解雇規制 単語

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カイコキセイ

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解雇規制とは労働に関する言葉であり、次の意味を持つ。

  1. 政府国会法律を作ったり裁判所が判例を作ったりして使用者による労働者解雇を制限すること
  2. 労働組合使用者労働協約を結んで使用者による労働者解雇を制限すること
  3. 使用者自主規制して使用者による労働者解雇を制限すること

解雇規制といえばたいていの場合において1.を意味するので、本記事では1.について解説する。

概要

定義

解雇規制とは、政府国会法律を作ったり裁判所が判例を作ったりして使用者による労働者解雇を制限し、経済活動の自由契約自由を部分的に制限することをいう。

法理その1 解雇権濫用法理

労働者の問題点を理由に行われる解雇普通解雇といい、使用者の都合により行われる解雇を整理解雇という。この両者に対して規制を掛ける根拠となる法理は解雇権濫用法理である。労働契約法第16条において解雇権濫用法理が明記されている。

労働契約法第16条 解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、効とする。

1975年4月25日日本食塩製造事件の最高裁判決で「思うに、使用者解雇権の行使も、それが客観的に合理的な理由を欠き社会通念上相当として是認することができない場合には、権利の濫用として効になると解するのが相当である。」と判示され、解雇権濫用法理が確立した(裁判所資料exit)。

2003年7月4日に「労働基準法の一部を正する法律」(平成15年法律104号)が布され、第18条の2として「解雇は、客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、効とする。」という条文が追加された(衆議院資料exit)。

2007年に労働契約法が新規に立法されて布され、2008年に施行された。その16条は労働基準法第18条の2の条文をそのまま受け継ぐものとなった。

法理その2 整理解雇法理

労働者の問題点を理由に行われる解雇普通解雇といい、使用者の都合により行われる解雇を整理解雇という。後者に対して規制を掛ける根拠となる法理は整理解雇法理であり、4つの要件を示して規制している。

整理解雇法理の4要件

  1. 人員削減の必要性(特定の事業部門の閉鎖の必要性)
  2. 解雇回避努力義務の履行(役員報酬の削減、新規採用の抑制、残業制限、希望退職者の募集などを行っていること)
  3. 解雇の選定の妥当性(選定基準が客観的、合理的であること)
  4. 解雇手続の妥当性(労使協議等を実施していること)

整理解雇の権利の濫用について1960年代から徐々に判例が積み上げられ、1970年代オイルショックで整理解雇が多発したのに伴ってさらに判例が増え、整理解雇法理の4要件が明確化された[1]。なかでも有名な判例は1979年10月29日の東洋酸素整理解雇事件の東京高裁判決である(裁判所資料exit)。

終身雇用

解雇規制が導入されると、企業は期限を定めずに雇った労働者を定年まで自由解雇できなくなり、正規雇用労働者に対して終身雇用をすることになる。

長所

解雇規制をすると使用者の権が大きく制限されるので、労働者使用者の顔色をうかがわずに済むようになり、労働者使用者のことに気をとられずに済むようになり、労働者職務専念義務を果たす環境が整う。

職務専念義務を果たす労働者が増えれば、労働強化が達成され、資本量Kや労働時間Lが一定なのに生産技術が向上して国家の実質GDP(Y)が増え、国家の資本生産性Y/K(実質GDPを資本量で割った数値)や労働生産性Y/L(実質GDPを労働時間で割った数値)が上昇する。

また、解雇規制をすると使用者の権が大きく制限されるので、労働者勇気が増し、気ある労働者が生まれやすくなり、労働者が必要に応じて使用者に意見を具申するようになり、上意下達(トップダウン)の組織だけではなく下意上達(ボトムアップ)の組織も作り上げることができる。

解雇規制をすると使用者の権が大きく制限されるので、労働者使用者の間で等意識が芽生え、組織が平等社会無階級社会に近づき、そのを受けて労働者使用者に対して積極的情報提供権(表現の自由)を十分に行使するようになり、組織内の情報流通が活発化し、組織内で情報が多く共有され、組織の実が高まる。

また、解雇規制をすると労働者の収入が安定し、労働者銀行から借り入れをしやすくなり、労働者自動車や住宅のローンを組みやすくなる。

短所

解雇規制の短所は、企業の収益が下がる不気の時に企業が余剰人員を解雇できなくなって企業の費用が一定になり、企業の税引後当期純利益が減りやすくなり、の配当が減りやすくなり、の利益が失われやすくなり、株主資本主義が維持されなくなるところである。

解雇規制の短所は、収益を高められそうな好気の時に企業が雇用をためらうようになり、企業の規模が大きくなりづらくなり、企業がスケールメリットの恩恵を受けづらくなるところである。

