トイレットペーパー騒動 単語

32件

トイレットペーパーソウドウ

6.4千文字の記事
  • twitter
  • facebook
  • はてな
  • LINE

トイレットペーパー騒動とは、トイレットペーパーなどの衛生類が、デマや誇された説、人間の心理などにより買い占められる現す言葉である。

概要

トイレットペーパーが店に並ぶところであれば、どのでも起こり得る現である台湾exit/アメリカexit日本でも1973年オイルショックを始め、今までに何度かこの現が起こっている。

なぜトイレットペーパーか

トイレットペーパーは人々の間で有事の救援物資として認識されにくいことが摘されており参考exit、また保存性が利いておりいくら買っても腐ることがないため買い占められやすい。さらに体積が大きく、店頭に並べられる数が少ないため売り切れやすい。このため、生産企業や卸売企業に在庫があるのにもかかわらず品薄なように見えてしまうため、この現が起こりやすい。

また、特に第1次オイルショックのときに「買い占めといえばトイレットペーパー」というイメージがついてしまっており、やたらとトイレットペーパーが注されやすいのが原因ではないかともされる。

松本社長トドオナダ株式会社)は「これらの記事の中でトイレットペーパーは、(同様に買い占め騒動が起きた1973年の)オイルショックの事例と並べられるケース立った。『デマと言えばトイレットペーパー』と、メディアが結び付けてしまっているもあるのではないか」と推測する。

ITMedia「exitトイレットペーパー買い占め元凶はデマだけか メディア報道に潜む「大罪」――データで迫る 」exit

 

デマとの関係

騒動は「○○が原因でトイレットペーパーが品薄になる」というデマがきっかけとされることがある。しかし、その場合でも全員デマを信じて購入しているわけではない。むしろ「店頭でトイレットペーパーが売り切れている」という情報を受けて、「にそれほど多くのトイレットペーパーがないので、買い占めによる不足や、それに伴う値上げが実際に起きてしまうと困る」という心理で多めに買う人も多い。

つまり、仮にデマを信じていなくても、人々が「もし買い占めが本当に起こったら困る」と不安を感じて1人1パック多めに買っただけで、トイレットペーパー騒動は起こり得る。実際、2020年のトイレットペーパー騒動のときには、トイレットペーパーを多く買った人のうち、約90%の人がデマと知っていながら余分に買ったというデータもある参考exit。ちなみに騒動発生時に通常より多く何かを買いだめしたという人は、全体の約23%にとどまっている。

しかし、消費者が余分に買わなければ、騒動によるトイレットペーパーの不足は短期的なもので収まる(後述)。

店側の対応

トイレットペーパー騒動に対し、売る側は購入量の制限で対応することがある。これは不安になりすぎた人や転売的の人が1人で10パックも買っていくような行動を防止するためであって、トイレットペーパー生産の不足を受けた措置ではない。

また、大企業の店舗の場合、大量にトイレットペーパーを入荷し「一人10パックまで」とすることで、逆に在庫の豊富さをアピールして不安感を和らげる方法がとられることがある参考exit

政府の対応

買い占めに関わる日本法律は「生活関連物資等の買占め及び売惜しみに対する緊急措置に関する法律買い占め等防止法)」があり、買い占めが起きた場合の政府行動針や企業の売り惜しみの禁止を規定している。

消費者の買い占め行動自体を取り締まる法律現在日本には存在しない。

消費者の心構え

日常からの備え

トイレットペーパー洗剤など定期的に買う必要があるものは、特に何もなくても常日頃から「残り1ヶ分ぐらいの量になったら買う」「詰め替えパックを余分に買う」などして、ある程度の量を保管しておくと困らずに済む。

騒動が起きたときは

もしトイレットペーパーの不足という情報が出回ってきても、に数ロールしかない人が本当に困ってしまうので、トイレットペーパーを買わずにその人に譲ることがめられる。やむを得ず買う場合も1パックに抑え、必要最小限の数にしたりする必要がある。

トイレットペーパーを1パック分だけ買えば、人数が多くなければ1家族あたり2週間~1ヶ程度の需要は満たされるので、買いに行く人数はだいたい1~2週間ぐらいで元通りになる。

個⼈差はありますが、⼀般的なトイレットペーパー均的な利⽤量は、過去データをみると、⼀週間程度で1ロールを利⽤しています。これをもとに計算すると、1かでは4ロール程度を利⽤しており、4⼈家族の場合には、1かで16ロール程度を利⽤しているのが実態です。

日本家庭紙工業会からのお知らせ(第2報) 2020年3月2日exitより引用

また、トイレットペーパーは生産してからすぐ全部店頭に送るわけではなく、需要の増加に備えて生産企業や卸売企業の倉庫などに在庫分が置かれており、トイレットペーパーは1週間に3回程度、店によっては毎日店頭に供給される。

 

トイレットペーパーが売り切れているからといって、店員の人に入荷時期を尋ねたり、苦情を言ったりしてはいけない。トイレットペーパーいのは店の責任ではなく、入荷の情報店員把握していないし、同じようなことを何度も聞かれて疲弊していることも多い。

