トクマサ(Tokumasa)とは、1933年生まれの日本の競走馬。栗毛の牡馬。
人気薄からダービーを制し、引退後は朝鮮に渡った第5代ダービー馬。
主な勝ち鞍
1936年:東京優駿大競走、帝室御賞典(橫濱)
1937年:目黒記念(春)、中山記念(秋)
父*トウルヌソル、母*種正、母父Juniorという血統。
父は初代ダービー馬ワカタカ、最強牝馬クリフジなど6頭のダービー馬を輩出した戦前の大種牡馬。
母は競走名をYoung Man's Fancyといい、イギリスで14戦2勝。
母は1926年、父は1927年にそれぞれ下総御料牧場によって輸入され、下総御料牧場の競走馬生産の中核を担った。母の牝系子孫にはボストニアンやヒカルタカイ、バンブーメモリーやイナリワンなどがいる。
2歳上の全姉に1935年の帝室御賞典(阪神)勝ち馬キンチヤンがいる。
1933年3月20日、千葉の下総御料牧場で誕生。購買時の評価はそれほど高くなく、同牧場の持込馬の牝馬ピアスアロートマスの1/10以下の値段だったという。オーナーの山中清兵衛は株式仲買人をしていた人で、第1回日本ダービーの2着馬オオツカヤマなどを所有していた。
さて、東京競馬場・尾形景造(後の尾形藤吉)厩舎に預けられたトクマサだったが、この年のダービー戦線において彼は全く目立った存在ではなかった。岩佐宗五郎を鞍上に迎えた中山のデビュー戦は後にダービーで3番人気となるハツピーライトの3着……3頭立ての。そこから数日おきに出走を重ねるも3頭立て2着、4頭立て3着に終わり、2頭立ての4戦目でようやく初勝利を挙げる。しかしその翌週の優勝戦は5頭立ての4番人気3着。5戦1勝、全くどうということもない馬である。
そんな彼が迎えた東京優駿大競走。前日からの雨で「稍不良」という今では見ない馬場表記となった13頭立てのこの年は、小岩井農場の高額持込馬でデビュー戦を好時計で勝ったハプステツトが1番人気。血統的に道悪適性が期待されたマルヌマ、前述のハツピーライト、ピアスアロートマスと続き、この4頭の4強ムード。トクマサは離れた5番人気であった。単勝支持率は3.7%、現代のオッズに直すと21倍台といったところ。この戦績で? という感じもするが、ダービー1週間前から急激に本格化の気配を見せて穴人気していたらしい。
鞍上には新たに伊藤正四郎を迎え、伊藤騎手から馬場の悪さを聞いた尾形調教師は対策としてスパイク鉄(接地面に滑り止めの歯がある蹄鉄。歯鉄)を即座に取り寄せ、レース直前に装着させて臨んだ。
レースは大外枠の牝馬ピアスアロートマスがダッシュをつけてハナを奪い、マルヌマ、ハツピーライトらがそれを追う。トクマサはじっくりと中団後方に待機した。そのまま軽快に逃げたピアスアロートマスが、前年ガヴアナーで勝利した井川為男騎手とともに逃げ込みを図り、初の牝馬制覇へ向けて突き進む。しかしそこへ、外から猛然と追い込んできたのがトクマサだった。伊藤騎手の鞭が折れるほどの猛ゲキに応え、スパイク鉄で不良馬場を蹴立てて追い込んだトクマサは、最後の最後、ピアスアロートマスをアタマ差かわしきったところがゴールだった。
当時の馬券は1票20円だったのだが、トクマサの単勝配当は200円。……ん、安くね? 実は当時、どんな大穴が勝っても馬券の配当上限は200円と決まっていたのである。その代わり、余った金額を特配として外れ馬券にも配るルールになっており、このときは9円50銭の特配となったそうな。
尾形師は2年前のフレーモアに続いてダービー2勝目。伊藤騎手はその後、息子の伊藤正徳がラッキールーラで1977年の東京優駿を勝ち、史上初の親子2代ダービージョッキーとなった。
なお、スパイク鉄は翌年から「危険」として使用禁止になっている(現在は2mmまでに制限)。もちろんこのときは禁止されていなかった以上、トクマサの勝利に何らケチをつけるものではない。ダービーでスパイク鉄を使った人気薄が勝って特配が出た翌年に禁止ねえ……。
さて、トクマサはこのあとも現役を続けたのだが、何しろ時代が時代なので戦績以外の詳しいことはよくわからない。ダービーの次走で帝室御賞典(橫濱)を勝ったが、その後はしばらく勝ち星から見放される。しかし5歳となって復調し、5歳時は目黒記念(春)・中山記念(秋)をともに斤量67kgを背負って勝利するなど6勝を挙げたという記録が残っている。通算27戦9勝。
現役引退後は種牡馬入りしたのだが、その繋養先はなんとびっくり朝鮮。李王職蘭谷牧場というあちらの牧場に買い上げられ、「得正」という漢字表記で種牡馬入りした。当時の朝鮮は日本の植民地だったので、3頭の産駒が日本競馬会に登録され、トクノブという1941年産の牡馬が2勝を挙げたという記録が残る。
しかし時代はその後太平洋戦争へとなだれ込み、その混乱の中でトクマサは1943年を限りに消息不明となってしまった。
ちなみに何の因果か、前述のラッキールーラも引退後の晩年に韓国に寄贈されている。
下総御料牧場にトクマサの血は残らなかったが、伊藤騎手がダービーを勝ったときの折れた鞭は、牧場の宝として大切に保管されたという。
| *トウルヌソル 1922 鹿毛 |
Gainsborough 1915 鹿毛 |
Bayardo | Bay Ronald |
| Galicia | |||
| Rosedrop | St. Frusquin | ||
| Rosaline | |||
| Soliste 1910 黒鹿毛 |
Prince William | Bill of Portland | |
| La Vierge | |||
| Sees | Chesterfield | ||
| La Goulue | |||
| *種正 1920 鹿毛 FNo.5-h |
Junior 1909 黒鹿毛 |
Symington | Ayrshire |
| Siphonia | |||
| Scylla | Eager | ||
| Sirenia | |||
| Enthusiast's Last 1909 栗毛 |
Enthusiast | Sterling | |
| Cherry Duchess | |||
| Myrrha | Baliol | ||
| Hetty |
クロス:Enthusiast 5×3(15.63%)、Hampton 5×5×5(9.38%)、St. Simon 5×5×5(9.38%)
YouTubeには第5回東京優駿大競走の動画
があります。
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最終更新:2025/12/11(木) 23:00
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