杉谷善住坊とは (スギタニゼンジュウボウとは) [単語記事]

杉谷善住坊（すぎたに・ぜんじゅうぼう　？～1573）とは、戦国時代の人物である。
織田信長を鉄砲で狙撃したことと、それによって鋸引きの刑にされたことで知られる。

概要

鉄砲の名手であったが、その出自は謎に包まれており、甲賀の忍者だったとも、雑賀衆あるいは根来衆の傭兵だったとも言われており、よく分かっていない。
1570年、織田信長と敵対する六角義賢（承禎）の依頼により、金ヶ崎の戦いから徹底して岐阜城へ戻る途中の信長を暗殺しようと目論む。岩陰に身を隠した善住坊と信長の距離間は十二、十三間（約20m）。信長を狙い二発の銃弾が放たれたが、信長は幸運にもかすり傷で済み事なきを得た。すぐさま善住坊は逃亡するも、ここから信長の復讐が始まった。

3年後の1573年、浅井家が滅亡して間もなく、織田家に投降した元浅井家臣の磯野員昌によって善住坊は捕らえられる。信長は善住坊を鋸引きの刑で処刑するように命じた。
鋸引きとは、生きたまま地中に埋めて顔だけ地上に出し、それを切れ味の悪い竹製の鋸で通行人などに引かせて、いたぶりながらじわじわ死なせていくというもの。鋸を引く側もその残酷さ故に思わず手を緩めてしまい、それがかえって罪人をすぐに殺すこと無く、苦痛を長引かせるというものであった。かくして、善住坊はそのあまりにも無惨な最期によって、その名を現在まで残しているのである。

大河ドラマ「黄金の日日」における活躍

善住坊の知名度を飛躍的に高めたのは、1978年に放送された大河ドラマ「黄金の日日」である。この作品の善住坊は、堺の豪商・今井宗久の奉公人として登場し、主人公の助左（呂宋助左衛門）や石川五右衛門の幼馴染という設定である。
本作では、六角義賢と手を組んだ今井宗薫（宗久の子）の命令によって、相手が信長だとは知らずに狙撃してしまう。お尋ね者になった善住坊は、助左の協力によって、琉球に向かう貿易船に忍び込んで難を逃れようとするが、そこには宗久から善住坊の始末を命じられた五右衛門も待ち構えており、善住坊を殺そうとする五右衛門とそれを止めようとする助左の3人は船の仲であらそう中、船が嵐に遭って難破、3人は海へ投げ出されてしまう。
3人はルソン島に漂着し、紆余曲折を経て島民の信頼を勝ち取るが（いつの間にか、五右衛門も善住坊の抹殺を諦め和解）、そこへ日本へ戻る貿易船がやって来る。島の村娘と仲良くなっていた善住坊は、助左と五右衛門から島に残ることを勧められるが、善住坊は例え命が危険に晒されても日本へ帰りたいという意志は揺るがず、助左たちと共に帰国する。
その後、善住坊は助左の商売を手伝ったり、加賀一向一揆に加わり織田軍と戦うなど各地を回ったが、遂に宗久の手に掛かって信長の元へ引き渡されてしまう。
助左は親友のお仙と共に善住坊を再び助けようとするが時既に遅く、善住坊は既に鋸引きの刑を受けていた。なかなか死ねずに苦しむ善住坊を見かねたお仙は、介錯のような形で善住坊にとどめを刺した。

本作で善住坊を演じたのは俳優の川谷拓三で、彼の代表作の一つとなった。ドラマの善住坊は、素朴で愛嬌のある人柄だけあって、その悲惨な最期が余計際立ち、放送中は助命嘆願の声が殺到した。内容に変えるわけにはいかなかったが、これを受けて善住坊死後も、回想シーンで善住坊の登場頻度が増えたという。
余談だが、大河ドラマ「功名が辻」において、黄金の日日の大ファンだった脚本家の大石静は、信長狙撃の場面で一回のみであるが善住坊を登場させている。当初大石はそのオマージュとして、川谷の息子で彼女が手掛けた連続テレビ小説「オードリー」でヒロインの幼馴染を演じた仁科貴を起用する予定だったが、「オードリー」放送後間もなく仁科が大麻所持で逮捕された経歴があることにNHKが難色を示し、泣く泣く諦めたという（なお、仁科は父・川谷に瓜二つの容姿をしている）。