また、品不足についての情報拡散も慎重に行う必要がある。それがたとえ「~で不足するというのはデマだ」という誤りを訂正する情報であっても、過剰に拡散してしまえば「他の人がデマを信じて買ってしまうかも」という不安を呼び起こしてしまう。ある程度すでにデマ摘されている情報であれば、無視するのがよいと思われる。

事例

第1次オイルショック(1973)

中曽根大臣の発表

1973年10月16日オイルショックが発生し石油価格が上昇した。このとき、中曽根康弘通商大臣が10月19日に「節約の呼びかけ」を出した。

の原料であるパルプの価格上昇などもあって、の価格はオイルショック以前から上がっていた。そこに10月に発生したオイルショックも加わり、それによる出版物の原料としての価格の上昇や供給不足を懸念し、の需要量を減らすために呼びかけを出したと思われるの製造には石油エネルギーとして使われており、これは他の工業でも同様の話である)

 1970年代に入ると,原木不足と公害規制により再び用不足が顕在化し,72年半ばごろから需給逼迫と価格高騰に見舞われた。そればかりか,同年末には第4次中東戦争を契機とした石油不足問題(いわゆるオイルショック)も加わって,業界の存続にかかわる問題と化した。

 この用不足問題に対処するため,書協・雑協は各種調,説明会,相談旋所の設置,節約のよびかけ,関係当局への陳情などを行っている。73年6月の書協会員社対の用事情調によれば,用希望どおり入手できないとする社が60に達し,価格は約20上昇したというものであった。そのため書協・雑協は連名で,73年7月30日付で中曽根康弘通産相と日本連合会(製連)金子佐一郎会長に対して,安定価格による安定供給,出版用の確保について要望書を提出した。

「日本雑誌協会 日本書籍出版協会50年史」p.267exitより引用

不足への対応は上記のように出版業界からの要請もあったようで、特段トイレットペーパーに限った話ではなかった。実際、1972年時点でのの用途別出荷率については新聞が32.8%、印刷が21.3%、出版が17.0%紙袋が10.2%であり、製品は5.2%に過ぎない[1]

また、「希望どおり入手できない」「価格が20%上昇」という言葉に見られるように、不足はしていても、ある日突然トイレットペーパーを含むの供給が0になってしまうような状況ではなかった。実際、トイレットペーパーの統計を見ても、生産量は大きく変化しておらず、在庫量は減少気味だったがそれなりにあった[2]

発生から収束まで

しかし、この情報が一因となって民衆の間で「くなる」という噂が流れ始め、製品であるトイレットペーパー買い占めが始まってしまう。

トイレットペーパー騒動の発端は10月29日奈良市西郊のスーパーとも、11月1日(または10月31日)の大阪千里ニュータウンスーパーとも言われ定説がない参考exit。しかし、大阪千里ニュータウンでの騒動が新聞に載ったことで、さらにそのパニック関西全域、さらには全的に拡大してしまった。

2日には政府が買いだめの自粛を要請したが、かえってそれが「トイレットペーパーが本当にくなるかも」としてかえって民衆の不安感を上げてしまう状態になっており、さらに洗剤など他の製品にまで買い占めが飛び火してしまった。

12日にトイレットペーパー買い占め防止法の対となったあたりから徐々に騒動は落ち着きを見せ始め、翌1974年1月末に政府トイレットペーパーの標準価格を設定したことで、3月ごろにはトイレットペーパー騒動は全に収束した。

東日本大震災(2011)

2011年3月11日東北地方太平洋沖地震東日本大震災)が発生し、それに伴う物資不足や物流の滞りを予想した東日本の人々がトイレットペーパーなどの各種日用品を多く買った。そのため、トイレットペーパーが一部の店で売り切れの状態となった。

今回はだいたい2週間ほどで一人当たりのトイレットペーパーの購買額は元に戻っている[3]

新型コロナウイルス(2020)

2020年2月ごろから日本新型コロナウイルスが広まった。その際、2月末にトイレットペーパー買い占めが発生している。

デマの発生

発生当時、騒動が拡大した因はTwitterでの2月27日のあるツイート拡散されたためとされており、「新型コロナウイルスが蔓延する中国からの輸入が減少するため不足する」という噂が広まったとされていた。この噂は多くの人から事実と異なると摘されている。そもそもトイレットペーパー内での生産が大半である参考:p.5-6exit上、原料のパルプ・木材も複数のから輸入しており参考:パルプexit中国に輸入を頼っているわけでは全くない。

また、これとは別に「トイレットペーパーの原料であるマスクの製造に回すため不足する」という噂も流れた。しかし使い捨てマスクは不織布で、原料はポリエステルなどの化学繊維であり、ではない参考exit

なお、上記ツイートを行った人物より前にも「中国での生産不足からトイレットペーパーが不足する」という投稿は存在している参考exit。また、上記ツイートへのリツイート・いいねは1桁程度のみであり、「そもそもこのデマが実際に正しい情報と信じられ拡散したのか」という点についても疑問が持たれる。