また、解雇規制の短所は、自由貿易に対応できないところである。自由貿易を促進すると海外製の安価な製品が流入してくるので、企業を大規模化させてスケールメリットの恩恵を受けさせて安価な製品を製造できるようにさせる必要が出てくるのだが、解雇規制をするとそうしたことが難しくなる。

貿易体制と解雇規制の関係性

保護貿易を促進する時代では、企業の大規模化を進める必要が発生せず、解雇規制が維持される。

自由貿易を促進する時代では、企業の大規模化を進める必要が発生して、次第に解雇規制が緩和されていく。

抜け道

解雇規制には非正規雇用という抜けがある。非正規雇用の大半は期限を定めて雇用するものであり、契約期間が終了した後に再契約をしないことで実質的に解雇できる。非正規雇用が拡大したのなら「実質的に解雇規制が緩和された」ということができる。

解雇規制と社会の変化

解雇規制は社会のあり方に影響を及ぼす

保護貿易が推進されることで解雇規制が強化されたり、自由貿易が推進されることで解雇規制が緩和されたりすると、労働者生活が及ぶだけではなく、企業の経営に大きなが及び、社会全体の雰囲気や構造が大きく変化する。

解雇規制が維持された社会と、解雇規制が緩和された社会というのは、対照的なところがある。

企業の多角化

解雇規制が緩和された社会があり、その社会の中の企業機械化などの技術革新が進み、50人の余剰人員が発生したとする。その場合、企業は50人の人員を解雇して、本業に専念し続けることになる。企業経営の多化を好まず、専業企業が兼業企業変身しない。解雇された50人は他の企業転職していく。

解雇規制が維持された社会があり、その社会の中の企業機械化などの技術革新が進み、50人の余剰人員が発生したとする。その場合でも、企業は解雇規制があるので社員を終身雇用せざるを得ない。企業は50人の人員で新規事業を開拓していくことになり、いわゆる社内ベンチャーを立ち上げることになり、企業経営の多化に一歩踏み出すことになり、専業企業が兼業企業変身していく。

解雇規制が緩和された社会では企業の多化があまり進まず、本業に専念する専業企業が増えやすい。本業に専念する企業の方が企業を評価しやすく、社債や株式の値段を付けやすい。これは株主資本主義者の好む直接金融に合致する企業である。

解雇規制が維持された社会では終身雇用の維持のために企業の多化が進み、「本業1つと副業1つ以上を抱えた兼業企業」という企業が増えやすい。「本業1つと副業1つ以上を抱えた兼業企業」に対しては、副業を「全くの駄」と評価することもできるし「将来に大化けするかも」と評価することもできるので、評価するのが難しく、社債や株式の値段を付けにくい。株主資本主義者の好む直接金融に合致しにくい企業である。

自給自足

解雇規制が緩和された社会では社会的分業を底しようという気運がやや濃くなり、「『屋』ということだし、が社でやってみるのをやめて、ヨソの会社にやってもらおう。その方が合理的だ。余計な社員は全員解雇したのでヨソの会社にやってもらうしかない」という気がやや濃くなり、自給自足の傾向がやや薄くなる。

解雇規制が維持された社会では社会的分業を底しようという気運がやや薄れ、「ヨソの会社にやってもらうのではなく、が社でやってみようか。終身雇用を保障していて社員を解雇できないので社員が余っている。その社員を活用しよう」という気がやや濃くなり、自給自足の傾向がやや強くなる。

社内ベンチャー

解雇規制が緩和された社会で新規産業が勃するときは全く新しいベンチャー企業が起業することが流となる。ベンチャーは、既存企業から企業経営のノウハウを引き継ぐこともできないし、既存企業から人材面や資面での支援も見込めるわけでもないので安定感に乏しい。ただし、社員が背水の陣に立たされるので、「死にものぐるいでやる」という雰囲気はやや濃くなる。

解雇規制が維持された社会で新規産業が勃するときは、既存の企業の中に新規部門が発生するという社内ベンチャーの形式が流となる。社内ベンチャーは、既存企業から企業経営のノウハウを引き継ぐこともできるし、既存企業から人材面や資面での支援も見込めるので安定感がある。ただし、社員が背水の陣に立たされるわけではないので、「死にものぐるいでやる」という雰囲気はやや薄れる。

