カスパー(銀河英雄伝説) 単語

カスパー

2.8千文字の記事

カスパーKaspar)とは、「銀河英雄伝説」の登場人物である。

カスパーの名を持つ銀河英雄伝説登場人物は二名いるが、ここではゴールデンバウム朝銀河帝国皇帝カスパーについて記述する。もう一人のカスパーについては「カスパー・リンツ」を参照のこと。

概要

銀河英雄伝説第5代皇帝(在位R.C.123?-124?)。第4代オトフリート1世の皇太子石黒監督OVAでの容姿は狩野英孝に似ている。

同性愛者であり、同性愛者をとみなした初代ルドルフ大帝の子孫に彼が生まれたことは「歴史の皮」と表現されている。政治的には皇帝政務秘書エックハルトの傀儡にすぎなかったが、自身のだけは断固として貫き、政変によりエックハルトが殺された混乱と時を同じくして愛人とともに逐電して消えた。代々なにかと傍迷惑な事績の持ちが多いゴールデンバウ皇帝最初のレジェンドである。

即位

皇帝オトフリート息子として生まれたカスパーは、幼少期にはそれなりに頭のいい少年だったようではあるが、歳を取るにつれて幼少期のような知性の発揮は見られなくなっていった。彼が育った時代、宮廷では極端に前例義的なオトフリートを操る皇帝政務秘書エックハルト子爵が専横をふるっており、エックハルトへの反抗がために知性を隠すようになったのではないかという見方もある。

やがてカスパーが26歳で位についてからも、実権を握るのは冗談交じりに“準皇帝陛下”と追従をうけるエックハルト伯爵”であり、カスパー同様なにごともエックハルトの言いなりだった。もっとも、保守的かつ趣味だったに対してカスパー芸術や美を愛し、ふたりをべて「先灰色の散文だったが、今上陛下灰色の韻文だ」まいこという評する重臣がいたほどである。その点、カスパー政治より美女音楽をそそいだ祖父リヒャルト1世に似たところがあった。

しかし、カスパー祖父とはいくつかの相違点があった。ひとつは、彼が美女ではなく同性の少年を寵愛し、まるで異性興味をしめさなかったこと。そしてもうひとつ、皇妃と多数ののあいだでバランスをとりながらも最高権力者としての分のうちで難な生涯を送った祖父に対して、カスパーはその手の政治的綱わたりの才が拙劣だったことである。

退位

皇太子時代以来、カスパー愛したのは、皇室専属の合唱隊を構成していたカストラート、なかでも即位時14歳の美貌の少年歌手ロリアンであった。后からは縁談がすすめられたが、彼は聞き入れなかった。それどころか、エックハルトが自身の皇后にしたてようとしたとき、傀儡にすぎないはずのカスパーはフロリアンとの別れを拒否して説得も脅迫も用をなさなかったのである。

強情なカスパーに業を煮やしたエックハルトは、自ら兵士を率いて皇宮に踏み入り、フロリアン少年を殺しようとした。だが、皇宮にはすでにリスナー男爵カスパーの意を受け一隊とともに待ち構えており、“野イバラの間”において奸臣エックハルトを“誅殺”した。

だが、これで一件落着、カスパー政の始まりとはならなかった。混乱が落ち着いて気がついてみると、カスパーがフロリアン少年(といくらかの宝石)ごといなくなっていたのである。玉座にはご丁寧に退位宣言書まで置いてあった。ゴールデンバウム王の第5代皇帝は、即位からちょうど1年にして行方をくらませたのである。

その後

彼の行方不明から140日の位期間をおいて、オトフリートである76歳のユリウス大公が第6代皇帝となった。

全人類の専制君という地位を捨てて自身のを選んだ、さしずめ帝国版「王冠を賭けた」といったところのカスパーだったが、彼の退位がゴールデンバウム王史にもたらしたは(結果論ではあるが)ひどく大きかった。まだ20代だったカスパーが皇子をつくるか、せめて年齢相応に長く在位していれば即位しなかったろう高齢のショートリリーフのはずのユリウスの治世が20年の長きにわたり続き、帝国に多くの面おかしい悲劇を巻き起こしてしまったからである。

皇帝ユリウスへの重臣たちの倦厭、皇太子フランツオットー大公の崩御、皇太曾孫カールが実行した帝国史上初の皇帝弑逆と発覚による閉、痴愚ジギスムント2世による庫破綻、そしてジギスムント2世を放逐した再建オトフリート2世が即位後6年で過労死するまで、カスパーの退位をきっかけに始まったゴールデンバウム王の悲喜こもごもが収拾されるのに、40年あまりを要したのだった。

行方知れずの君といえば、敗戦のなか行方不明となり、やがて国難にあえぐ故伝説救世主と望まれるようになったポルトガルセバスティアン1世あたりが歴史上有名だと思われるが、退位後の帝国がこれでは、さすがにカスパーがこの手の「山に眠る王」の伝承に発展するのは理そうである。救世カスパー待望論、すなわちカスパリズムスの勃は期待できそうにない。

「同性愛者」

先述の通りカスパー皇太子時代からカストラート好し、フロリアン少年を寵愛していたが、彼の(帝国としては認めがたい)性的志向がどこまで知られていたのかは十分に触れられていない。

彼が異性に対しなんら関心を持っていないことについては后や重臣にも知れ渡っており、彼らのをひそめさせていた。となれば同性愛者であることを察されていた可性も十分あるが、ルドルフの時代からまだ100年余とはいえ、皇族、皇太子という身分がそれを許したのだろう(後継者が叔父ユリウスになったあたり、特に位を争うべき兄弟がいなかったらしいのも助けになったかもしれない)。

ともあれ、カスパーが即位するにあたって障害があった様子はなく、エックハルトカスパー結婚を可と考えていたようだが、これは政治家としての手腕が摩滅して「権力病患者としての感覚」だけ残っていた晩年のエックハルトとしては、そもそも操り人形の性的向など顧慮する必要を感じなかっただけという可性はあるだろう。いっぽうで、時代背景や身分を考えれば、その手の認識が必然的に鈍くならざるをえなかっただけともいえる。

世間に対しては、カスパーに関する情報の多くは王の醜聞に属するとして秘匿されていた(公式に認められていなかった)可性はかなり高い。そもそも作中の彼についての記述のいっさいは、新帝国の成立後、秘匿資料も使用して編纂される『ゴールデンバウム王全史』に関する非公式の途中報告書に皇帝ラインハルトを通す場面のものであり、作中の記述が当の報告書とイコールとは考えがたいにしろ、カスパーの事績自体がほとんど世に知られていなかった可性は十分にあると思われる。

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