Futura(フトゥーラ)とは、ラテン語で「未来」を表す語であり、それに由来したジオメトリック・サンセリフに分類される欧文書体である。読み方はフトゥーラ、フツーラ、フツラなどがベターだが、なぜか日本ではフーツラという読みで広まっている[1]。。
タイポグラファーのパウル・レナーによって1924年から製作され、1927年にリリースされると以降現代に至るまで幅広いシーンに用いられるベストセラー書体の一つとなった。1922年に発表されたヤコブ・エアバーによる書体の影響を受けている。
About ”Futura”
―― われわれの時代の書体
パウル・レナーによって設計されたFuturaは、古代ローマの書体スタイル(オールド・ローマン)に見られるような骨格や文字幅の揺らぎなどのクラシカルなプロポーションを持ちながら、ジオメトリック・サンセリフ(幾何学的で無装飾)との分類が示すように、円、三角形、四角形といった図形にとても近い線によってのみ構成される鋭利でモダンな造形をしており、新鮮なタイポグラフィ体験をもたらした。
図形のように見える多くの文字は、視覚的に幾何学的であるように細部の調整を行っており、例えば正円に見える「O」や「e」なども僅かに卵型の楕円となっていたりする。また、細いウェイトにおける「V」「A」などの角は鋭利に尖っているが、一定の太さを持つと角が取れたりする。
造形は「装飾を廃した機能的な設計」といったドイツの芸術学校バウハウスの思想と、同思想に基づいたヤコブ・エアバーによる1922年発表の書体「Erbar-Grotesk」にインスパイアされたものであったが、これは大成功をおさめ、活字としてリリースされると多くの紙面に用いられた。また、ジオメトリック・サンセリフの書体が多くリリースされるきっかけともなった。ニコニコ大百科で英字部分に指定されている書体「Avenir」もFuturaに影響されたジオメトリック・サンセリフの一つである。
19世紀初頭当時、ドイツでは”Fraktur(フラクトゥール)”という伝統的なブラックレター書体が主流に用いられていたが、1922年、ヤコブ・エアバーはデザイン学校「バウハウス」の思想に基づき、世界初のジオメトリック・サンセリフといわれる”Erbar”を発表していた。
ドイツの画家・タイポグラファーであったレナーはフラクトゥールを「古臭い」と否定的に批評していたが、「何か芸術的に開放された書体を」という出版従事者ヤコブ・レグナーの依頼の元、ドイツ・フランクフルトの宅地造成プロジェクト「New Frankfurt」の制定書体として新しいジオメトリック・サンセリフ書体の設計を1924年より開始した。スケッチ試案の段階で「die Schrift unserer Zeit」(われわれの時代の書体)という文言を使っており、その方向性は一貫していた。
1925年ごろにはNew Frankfurtの複数のサインに用いられ始め、活字としてはドイツのタイプファウンドリーBauerから1927年に発表された。その後も何度か改訂やファミリーの拡充が行われている。
本文にも見出しにも映える汎用性・可読性と個性を兼ね備えたFuturaは、サインデザインや紙面の本文などに使用され多くの国で人気となったが、ドイツ国内では、ナチス・ドイツの影響が強まったことでプロパガンダのために一時フラクトゥール以外の書体が禁じられた。レナーは反ナチスの立場で、体制批判の書籍を出版したことでレナー自身も厳しく罰せられた。この書体規制は1941年に解けるまで続いた。なお、この歴史的経緯から誤解されたのか何故か、日本では「ナチス・ドイツを連想させるため注意が必要」との言説が流布されたことがあるが、無根であり、現代のドイツでも問題なく使用されている。
その高い完成度はリリースから約100年が経った現代でも通用し、多くの場面に用いられ続けている。例えばドルチェ&ガッバーナやルイ・ヴィトンとかドミノ・ピザ、シュプリーム、フォルクスワーゲン、Hulu、2010年までのイケアの制定書体などに使用されている。テレビゲームなどでも人気であったり、映画ではスタンリー・キューブリックやウェス・アンダーソンなどの監督がFutura愛用者として有名である。
輸送業界ではその可読性が認められ計器類に使用された。ベンツやボーイングなどが有名なユーザーである。アメリカのNASAでも重用され、アポロ計画ではほぼ全面に用いられた。遂にはアポロ11号に搭載の盾章に刻まれ、Futuraは「地球で初めて月面に着陸した書体」となったのである。
デジタル化などでは、歴史上さまざまなタイプファウンドリーからライセンスされた覆刻書体がリリースされており、微妙な造形や仕様の差異が生じている。近年ではMonotypeが2020年に発表した大規模な改刻書体「Futura Now」が知られる。
当初、Futuraとしてレナーによってデザインされていたのは次のウェイトである。
のち、エドウィン・シャーによってExtra Boldなどのウェイトも追加された。
MonotypeのFutura Nowではバリアブルフォント化も行われ、細かい太さの調整を可能とした。
通常のFuturaから逸脱し、ステンシル風に大胆に処理がなされた極太書体。
Futuraにおいて図形の要素が線のフォルムにとどまっていたのに対して、完全に塗りつぶされた円、半円、三角形、四角形のみによって形作られている。
Futuraファミリーを元に、横幅を凝縮したコンデンス書体。
当初はDemiのみが用意され、1936年に他ウェイトへの拡充が行われた。Lightのみ、1950年のリリースである。
Futura Blackが丸など図形的な造形をしていたのに対し、文字の全体が縦の長方形に収まるよう設計された書体。
最近では「僕のヒーローアカデミア」のロゴの英語部分などに用いられている例が知られる。
グロテスク・サンセリフに近い造形の書体。mager(ライト)、halbfett(中)、fett(太)、kursiv halbfett(中イタリック)、kursiv fett(太イタリック)がリリースされた。
Futura Displayに類似する部分があるが、Steile Futuraではファミリー展開をしている以外にも、全体的により緩やかな曲線を帯びている点などに違いがある。
通常のFuturaの線の更に内側に線が入った書体。
Futura Extra Blackを手がけたエドウィン・シャーによる作で、レナーは関わっていない。現代的なサンセリフの線質を持った筆記体という意味で「Futura」の号が冠されているものと思われる。
2020年にMonotypeが発表した、Futuraの改刻書体「Futura Now」ファミリーの中にはこのScriptも含まれている。
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最終更新:2024/11/07(木) 22:00
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