悪には悪の救世主が必要なんだよとは、悪の中にも悪を救う者がいるという事である。
漫画「ジョジョの奇妙な冒険」Part3スターダストクルセイダースに登場する、ンドゥールの台詞。
仇敵DIOを倒す為日本からエジプトにたどり着いたジョースター一行に、新手のスタンド使い「ンドゥール」が迫る。本体は盲目の身でありながら水のスタンド「ゲブ神」による超遠距離攻撃により、一度に5人と1匹の一行を一方的に追い詰めるが、空条承太郎の冷静な判断力でイギーの犬の嗅覚と砂のスタンド「ザ・フール」によるグライダーを使って距離を詰め、とうとうンドゥールが敵を探知できない間にその背後まで迫る事が出来た。
しかし、ゲブ神を自分の所に戻して周囲をガードしていたため承太郎もうかつに攻撃出来ず、承太郎の影をゲブ神で探知してンドゥールはその事を悟り、闘いは膠着状態となる。腹を決めたンドゥールは杖を倒すのを合図に、西部劇のガンマン風に言うと『ぬきな!どっちが素早いか試してみようぜ』という勝負でケリをつけようと承太郎に挑む。
杖が砂漠の砂に倒れる一瞬、スタープラチナとゲブ神が同時に仕掛け、スタープラチナの拳がンドゥールの胸を打ち、ゲブ神は承太郎の学帽を飛ばしただけで頭をかすめただけだった。勝負は承太郎が制したが、スタープラチナの拳は手加減しており、致命傷ではない。その意味を理解しているンドゥールは、なんとゲブ神で自らの頭を貫き、自害を図った。ジョセフ・ジョースターのスタンド「ハーミットパープル」は考えている事を感知し、ジョースター一行に差し向けられた新たな「謎の9人の男女」のスタンド使いについて聞き出そうとしているのを気付いていたのだ。自ら仕えるDIOに少しでも不利になる事は喋るわけにはいかないのである。
承太郎は、自ら死ぬほどに何故DIOに忠誠を誓うのかンドゥールに尋ねる。ンドゥールは子供のころからスタンド能力を持っている事で(自分が盲目であっても孤独であっても)死の恐怖を全く怖いと思わない性格だった。どんな人間にも勝てたし犯罪や殺人も平気で警官も全く怖くなかった。
そんな自分がはじめてこの人だけには殺されたくないと心から願う気持ちになったのがDIOである。ンドゥールにとってDIOはあまりにも強く深く大きく美しい、そして自分自身の価値をこの世で初めて認めてくれた人物なのである。まるでDIOに出会うのを自分はずっと待っていたのだと言い切ってしまうほどに。
『死ぬのは怖くない しかし
あの人に 見捨てられ殺されるのだけはいやだ』悪には悪の救世主が必要なんだよ
フフフフ
最期にンドゥールは自分を倒した承太郎に自分の名と、自らのスタンドがタロットカードの起源ともいうべき「エジプト9栄神」のうち「ゲブ神」の暗示である事を語り、事切れる。承太郎は敵ながら潔くサシの勝負を挑み、DIOへの忠誠の為命を絶ったンドゥールに敬意を表し、砂漠の砂の中に彼を埋葬。そして人を狂信的に操る男DIOの底知れなさに好奇心めいた感情を抱く。
DIOは「悪のカリスマ」と称されるように、人の心のすき間に上手く入り込んでその人を魅了させるが、その上で自分のためだけに利用し踏みつける様な「吐き気をもよおす邪悪」ともいえる存在である。しかしながら、その生い立ちが悪の道にしか歩めない人も存在する(第5部「黄金の風」ではそのような生い立ちを持つ人間が主要人物として登場している)。幸福な環境で育った人間が持つ「善」とは相容れぬ「悪」の人間だからこそ、悪の心を認めてくれる悪の救世主が必要とされるのである。
この言葉の影響なのか、承太郎も後年(第6部)、「人の心に何かを伝えるというのはすばらしい事だ」と善悪はともかくDIOの持つカリスマ性を評している。
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最終更新:2025/12/11(木) 01:00
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