概要
法人税は代表的な国税の一つで、平成27年度における税収は10.9兆円である。消費税17.1兆円、所得税の16.4兆円に続く貴重な国家財源である。
所得税と同じく所得を課税対象とするが、所得税が原則として個人に対する税金なのに対し、法人税は原則として法人に対する税金である。法人税は直接税、つまり税金を負担する者と税金を納める者が一致する税金である。
法人税の税率は原則として30%である。ただし、中小法人の800万円以下の所得など一部の場合には税率が18%又は22%に軽減されている。法人税に類似する地方公共団体の税金に住民税、事業税があり、これら3つの税金を合わせて考えると、実効税率は39.54%である。これは、世界の主要国の中でアメリカと並んで最も高いと言われている。
法人税の税収は所得税と共に特に景気の影響を受けやすい税金とされている。長引く不景気の影響で、平成20年度には所得が0又はマイナスである法人の割合が70%を超えた。つまり、法人税を納税している法人は全体の3割にも満たないということになる。この傾向は中小法人で特に顕著で、資本金1,000万円未満の法人に限定すれば24%程度にまで下がる。これは法人税の納税義務がない公共法人などを含めない数字なので、それらを含めると法人税を納税している法人の割合はさらに少なくなる。
法人税が下がれば賃金が上がると論じる識者もいるが全くの誤解である。日本の法人税は最終利益に掛かるものであり以下のように定義される。
総売上-売上原価=粗利(営業総利益)
粗利-営業費用=営業利益
営業利益+営業外損益=経常利益
経常利益+特別損益=税引き前利益(最終利益)
この最後の税引き前利益に掛かる税金が法人税である。人件費は営業費用に計上されるため無関係といえる。社会保険料も企業会計上は同じく人件費に計上される。法人税の変動によって変化があるのは役員報酬、株主配当、資本金組込への原資が主であり、強いて言うなら業績連動型のボーナスに影響があるかもしれない程度となる。
中小企業の場合、利益を費用としてそのまま全額役員、つまり社長らの報酬とすることも多く、その場合は最終利益が帳簿の上でゼロになるため法人税はかからなくなる。これも会社の7割が法人税を支払っていないと言われる理由の一つである。社長らは報酬から所得税を払う形で納税することとなるが法人税と比べた場合、課税額は大きく減額されることとなる。経費として認められないほどの巨額だった場合、脱税とみなされ追徴課税される。
人材解雇や工場閉鎖などの諸経費も7年間にわたって赤字経費として(会計上)分割計上することが出来るため、それを応用して税引き前利益をゼロにすることは企業会計上可能であり、赤字を出した大手上場企業が次の年に大幅黒字となっても法人税を納税していないことが現実として発生する理由となっている。
納税義務者と課税範囲
法人税では、人格のない社団等(後で説明する)を法人とみなしている。そして、法人を次の5つに分類して、課税範囲を決めている。なお、退職年金等積立金に対する法人税など特殊な法人税もあるがここでは説明から除外している。
- 公共法人
- 国、地方公共団体、国立大学法人など。法人税の納税義務はない。
- 公益法人等
- 学校法人、宗教法人、公益社団法人、公益財団法人、健康保険組合など。収益事業から生じる所得にのみ法人税が課税される。
- 協同組合等
- 農業協同組合、消費生活協同組合、信用金庫など。全ての所得に法人税が課税される。
- 人格のない社団等
- 法人でない社団又は財団で代表者の定めのあるもの。PTAや同窓会など。収益事業から生じる所得にのみ法人税が課税される。
- 普通法人
- 上記の4つ以外の法人。株式会社、合同会社など。ちょっと意外なところでは日本銀行も普通法人である。全ての所得に法人税が課税される。
課税標準
法人税では法人の各事業年度の所得の金額に税率をかけて税額が計算される。この各事業年度の所得の金額を課税標準という。一般に法人は事業年度が終わると会計学のルールに基づき決算を組み利益を確定しないといけないが、法人税の所得はこの利益を基礎として計算される。
企業会計では利益は収入から費用を引いて計算され、法人税では所得は益金から損金を引いて計算される。
利益=収入-費用 (企業会計の世界)
所得=益金-損金 (法人税の世界)
収入と益金、費用と損金は似たような概念であるが、その範囲に違いがある。利益からこの違いの分だけ調整することにより、所得を求める。これを税務調整という。税務調整には次の4種類がある。
- 益金算入
- 益金ではあるが、収入ではないもの。引当金の翌期益金算入など。
- 益金不算入
- 収入ではあるが、益金ではないもの。受取配当等など。
- 損金算入
- 損金ではあるが、費用ではないもの。繰越欠損金など
- 損金不算入
- 費用ではあるが、損金ではないもの。交際費等、寄附金など
益金=収入+益金算入-益金不算入
損金=費用+損金算入-損金不算入
これらをまめると、次のようになり所得が計算できる。
所得=益金-損金=収入-費用+益金算入-損金算入-益金不算入+損金不算入
=利益+(益金算入+損金不算入)-(損金算入+益金不算入)
益金算入と損金不算入を加算項目、損金算入と益金不算入を減算項目という。加算項目は所得の額を増やし、減算項目は所得の額を減らすから、同時に法人税の額も増やしたり減らしたりする。
地方法人税およびその他連動する税金
- 地方財政の不均衡緩和のための地方交付税の原資として、法人税額×10.3%の金額が地方法人税として課せられる。この地方法人税の申告は法人税申告書と一体になっているため、通常は意識しないが法人税とは別の国税なので納付書だけが二枚に別れている。一体の消費税及び地方消費税と違って面倒くさい。
- これとは別に、政策的な理由で時限的な特殊な法人税(みたいなもの)が作られたり廃止されたりしている。仕組みはどれも似ていて法人税額をもとに規定の税額をかけて算出する。
防衛増税のための付加税(名称未定、4%前後の付加税を近く創設予定。税制大綱で閣議決定済)
関連動画
関連項目
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