ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ(Wilibard Joachim von Merkatz)とは、銀河英雄伝説の登場人物である。
CVは納谷悟朗(石黒監督版)、石塚運昇→山路和弘(Die Neue These)。
銀河帝国ゴールデンバウム王朝の最後の宿将。リップシュタット戦役で自らが組した門閥貴族連合がラインハルト・フォン・ローエングラム陣営に敗北した後に同盟に亡命、ヤン艦隊の客員提督(ゲスト・アドミラル)として艦隊指揮の一角を担うようになる。階級はゴールデンバウム朝銀河帝国軍大将→上級大将、同盟亡命後、中将待遇。正統政府軍において元帥、エル・ファシル革命予備軍上級大将。副官はベルンハルト・フォン・シュナイダー。
同盟亡命後の座乗艦は<ヒューベリオン>。帝国軍時代には、石黒監督版アニメ長篇『新たなる戦いの序曲』においては<ネルトリンゲン>、「Die Neue These」では<ミネルヴァ>を旗艦とした。
時系列的な初登場は宇宙暦794年/帝国暦485年の第六次イゼルローン要塞攻防戦。駐留艦隊の指揮官の一人がメルカッツで、ミューゼル、ロイエンタール、ミッターマイヤーといった少壮の指揮官たちが活躍する中でベテランの指揮官として功績を挙げた数少ない一人として名が上がる。ただし、石黒監督版OVAでは宇宙暦791年/帝国暦482年にオリジナルエピソード「奪還者」に名前のみ登場し、この時もイゼルローンで艦隊を指揮している。
宇宙暦796年/帝国暦487年、アーダルベルト・フォン・ファーレンハイト、シュターデン、エルラッハ、フォーゲルと共にラインハルト・フォン・ローエングラム麾下の分艦隊司令としてアスターテ会戦に参加。当初はラインハルトの手腕に対して他提督同様少なからず不信の念を抱いていたが、アスターテ会戦での鮮やかな勝利を目の当たりにしてからは考えを改め、ラインハルトの能力を認めるようになった。
翌年までに上級大将に昇進。新皇帝エルウィン・ヨーゼフ2世を擁するラインハルト陣営&帝国宰相リヒテンラーデ公の枢軸側とブラウンシュヴァイク公を盟主とする門閥貴族連合との確執が表面化し、ブラウンシュヴァイク公から門閥貴族連合軍の艦隊総司令官就任の要請を受けた時には、無意味な戦いとして中立の立場を通そうとし固辞するも、断れば家族に危害が及ぶやも知れないという、ブラウンシュヴァイク公からの脅迫を十分に仄めかした内容の言動を受け渋々承諾、リップシュタット戦役に参加する。
司令官就任に際しては、指揮系統が自分を中心に一元化される事、命令違反は身分に関わらず軍規に則って必ず処断する事を条件に受けたものの、実際には各貴族がメルカッツの方針を無視して好き勝手に艦隊行動を起こしては反撃を受けて要らぬ損害を出し、命令違反に対しても帝国への忠義心からやった事と貴族同士で庇い合いをして聞く耳を持たない有様であったが、そんな「戦意過多・戦略過少」な連中を戦場ではきっちり手綱を取って見せ、シャンタウ星域の戦いではオスカー・フォン・ロイエンタールの艦隊を撤退させる功を上げた。
その後、門閥貴族連合軍最後の拠点であるガイエスブルク要塞宙域での艦隊戦(ガイエスブルク要塞の戦い)に於いて、ラインハルト以下諸提督の艦隊に包囲殲滅され自軍の敗北が決定的になると、武人としての矜持から座乗艦の私室で自決を図る。しかし寸前で止めに入った副官シュナイダーから、自決するくらいなら未だラインハルトの手の及ばない場所である自由惑星同盟に亡命し、そこで捲土重来を図るようにと説得される。その意を受けたメルカッツは、シュナイダーが同盟への亡命の窓口となってくれるであろう人物として推薦したヤン・ウェンリーに身柄を預けることを決意し、イゼルローン要塞へと赴く。その頃、同時期に同盟で勃発した、救国軍事会議によるクーデターの鎮圧完了の報告と後処理のために同盟首都星ハイネセンにいたヤンはイゼルローン要塞からその通信を受けた時、
