派遣社員の違い
請負社員は派遣社員とよく似た存在である。
ある人が請負会社Aと雇用契約を結ぶと請負社員になる。期間を定めない雇用契約の正社員になることもあるが、期間を定めた雇用契約の契約社員になることが多い。
そして請負社員は、請負会社Aに仕事を発注した企業Bにおもむいて作業をする。このとき請負社員は企業Bの指揮命令を受けずに請負会社Aの指揮命令を受け続けるのであるが、これが派遣社員との違いである。
偽装請負
偽装請負と呼ばれることが発覚することがある。
ある人が請負会社Aと雇用契約を結んでその請負社員になり、請負会社Aに仕事を発注した企業Bにおもむいて作業をする。このとき請負社員は企業Bの指揮命令を受けたとしたら、請負社員のように偽装しながら派遣社員と同等の行為をしたことになる。これを偽装請負という。
偽装請負は、労働者派遣法を改正するなどして派遣社員を保護するような法規制が強化されたときに発生しやすい。
個人事業主に対する業務委託
個人事業主に対する業務委託は、企業が個人を雇用するのではなく、企業が個人事業主に対して業務を委託するものである。とはいえ、事実上の雇用と見なされることが多い。
個人事業主と企業は対等の存在になり、個人事業主は企業から指揮命令をされず依頼をされる存在になる。とはいえ、「業務委託の契約を結んだ個人事業主は企業から事実上の指揮命令を受けている」と見なされることが多い。
個人事業主は労働者に該当しないので、日本国憲法第28条や労働三法や労働契約法といった憲法・法律からの保護を全く受けられない。
関連項目
親記事
子記事
兄弟記事
- 1
- 0pt