共存共栄の牧歌的な世の中

解雇規制が緩和された社会では、それぞれの企業が簡単に従業員を解雇できるので、業績拡大のチャンスが転がり込んだときに「正社員を増やしたあとに経営不振になったら、従業員を解雇してしまえばいい。ゆえに雇用の拡大は経営の負担にならない。いくらでも雇用を拡大してよい」と考えるようになり、雇用拡大に対して積極的になり、業績拡大のチャンスに飛びつくことになる。そうした企業ばかりになるので、業績を拡大する企業が一人勝ちして独占に突き進むという現が起こりやすく、少数の大規模企業が多くの市場占有率を占める独占・寡占の社会になる。小規模企業・中規模企業は淘汰され、弱肉強食優勝劣敗の殺伐とした世の中になる。

解雇規制が維持された社会では、それぞれの企業終身雇用の維持をめられるので、業績拡大のチャンスが転がり込んだとしても「終身雇用正社員を増やすと、経営不振に陥ったときに経営の負担になる。うかつに雇用を拡大するわけにはいかない」と考えるようになり、雇用拡大に対してきわめて慎重になり、業績拡大のチャンスを見送ることになる。そうした企業ばかりになるので、業績を拡大する企業が一人勝ちして独占に突き進むという現が起こりにくく、小規模企業・中規模企業が多く併存する社会になり、共存共栄の牧歌的な世の中になる。

守りの経営

解雇規制が緩和された社会では、「攻めの経営」「市場占有率を他の企業から奪い取ることを優先する経営」をする企業ばかりになり、「急成長して一攫千を狙おう」と欲望ギラつかせる企業ばかりになる。また、小規模企業から大規模企業へ急成長する企業が発生しやすいので、株式投資をする者にとっても「濡れ手に(あわ)」の一攫千(いっかくせんきん)を実現しやすくなる。

解雇規制が維持された社会では、「守りの経営」「市場占有率を他の企業から奪い取ることを優先しない経営」をする企業ばかりになり、「従業員の人生を預かっているのだし、従業員を確実に養うことが大事だ。顧客を確実に保持して経営を安定させよう」と考える企業ばかりになる。また、小規模企業から大規模企業へ急成長する企業が発生しにくく、ジリジリとゆっくり規模を拡大させる企業しか出現しないので、株式投資をする者にとって「濡れ手に」の一攫千を実現しにくくなる。

まとめ

以上のことをまとめると次のようになる。

解雇規制の緩和 解雇規制の維持
機械化などで余剰人員が発生したとき 余剰人員を解雇する。企業が本業に専念し続け、専業企業のままであり続ける 余剰人員で社内ベンチャーを立ち上げて企業を多化させ、兼業企業変身する
直接金融への合致度 企業を測定しやすく、株式や社債の価格を決めやすく、直接金融に合致しやすい 企業を測定しにくく、株式や社債の価格を決めにくく、直接金融に合致しにくい
社会のあり方 社会的分業を底しようという気運がやや強い。「屋、他の人に任せた方が合理的」という気運がやや強い 自給自足の気運がやや強い。「自分たちでやってみよう」という気運がやや強い
新規産業が勃するときの様子 起業精あふれる人がベンチャー企業を創設する。安定性がないが、死にものぐるいの気がやや強い 既存企業の内部に社内ベンチャーが発生する。安定性があるが、死にものぐるいの気がやや薄い
企業の雇用拡大に対する姿勢 「経営不振になったら従業員を解雇すれば良い」と考えるので、気軽に雇用を拡大する 「経営不振になっても終身雇用を維持せねばならない」と考えるので、うかつに雇用を拡大できない
企業の業績拡大に対する姿勢 業績拡大のチャンスを決して逃さない 業績拡大のチャンスみすみす逃す
市場占有率の様子 市場占有率を急拡大させる企業が増え、大規模企業による寡占や独占が増え、小規模企業・中規模企業が淘汰される社会になる 市場占有率を急拡大させる企業が増えず、大規模企業による寡占や独占が増えず、小規模企業・中規模企業が多く併存する社会になる
世相 弱肉強食優勝劣敗となり、殺伐とした世の中になる 共存共栄となり、牧歌的な世の中になる
流となる企業経営 攻めの経営。市場占有率を他の企業から奪い取ることを優先し、急成長して一攫千を狙う 守りの経営。従業員を養うことと確実な顧客を保持することを優先する
企業の成長 小規模企業から大規模企業へ急成長する企業が発生しやすい 小規模企業から中規模企業へジリジリとゆっくり成長する企業が発生しやすい
株式投資の魅 濡れ手にの一攫千が期待できる。一発当てて大けすることが期待できる 濡れ手にの一攫千が期待できない。一発当てて大けすることが期待できない

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関連項目

脚注

  1. *『競争と感(中央公論新社大竹文雄』163ページ
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