フォアグラとは、以下の意味がある。
1.ガチョウやアヒル(カモ)の脂肪肝を食材としたものである。美味であることで知られ、キャビアやトリュフとともに「世界三大珍味」と呼ばれることもある。
2.youtubeチャンネル「アンフェア大学」に登場するDQNの総称。
ここでは1.について記載する。
概要
ぶっちゃけ「食い過ぎ状態が続いたガチョウやアヒル(カモ)の肝臓」の事である。ガチョウやアヒル(カモ)等に必要以上に餌を食わせて脂肪肝にし、その肝臓を食すというシロモノ。
「フォアグラ」とはフランス語であり、「フォア(foie)」は「肝臓」、「グラ(gras)」は「脂肪」なので直球で「脂肪の肝臓」である。ちなみに疾患としての「脂肪肝」は「stéatose hépatique」というまた別の名称がちゃんとある。
フォアグラを作るのに使われる鳥は、上記のようにガチョウおよびアヒル(カモ)。ガチョウはフランス語で「oie」(オワ)、アヒル(カモ)は「canard」(キャナー)という。ガチョウのフォアグラ(foie gras d'oie)の方がより古くから製造されていたが、現在ではアヒル(カモ)のフォアグラ(foie gras de canard)が流通数の大半を占めている。
名称がフランス語であることからも分かるが、主にフランス料理でよく使用され、フランスでよく生産され、フランスでよく消費される食材である。ちなみに、フランスは法律で「フォアグラはフランスの保護すべき文化遺産、美食遺産だ」と宣言している。フランス以外ではブルガリアやハンガリーでも多く生産されているが、それらの国からもフランスに向けて大量に出荷されている。
フランス人にとってもフォアグラは庶民的な普通の食べ物というわけではなく、ハレの日に食べる、ちょっと贅沢感のあるごちそう的な食べ物である。ただしパテ製品などにはかなりお手頃価格のものもある(パテは中身が100%フォアグラでなくてもよいという事情もある)。また全体的に見ても、世界三大珍味の他2種、キャビアやトリュフと比較すると手が届きやすい価格である(キャビアやトリュフの一部製品が、希少性の故に異様な高価になっているとも言える)。
アヒル?カモ?
「アヒル(カモ)」というどっちつかずの記述が気になる方もいるだろう。これには色々と事情がある。
まず「アヒル(カモ)のフォアグラ」のうち多くは、「canard de Barbarie」という鳥のオスと、アヒルのメスを掛け合わせて作った雑種「canard mulard」を肥育して作られる。雑種にしない「canard de Barbarie」自体を肥育して作る場合もある。
そしてこの「canard de Barbarie」は、日本語で「バリケン」、「フランスガモ」、「タイワンアヒル」、「バルバリー」、「バーバリ」とも呼ばれる。つまりカモとも呼ばれているし、アヒルだとも呼ばれているのだ。フランス語の「canard」は日本語のカモ、アヒルの双方に対応するのである。
ただし「カモは野生の鳥、アヒルはそれを家禽化したもの」と考えると、完全に家禽化されている「canard de Barbarie」は「アヒル」と言う方が適当に思われる。であれば、「canard de Barbarie」とアヒルの雑種である「canard mulard」もカモと言うよりはアヒルだろう。
しかし日本のフランス料理用語翻訳の慣例として、canardはカモと訳す。例えば家禽化されたcanardの肉、つまり日本語の基準では「アヒル」とするべき鳥の肉だったとしても、フランス料理食材店やフランス料理店では「カモ肉」と和訳するのである。そのためcanardのフォアグラは、日本での商品説明としては「カモのフォアグラ」とされていることが多い。
食材として
上記「概要」での説明からもご想像がつくと思うが、かなり脂っこい食べ物である。しかし、ただの脂でギトギトの食材と言うわけではなく、独特のコクのある風味があり、さらに滑らかな舌触りも相まって美味であると評されることが多い。