帝国の宿将と呼ばれる人が、私をたよってくれるというのだから、それにむくいなければなるまい
私はおだてに弱いんでね
と快諾し、客員提督としてシュナイダーら部下共々ヤン艦隊に迎え入れた。
宇宙暦798年/帝国暦489年、ヤンが査問会へ出頭した為にイゼルローン要塞内に司令官がいない状況で発生した、帝国軍のガイエスブルク移動要塞によるイゼルローン要塞強襲(第八次イゼルローン要塞攻防戦)に於いて初めて同盟軍の艦隊指揮を執る。司令官代理のアレックス・キャゼルヌから、一時的に艦隊指揮権を借り受ける形でヤン艦隊旗艦ヒューベリオンに座乗、ダスティ・アッテンボロー、エドウィン・フィッシャー、グエン・バン・ヒュー各分艦隊司令の支持と協力の下、イゼルローン要塞至近に張り付いていたナイトハルト・ミュラーの艦隊を挟撃して撤退させ、査問会の最中に報を受けたヤンが援軍を率いてイゼルローン回廊内に到着した時には、帝国軍の作戦を見抜いたユリアン・ミンツの進言を取り入れてカール・グスタフ・ケンプとミュラーの帝国軍艦隊をヤンの援軍と共に挟撃し、壊滅的な打撃を与えることに成功した。
宇宙暦798年/帝国暦489年、銀河帝国皇帝エルウィン・ヨーゼフ2世の自由惑星同盟亡命事件を機に、ハイネセンにて設立された「銀河帝国正統政府」という名ばかりの政府から、メルカッツの承諾なく勝手に軍務尚書に任命される(この時、無意味ながら元帥号を授与されている[1])。その為一時的にイゼルローン要塞を離れるが、ラインハルトの”神々の黄昏”作戦による同盟領への大侵攻が判明すると、銀河帝国正統政府の要人が次々と逃げ出す中、
皇帝陛下のおんためにも、むしろヤン提督に協力して、ローエングラム公を打倒することに最後の可能性を見いだしたいのです
と最後までラインハルトと対決する意志を見せ、再度ヤン艦隊に合流、司令部の幕僚としてヤンらと共にヒューベリオンに乗艦する。同年5月のバーミリオン星域の戦いの最中に自由惑星同盟政府が帝国軍に対して無条件降伏をした後は、ヤン艦隊に残存するいくらかの艦艇、物資、人員と共に「動くシャーウッドの森艦隊」を結成し、その艦隊の司令官として帝国軍の哨戒の及ばない、ダヤン・ハーン星域の廃棄された同盟軍補給基地に潜伏することとなった。
これは同盟政府の要人らが自己保身の為にメルカッツの身柄を帝国軍に引き渡す危険性があった事と、同盟が降伏した以上、戦艦などは軒並み武装解除されて廃棄される事は確定なので、どうせ廃棄させられるくらいなら後日の再起の為に残しておいたほうが良いと言う、ヤンの意向に拠るものであったが、ヤンからこの申し出を受けた際、話の内容の真意を汲み取ったメルカッツは、
私は亡命して来たとき、あなたにすべての未来をゆだねた。そうしろと言われるのなら、喜んであなたのご希望にそいましょう
と一礼の元に快諾した。これにより、メルカッツとシュナイダーら同行した者達は公的には戦死と発表され、帝国軍にもその旨が伝えられたが、後に動くシャーウッドの森艦隊が同盟艦の廃棄作業が行われていたレサヴィク星域を襲撃し、未廃棄の艦艇及び同盟軍の人員を接収する事件が起きた前後には、実はメルカッツは生きているという噂が帝国軍内部に流れていた。
同年11月、ヤン・ウェンリー謀殺未遂事件と、それに伴う帝国軍同盟領高等弁務官ヘルムート・レンネンカンプの誘拐事件が発生すると、ハイネセンを脱出したヤン一党と合流してエル・ファシルへ向かい、そこで迎えられた「エル・ファシル独立政府」の革命予備軍参謀長に就任(階級は上級大将と記述されている)。帝国への反抗作戦の手始めとして行われたイゼルローン要塞の再奪取作戦では、民主主義の再興を飽くまで自分達の名前で成し遂げさせる為、ヤンに手綱を付ける事を図った独立政府要人の意向により、ヤンの代わりに艦隊司令官に就任。ヤンから託された作戦を完璧に遂行してコルネリアス・ルッツが守るイゼルローン要塞を無事占領せしめた。