デマ発生以前からのトイレットペーパー不足

今回の騒動の原因はデマに加え、予想が困難な状況のなか極外出を控えるために、今のうちに日用品を準備しておこうという心理が働いた可性も挙げられる。

実際、上記のツイート以前からすでに「トイレットペーパーが品薄」という情報Twitter上で見られた参考exit。中には「ひょっとしたらトイレットペーパーとかも品薄になるのでは」「何があるかわからないから今のうちに買っておく」「たくさんの人がトイレットペーパーを買っていた」という投稿も見られる。

特に、2月27日には全立小中高校臨時休校要請があったため、で過ごす子供の分の日用品の需要が増加した。そのため、デマへの不安と需要のピークが一致し、一時的に品薄になったという要因もあると思われる。

転売

また、メルカリなどのフリマアプリでの転売的の買い占めした可性がある。実際、当時はメルカリに多くの高額なトイレットペーパーが出品されていた参考exit。これを受け3月3日以降のトイレットペーパーの出品については、著しく高い価格の商品については規制がかけられた参考exit

テレビによる拡散

ただし、最も直接的に消費者の買いだめ心理にしたのはテレビメディア報道とされる。「デマが広まった」というより、デマが広まってトイレットペーパーが不足している」という情報テレビや店頭の状況から、より広範囲に拡散されたと言った方が正確かもしれない。

私たち(関谷直也・東京大准教授ら)がサーベイリサチセンターと行った調では、そのうわさをSNSで知ったという人は10%にすぎません。半数近くはテレビでそのうわさの存在を知り、また品切れの状況をテレビや直接見て知っています。トイレットペーパーに限らず買いだめは他でも起きており、一つのうわさが原因ではないのです。

朝日新聞「トイレ紙の山積み映像は「逆効果」 買えないと意味ない」exit

教授東京大学大学院情報学環・学際情報学府)は「(こうした消費者行動を)煽っている1つの責任マスメディアにある」と摘する。繰り返しトイレットペーパーなどの一部での品不足をマスメディアが頻繁に報じると、読者視聴者は「これが世間の人々の現在の非常に大きな関心事だ」と判断する。これは社会心理学で「議題設定効果」という説に当たる。

(略)

教授は「結局、事態を鎮静化するのに最も効果的なことはマスメディア報道自粛すること」と説く。さらに「小売りの入荷の具体的なスケジュールを提示すること」「(消費者心理の対策では)実際に(トイレットペーパーなどが)不足して大きなダメージを受ける人の身の上を思いやることだ」と摘する。

ITMedia「exitトイレットペーパー買い占め元凶はデマだけか メディア報道に潜む「大罪」――データで迫る 」exit

 

この記事の存在自体もトイレットペーパー騒動に加担したかもしれない…。

収束へ

騒動発生時2020年2月末には、トイレットペーパーについては日本で通常通りの量が生産されていた。実際、店頭でもすぐに供給されるというが多くり出されており、トイレットペーパーが供給された地域もすぐ出始めた参考exit

3月2日、3日に入ると全的にトイレットペーパーが供給される店が増え、徐々に収束に向かい、3週間後にはTwitterでもトイレットペーパー不足の情報はほぼ見られなくなった。

まとめ

  1. 何もなくても日用品は普段から余分に買っておくこと
  2. 日用品が店頭にいからといって店員には尋ねないこと
    (死ぬほど疲れてる)
  3. 物不足にかかわる情報については、誤りを摘するものであっても報道拡散は慎重に行うこと
    (そもそも「デマ拡散している」という情報デマである可性もある)
    (仮にデマを信じなくても、信じている他の人間の存在を想像して不安になれば、余分に買う人が出てきてしまう)

関連動画

関連項目

脚注

  1. *水口一男「製紙技術の動向」, 有機合成化学協会誌32-9, p.750, 1974.exit
  2. *高橋正明「トイレから見た環境問題」, 大手前女子大学論集28, p.147, 1994.exit
  3. *山本久志「環境問題における短期型不安解明を目的にした買占め行動に関する研究」, 日本大学経済学部産業経営プロジェクト報告書36-1「環境対策に経済概念を取り入れた新しい環境経済評価手法の構築」, p.31-32, 2013.exit
この記事を編集する

掲示板

おすすめトレンド

ニコニ広告で宣伝された記事

記事と一緒に動画もおすすめ!
鳥山明[単語]

提供: ゲスト

もっと見る

急上昇ワード改

最終更新:2024/04/20(土) 07:00

ほめられた記事

最終更新:2024/04/20(土) 07:00

ウォッチリストに追加しました!

すでにウォッチリストに
入っています。

OK

追加に失敗しました。

OK

追加にはログインが必要です。

           

ほめた!

すでにほめています。

すでにほめています。

ほめるを取消しました。

OK

ほめるに失敗しました。

OK

ほめるの取消しに失敗しました。

OK

ほめるにはログインが必要です。

タグ編集にはログインが必要です。

タグ編集には利用規約の同意が必要です。

TOP