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心不全とは、心臓の機能が低下し、十分な血液を拍出できない状態である。
概要
心不全は、心臓に生じた器質的・機能的異常によりポンプとしての機能が低下し、全身の酸素需要に対して十分な血液を供給できない状態である。肺循環や体循環にうっ血(血流の停滞)が生ずるため、倦怠感、呼吸困難、浮腫(むくみ)などを呈する(うっ血性心不全)。心筋梗塞、弁膜症、心筋症、不整脈、高血圧、糖尿病など、さまざまな疾患が心不全の要因となりうる。心疾患の終末像でもある。
欧米化した食生活による虚血性心疾患(狭心症・心筋梗塞)の増加、高齢化に伴う高血圧や弁膜症の患者増加を背景として、慢性心不全の患者も増加傾向にある。急性心不全の患者数は十分には調査されていないが、心不全発症のリスクを抱えた高血圧や糖尿病の患者は数千万人規模で存在する。
分類
臨床経過による分類
機能障害による分類
障害部位による分類
左室駆出率(LVEF)による分類
- HFrEF(ヘフレフ) - 左室の拡張障害があり収縮機能も低下している。LVEF 40%未満。
- HFmrEF - 左室の拡張障害があり収縮機能も軽度に低下している。LVEF 40%以上50%未満。
- HFpEF(ヘフペフ) - 左室の拡張障害があるが収縮機能は保たれている。LVEF 50%以上。
LVEFの臨床経過による分類
- HFrecEF - LVEFが改善した。HFrEF ⇒ HFmrEF ⇒ HFpEF。
- HFworEF - LVEFが悪化した。HFpEF ⇒ HFmrEF ⇒ HFrEF。
- HFuncEF - LVEFが大きく変化しない。
症状
左心不全は、肺から全身への血流が障害されるため、肺うっ血が起き、肺水腫や胸水貯留がみられる。肺での酸素や二酸化炭素の交換が障害され、低酸素血症の症状を呈する。呼吸困難は、横になると増強し上体を起こすと軽減するため、患者は起き上がって楽に呼吸できる姿勢を取ろうとする(起坐呼吸)。自覚症状としては、全身の倦怠感、息切れ、咳、手足の冷感、尿量の減少などがある。
右心不全は、全身から肺への血流が障害されるため、末梢のうっ血が起こる。肝腫大、下肢を中心とした全身の浮腫、体重増加がみられる。また、肺血流量が減少することで、左心への流入血液量が減少し、左心不全症状を呈することもある。
急性心不全は急激に心機能が低下するため、呼吸困難やショック症状を引き起こす。
慢性心不全は緩徐に進行するため、血圧調節因子の分泌亢進や心肥大などの代償機構が働き、心機能をある程度維持するものの、長期化すると破綻する。
代償機構
心機能が低下すると、交感神経系や内分泌系が亢進し、血圧を維持しようとする。また、損傷した心筋細胞を修復し、心機能の低下を抑制しようとする。こうした代償機構は、短期的には心機能を維持させるが、長期化すると最終的には破綻し、心機能はより悪化する。
代償機構 | 機序 |
---|---|
交感神経系の亢進 | α1作用により、血管が収縮し血圧が上昇する。 |
β1作用により、心収縮力が増大し、心拍数も増加する。 | |
RAA系の活性化 | RAA系(レニン-アンジオテンシン-アルドステロン系)は、ホルモンによる血圧調節システム。アンジオテンシンIIは、血管を収縮させ血圧を上昇させる。アルドステロンは、腎における水の再吸収を促進し、循環血液量を増加させる。 |
心筋リモデリング | 心臓にかかる負荷は、前負荷と後負荷に分けられる。循環血液量増加は前負荷を増大させ、血圧上昇は後負荷を増大させる。増大した前負荷・後負荷に対し、心臓は心筋細胞の肥大化や損傷部位の線維化によって適応する。 |
診断
心不全の診断にあたり、症状、既往歴、家族歴、身体所見を確認し、心電図検査や画像検査を検討する。身体所見として、頸動脈怒張、黄疸、浮腫などがある。心エコー検査(心臓超音波検査)や胸部X線検査では、心拡大が確認される。聴診では、しばしば余剰の心音(III音、IV音)が聴こえる。重症度に応じて血中の脳性ナトリウム利尿ペプチド(BNP)濃度が上昇するため、慢性心不全の予後の指標になる。
NYHA分類
NYHA分類は、NYHA(ニューヨーク心臓協会)が定めた心不全の重症度分類。自覚症状の程度により、I度からIV度までの4種類に分類される。客観性に乏しい欠点はあるが、簡便であり患者のQOL(クオリティ・オブ・ライフ)を反映しているため、主に慢性心不全に汎用される。
I度 | 心疾患はあるが無症状。日常生活が制限されない。 |
