(1)それっぽくて耳障りが良いが、内容が曖昧なまま広まっている言葉
(2)特定の時期/場所で非常に話題になった言葉
のことである。
概要
世間一般の人びとにとって馴染みがあるのは(2)の意味だろう。これはいわゆる流行語のことで、特にWeb発の言葉を指すことが多い。以下では(1)の意味について説明する。
バズワードとは、特定の業界でよく用いられる定義が曖昧な用語のことを指す。業界の外から見ると何らかの専門用語に見え、畑違いの人々には「それっぽい」と思われてしまうのである。とりあえずは、「専門用語っぽいけど、どういう意味? と聞かれると人によって答えが異なる言葉」くらいに捉えておいて欲しい。いくつかの例を以下に挙げてある。
もちろん、後から明確な定義が付け加えられてバズワードではなくなる言葉もある。
一方で、拡大解釈によって逆に定義が曖昧になってしまい、後からバズワード化する言葉も存在する。
――と、ここまで読んでいただいたが、明晰な読者はもうお気づきだろう。
そう、「バズワード」という言葉自体もバズワード的な一面を持つのである。
記事の冒頭で、バズワードの定義を(1)(2)に分けて書いたが、これらはしばしば混同されることも多い。これも「バズワード」のバズワード的性質にゆらいする。また、この性質のために以下に挙げる「バズワードの例」の客観性は十分に保証されない。というよりも、定義の明確さの程度を客観的に示す指標が無いのだから、「ある言葉について『バズワードが否か』を議論することに意味があるか否か」についても一考の余地がある。
バズワードの例
ここでは、特にバズワードと見なされることの多い言葉について取り上げた。これらの言葉をはっきり説明できるかどうか挑戦してみて欲しい。「これもあるぞ」「これは違うぞ」といった意見があれば、掲示板に書くなり追記・修正するなりご自由にどうぞ。
ただ、先述したとおり「バズワード」という言葉の解釈も曖昧なため、この項に載せる語を選ぶ基準に客観性は保証されない。あくまでも参考程度に見ていただければありがたい。
- Web 2.0
…2005年ごろから使われ始めた言葉。そのころに出現し始めた「新しいWebの使い方」を指す。しかし定義が曖昧で、一時は流行ったがすぐに廃れてしまった。「バズワードといえば?」と聞かれれば真っ先に挙がることの多い言葉であり、もはやバズワードの代名詞と化している。 - IoT
…Internet of Things。「モノのインターネット」と訳され、様々な「モノ」がインターネットに接続された社会を指す。近年はIoT対応家電などが広まっており、世間一般に受け入れられつつあることばだが、未だに複数の解釈が存在する。
一応、特定通信・放送開発事業実施円滑化法の附則にて、「インターネット・オブ・シングスの実現」について、(インターネットに多様かつ多数の物が接続され、及びそれらの物から送信され、又はそれらの物に送信される大量の情報の円滑な流通が国民生活及び経済活動の基盤となる社会の実現をいう。」という法律上の定義は与えられてはいる。 - コンテンツマーケティング
価値のあるコンテンツを継続的に提供することによってユーザーを惹き付け、高いエンゲージメントを獲得して最終的な収益に繋げるというマーケティング戦略。「コンテンツ」や「最終的な収益」の解釈、また実践方法に関して解釈の幅が広い。Twitterなどでよく「バズったので宣伝」というのを見かけるが、それに近い。 - ビッグデータ
従来のデータベースでは管理が難しいほど膨大かつ複雑なデータ群。「膨大」「複雑」の基準や「従来のデータベース」が何を指すかが曖昧である。また、この定義も複数の定義のうちの一つにすぎない。 - オブジェクト指向
プログラミング用語。1970年代に造られた言葉で、その後、プログラミング言語の発展に伴って様々な解釈が生まれてきた。そのため明確な定義が無く、プログラミング初心者に立ちはだかる壁となることが多い。 - 人工知能(AI)
近年は「AI」と呼ばれる事例のほうが多いだろうか。コンピュータで知能を研究する分野を指すこともあれば、人間的な知的行動をコンピュータに行わせるプログラムそのものを指すこともある。 - 生産性
先に述べた、拡大解釈で意味が曖昧化してきている言葉の一つ。もとは経済学用語だが、近年では俗に、「同じ労働量で出す成果量」といった意味でも用いられる。
さまざまな意見
ここまで読んでいただいた皆様の中には、このように思われた方も多いはずだ:
これらは至極もっともな意見であると言えよう(「バズワード」自体バズワードなのである程度やむを得ない部分はあるが)。では、このことを普段の社会生活に置き換えてみよう。
あなたが上司や顧客に対して上に挙げたようなバズワードを濫用したとしよう。それを見聞きした人々は、あなたがこの記事に感じたように「無責任だ」「何を主張したいのかよく分からない」「私見が入り混じっている」と感じるのではないだろうか。
もちろん、どうも思わない人もいるだろう。しかしその意思疎通は正確だろうか? 多くのバズワードは解釈の多義性ゆえ話し手と聞き手の間で見解が食い違うことが多い。どうしても使わざるを得ないにしても、自身の解釈を明確に示すべきであろう。
このように、バズワードを使用するデメリットを強調する立場が存在する。
――一方で、必ずしもメリットが無いという訳ではない。そもそも、ある言葉の定義が完全に明確である必要はあるのだろうか? 仮に完全に明確だったとしても、その概念を100%理解するなんてことは可能なのだろうか? どれだけの人数の合意を得られれば、はっきりした定義があるといえるのだろうか?
人々に受け入れられているバズワードも多い。例えば、プログラミングにおいて「オブジェクト指向」は重要な概念だ。この概念はプログラミング学習の初期に提示されることも多く、定義の曖昧さから初心者にとっては大きな壁となる場合がある。しかし、はっきりと理解し得ないものに拘泥して歩みを止めるのはなんとも非効率ではないだろうか。「習うより慣れろ」という言葉の通り、始めはざっくりとした理解であっても後に実感として理解できることもある。
そういう意味で、用語の意味が曖昧であることを許容する立場もある。
また、言葉の意味が時代によって変化することや、立場の異なる人々が存在するのは当然のことであるから、解釈が複数存在するのは自然なことであり、その中から都合の良い一つもしくは複数の解釈を選べば良い、という考え方もある。
と、様々な意見はあるが、結局は「バズワード」という言葉自体の定義の曖昧さ(肯定的にも否定的にも捉えられる)に帰着してしまうのではないだろうか。
最終的に判断を下すのはあなたである(判断を下さないでおくという立場もあるが)。
関連項目
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