CVT(Continuously Variable Transmission,日本語訳:連続可変トランスミッション)とは、変速機のひとつである。
「無段変速機」とも訳される。
概要
CVTは、動力の伝達・変速比の変更を行う際、歯車による段階的な変速ではなく、連続的に変速する変速機のこと。
幾つかの方式があるが、金属製のベルトを幅の変わるプーリーで挟み込む、スチールベルト式が乗用車向けとして広く使われており、一般的にCVTと言えばこれを指す。
長所
- 構造が簡単で、軽量・低コスト。
- 低速域では従来のトルクコンバーター式ATよりは伝達効率が良い(トルコンAT→約80%、CVT→約85%)
- 変速比の選択肢が無限大。そのため、きちんとセッティングを行えばエンジン効率の一番おいしいゾーンでマシンを走らせることが可能。
- 変速ショックが皆無。
短所
- 摩擦によるトルク伝達のため、許容パワーが低い。そのため一昔は小排気量スクーターぐらいにしか採用実例がなかった。しかしながら、近年の技術向上により段々と許容パワーの向上が見られる。
- プーリーを押し付ける油圧ポンプを駆動させるために、エンジンのエネルギーを余計に消費する。CVT特有の短所であり、概ねエアコン1台分のエネルギーを消費すると言われている。特に、発進時にはベルトが滑るのを防ぐために強い圧力を掛ける必要があり、ベルトの摩擦ロスもバカにならない。
- プーリー自体が一種のフライホイールの役目を果たしてしまい、アクセル操作に対するエンジンレスポンスが悪化する。
- 高速巡航に弱く、伝達効率が高速域ではトルコン式ATよりも低い。(トルコンAT→90% CVT→75%)
- マニュアルトランスミッションやトルコン式ATと比べ歴史がうんと浅いため、耐久性や信頼性を重視する分野には不向き。そのため業務用車での採用は滅多に無かった。しかし、軽・普通貨物クラスでの採用例が徐々に広がっており、2014年にトヨタの商用車プロボックス・サクシードが全車CVTとなり、2018年にはホンダの軽商用車N-VANがCVT搭載となったため、状況は変わりつつある。
- これまでのトランスミッションと違う加速感を気持ち悪がるユーザーが多い。とは言え、近年のCVTしか乗ったことのないドライバーにとってはもはや当たり前の感覚とも言えるので、気にしない人が大半だろう。
ちなみに、大抵のCVTは逆転機能を持たないため、現在量販されているCVT自動車ではCVT変速機内部に後進用の逆転装置として遊星歯車機構を組み込むのが一般的である。
その他のCVT
チェーン式CVT
金属製のチェーンによって動力を伝達する方式。外見上はスチールベルト式とよく似ており、V字プーリーの開きを加減して変速する機構もスチールベルト式と同じ。曲げ自由度でスチールベルトに勝ることから伝達効率に優れ、また最小曲げ半径を小さくできることから大馬力の伝達をコンパクトな変速機で達成するのに向く。とはいえ、2019年現在量産されているCVT車の最高出力はスバル・レヴォーグの300馬力が関の山。また、騒音面ではスチールベルト式よりも不利、プーリー動力伝達面にかかる圧力が大きいことからプーリーの耐久性確保の為に熱処理等で製造コストが上昇する、といった弱点もある。
ゴムベルト式CVT
構造的には前記のスチールベルト式やチェーン式とよく似ている。ベルトがゴムのため、簡易ではあるが耐久性や伝達トルクでは劣る。遠心力を使った変速制御と組み合わせて、スクーターによく使われている。
トロイダル式CVT
トロフィー状にくびれた入力ディスク・出力ディスクの間にパワーローラーを設置し、このパワーローラーの角度を可変させて変速する方式。一時期は日産自動車から高級車向けCVTとして市販していたが、2023年現在は新車での採用事例は無い。開発したベアリングメーカー・日本精工はまだ諦めてないらしい。自動車用無段変速機以外では、航空機用のメインエンジン直結の発電機を一定回転に調整する変速機として採用される。
トヨタ・電気式無段変速機(THS、THS-II)
エンジン出力とモーター(発電機)の入出力を組み合わせて擬似的な変速(スプリットモード)を行う変わった変速機である。その複雑な動作を説明するにはここでは紙幅が足りなさすぎるため、理解したい方は専門書を是非読もう。
トヨタ・発進用ギア併用式無段変速機(ダイレクトシフトCVT)
2018年2月26日に発表された新型CVT。
上記短所のうち、2番目と3番目のものを解決するために、発進時のみギアを使用し一定速度以上はCVTとして機能する。発進時のロスが低減できて、プーリーも小型化されるためフライホイール効果も少なくなる。変速ショックが入るデメリットはあるが、発進直後の1回のみで済む。また、レシオカバレッジ(変速比幅)も高級多段AT並のものを確保でき、よりエンジンの巡行時回転数を下げて静粛性と高燃費を両立可能である。
2018年秋(日本国内では2019年1月)に発売されたレクサス・UX200(ガソリンエンジン仕様)に初搭載された。その後、2019年4月のRAV4(2000ccガソリンエンジン仕様)に搭載。さらに2020年2月のヤリス(1500ccガソリンエンジン仕様)に搭載されており、搭載車種が増えつつある。
ダイハツ・デュアルモード無段変速機(D-CVT)
2019年にダイハツ・タント(ターボモデル)に初搭載された新型CVT。
上記短所のうち、3番目と4番目のものを解決するために後進用の遊星歯車機構を転活用、高速時にはスプリットモードで動作するCVTとしたもの。CVT最大の弱点であった中高速域での伝達効率が大きく向上し、トルコン式ATに負けないレベルのものを実現。やはりレシオカバレッジの拡大でエンジンの巡航時回転数を下げて静粛性と高燃費をも両立できる。
メカニズム面での大きな特徴は、通常のベルトモードではCVT部分の変速比の上下がそのまま駆動系全体の変速比の上下になるのに、遊星歯車を稼動させたスプリットモードでは「CVT部分の変速比を下げるほど、駆動系全体の変速比は逆に上がる」という、一見するとかなり不思議な挙動を示す点。また、後進用の逆転にも同じ遊星歯車機構を用いる。機構マニアならば必見である。
上述のタントの他、ダイハツ・タフト(ターボモデル)やダイハツ・ロッキー(トヨタ・ライズ)に搭載されている。
HMT・油圧機械式無段変速機
HSTによる無段階伝達と歯車の変速を組み合わせて、スムーズさと伝達効率のいいとこ取りを狙った変速機。陸上自衛隊の10式戦車に搭載されている。
詳しくは → 油圧
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関連項目
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