II度 | 安静時は無症状。日常的な身体活動で疲労、動悸、息切れを生ずる。 |
III度 | 安静時は無症状。歩行や日常的な身体活動以下の労作で症状を呈する。 |
IV度 | 安静時でも症状を呈することがある。軽い労作で症状が増悪する。 |
Killip分類
Killip分類は、急性心筋梗塞後の聴診所見をもとにした重症度分類。肺のうっ血の程度により、I群からIV群までの4種類に分類される。短時間で重症度を把握できるため、急性心筋梗塞だけでなく、急性心不全にも用いられる。
I群 | 心不全の臨床的徴候なし。 |
II群 | 軽度から中等度の心不全。副雑音(ラ音)やIII音を認める。 |
III群 | 重度の心不全。肺の50%以上の範囲で副雑音。肺水腫あり。 |
IV群 | 心原性ショック。血圧低下(90mmHg未満)や意識障害など。 |
Forrester分類
Forrester分類は、血行動態の指標である心係数(CI)、肺動脈楔入圧(PCWP)を用いた重症度分類。急性心筋梗塞後の心不全治療に用いられる分類だったが、広く急性心不全の病態把握に用いられている。ただし、カテーテルを挿入する必要があるため、侵襲性が高い。
PCWP < 18 | PCWP > 18 | |
---|---|---|
CI > 2.2 | I群:正常。 | II群:肺うっ血。 |
CI < 2.2 | III群:末梢循環不全。 | IV群:肺うっ血+末梢循環不全。 |
Nohria-Stevenson分類
Nohria-Stevenson分類は、身体所見をもとにした重症度分類。うっ血や末梢循環不全の有無により病態を把握する。侵襲性が低く簡便である。
うっ血なし | うっ血あり | |
---|---|---|
末梢循環不全なし | Profile A dry - warm |
Profile B wet - warm |
末梢循環不全あり | Profile L dry - cold |
Profile C wet - cold |
治療
急性心不全
急性心不全では、破綻した血行動態の正常化と、その維持が治療目標となる。心停止に対しては、心肺蘇生と酸素投与を行う。血管拡張を目的に硝酸薬、循環血液量の減少を目的に利尿薬、心拍出量の増大を目的に強心薬を投与する。
薬物 | 作用 | ||
---|---|---|---|
麻薬性鎮痛薬 | モルヒネ | 鎮静 → 呼吸困難軽減・不穏緩和 | |
硝酸薬 | ニトログリセリン 硝酸イソソルビド |
血管拡張 → 前負荷軽減 | |
利尿薬 | ループ利尿薬 | フロセミド アゾセミド |
循環血液量減少 → 前負荷軽減 |
hANP | カルペリチド | 循環血液量減少・血管拡張 → 前負荷軽減 | |
強心薬 | 交感神経作動薬 | ドブタミン ドパミン |
心収縮力増大・血圧上昇 → 血行動態改善 |
PDE III阻害薬 | ミルリノン |
慢性心不全
慢性心不全では、心機能低下による代償機構の調整、QOLの向上、生命予後の改善が治療目標となる。塩分制限のほか、薬物治療としてアンジオテンシン変換酵素阻害薬(ACE阻害薬)、アンジオテンシンII受容体拮抗薬(ARB)、交感神経β受容体遮断薬(β遮断薬)、ミネラルコルチコイド受容体拮抗薬(MRA)、アンジオテンシン受容体ネプリライシン阻害薬(ARNI)、SGLT2阻害薬などが用いられる。
薬物 | 作用 | |
---|---|---|
ACE阻害薬 | エナラプリル リシノプリル |
RAA系抑制 → 前負荷/後負荷軽減 |
ARB | カンデサルタンシレキセチル ロサルタン |
アンジオテンシンII拮抗 → 前負荷/後負荷軽減 |
β遮断薬 | カルベジロール ビソプロロール |
心保護 |
MRA | スピロノラクトン エプレレノン |
循環血液量減少 → 前負荷軽減 |
ARNI | サクビトリルバルサルタン | RAA系/交感神経系拮抗 → 心保護 |
SGLT2阻害薬 | エンパグリフロジン ダパグリフロジン |
循環血液量減少 → 前負荷軽減 腎保護 |
備考
厚生労働省の発行したマニュアルによれば、死亡診断書において、疾患の終末期の状態としての「心不全」や「呼吸不全」は、死因統計が不正確となるため死因として記入しないこととしている。もちろん、明らかな病態としての心不全や呼吸不全であれば記入して構わない。
関連動画
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関連項目
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