インボイスとは、
消費税に関する「適格請求書保存方式」を用いた制度名の俗称。本稿で詳述
3.西武ライオンズの二軍のかつての名称。2005年~2006年までこの名称だった。2の企業が命名権を買った為。
元々この言葉は請求書一般について使われていたが、2023年10月1日から導入される消費税の「適格請求書保存方式」のことを俗にインボイス制度と言うため、昨今ではこれにもとづいて発行される請求書のことを「インボイス」と言う事が多い。
これまでの帳簿保存方式では、取引の一方が免税事業者でもう片方が課税事業者である場合など、それぞれの支払や納付する消費税額は平仄が一致しておらずとも良い制度であったが、インボイス制度では正確な税額の把握と納税が可能になるとされる。
もともと複数税率が一般的であった欧米諸国では一般的な制度であったが、日本では消費税の導入後一貫して単一税率が維持されていたためにインボイス制度は採用されなかった。だが消費税率が8%→10%へと増税された際に、公明党により食料品等を8%のままとする「軽減税率」の導入が主張されたため(財務省・自民党は当初複数税率の導入に強く反対していた)、日本の消費税制度も複数税率へと移行した。そのため、正確な税額の把握と納税を目的として6年後にインボイス制度が導入されることが決定・周知された。
インボイス制度の下ではインボイスを発行できない業者との取引は仕入税額控除が原則できなくなるため(後述の緩和措置などがある)、今まで消費税の納付義務がなかった免税事業者がインボイス登録業者となることで課税事業者へと転換されることが迫られ(課税事業者である取引先との関係から登録を迫られるか、排除されることとなる)、結果として消費税負担が増えることが想定されており、これを称して実質的な「増税」「零細業者の排除」であると主張する反対運動が制度導入直前になって起きている。
反対派は2023年6月に外国特派員協会の会見にて、OECD加入国である日本は他国と違い、徴税制度の憲章や保護が制定されていないなどと主張し、先にそちらの改定や整理が必要であると訴えた(なお外国人記者達の出身国はほぼすべてがインボイス制度下である)。
なお、政府・与党は免税事業者から転換する課税事業者や免税事業者と取引する課税事業者に対して種々の緩和措置(税額を2割にする=実質簡易2種とする、インボイスの無い仕入れの控除を当初8割、ついで5割認める等々)を一定期間導入することを2023年春の税制改正で決定した。
インボイスの基本
適格請求書という名前に反して、これは請求書である必要はない。納品書かもしれないし、領収書かもしれないし、レシートかもしれない。また、必ずしも1つの書類で完結する必要性はなく、関連性が明確であり、その関連した書類で必要な情報が網羅されているならば、それで足りる。
で、必要な情報というのは、以下の通りである。
- 適格請求書を発行する事業者の氏名または名称及び登録番号
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率のものがある場合、それがわかるように示されている必要がある)
- 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜または税込)及び適用税率
- 税率ごとに区分した消費税額等
- 書類の交付を受ける事業者の氏名または名称
ただし、小売業など、不特定多数に対して商売を行う業種の場合、以下のような適格簡易請求書で良い。
- 適格請求書を発行する事業者の氏名または名称及び登録番号
- 取引年月日
- 取引内容(軽減税率のものがある場合、それがわかるように示されている必要がある)
- 税率ごとに区分して合計した対価の額(税抜または税込)
- 税率ごとに区分した消費税額等または適用税率
ここで、登録番号を取得するためには課税事業者である必要があり、免税事業者はインボイスを発行できないため、免税事業者から仕入れた場合、仕入税額控除を適用できないことになる(つまり、仕入れた事業者が売上の消費税を全て納付する必要が出る)。
ただし、以下の場合、インボイスの発行が困難なため、インボイスは不要である。
- 3万円未満の公共交通機関である船舶・バスまたは鉄道での旅客の運送
- 出荷者等が卸売市場において行う生鮮食品等の譲渡(ただし出荷者から委託を受けた受託者が卸売の業務として行うものに限る)
- 生産者が農協・漁協または森林組合に委託して行う農林水産物の譲渡(ただし無条件委託方式かつ共同計算方式により生産者を特定せず行うものに限る)
- 3万円未満の自動販売機・自動サービス機により行われる課税資産の譲渡等
- 郵便ポストに差し出された郵便切手を対価とする郵便・貨物サービス
あと、当たり前だが、消費税の課税が前提なので、全ての取引内容が不課税・非課税・免税ならインボイスを発行することはない。
