起動加速度とは、鉄道車両が速度0から発車する時の加速度である。
この項では、電車の加速特性についても説明する。
鉄道車両において、加速性能を示すデータの一つである。単位には1秒間に増加する速度キロメートル毎時の値である「キロメートル毎時毎秒(km/h/s)」や、1秒間に増加する速度メートル毎秒の値である「メートル毎秒毎秒(m/s2)」が用いられる。
列車が定加速度運動で加速する場合、列車の速度は発車からの時間で求められる。
しかし実際には、列車に無視できない走行抵抗が発生するうえ、速度が一定以上に達すると加速力が鈍り始めるため、求められるのは近似値である。
起動加速度を高く設定すれば、短い時間で速度を上げることができる。一方で高速では加速が頭打ちになったり、列車の出力を上げるコストがかかるため、鉄道会社は運行路線の実情を踏まえて車両の性能を決定している。
実際の電車はどのような加速度で動いているのか、抵抗制御・直流直巻モーター車を例に簡単に説明する。
右図は国鉄がやたらたくさん製造した、103系電車の加速特性のグラフである。この図では横軸に速度、縦軸に速度に対する加速力を取っている。
速度0km/hから33km/hまでは、加速度は緩い右下がりを描いている。この領域ではモーターの電流を抵抗によって制御することで定加速力を維持しており、定加速度領域と言う。
定加速度なのに下がっていくのは、速度が上がるにつれて増える走行抵抗の分を差し引いているためである。
33km/hから値が下がり、58km/hまでの太線の領域を定出力領域と言う。このとき列車の出力は一定に保たれるため、加速度は速度に反比例して下がっていく。
58km/h以上では定出力が難しくなることから、モーターの特性に任せて加速をする。これを特性領域と言い、加速力は速度の2乗に反比例して下がる。
最終的には列車の加速力と走行抵抗がつり合い、加速が止まる。しかし運行の際には余力を残した最高速度を車種ごとに設定しているため、つり合いの状態はなかなか起きない。
上の例で示した103系では、100km/h以上の速度を出そうとしても加速力が残っていない。モーターと車輪とのギアチェンジが不可能な電車では、起動加速度を犠牲にすることで高速での加速力を得ることになる。
定加速度領域が終わるとき(上図103系では33km/h)、モーターは定められている最高出力に達する。その次の定出力領域でも最高出力は維持され、特性領域になると逆起電力により出力は落ちていく。モーターが最高出力で運転できる速度を定格速度と言う。
一般に定出力領域にあたる速度を定格速度とする。しかし定加速度領域からいきなり特性領域に移る車両もあり、その時の速度をこの場合の定格速度とする。
モーターと車輪のギア比(回転数の差)が大きいと、モーターが最高出力に達したときの列車の速度は低い。同じモーターでもギア比を小さくすると、列車が高い速度になってから最高出力に達する。高速運転をする車両ではこのような方法で高速域での加速力を確保している。
以下に車両の目的ごとに性能が異なる例を示す。なぜ古い車両だけなのかは後述。
通勤電車が走る路線では総じて駅間の距離が短く、短時間のうちに速度を上げることが時間短縮や列車増発の点で重要である。そのため起動加速度は2.0km/h/sと高く設定しているが、定格速度は低く80km/h以上では既に息切れしかけている。
山手線を代表とする通勤路線では駅間の最高速度が高くても80km/h程度であるため、特性を発揮した運転ができる。本来は投入すべきではない、近郊型電車向けの常磐線快速電車や山陽本線中国地区に投入された例があるが、そちらにおいても中速域までの加速力が高いことを生かして高速域での加速力不足を補えるためダイヤ上では近郊型電車と遜色ない走行が可能である。(大和路線や奈良線の快速運用はだいぶ厳しそうだったが)
定格速度:49~74km/h
最高速度:100km/h(改造車は110km/h)
近郊型電車とは、100km程度の都市間輸送を目的として作られた電車のこと。始発から終点まで2~3時間、駅間が数kmの路線で各駅に止まっていく、といった運用である。