肝臓の形をある程度残してソテーやポワレやグリルといった様々な手法で焼いて調理される場合もあれば、テリーヌやパテやムースといったように形を残さずすり潰すような調理法もまた伝統的なものである。アヒルのフォアグラは前者のような温製の料理に向くとされ、ガチョウのフォアグラは後者のような冷製の料理に向くとされる。また、新鮮なフォアグラは生で供されることもある。
フォアグラを使う有名な料理としては、「牛フィレのロッシーニ風」だろうか。有名な作曲家であり美食家でもあったジョアキーノ・ロッシーニが好んだことでこの名が付いており、牛ヒレ肉のステーキの上にフォアグラを乗せトリュフも使った贅沢な料理である。ロッシーニはフォアグラとトリュフが好きだったことで知られているそうで、他にも「ロッシーニ風」と付いたフォアグラとトリュフを使ったメニューが複数あると言う。
「鳥の肝臓」という点は日本でも一般的な食材である鶏のレバーと共通している。しかしフォアグラは臭みが少なく、また脂でしっとりとしていることや調理法の違いからボソボソとした食感にもなりがたく、鶏レバーとはかなり食材としての方向性が異なる。ただし、鶏でも稀に偶然「白レバー」(要するに鶏の脂肪肝)が発生する。この「白レバー」は通常の鶏レバーより臭みが少なく食感もクリーミーになるとされ、ややフォアグラ寄りと言えるかもしれない。
倫理的衝突
動物愛護団体にはすこぶる印象が悪い。ただの食わせすぎではなく、無理やり食わせて肥えらせる所が、癇に障るらしい。
この無理やり食わせる手法をガヴァージュ(gavage)と言うが、その方法は基本的に「管を鳥の食道に突っ込み、圧力で食物を胃の中に流し込む」というものであり、確かにイメージとしてかなり苦しそうなものである。
動物愛護団体は「鳥はガヴァージュを嫌がって避けようとする」「ガヴァージュで鳥は傷つけられ、ストレスを感じる」「ガヴァージュが行われると鳥の死亡率が上がる」「肥大した肝臓のために、鳥は立つこともできなくなり呼吸すらしづらくなる」「わざと病気にさせるという行いが異常である」「一部の生産場では鳥たちは劣悪な環境に置かれている」などと主張し、フォアグラの生産・流通・消費に反対している。
こういった主張に対する反論もなされており、例えば「水鳥はそもそも魚を丸のみにして食べる種であり、食道に管を入れられても苦しくはないはずだ」「ガチョウは渡り鳥だった雁を家禽化したものだが、元々雁は渡りの前に栄養を肝臓に蓄える性質がある。つまりガチョウに残った雁の性質を利用して肝臓に脂肪を蓄えさせているのであり、病的な脂肪肝と単純に同一視するのは正しくない[1]」「少なくとも認定を受けたまともな生産場では鳥を劣悪な環境においたりはしない」と言った意見もある。
ともあれ動物保護の観点から、さまざまな国や地域において、フォアグラの製造禁止や流通禁止の法規制が為されてきている。例えばポーランドやイスラエルはかつては有力なフォアグラ生産国であったが、現在では製造が禁止されている。インドは2014年にフォアグラの輸入を禁止した。
そんな中、アメリカ合衆国での動向はやや特徴的である。シカゴでは2006年にフォアグラの販売禁止令が定められたが、約2年後に廃止された。また、カリフォルニアでは2012年にガヴァージュによるフォアグラの生産・流通・提供禁止令が定められたが、やはり2年半後に廃止された。廃止されるまでの期間も、禁止令を守らなかったり、フォアグラを無料で提供し他の料理の価格で補う(これなら「販売」にならない)という法の抜け穴を使うレストランが多く、行政もこれを取り締まり切れてはいなかったようだ。同国の歴史にある「禁酒法」と「隠れ酒場(スピークイージー)」を思い起こさせるようなエピソードである。
なお、こうした倫理的問題を避けるために「ガヴァージュを行わず、思う存分食べさせることのみで肝臓に脂肪を付けてフォアグラを作る」といった代替的な生産方法もわずかながら行われている。ただし伝統的なガヴァージュによる製法を守っていないため、この「倫理的なフォアグラ」をフォアグラと呼んでよいのかどうか疑問視する人もいる。
さらに、植物由来成分から作られた、ベジタリアンやヴィーガンでも食べられるようなフォアグラ模造製品も何種類か存在している。
関連動画
関連項目
脚注
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