イノシシを粉にする機械とは、イノシシの死骸を粉末に加工する機械である。
概要
機械導入の背景
日本にはイノシシが2016年の調査中央値で約89万頭おり、1990~2000年代と比べると増加している。その頭数の多さから、農耕地への侵入と食害が問題となっており、侵入対策と駆除が進められている。イノシシは年間に4頭の子供を産み、そのうち約2頭が成獣となる。この数を減らすには毎年7割以上の駆除を進めなければならない。例えば、佐賀県武雄市では年間2000~3000頭、佐賀県全体で2万2000頭のイノシシが捕獲されている。
しかし、佐賀県の場合、9割の駆除されたイノシシは焼却・地面に埋設するなどして廃棄処分されている。イノシシ肉の腐敗が早いため、食用にできるのはわずか1割ほどしかない。また、埋設する場合は、周辺地域への悪臭が問題となる。
そのため、イノシシを粉にする機械が注目されている。この結果できた粉末には、たんぱく質・リン酸が含まれており、肥料や釣りの撒き餌として活用ができる。他にもイノシシをおびき寄せるための餌、ペットフードなどへの利用も構想されている。
既に豚肉・牛肉・鶏肉などの既存の肉では、残渣(ゴミになってしまう部分)を肥料・飼料用の粉末に加工する技術が実用化されており、それをイノシシに転用する形になったと思われる。
ただし、イノシシの粉末加工には制約もある。例えばシカの肉は肉骨粉化が法律で禁止されているため、イノシシ肉との加工ラインの隔離などが必要である。
他にも菌類を使った生物処理など、イノシシの死骸処理には様々な方法が模索されている。
事例
2015年に、宇都宮大学の研究者によって栃木県那珂川町でイノシシの死骸をペースト状にする実験が行われている。このときに使われた機械はAdvantec社の高圧蒸気滅菌装置「STH307FA」と、FMI社のフードプロセッサー「robot-coupe magimix 5200」である。農家の軒先で実演ができる簡易的なものだった。
その後、長崎県の民間の化製処理事業者を活用して、実際に自治体で捕獲したイノシシを粉末にする試験が行われた。「ラメラポンプ」「クッカー」「パーコレーター」「圧搾機」「粉砕機」など複数の機械から成り立っていた。ただし、このときはイノシシ専用ではなく、他の動物の肉でも使われている機械だった。
2020年に佐賀県武雄市の鳥獣加工処理センター「やまんくじら」にイノシシを粉末にする専用の機械が導入された。イノシシの死骸を90℃~100℃の熱で5時間ほど乾燥させ、石灰も加えて脂肪を分解して粉末をつくる。
こちらは正式には「イノシシ減容化施設」と呼ばれており、マスコミにも報道された。Twitterでは「ペンギンを蒸す機械」と対置させたツイートが話題となり、「イノシシを粉にする機械」として知名度が上がった。
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https://twitter.com/turuya4/status/1292285996323635201
関連リンク
- 茨城県県北農林事務所企画調整部門「イノシシの生態について」(2020/02/02)
- 平井英明・小寺祐二・平井雅世「那珂川町イノシシ肉加工施設における産業廃棄物の堆肥化に関する研究」, 宇都宮大学平成26年度地(知)の拠点整備事業地域志向教育研究支援事業報告書, 2015.
- 平田滋樹「イノシシ、ニホンジカ等の適正かつ効率的な捕獲個体の処理および完全活用システムの開発に関する研究」, 環境研究総合推進費補助金 総合研究報告書, p.59, 2019.
- 資源循環・廃棄物研究センター、中央農業研究センター、宇都宮大学雑草と里山の科学教育研究センター、森林総合研究所「有害鳥獣の捕獲後の適正処理に関するガイドブック ~自治体向け~」, p.21-23, 2019.
- サガテレビ「年間2万頭が駆除されるイノシシ 食用はわずか1割…命を循環させる取り組みとは【佐賀発】」(FNNプライムオンライン, 2020/05/03)
関連項目
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