高速性能を持ちつつ起動加速度も確保した中性的な加速曲線を持つ。最高速度100km/hまで安定した加速力を保ち、103系と比べて同じ最高速度100km/hでも余裕のある走行が可能。
早急に置き換えが進められている103系に対して、接客設備の都合や勾配区間に強いこともあって、115系はまだ地方の第一線で活躍している。また、走行性能の余裕を買われて、一部編成はブレーキ性能を強化したうえで最高速度を110km/hに向上させている。
通過駅の多い特急は、速度0から発車する回数が鈍行に比べて少ないため、起動加速度はあまり重要ではない。むしろ日本の幹線鉄道に点在する80km/h程度の速度制限において、区間を抜けたあと、いかに早く最高速度まで再加速するかが所要時間を握っている。
485系の加速曲線は最もなだらかに描かれており、最高速度まで不安無く加速することができよう。
同車を使用する特急はつかり号や特急雷鳥号では、青函トンネル内や湖西線内の特例により140km/hや130km/h運転が行われていた。(但し青函トンネルの140km/hは下り坂の時のみで上りは110km/hまで下がっていたという話が鉄道ジャーナルの2007年4月号「東京への道」に記載されている。また湖西線内でも第二パンタを上げない場合は120km/hの制限が掛かっていたそうだ)撤退によりもう見られなくなったが、余力を発揮したエピソードとして記憶しておきたい。
103系と115系は共に特別料金不要な客室であるため、一部路線では共通の任に就いていたことがある。しかし両者が同時に性能を発揮できるような速度域が限られていることはこの図からも読み取れるだろう。ちなみにそのような場合はたいてい103系が無理をさせられている。
これら3車種は直流モーターを搭載しているため、高速かつ高出力での運転は故障を起こしやすい。そのため103系の最高速度が100km/hだからといって、常時100km/hまで加速するような運転を続けるのは良くないのである。(大和路線や奈良線の快速系運用で100km/hまではいかないが90km/h以上を維持する様な状態になるのを何度か見かけた。)そのようなダイヤの路線は間違いなく駅間距離が長いので、素直に115系を使いましょう。
VVVF制御車では、容易かつ自在なソフトウェアと、耐久性が高い交流モーターの採用により、これまでの直流直巻モーター車とは全く異なる加速特性が実現可能になった。しかし従来車との共存の際に、運転士の混乱や連結時の過負荷・衝動を回避するため、敢えて類似する加速特性を設定するVVVF車も多い。
VVVF制御車は空転がしづらい、モーターが高速回転に耐えるといった利点がある。これらを利用し、起動加速度を大きなギヤ比で高め、直流直巻では不可能なモーターの高速回転で定格速度を上げるといった芸当が可能である。よって通勤型向けギヤ比そのままの近郊型電車や、103系と互角の起動加速度を持つ特急型電車が作れてしまい、形式それぞれの性能における性格の差が薄れつつある。(ちなみに阪神ジェットカーでおなじみの阪神5500系・阪神5550系・阪神5700系は阪神5001形の起動加速度4.5km/h/sに対し4.0km/h/sになっている。これは既に加速力が十分に高性能でありこれ以上加速度を上げると乗客が転倒してしまう恐れがあること、中高速域(30km/h以上)では阪神5500系列の方が加速力が高くトータルではそちらのほうが速いという事も関係している。5550系・5700系では出力が上がった分モーター車を減らし阪神5001形の4M0Tの全電動車に対しトレーラー車を1両分含む実質3M1TのMT比になっている)
定格速度:42~72km/h(推定)
最高速度:120km/h
E231系はJR東日本が通勤路線と近郊路線の両方に投入できるよう設計した。通勤タイプと近郊タイプで仕様が若干異なり、これは後者の加速特性である。
