ヨコヅナイワシ(横綱鰯、学名:Narcetes shonanmaruae)とは、セキトリイワシ科クログチイワシ属の大型の深海魚である。
| ヨコヅナイワシ | |
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| 目 | セキトリイワシ目 |
| 科 | セキトリイワシ科 |
| 学名 | Narcetes shonanmaruae |
| 英名 | Yokozuna slickhead |
2021年1月25日に海洋研究開発機構(JAMSTEC)の研究チームにより、駿河湾の水深2,000m以深で採取[1]された4匹の標本を元に、新種として記載された大型の深海魚。2020年と2021年の調査では駿河湾より南の海域でも生息が確認された。
最初の発表で用いられた標本の個体は全長122~138cm、体重14.8~24.9kgとこれでもかなり大きいサイズだったが、2021年10月14日には元禄海山南方の水深2,091mに設置された餌カゴ付きカメラで推定全長253cmの巨大な個体が撮影されている。
濃紫色の体色をしており、巨体に対して頭は小さめだが、口は大きく開く。大きな牙があるわけではないが、サイズと相まってなかなか恐ろしい印象である。口の中には小さな鋭い歯が多数生える。セキトリイワシの仲間(後述)の特徴として、ハゲ頭に鱗はなく、背鰭と臀鰭が体の後方に位置している。鱗は剝がれやすい。撮影された映像からは藍色の眼をしていることが分かり、また巨体故に多くの寄生虫が付着していた。
実は、水深2,000m以深から見つかり全長2mに達する硬骨魚類は、世界でもヨコヅナイワシを含め7種しか知られておらず、更に深海で常に活動している種はヨコヅナイワシの他にムネダラ[2]しか知られていない(2022年7月時点)[3]。ヨコヅナイワシはムネダラよりも大きいことが分かっており、2022年9月現在水深2,000mクラスでは世界最大の硬骨魚類である。また胃の内容物やDNA解析、撮影された映像からヨコヅナイワシはセキトリイワシの仲間には珍しく強靭な体を持ち、魚食性と考えられ、その栄養段階も極めて高いことが示されている。どうやら海底付近で活発に活動し、その大きな口で他の魚を捕食しているらしい。死んだ動物の腐肉も食べるらしく、巨体の維持に役立っているようだ。
以上のことからヨコヅナイワシは深海の頂点捕食者で、個体数は少ないものと推測されている。この水深における硬骨魚類のトップ・プレデターというのは、今まで知られていなかった生態的地位の生き物であり、生態系において重要な役割を担っている可能性が高く、深海の生態系を理解するためにも更なる調査・研究が必要とされる。ちなみに駿河湾のデカい捕食者と言えばカグラザメやミツクリザメ、ラブカといった錚々たる面子の深海ザメが挙げられ、それらと肩を並べる存在と言っても過言ではない(生息している水深は様々だが)。
実は新種記載に先立って2017年の国立科学博物館の特別展「深海2017~最深研究でせまる”生命”と”地球”~」[4]で「セキトリイワシ科の不明種[5]」として標本が展示され、注目を集めていた。その為、深海生物マニアであれば新種記載時のニュースを見た際に「あいつか」と思った人も少なくないと思われる。
2021年2月の時点で、標本は東海大学海洋科学博物館が所有する5体のみ[6]。ヨコヅナイワシが新種として記載された際にも一般展示された。採取されたのは雌のみであり、雄はまだ見つかっていないため謎に包まれている。
なおニコニコとYouTubeでは、JAMSTECの研究者が貴重な標本を使ってヨコヅナイワシを解説する生放送が実施されている(関連生放送を参照)。興味があればぜひタイムシフトで見ることをお勧めする。
どこがイワシなんだと言わんばかりの見た目だが、イワシとは遠縁で「セキトリイワシ」という多くが深海1,000m以深に生息する深海魚の仲間。深海魚にはちょくちょくいるイワシの名前だけを借りた魚である。食性は様々だがクラゲなどゼラチン食の種が多い。太陽光が全く届かないと言っていい深さの住人だが、眼が発達している種が大半。眼は構造も特殊化していおり、他の生物の僅かな発光を感知する能力が高いと言われている。
既知のセキトリイワシの仲間の平均的な大きさが30~40cmであり[7]、1mを超えるような種は2種しか知られていなかったのに対して、ヨコヅナイワシはそれより遥かに大きくセキトリイワシ科の最大種になるため、「関取」の番付でも最高位である「横綱」の和名が付けられた。セキトリイワシ自体がなぜこのような名前なのかは記事の初版作成者が調べた限りでは謎である。同じ横綱の名を冠する魚にはダンゴウオの仲間のヨコヅナダンゴウオ[8]がいる。
学名(種小名)のshonanmaruaeはヨコヅナイワシを採集した神奈川県立海洋科学高等学校所属の実習船「湘南丸」に因む。
セキトリイワシの仲間は従来はニギスやデメニギス等と同じニギス目に分類されていたが、2022年9月現在は分子系統学的な解析によりニギス目とは遠縁のセキトリイワシ目[9][10]に分類されている。
(ヨコヅナイワシの記載論文)


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最終更新:2025/12/18(木) 13:00
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