本稿ではゲーム『メタルギアソリッドシリーズ』に登場するカスタム拳銃について解説する。
上記画像の下側の銃がそれ。
7:24~8:29の場面
概要
『メタルギアソリッド3 スネークイーター』で初登場した、作中の舞台となる1964年当時のアメリカ軍制式採用拳銃・M1911A1(コルト・ガバメント)をベースにしたカスタムガン。
劇中では特に特別な名称はなく、「45口径(フォーティーファイブ)」とだけ呼ばれる。「スネークマッチ」とはメタルギアシリーズ監督・小島秀夫を始めとするスタッフが考え、いわば後付けで公表したもの。『メタルギアソリッド4 ガンズ・オブ・ザ・パトリオット』で再登場した際には「1911カスタムスネークマッチ」という名称であった。
「スネークイーター作戦」においてソ連国内に潜入したネイキッド・スネークに、偽装亡命していた米国のスパイ・EVAが提供した銃。西側兵器の保管庫に仕舞われていたもので、元は西側の将校の私物だったのではないか……とEVAは推測している。
この銃を受け取ったスネークはそのカスタム具合に気付くと、火を点けて咥えたばかりの葉巻を即座に捨てて踏み消し、そこらのミリタリー小僧みたいな早口でカスタムうんちくをしゃべり続けた。あいつ銃のことになると早口になるよな。以後、スネークはザ・ボスに分解破棄されてしまった自前のM1911(特にカスタムされていない正規品)に代わり、作戦終了間際までこのカスタムガンを愛用することになる。
「敵から見つからないように行動する」ことが前提かつ「敵を殺さないことで高評価が得られる」ゲームデザインである以上、プレイヤーにとっては精々監視カメラの狙撃くらいしか使い道が無い銃のうんちくを聞かされたところでどうしようもないのだが……。とはいえそのカッコよさは本物で、名演出が光る『MGS3』のデモシーンで印象的に描かれまくったこともあり、ガンマニアなプレイヤー達はこぞってこの銃の再現を試みることになった。
作った人たち
設定は兵器考証の平野聡、キャラクターモーション班の豊田聡、キャラクターデザインの新川洋司らによって詰められたほか、エアソフトガンカスタムショップ「OCT FOUNDER」も深く関わっている。
『MGS3』は2004年11月17日に発売されたが、2002~04年頃の日本のガンマニア界ではM1911のタクティカル・カスタムとして、アメリカ海兵隊仕様の「MEUピストル[1]」や、米軍デルタフォースで採用例が報告されていた「ウィルソン・コンバット社製M1911[2]」などが人気を博していた。これら、80年代以降に制作されたカスタムM1911を前提として、作中時代となる「60~70年代に」「ハンドメイド制作された」「タクティカルM1911の元祖」というイメージの元、スネークマッチは創り出された。
ちなみにOCT FOUNDERは『メタルギアソリッド ザ・ツインスネークス』の制作にも関与しており、元々はそちらで出す銃として「複列装填式の特注M1911」という設定を提案していた。結局没になったこの設定がスネークマッチの原案の一つになっているらしい。
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「スネークマッチ」カスタムポイント
数々の兵器に接してきたスネークも見たことが無い程に手が入れられている。下記の主なカスタム以外にも、ほぼすべてのパーツが吟味され入念にチューニングされている。
現代では標準装備されていてあたりまえとなっているカスタムが多いが、そうした「あたりまえカスタム」が登場する以前の、1964年が舞台のゲームであることを念頭においてほしい。
また、あくまでも「日本のガンマニア」目線で行われた仮想カスタムであるため、実戦ではあまり有効では無さそうな、むしろ競技射撃向けのカスタムもちょくちょく含まれているのはご愛敬。
- まずフィーディングランプが鏡のように磨き上げてある。給弾不良を起こすことはまずないだろう。
- スライドは強化スライドに交換してある。スライドとフレームの噛み合わせにもガタつきが全くない。フレームに鉄を溶接しては削る作業を繰り返して徹底的に精度を上げてあるんだ。
- フレームのフロントストラップ部分にはチェッカリングが施してある、手に食いつくようだ。これなら滑ることは無いだろう。
- サイトシステムもオリジナルだ。3ドットタイプだな。フロントサイトは大型で、視認性が非常に高い。
- ハンマーもリングハンマーに替えてある。コッキングの操作性を上げ、ハンマーダウンの速度も確保するためだ。
- グリップセイフティもリングハンマーに合わせて加工してある。グリップセイフティの機能はキャンセルしてあるようだ。プロ仕様だな。
- サムセイフティ、スライドストップも延長してある、確実な操作が可能だ。
- トリガーガードの付け根を削りこんであるから、ハイグリップで握りこめる。
- トリガーは指をかけやすいロングタイプだ。トリガープルは3.5ポンド程度だな。通常よりも1.5ポンドほど軽い。
- マガジン導入部もマガジンが入れやすいよう広げられている。
- マガジンキャッチボタンも低く切り落としてあるから誤操作も起こしにくいだろう。