本来VVVF車は定加速度領域をさらに広く取って定出力領域をごく短くしてしまうことも可能であるが、E231系では直流直巻モーター車に類似した加速曲線を描いている。これは高速域で加速力が強すぎると空転の恐れが高まることや、運転士が従来車と同様の運転方法ができるような配慮が理由として考えられる。
定格速度は115系に近い値であると推定されるが、起動加速度の高さにより特性領域の加速力は485系にも並ぶ。
起動加速度、特性領域共に置き換え相手である103系・115系をカバーしている。E231系通勤タイプではさらに起動加速度が高められているので、置き換えが完了した路線は時間短縮や駅間での運転速度低下、惰性走行時間増加による省エネ運転などのサービス向上が進んだことだろう。
しかし一方では、無駄な性能を持つ車両を無差別に各線区へ投入しているとの見方もできる。しかし現在のところ、大量に同形式の電車を保有することによるスケールメリットの方が遥かに大きいことから、通勤型・近郊型の共通設計車は今後も続くものと思われる。(将来の転属時に融通も効くし)
鉄道車両のモーターには形式ごとに定格出力が定められており、定出力領域(定格速度)ではこの出力内で運転される。直流直巻モーターはおおむね1時間定格内で運転されているが、VVVF制御車が採用する交流モーターは瞬間的に一般に知られている1時間定格を遥かに超える出力で運転されており、VVVF制御車の1時間定格の値は編成出力等の参考になり得ない。
ここでは、列車の加速度、定格速度、編成重量といった比較的入手しやすい値を元に、実際のモーターの定格出力を簡単に求めてみる。ここで求まるのは走行抵抗を無視する(編集者が知らない)ため、近似値となる。
以下より式を求める
出力p[W]は、単位時間あたりの仕事の量であるから
p = W[J] / t[s] = F[N] * s[m] / t
s/tは速度v[m/s]であるから
p = F * v
また、F[N]=m[kg]*a[m/s^2]より
p = m * a * v
ここで、編成重量をM[t], 定格速度をV[km/h], 定格速度での加速度をA[km/h/s]と置くと
p = (M *1000) * (A * 1000 / (60 * 60)) * (V * 1000 / (60 * 60))
以上より、空車時の編成定格出力P[kW]は以下のように求まる
P[kW] = M[t] * A[km/h/s] * V[km/h] * 7.716 * 10^-2
また、電動車両数をNM[両]とすると、空車時のモーター定格出力P'[kW]は
P'[kW] = (M * A * V * 7.72 * 10^-2) / (NM * 4)
= M[t] * A[km/h/s] * V[km/h] / NM[両] * 1.929 * 10^-2
以上。定員乗車時の値は、編成重量Mに乗車人数*0.06を加えれば求められる。
掲示板
13 ななしのよっしん
2015/12/12(土) 15:55:42 ID: J6Wex0WC8j
直巻直流電動機の場合、電流Iと加速度(トルクT)の関係はT ∝ I^2なので、
定格速度以降は、速度Vを用いて T ∝ 1/Vと表せるから、電動機によらず相似な特性になるかと。
むしろ、限流値と定格速度によって定格速度からの電流落ち込みが決まっている。
14 ななしのよっしん
2016/11/21(月) 23:19:18 ID: yhQWrFKZHH
225の定格出力計算してみたら188kWしか喰ってなくてワロタ
15 ななしのよっしん
2020/09/07(月) 20:17:21 ID: MjodQn3U3j
むしろ既存の抵抗制御車に合わせるが為に、
通勤型電車にも関わらず起動加速度2.0km/h/sのまま70km/hまで引っ張る
まるで特急型電車みたいな奴[3R]を各駅停車に入れてしまう
名鉄っていう会社があってだな
急上昇ワード改
最終更新:2024/09/07(土) 20:00
最終更新:2024/09/07(土) 20:00
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