ライフリング(rifling)とは
ライフリングがある銃=全部ライフル …では無い点に注意。
(拳銃の銃身にもライフリングは刻まれている)
曖昧さ回避
ライフル弾を使用する
長距離射撃が可能な銃(広義)をお探しの方は 小銃 の項目を参照。
現代歩兵の多くが装備している銃をお探しの方は アサルトライフル を参照。
概要
銃身[1]の内側に刻まれている螺旋状の溝。日本語では施条(しじょう)、腔線(こうせん)、腔綫(こうせん)等と呼ぶ。銃の内部で発射された弾頭はそこに浅く食い込みながら進む。
銃身内で加速される銃弾に回転を与えることで、銃弾にジャイロ効果(角運動量保存)による方向安定性を与える役割を持つ。要するに弾丸をスピンさせて、まっすぐ飛ぶようにするのである。
ライフリングのスペックは転度、回転方向、本数で表される。転度(回転率、ピッチ)は銃身を螺旋が一回転する間に何インチ進むかで示され、「1/12」や「1-12」のように表記される。通常は「4条右回り」等と本数と回転方向だけが記されることが多い。[2]
らせん状の溝で回転を与えるからといって、ネジや螺旋階段ほど細かにぐるぐるツイストしている訳ではなく、ライフリングのある銃身・砲身を断面にすると割と緩やかな螺旋である。(螺子に例えれば、長い螺子でも少ない回転で締め緩めが可能な感じ)
初期には切削工具で一本一本彫られていたが、現在では冷間鍛造などで大量生産されることがほとんどである。
意外とすごい発明
ライフリング自体は外から見えず、アニメ・漫画・映画など、各種メディア作品においては銃自体や華麗なガンアクションにお株を奪われている
…が、金属薬莢と並んですごい発明である。なければ全然飛ばないし中距離ですらどこに当たるか分からない。ライフリングも薬莢もない火縄銃では「相手の黒目を見て撃て」と言われたほど。(50m先の人間が殺せれば十分くらいなイメージ)
歴史
銃身にライフリングを施すアイディアは15世紀くらいから存在していたが、普及するのは19世紀半ばにミニエー弾と呼ばれる銃弾が開発されて以降のことである。
1823年、インドに駐留していたジョン・ノートン大尉は、現地のインド人が吹き矢を使う際に一旦筒に息を吹き込んで吹き矢の末端を膨らませて筒の内部に密着させ、空気が漏れないようにしているのを目撃した。1836年にロンドンのとある銃職人がノートンのアイデアを基に銃弾の底部に木製の栓をはめ込み、発射時にその栓が広がるように改良したが、さらにフランス陸軍のクロード・ミニエー大尉が後に「ミニエー弾」と呼ばれる形状を考案した。
1849年に採用されたミニエー弾は円錐形(ドングリ形)の弾の底を丸くくぼませてあり、発射時に火薬の爆発によってその部分が膨張して銃身の内部に密着する。それまではライフリングを施した銃に装填するには口径よりわずかに大きい銃弾を火薬の近くまで叩いて押し込む必要があったので装填に時間がかかっていたのに対し、銃身より小さい銃弾を使用できるので装填時間が大幅に短縮され、なおかつライフリングによって銃弾に回転をかけて発射できるようになったので、ミニエー弾は画期的な銃弾だった。[3]
さらに後装式小銃(ブリーチローダー)が登場すると、個々の銃兵の火力が格段に増加し、横隊でマスケット銃を斉射する戦列歩兵の時代が終わりを告げる事となった。[4]
現代に至っても小銃一般のことを英語で「ライフル」と呼ぶのは、マスケットとライフルを区別する必要があったこの時代の名残である。
主な構造
- エンフィールド式
- 円形の断面に切り立った溝を掘った、最も一般的な形式のライフリング。コンベンショナル・ライフリングとも言う。
- メトフォード式
- 断面が曲線の山と谷で構成されるライフリング。現在ではあまり使われない。
- ポリゴナル
- 多角形の断面を持ち、ボア(内腔)がねじれた角柱状をしているライフリング。H&K社が良く用いた。
その他
- 激しいライバル関係で知られていたハンドガンメーカーのコルト社とS&W社では、ライフリングの回転方向が異なっていた。
- 散弾を発射するショットガン(散弾銃)ではライフリングのないスムースボアが一般的である。ただしスラッグ弾を用いるものには銃身の一部または全部にライフリングを施したものがある。また、スラッグ自体に溝を切った「ライフルド・スラッグ」も存在する。
- ライフルによって与えられる回転がHEAT弾の威力に悪影響を与えること、ライフリングのスキマからガスが漏れてエネルギーロスが出るのが嫌われることなどから、戦後第三世代戦車の戦車砲はライフルを持たない滑腔砲が通常である(英国を除く)。
- ANUBIS Z.O.Eでベクターキャノンを使用する際、「ライフリング回転開始」とADAがアナウンスするが、ここの字幕は英語版では「rifling」ではなく「Life-Ring」となっている。
- Civilization IVでは定番の戦術としてライフルラッシュがある。
- 映画「007」定番の冒頭(ガンバレル)で、主人公を狙う銃身視点にも刻まれている。 → こちら
- 戦車砲[5]や迫撃砲、無反動砲といった大型火器においてもライフリングは刻まれている。(諸事情で刻まれていないものもあるため、ライフリングの有無が新旧という訳ではない)
- 指紋のように銃によってライフリングの痕跡(施条痕)は異なるため、犯罪捜査などに用いられる。
関連動画
関連項目
脚注
- *以下本稿では便宜上、銃砲をまとめて「銃」と呼ぶ。
- *「1-12」ならば12インチ(30.48cm)で一回転である。
- *「戦争の物理学」バリー・パーカー 藤原多伽夫訳 白揚社 2016 p.174-175
- *しかし、戦術思想自体がそれに合わせて変化を遂げるのにはまだ時間を要し、南北戦争および西南戦争などでは戦列陣を組みながらライフルと相対する悲劇が起こっている。
- *ライフリングのない戦車砲は「滑腔砲」と呼ばれる。ライフリングは無いが命中が悪い訳ではないし、現代の120mm戦車砲などにも用いられるなど断然現役であるし、ライフリングのある戦車砲が時代遅れという意味でもない。
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