なお、発行側ではただ発行するだけではダメで、発行したものの写しを課税期間の末日の翌日から2か月を経過した日から7年が経過するまで保管する義務がある。電磁的に保管する場合、いろいろと細かい要件を満たす必要があり、ネックとなるのが検索機能の備え付けだろう。まず、取引年月日その他の日付・取引金額・取引先を検索条件として指定できるようにするとともにその複合検索もサポートしなければならない。また、日付・金額の項目は範囲指定が可能にする必要がある。雑にフォルダに置いておくだけではダメなのである。(2024/1からの電子帳簿保存法の猶予規定によりこの節で書かれているような要求は緩和されたので、この節の記述は「可能な事業者は」程度の話にすぎない)
インボイス制度では、受け取り側での対応も必要である。ただし、簡易課税制度をとっている場合は、単純に課税売上高に業種別に定められた一定の率を掛けてみなし原価を出すため、インボイスへの対応は不要である。具体的な作業としては、
- 帳簿に税率10%の取引と8%の取引を区分して記帳する
- インボイスを保存する。もしインボイスの書類に誤りがあった場合、自分で訂正はできないため、発行側に対して修正を求める
- インボイスの登録番号が正しいことを確認する(取引の都度確認するようなことは要求されていない)
なお、一部の場合では、仕入税額控除にインボイスが不要である。その例外は以下の通り。
- 3万円未満の公共交通機関である船舶・バスまたは鉄道での旅客の運送
- 適格簡易請求書の項目が書かれた入場券等で、使用の際に回収される取引(ただし上記のものを除く)
- 古物営業を行うインボイス発行事業者でない者からの古物の購入
- 質屋を行うインボイス発行事業者でない者からの質物の取得
- 宅地建物取引業を行うインボイス発行事業者でない者からの建物の購入
- インボイス発行事業者でない者からの再生資源または再生部品の購入
- 3万円未満の自動販売機・自動サービス機により行われる課税資産の購入等
- 郵便ポストに差し出された郵便切手を対価とする郵便・貨物サービス
- 従業員等に支給する通常必要と認められる出張旅費等(出張旅費・宿泊費・日当および通勤手当)
この場合、インボイスの代わりに「なぜインボイスが不要なのか」「仕入れの相手方の住所又は所在地」が必要となる。ただし、「仕入れの相手方の住所又は所在地」は、以下の場合不要である。
- 3万円未満の公共交通機関である船舶・バスまたは鉄道での旅客の運送の場合、その運送を行った者
- 郵便ポストに差し出された郵便切手を対価とする郵便役務の場合は、その郵便役務を行った者
- 課税仕入れに該当する出張旅費等の場合は、当該出張旅費等を受領した使用人等
- 古物営業・質屋・宅地建物取引業に関しては、各法令により業務に関する帳簿等へ相手方の氏名及び住所を記載することとされているもの以外の相手方
- 再生資源または再生部品に関しては、事業者以外の者
また、電磁的記録を受け取った場合の保存に関しては、やはり検索機能がネックとなってくる(緩和措置により特に問題とはならなくなった)。要件は発行側とほぼ同じである。
なお、口座振替で家賃などを支払っている場合もインボイスが必要になるが、この場合、期間をまとめてインボイスを発行してもらって構わないことになっている。
何が面倒と一部から主張されているのか
- 免税事業者はインボイスを発行できないので、課税事業者になることを選ぶ(消費税の納税義務が生じる)か、インボイスを発行せず販売先に消費税の負担をすべて押し付けるかする必要がある(ただし、販売先が消費者のみだったり、免税事業者・簡易課税事業者だけの場合はこの問題は発生しない)とされるが、後者の条件を満たしていない場合は通常は登録事業者になることを選択するため、経過措置の縮小につれて免税事業者のままでいることを選ぶ事業者は減少していくことが予測される。
- 登録事業者がコンピュータで発行したインボイスを保存する場合は面倒な検索システムを備え付けておく必要があると言われるが、そのような必要は特にない。インボイスの有効性を確認する頻度は特に定められておらず、事業者はその蓋然性の高低に応じて適当と思われる頻度で確認すれば良く、電子帳簿保存法の猶予規定により、紙で印刷しておけば良く、高度な経理システムなどがなくとも簡易的な保存法でよく、仮にそこで何か見落としがあったとしても特に悪意や重過失が無ければ、それだけで一概に経費否認されることはないと国税庁は表明している。
- 買い手側の本則課税事業者は、きちんと事業者が登録されているかの確認が必要なうえに、2と同様の検索システムを備え付けておく必要があるとされるが、実はそのような必要はない(2に同じ)。また、免税事業者からの仕入れはすべて消費税を負担しなければならないとされるが、3年間は経過措置で80%、次の3年間は50%の仕入税額控除を受けられる。
なお、インボイスが始まるからといって、それだけを理由として一方的に免税事業者との取引を打ち切ったりすることは下請法や独占禁止法に違反する恐れがあるが、実のところ取引条件の再協議不調による取引停止は合法である。そもそも誰が誰と取引するかは根本的に自由なので、インボイスを理由として取引を打ち切るのではなく、別の理由(なんでもいい)によって取引停止する分にもそれはまったくもって自由である。
関連配信
関連項目
- 10
- 0pt
- ページ番号: 5365241
- リビジョン番号: 3195718
- 編集内容についての説明/コメント: