ディファイアントとは、イギリスが開発したいつもの珍兵器単発レシプロ戦闘機である。
第一次世界大戦でイギリスが使用した、銃座を持つ複座戦闘機ブリストル F.2ファイターが一定の成功を収めたため、同じコンセプトの複座戦闘機が開発されることになった。
パイロットは操縦に専念し、射撃手は射撃に専念できる。効率的な運用法だと考えられたのだ。
1935年にボールトンポール社の試作機が採用され、ディファイアント(挑戦的な)の名が与えられた。
いきなりですが失敗作です。
前述の通りディファイアントは「挑戦的な」という意味だが、それにしたって程があらぁ。
何故そんな狂った設計がまかり通ったのか。
イギリスは第一次世界大戦でドイツの飛行船や爆撃機に本土を爆撃された経験があるため、敵の戦略爆撃を迎撃することを重視していた。そんな中、「爆撃機が防御機銃を多数装備するようになれば、戦闘機が後方について撃とうとしても反撃で撃墜されてしまうようになるのではないか?」という懸念が生まれる。
そこで通常型の戦闘機の武装強化と並行で考えられたのが、爆撃機の銃座の死角になる側方や下方から自在に攻撃出来る銃塔を装備した迎撃機であった。この辺は後にドイツや日本の夜間戦闘機が装備した斜め銃(シュラーゲムジーク)にも通じる発想である。あくまで銃塔からの射撃で爆撃機を撃墜することが本分なので、前方固定機銃はデッドウェイトになるだけであり装備されなかった。更に「戦闘機の高速化が著しいから、鼻先を突きつけ合うドッグファイトは廃れる」→「自由な角度から敵機に射撃できるなら、前方固定機銃しか装備していない敵戦闘機に勝てるかもしれない」という予想もこの設計を後押しした。
……実際にはジェットの時代になっても前方の固定機銃が無くなることはなかった。
1940年、後に名高いバトル・オブ・ブリテンの幕が切って落とされた。
さぁどんな悲惨な結果が待っているだろうと思えば……
あれ? 大活躍じゃん。
しかし彼らが相手にしていたのは爆撃機や大型双発機といった鈍重な相手ばかり。Bf110もパイロットが「後ろもーらい」と近づいてきたところを不意打ちで撃ち落とされるケースであった。マトモな精神なら旋回機銃だけを積んだ戦闘機が前線で飛んでいるとは思わない。
そしてある日、ドイツ軍戦闘機パイロットはとうとう気が付いてしまった。
晴れてディファイアントは駄作機の道を歩むこととなったのだった。
前述のF.2ファイターやディファイアントと競合したホーカー社の試作機ホットスパーは旋回機銃だけでなく前方固定機銃も装備していた。しかし本機は銃塔で重くなる分を少しでも軽量化しようとし、前方固定機銃を装備しなかった。
更にいくら射撃に専念できると言っても、ぴったり敵機の後ろについて撃つのと、自在に飛び回っている敵機を追尾して撃つのとじゃ命中精度が違いすぎる。おまけに機銃の射角から逃げられたらどうしようもない。
熟練パイロットなら相手の回避機動に追従して攻撃できるが、ディファイアントはパイロットと射撃手が分かれているため、そういった直感的な動作ができない。つまり
射撃手 「あっ、逃げられた! 右に旋回して!」
パイロット「え、右? 分かった……」
射撃手 「いや左か! 左に旋回! もっとちゃんと敵に付けて!」
パイロット「こっからじゃ敵の位置が見えねーんだよ!……ぎゃあ正面から来るぅぅぅ!!」
おまけに旋回銃塔は律儀に機銃を上方に向けて銃塔を前方に回す……つまりニュートラルポジションにしないとハッチが開かない。つまるところ機銃をグルグル回してドンパチやってる最中から即座に脱出できない。
更におまけに銃塔は狭く、パラシュートを背負ったまま乗れない。もひとつおまけに被弾時に銃塔がしょっちゅう故障して動かなくなった。
まぁなんだその
「もうちょっと考えて設計しようね!(教訓)」
出オチ的な戦果を残した以外は無残な結果に終わったディファイアント。
戦闘機失格の烙印を押され、ボールトンポール社は「銃塔を廃して前方機銃を搭載する」つまり普通の戦闘機にする計画を立てるが……
空軍「ハリケーンどころかスピットファイアまであるのに今更そんなもんいらん(正論)」
その後は夜間戦闘機として運用されたが、パイロット&レーダー手という役割分担が一般的だった通常の夜間戦闘機と違い銃塔を操作する必要があったためパイロット兼レーダー手&射撃手という分担になり、パイロットは複雑な機械だった初期のレーダーを操作しながら危険な夜間飛行をするというオーバーワークを強いられることになってしまった。結局夜間戦闘機としてもボーファイターやハボック、そして傑作機モスキートの投入でお役御免になり、短命に終わった。
後は訓練機・標的曳航機はおろか、ECMを積んで電子戦機・圧縮ゴムボートを積んで海難救助機といったユニークな任務をこなしていった。
敵と戦うだけが兵器の任務ではない。
ディファイアントに敬意を。
ディファイアントに関するニコニコミュニティを紹介してください。
※余談
海軍版ディファイアントというべきものにブラックバーン社のロックがあり、こちらはスクア艦上爆撃機をベースに無理やり旋回機銃を積んだ代物で、ディファイアントが良心的に思えるほど劣悪な飛行性能だったそうだ(遅い遅い言われたディファイアントが489km/hに対しロックはなんと359km/h)。おまけにお互いの銃塔の互換性が無く、同じ工場でわざわざ別々の物を作っていた。
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最終更新:2025/12/08(月) 16:00
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