シンクレア・セレブレッゼ(Sinclair Cerebrese)とは、「銀河英雄伝説」の登場人物である。
ごく生真面目でユーモアを解さないタイプの官僚軍人で、後方での補給と事務処理に長け、当時の同盟軍前線部隊ではその点での最高権威とみなされた人物であった。
宇宙暦794年3月~4月に発生したヴァンフリート星域会戦時、衛星ヴァンフリート4=2の南半球にその約100日前に建設された同盟軍後方基地の司令官を務めていたのがシンクレア・セレブレッゼ中将である。彼の任務は、総司令部の命令を受けて後方からの兵士や軍需物資を前線に送り込むための制御調整役という大任であった。
しかしヴァンフリート星域会戦勃発後の3月27日、予期せず12200隻に及ぶ帝国軍グリンメルスハウゼン艦隊が衛星に接近、同盟軍後方基地から2420km離れた北極周辺に基地を設営して駐留を開始した。これは帝国軍総司令部が老凡将グリンメルスハウゼンを忌避し、戦闘の邪魔にならないよう無意味な移動指示を出した結果であったが、それを知る由もないセレブレッゼは、帝国軍が同盟軍後方基地を占拠破壊し、恒久基地を建設するために一個艦隊の大兵力を動員した、という予測に達し、狼狽することとなった。
かくしてセレブレッゼは、基地に駐留していた“薔薇の騎士”連隊連隊長オットー・フランク・フォン・ヴァーンシャッフェ大佐を呼び出して対応を協議し、地上偵察を行うこととなった。しかし地上偵察に出たヴァーンシャッフェ大佐は、帝国軍ヘルマン・フォン・リューネブルク准将の偵察部隊に発見・攻撃されたのであった。この結果、同盟軍は本来同盟軍基地の存在に懐疑的であった帝国軍に自らその存在を明かし、全面侵攻を呼び込むことになったのである。
帝国軍が攻撃してくる、という知らせを受けたセレブレッゼは、そもそも戦術指揮自体がお門違いであるだけに、余裕をなくして動転せざるをえなかった。3月31日7時30分、彼は地上偵察中の襲撃で戦死したヴァーンシャッフェ大佐の代わりに副連隊長ワルター・フォン・シェーンコップ中佐を連隊長代理に任じ、防御指揮をとらせる。
しかし4月7日に開始された基地防衛戦闘は戦力にも指揮能力にも優れる帝国軍の優勢に推移し、混戦の末に基地司令部内にまで帝国軍の侵入を許すこととなった。セレブレッゼも、混乱の中でひとりの帝国軍士官によって武装を奪われ、降伏を余儀なくされた。その士官は帝国軍准将ラインハルト・フォン・ミューゼルと名乗ると、セレブレッゼを捕虜としたことを自らの戦果として艦隊司令部に報告したのであった。
セレブレッゼが降伏した結果、同盟軍は前線補給体制の中枢を失った。戦場の混乱のため同盟軍はセレブレッゼの消息を掴んでいなかったが、戦死ではなく捕虜となった可能性が高いことは把握されており、防諜上、空席を埋めるだけでなく新たに異なる補給態勢を組み上げる喫緊の必要が生じた。かくして抜擢されたのが、のちに同盟軍末期最高の後方勤務幕僚となった英才アレックス・キャゼルヌであり、彼はそれによってデスクワーク一筋の立場でありながら30代前半で准将の身分を得ることとなったのであった。
セレブレッゼは計数と事務処理のプロフェッショナルであり、その方面では最高権威とみなされていただけあって、予定を遂行することにかけては名人と呼んでよい能力を有していた。ヴァンフリート4=2基地司令官としての任務も、彼の能力からすれば本来ごく容易いものであった。
しかし彼は本質的にデスクワークの専門家であって、実戦指揮の経験が無いわけではないとはいえ、戦術指揮においてはまったくの門外漢であった。彼自身、自分の戦術指揮能力が十分とは到底言えないことは承知していたようではあるが、逆にそれが前線部隊へのコンプレックスとなってしまっていたようでもある。その前線部隊の中心人物が一癖も二癖もある“薔薇の騎士”でも随一に扱い難いワルター・フォン・シェーンコップ中佐であったこともそれを助長したことはうたがいない。
だが結局のところ、ヴァンフリート4=2基地の防衛において、駐留する兵士約二万人を実戦慣れした指揮官の統合指揮の下におかず、自身を中心とする放射状の指揮系統としてしまったことは、各部隊の連携上かなりの問題となった。戦況にしばしば動揺し、シェーンコップ中佐にいちいち連絡を飛ばすといった行動も、前線基地の指揮官としてふさわしいものではなかったといえるだろう。
ただし、セレブレッゼがそもそもこのような前線に身を置く人物ではないという点は酌量されてしかるべきである。彼をして前線の指揮官たらしめるのは、ヤン・ウェンリーをしてスパルタニアン・パイロットたらしめるのに等しい。彼の不運は、まったく予想外の職務を遂行する羽目に陥り、また戦闘面で優秀かつ信頼しうる幕僚が周囲に存在しなかったことであった。
これらセレブレッゼの能力については、シェーンコップ中佐からも少なくない評価がある。彼は当然セレブレッゼの戦術指揮能力については全く期待していなかったものの、軍隊として必要とされる他の分野の人材と考え、けして無能な人物とみなしてはいなかった。また、生真面目でそもそも“薔薇の騎士”に好意を持っていないセレブレッゼを彼も嫌ってはいたが、当時のヴァンフリート4=2基地の状況に関してはむしろ多少の同情を寄せ、いちいち連絡してくるセレブレッゼに、不本意ながらも何度も真面目に応対してやっていたほどであった。
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3 ななしのよっしん
2017/07/02(日) 09:17:53 ID: yqxeGJtE+a
この人みたいに、軍のある部門でのノウハウを熟知した将官が捕虜になっちゃうと、情報漏洩への対処としてそのノウハウ自体を新たに作り直すこともあったんだろうな。
で、そんな例が両軍ともに多発していった結果、次第にブラッシュアップを重ねたマニュアルより、個人(あるいは“英雄”)の発想力や統率力、(嫌いな表現なんだけど)人間力に依存する中性的な軍組織になっていったのかな。
4 ななしのよっしん
2017/11/29(水) 10:58:50 ID: XaG1psT7UF
>>3
目から鱗の考察だ
戦乱が長期化するとそういう面でも劣化していくんだろうな
5 ななしのよっしん
2018/02/26(月) 09:37:57 ID: 1bDIE5gV7n
実際、原作の千億にはそういう風に書かれてるね
といってもセレブレッゼの出番がある章ではなく、後半のイゼルローン攻防戦で非常勤参謀とその先輩が出てくる場面でだけど
曰く
「捕虜になったセレブレッゼが同盟軍の補給体制やらの機密をゲロるかもしれないから、それに代わる新システムを構想整備できるキャゼルヌ先輩が重用されるようになった(意訳」って感じに
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最終更新:2025/12/06(土) 22:00
最終更新:2025/12/06(土) 21:00
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