犬笛とは、犬などの動物の訓練に用いる笛の一種である。「人間の可聴域を超えているが動物には聴こえる」高さの音色を出す。
転じて、「政治家や選挙に出馬した候補者、あるいは彼らの選挙戦略担当者などが、支持を得たい特定の集団にのみ伝わるようなメッセージを用いる」手法について、批判的に「犬笛」と呼ぶことがある。
この記事ではこちらの意味について述べる。
概要
「犬笛戦術」「犬笛戦法」「犬笛政治」「犬笛的政治」「犬笛的修辞法」などとも呼ばれる。
元々は英語「dog whistle」として英語圏において使用されている言葉であり、「犬笛」はこれを直訳したもの。
特に「差別的」または「排外主義的」な意図が隠されている(とされる)メッセージを批判する際に用いられることが多いようだ。
実例:リー・アトウォーターの発言
この「犬笛戦術」を用いたとして批判されることがある人物として、「リー・アトウォーター」がいる。彼は「ロナルド・レーガン」や「ジョージ・H・W・ブッシュ」など、大統領就任歴もある米国の大物政治家らの選挙戦略を担当していた人物。このアトウォーターは1981年のオフレコ(だったはずの)インタビューにおいて以下のような発言をしていたとされており、録音記録も流出している。
You start out in 1954 by saying, "Nigger, nigger, nigger".
(1954年には「ニガー[1]、ニガー、ニガー」と言う事もできました。)By 1968 you can't say "nigger" that hurts you. Backfires. So you say stuff like "forced busing", "states' rights" and all that stuff.
(1968年には「ニガー」と言う事はできません。裏目に出て自分のダメージになります。だから代わりに「強制バス通学」[2]や「州の権限」[3]とかそういった類のことを言うんです。)You're getting so abstract now, you're talking about cutting taxes, and all these things you're talking about are totally economic things and a byproduct of them is, blacks get hurt worse than whites.
(今はどんどん抽象化するんです。税を削減するとかそういった話をすることは完全に経済的な話題に過ぎず、副作用として黒人が白人より酷い目に遭うというだけです。)And subconsciously maybe that is part of it, I'm not saying that. But I'm saying, that if it is getting that abstract, and that coded, that we are doing away with the racial problem one way or the other, you follow me?
(潜在的にはそういったことが含まれるかもしれませんが、そんなことは言いませんよ。しかし私が言いたいのは、抽象化すればするほど、遠回しな表現にすればするほど、どちらにしても我々は人種問題からは距離をおくことができるわけです。おわかりですか?)Because obviously sitting around saying, "We want to cut taxes. We want to cut this. We want-", is much more abstract than even the busing thing, and a hell of a lot more abstract than "Nigger, nigger", you know. So, any way you look at it, race is coming on the back-burner.
(なぜなら「我々は税を削減したい、我々はこれを削減したい、我々は……」と言う事などは明らかに、バス通学よりもっと抽象化されていますよね、「ニガー、ニガー」よりだんぜん抽象的です。だから、どう見ても人種問題は棚上げにされた状態にしておけるわけです。)
これは1968年の大統領選挙における「露骨な人種差別主義的な言葉を使わず、それでいて人種隔離主義を持つ投票者の票を得る」ための戦略について述べたものとされる。
この1968年の選挙でレーガンと争った候補者「ジョージ・ウォレス」は人種隔離主義的な政策を推す候補として知られていた。そのままではウォレス側に投票するであろう人種隔離主義の有権者をレーガン側に引き寄せるための戦略として、こういった修辞的な手法を用いた、という趣旨の発言であったようだ。
「犬笛戦術」を使っていた側の率直な発言として希少かつ重要なものであるため、しばしば引用される。
関連項目
脚注
- *黒人への侮蔑語
- *児童が通う学校が人種で別れてしまうことは人種隔離や人種差別につながってしまうため、それを防ぐために人種が混在するように生徒を入学させる政策について、遠方の学校にバスで通わなくてはならないこともあった。そのため人種隔離主義の立場に立つ人々からは「強制バス通学」と呼ばれて批判されることもあった。
- *アメリカ連邦政府に比べて人種隔離を許容する方針を取っていた州において、人種隔離を支持する人々によって「連邦は州の権限を侵すな」という論法が用いられた。
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