- メインスプリングハウジングも、より握りこむためにフラットタイプにしてある。更に射撃時の反動で滑らないようステッピングが施してある。
- その上、スライド前部にもコッキングセレーションを追加してある。緊急時の装弾、排莢をより確実に行うことができるはずだ。
- スライドをつかみ易くするために後部に彫られている縦溝を、前部にも追加で彫りこんでいる。こうすることでどのような体勢でもスライドを操作しやすくする。
- 「スネーク、あんた、廃工場で45口径のグリップを削っていたよな。」「ナイフをフィットさせるためだ。」
この他、銃身を延長して銃口部にネジ切りを行い、サプレッサーを装着できるようにしている。
その他の外見上の特色としては、スライド前部のリーフカットが通常の1911とは異なる独特の角度になっている。
遊戯銃界隈の話
公式コラボ商品は存在しないが、そこは実銃同様、様々な製品がモデルアップされているM1911。モデルガン・エアソフトガン問わず、スネークマッチに近い1960年代型M1911をベースに、多くのサードメーカーから発売されている「スネークマッチ風」のパーツを組み合わせたり、更に改造したりして、様々な「自作スネークマッチ」を作るユーザーは多い。当然ながら適切な金・時間・技術は必要だが、M1911トイガンのカスタムではもはや「定番」とも言えるデザインになっている。
同業他社への権利訴訟や問屋への理不尽な対応、そして超高級品メーカーとして著名なウエスタンアームズ(WA)社からは「スネークマッチ 1911」と銘打たれた「スネークマッチ風エアソフトガン」が発売されている。「世界的メガヒットゲームに登場するコルト・ガバメント カスタムをイメージした個性派カバート・タクティカルモデル」という露骨な版権未取得声明曖昧な紹介文の通り、グリップセイフティの省略やナイフ対応グリップ以外、ほとんど通常M1911と同じフレームが使用された製品だが、最も手軽に雰囲気を楽しめる完成品としては唯一無二の立場を築いている。
原作人気が高いだけにWA社製品の中でも人気商品であり、定期的(2~3年おき)に再生産が行われている。
OCT FOUNDERの声明によると、全てのパーツを1から制作した「本物のスネークマッチ」も制作されているとのこと。模型業界でいう「フルスクラッチ作品」であり、完全な非売品である(とても価格はつけられないとの事)。2003年12月半ばに2丁が完成しており、現在の所在は不明だが、恐らくコナミ側で保管されているものと思われる。
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MGS3以降の作品において
MGS4・Operator
『MGS4』では限定コードを入力することで『MGS3』のスネークマッチが使用できるが、それとは別に、ソリッド・スネーク(オールド・スネーク)の事実上の初期装備として登場する「Operator(オペレーター)」も「広義のスネークマッチ」として扱われることが多い。本記事冒頭画像の上側の銃である。
Operatorは米国のスプリングフィールド・アーモリー社が製造しているM1911クローン製品[3]。『MGS4』では軍・法執行機関向けの「TRP(Tactical Response Pistol)」モデルをベースに、スネークマッチを基にしたカスタムが行われている。
スネークマッチとは対照的に黒塗りのスライドが特徴。
Operatorをモデルアップしている遊戯銃メーカーは少なく、この『MGS4』仕様をモデルガン・エアソフトガンで再現するには途方もない金と時間と技術が必要になる。例によってWA社からノーマルOperatorとスネーク仕様エアソフトガンが限定販売されていた他、マルシン工業からもノーマルOperatorのエアソフトガンが販売されていたが、現在はどちらも生産終了している。
ピースウォーカー
スネークイーター作戦から10年。ビッグ・ボス率いるMSFの技術開発班が、ボスの記憶を頼りに再現したカスタムM1911が登場する。色々と細部が異なる。
MGS5
本作には登場しないが、『TPP』最初のミッションで敵のXOF兵士が装備している拳銃は、明らかにスネークマッチを意識したようなカスタムになっている。スネークイーター作戦から20年が経ち、あの時先進的・実験的だったカスタムが広く普及し始めたということだろう。
関連動画
関連静画
関連リンク
2015年09月03日 MGS Vが発売 スネークマッチ製作秘話
関連項目
脚注
- *1985年のM9(ベレッタ92)への制式拳銃更新により回収されたM1911A1から、状態の良いフレームを抜き出し、スプリングフィールド社製の新スライドやその他カスタムパーツを組み込んだ海兵隊内製モデル。
- *M1911の高品質カスタムで名を挙げたウィルソン社は、1983年から自社製のカスタムパーツを販売し、96年からは完全自社製のM1911クローンモデルを生産している。
- *コルト社のオリジナルM1911の特許は1986年に失効しており、ウィルソン、キンバーなどの同業各社から様々なクローン製品が製造販売されるようになった。
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