ムネアカハラビロカマキリ(学名:Hierodula sp.)とは、日本各地で発見されている、外来種のカマキリである。
概要
名前の通り在来種のハラビロカマキリの仲間だが、気性が荒く体長60~90mmとオオカマキリに匹敵するほど大型になり、ハラビロカマキリの1.2倍以上の大きさを誇る。名前の通り、胸部腹面や腹部に赤みがあるのが特徴。
他にも前脚基部(鎌の1つ目の節)の突起が7~11個(小さいものを含めると最大20個)と多く、そこでハラビロカマキリ(突起が3~4個)と明確に区別できる。卵鞘(卵)は白っぽく、ビロード状。
飛翔能力が高くよく飛ぶ。これは分布の拡大にも貢献していると思われる。
2020年7月現在は特定外来生物には指定されていないが、非常に侵略性の高い外来種として警戒されており、全国で分布状況の調査が継続されている。
謎のカマキリと遅れた「発見」
福井県敦賀市でムネアカハラビロカマキリがハラビロカマキリ属の不明種として報告されたのは2010年のことだが、その後の調査で2000年には記録が確認でき、2000年代には既に日本に定着していたことが分かった(最初に侵入したのは2000年からそれほど遡らないとされる)。
ネット上でも詳細が明らかになる前から謎のカマキリとして目撃情報が上がっており、2011年に2ちゃんねる(現:5ちゃんねる)の昆虫板の書き込みの画像が話題になった時に、以前から調査を行っていた研究者が一部の情報を公開したため広く知られるようになったとのこと。ムネアカハラビロカマキリは、その10年以上前からじわじわと日本を侵略していたのである。
名前についてなど
ムネアカハラビロカマキリの和名は2014年頃から正式に採用されている。
学名のHierodula sp.はハラビロカマキリ属の1種という意味で、これはムネアカハラビロカマキリに対応する原産地の種が分かっていないため。発見当初はHierodula membranaceaという種の可能性が高いとされていた他、Hierodula venosaという種とされることもあったが否定されており、2020年7月現在はムネアカハラビロカマキリの学名としてHierodula sp.が使用されている。2022年の論文で岐阜県で採取された個体が初めてHierodula chinensisと同定された[1]が、そもそも日本に生息するムネアカハラビロカマキリが全て同じ種なのかは検討の余地がある模様。
あまり使われていない別名にタイリクハラビロカマキリがある。この名称は環境省の『平成25年度 第2回 愛知目標達成のための侵略的外来種リスト作成会議議事次第』の『侵略的外来種リストに関する各学会への意見聴取結果一覧』にてHierodula membranaceaの和名として扱われているのが確認できる[2]為、ムネアカハラビロカマキリがHierodula membranaceaだとされた名残ではないかと思われる。
ちなみに、ムネアカハラビロカマキリにもハリガネムシは寄生する。ハラビロカマキリはハリガネムシの寄生率が高いことが知られているが、ハラビロカマキリと寄生状況が違うのかは詳しく分かっていない。2020年7月現在は大きな差はないとされる(要するにムネアカハラビロカマキリも寄生率が高い)。
原産地と侵入経路
本来の生息地は中国南部とされるが、侵入経路も含めて確定していない。中国から輸入された竹ぼうきが侵入経路だという噂があったが、神奈川県立生命の星・地球博物館などの研究チームの調査によると、実際に神奈川県のホームセンターなどで中国・浙江省産竹ぼうきから多くの卵鞘が見つかり、これが侵入経路と考えられている[3][4]。その後の調査でも追加でホームセンターの竹ぼうきから卵鞘が見つかっている[5]。
高い移動能力や、日本の寒さに耐えられることに加え、日本に対抗できる昆虫がオオカマキリぐらいしかいない[6]ため、現在も分布を拡大しているとみられ、SNSでも発見報告が相次ぐなど2018年の時点で全国20都府県に広まっているのが確認されている。
分布拡大に対する問題点
その性質から、在来種のカマキリ、特にハラビロカマキリとの競合が懸念されている。現にムネアカハラビロカマキリが定着した地域ではハラビロカマキリが僅か1年でほとんど見られなくなったという報告[7]があり、ハラビロカマキリを駆逐してしまっている模様。生息空間や餌をめぐる競争(資源競争)が特に激しいとは考えづらく、繁殖干渉が大きな要因である可能性が高いと推測されているが[8]、具体的にどのようなメカニズムで入れ替わってしまったのかは今後の調査・研究を待つ必要がある。また、オオカマキリなど他のカマキリへの影響は不明。捕食対象となる多くの昆虫への影響も考えられる。
もし見つけたら?
カマキリのように一か所で見つかる個体数がそれほど多くない生き物は、少人数で広範囲の分布状況を調査すると効率が悪いため、一般からの発見報告も貴重な情報になる。ムネアカハラビロカマキリの分布状況の調査も、研究者や昆虫愛好家だけではなく、多くの人々の協力が必要とされている。
ムネアカハラビロカマキリかもしれないカマキリやその卵鞘を見つけた際は、分布状況の調査に役立てるため地方自治体や近くの博物館・昆虫館に連絡するのがいいだろう。また、奈良県の森と水の源流館によれば、見つけた場合は駆除してほしいとのこと[9]。ただ、慣れていないと中々ムネアカハラビロカマキリだと断定することは難しい(特に卵鞘。幼虫は更に至難の業)ので、独断で駆除するより素直に自治体や博物館などに連絡するか、詳しい人に確認してもらうのが吉。
購入した竹ぼうきに卵鞘が付着していないかチェックするのも対策になる。
関連項目
脚注
- *New record of Chinese Reddish Mantis, Hierodula chinensis Werner, 1929 (Mantodea, Mantidae) from Japan
- *「外来ハラビロカマキリ ムネアカハラビロカマキリ Hierodula sp. もしくは タイリクハラビロカマキリ Hierodula membranacea」と記載
- *外来カマキリ、中国産竹ぼうきから侵入? 在来種駆逐か:朝日新聞デジタル
- *外来カマキリほうきで拡散 卵付着、中国から輸入 (写真=共同) :日本経済新聞
- *苅部治紀, 加賀玲子, 2019. 神奈川県におけるムネアカハラビロカマキリの新産地と分布拡大に関する生態的知見(J-STAGE)
- *あるいはオオスズメバチやオニヤンマ、シオヤアブなども候補だが、オオカマキリも含め実際に野生で捕食した・されたという正式な報告は無い。オオカマキリとの実力差ははっきりしていないが、実際にムネアカハラビロカマキリとオオカマキリとで捕食実験をした研究もあり、2回はオオカマキリがムネアカハラビロカマキリを捕食したが、1回は逆にムネアカハラビロカマキリがオオカマキリを捕食している。 → 間野隆裕・宇野総一『豊田市におけるハラビロカマキリとムネアカハラビロカマキリ の分布動態と形態について』(pdf)
- *間野隆裕・宇野総一『矢作川流域におけるムネアカハラビロカマキリの分布拡大』(pdf)
- *松本和馬, 2016. 東京都八王子市の森林総合研究所 多摩森林科学園におけるムネアカハラビロカマキリの侵入定着とハラビロカマキリの衰退(J-STAGE)
- *外来種カマキリ 奈良でも初確認 中国原産(1/2ページ) - 産経ニュース。Twitterや他のSNSで発見報告
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