宇宙暦800年/新帝国暦2年、バーミリオン星域での戦いの後に皇帝となったラインハルトが、ヤンと決着をつけるために自ら陣頭に立ったイゼルローン回廊の戦いでは、総旗艦をユリシーズに変えたヤンの後を受け、正式にヒューベリオンを座乗艦にして分艦隊司令となる。前哨戦ではヤン艦隊の右翼を務め、フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルトと、アスターテで轡を並べて共に戦ったファーレンハイトの両艦隊と交戦。帝国軍が密集しすぎて混乱した隙を突いてファーレンハイト艦隊に集中砲火を浴びせ、壊滅的な打撃を与えた。この戦いでファーレンハイトが戦死。その報を受けたメルカッツは、かつて個人的に気にかけていたファーレンハイトへの弔意から1日間の喪に伏し、作戦会議にはシュナイダーを代理に立てて自らは出席しようとしなかった。
ラインハルト率いる帝国軍本隊が到着後も引き続き参戦。ヤン艦隊と連携してラインハルト艦隊の前で防御陣を張るカール・ロベルト・シュタインメッツの艦隊に集中砲火を浴びせ、シュタインメッツを戦死させるなどの功を上げた。その後も殆ど休息の取れない状況の中で艦隊司令官として前線に立ち続け、帝国軍との停戦が合意に達した後、他の将兵らが過労や睡眠不足の余り通路などに倒れこんだり、人の手を借りなければ自室に戻ることも出来ない中、
無限の未来より一夜の睡眠がほしい心境だ
と呟きつつも、老体でありながら誰の手も借りず最後まで自分の足でイゼルローン要塞内の自室に戻るなどの謹厳さを見せた。
同年6月1日。皇帝ラインハルトとの会談のために巡航艦レダⅡ号で進発していたヤン・ウェンリーが、テロにより還らぬ魔術師となると、イゼルローンの軍港でキャゼルヌ、アッテンボローらと共にヤンの遺体を出迎えた。その後、ヤンの幕僚達がそれぞれの形で喪に服する中、メルカッツもまた、喪に服しながらも黙々と戦略・戦術の立案に精励していた。
わしは今まで何度か考えたことがあった。あのとき、リップシュタット戦役でラインハルト・フォン・ローエングラムに敗北したとき、死んでいたほうがよかったのかもしれないと……
だが、いまはそうはおもわん。六〇歳ちかくまで、わしは失敗をおそれる生きかたをしてきた。そうではない生きかたもあることが、ようやくわかってきたのでな。それを教えてくれた人たちに、恩なり借りなり、返さねばなるまい
宇宙暦801年/新帝国暦3年2月、ユリアンが軍事指導者として初めて総指揮を取った第十一次イゼルローン攻防戦では、伏兵としてアウグスト・ザムエル・ワーレン率いる帝国軍本隊をイゼルローン要塞主砲“雷神のハンマー”の射程に釘付けにし、大打撃を与えてユリアンの総司令官としての初陣を勝利に導いた。
同年5月、両陣営にとっての最後の戦いとなったシヴァ星域会戦に分艦隊司令として参戦。
帝国軍の「皇帝、不予」と言う通信を傍受したユリアンが、戦闘の早期終結と皇帝ラインハルトとの直接会談をこぎつける為に、帝国軍総旗艦ブリュンヒルト艦内に強襲揚陸艦で突入するという作戦を決行。しかしその行為がビッテンフェルトら帝国軍諸将の怒りに火をつけ、イゼルローン革命軍は帰る場所が無くならんばかりの猛攻を受けることになる。
ビッテンフェルト率いる黒色槍騎兵艦隊の集中砲火は、メルカッツの旗艦ヒューベリオンをも貫いた。爆風と熱風、火花と煙が艦橋に充満し、メルカッツの体の腹部から下は落ちてきた構造材の下敷きとなってしまった。副官のシュナイダーが、自分の足の怪我も省みず、必死にメルカッツの元に駆け寄り、敬愛する上官を助けだす。
ユリアンたちは、ブリュンヒルトに突入できただろうかな?
常に傍に寄り添い、今も自分の身を慮ってくれる副官にそう問いかけるメルカッツ。
シュナイダーが突入成功の報告をするとともに、早く艦から脱出するようにと伝えると、
成功したか、では思い残すこともないな
と呟いた。再び自分の名を呼びかけてくるシュナイダーに対し、片手を軽く上げて制止をするメルカッツ。
皇帝ラインハルトとの戦いで死ねるのだ。せっかく満足して死にかけている人間を、いまさら呼びもどさんでくれんかね。またこのさき、いつこういう機会が来るかわからん
なに、そうなげくような人生でもあるまい。なんと言ったかな、そう、伊達と酔狂で、皇帝ラインハルトと戦えたのだからな。卿にも苦労をかけたが、これからは自由に身を処してくれ……
銀河帝国ゴールデンバウム王朝最後の宿将はそう言い残し、イゼルローン革命軍の艦の艦橋でその波乱の生涯を閉じた。享年63歳。彼の訃報は、後に最後まで彼と共に在った副官・シュナイダーによって、帝国領内で生活している彼の家族の元にもたらされる事となる。
寡黙にして実直、勤勉。地味ではあるが堅実で隙の無い、理に叶った用兵ぶりは帝国・同盟両軍の間でも高い評価を得ており、「老練」と言う点に於いては同盟軍のアレクサンドル・ビュコックと双璧を成す。
守勢に回ったときの堅牢さに於いても定評があり、ロイエンタールは回廊の戦いの時に生存している将帥の中で、自分に勝つことが出来る数少ない用兵家の一人としてメルカッツの名を挙げている(他は皇帝ラインハルト、ヤン、ミッターマイヤーの3人)。実際に、前述の通りリップシュタット戦役におけるシャンタウ星域の戦いでは、ロイエンタールを退けている。これは、リップシュタット連合軍の唯一の勝利である(ただし、ロイエンタールがシャンタウ星域と、局地戦の勝利に軍事上の価値を見出さなかったという理由はあるが)。
ヤンの元に身を委ねてからもその実直さは変わらず、よく言えば自由闊達、悪く言えばフリーダムな性格の人間が多いヤン艦隊に於いても自分から必要以上に前に出しゃばることを控え、常に礼節を損なわないその姿から「ヤン艦隊唯一の紳士」と評された。それでも決して慇懃無礼な堅物だったというわけでもなく、イゼルローン要塞再奪取作戦中に新年を迎えた際、ヒューベリオンの艦橋でオリビエ・ポプランら部下達が行っていた酒の回しラッパ飲みにポーズだけでも付き合ったり、アッテンボローあたりが言い出した「伊達と酔狂で皇帝ラインハルトと戦っている」という事を感覚で理解していたなど、多少なりともヤン艦隊の気風の影響は受けていたようである。
メルカッツ提督か……でおなじみメルカッツ特有といえる戦法が石黒監督版OVAのオリジナル設定として存在する。攻勢時の雷撃艇やワルキューレ、スパルタニアンを用いた近接戦闘を得意とし、回廊の戦いの前哨戦ではファーレンハイトがこのためにヤン艦隊にメルカッツがいることに気づいている。
OVAでは例の台詞が発された回廊の戦い以外でも、『新たなる戦いの序曲』(アスターテ会戦)におけるメルカッツ艦隊の攻撃シーンや、外伝「千億の星、千億の光」の第6次イゼルローン攻防戦でのメルカッツ艦隊の描写に、普段あまり姿を見せない帝国軍雷撃艇が数多く映っているのを見ることができる。
掲示板
122 ななしのよっしん
2023/07/04(火) 22:45:09 ID: 0MIaCZOFNo
>攻勢時には雷撃艇やワルキューレ、スパルタニアンを用いた近接戦闘を得意とし
自分は小説しか知らないが、この設定は小説版にもあったっけ?とにかく、この設定を見聞きした時「老練」なメルカッツにしては随分「荒っぽい」と違和感を感じた。
でも、>>120氏、121氏の意見がヒントになって違和感を解消できそう。
ミュッケンベルガーは屈指の名門。敗北は家名上、絶対不可。ゆえに「圧倒的な大戦力を用意し、負けようがない態勢で勝つべくして勝つ」という、自身の虚栄心が発端ながら結果的に極めて正しい戦い方を取っていたと思う。
メルカッツは下級貴族出身。陰謀渦巻く宮廷では、敗北は勿論、華やかすぎる勝利も危険。誠実な人間性ゆえ、配下に無用の被害を強いることも好まない。
「前門の同盟軍、後門の宮廷貴族という両面の強敵に対し、将兵の被害を最小限に抑えつつ、戦術的かつ政略的に同時並行で戦い、負けない」という難題への回答こそが、メルカッツ流明哲保身の神髄たる、件の戦術ではないだろうか。
(『所詮は下級貴族の
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123 ななしのよっしん
2023/07/10(月) 22:15:27 ID: mPXpqGxSTF
124 ななしのよっしん
2023/07/11(火) 05:57:13 ID: LSvX2wP3hD
アスターテ会戦でムーア相手に格闘戦で完勝(スパルタニアン展開すら許さず発進の瞬間に撃墜してる)から、そこから拾ったんだろうな。 <近接戦闘を得意とし~
……つか読み返してみて思ったが、2巻以降いきなり持ち上げられた印象あったが、アスターテの時点でも割と老練老練いわれてたんだな。
対戦相手が「百戦錬磨」のムーア提督なのがあれだが。
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最終更新:2024/05/15(水) 08:00
最終更新:2024/05/15(水) 08:00
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