新潮ミステリー大賞とは、新潮社が主催する長編ミステリー小説の公募新人賞。
新潮社の長編ミステリー系の新人賞は前身として「日本推理サスペンス大賞」(1988年~1994年、全7回)、「新潮ミステリー倶楽部賞」(1996年~2000年、全5回)、幻冬舎と共同で開催した「ホラーサスペンス大賞」(2000年~2005年、全6回)があり、それぞれ別の賞だが、実質的には各賞がそれぞれ前の賞の後継として作られているので、「日本推理サスペンス大賞」時代から本記事にまとめて記述する。
概要
日本推理サスペンス大賞
1988年設立。主催は日本テレビで、新潮社は協力という立場。江戸川乱歩賞(講談社)、横溝正史賞(角川書店)、サントリーミステリー大賞(文藝春秋)に次ぐ第4の長編ミステリー新人賞であった。大賞賞金1000万円。
この賞はなんといっても第1回から第3回の異様な高打率が伝説となっている。第1回は大賞こそ出なかったものの乃南アサが『幸福な朝食』で優秀作を受賞しデビュー。第2回は宮部みゆきが『魔術はささやく』で大賞を受賞、落選した最終候補には高村薫『リヴィエラを撃て』が居たという恐るべき回である。その高村薫は第3回で『黄金を抱いて翔べ』で大賞を受賞。3回連続で後の直木賞作家、3人とも押しも押されぬ大人気作家となり、第3回佳作には帚木蓬生(『賞の柩』)までいるという、打率10割の恐るべき新人賞であった。
しかし第4回からはあまりパッとせず、第6回に天童荒太が『孤独の歌声』で優秀賞を獲っているものの、第4回以降は大賞も1作しか出ないまま、1994年の第7回限りで日本テレビが降りてしまい終了となった。
しかし新潮社としてはミステリーの新人賞は続けたかったようで、後継として新潮ミステリー倶楽部賞が作られることになる。
新潮ミステリー倶楽部賞
1996年設立。新潮社が主催となり、当時ブイブイ言わせていた自前の書き下ろし新作ミステリー叢書「新潮ミステリー倶楽部」の名を冠した新人賞として設立された。その名の通り、受賞作は新潮ミステリー倶楽部から刊行された。大賞賞金は引き続き1000万円。また、なぜか日本航空がスポンサーについており、副賞としてJALの国際線往復ビジネスクラス航空券がもらえた。
叢書「新潮ミステリー倶楽部」は1988年に創刊、当時のノベルスブームで多作な作家がミステリーを濫作する状況に待ったをかけ、実力ある作家に腰を据えてじっくり書き下ろしの力作を書いてもらう叢書としてスタート。その目論見は大当たりし、この賞が設立された1996年頃までは次から次へと話題作を送り出していた。刊行リストを見てもらえれば、90年代前半までのラインナップの凄さは理解していただけるだろう。
そんな強力なブランドの新人賞ということもあり、第3回で戸梶圭太、第4回で雫井脩介、そして第5回で伊坂幸太郎とこれまた打率の高い新人賞として鳴らした。ところが、肝心の「新潮ミステリー倶楽部」が、ちょうどこの賞が出来たあたりから勢いを失ってしまう。80年代のノベルスブームが落ち着き、京極夏彦の登場などで大作・大長編ブームが到来したため、この叢書の強みが失われてしまったのである。
結局、このまま続けても先がないということになり、2000年の第5回限りで終了。新潮ミステリー倶楽部も2002年限りで刊行を終了した。
ホラーサスペンス大賞
2000年設立。この賞は新潮社と幻冬舎の共同主催。テレビ朝日が後援についた。大賞賞金はこの賞も引き続き1000万円。特別賞は300万円。通称「ホラサス」。
新潮ミステリー倶楽部賞を終了させた新潮社が、角川ホラー文庫と日本ホラー小説大賞が巻き起こしたホラー小説ブームに目をつけ、幻冬舎と手を組んで設立した、その名の通りホラーとサスペンスを対象とする新人賞である。奇数回の大賞受賞作は新潮社から、偶数回の大賞受賞作は幻冬舎から刊行。大賞とは別に特別賞が常設され、特別賞はその逆(奇数回は幻冬舎、偶数回は新潮社から刊行)。
ふつう小説の公募新人賞は出版社が単独で主催するもので、複数の出版社が共同で主催する新人賞は異例だった。なぜ社風の全然違う幻冬舎と組んだのかは不明だが、前述の2賞の後継という意味が強いためか、新潮社の新人賞と見なされることが多い。
第2回では五十嵐貴久が大賞、第4回では誉田哲也が特別賞、第5回では沼田まほかるが大賞、道尾秀介が特別賞と相変わらず打率は高かったが、既にホラーブームが一段落してしまったこともあってか、受賞作が即大ヒットとはいかなかった。結局共同主催の幻冬舎の方が降りてしまったようで、2005年限りであっさり終了してしまう。
ここからしばらく、新潮社のミステリー新人賞は空白期間が続く。ホラサスと入れ替わりで2005年からジャンル不問の新人賞「新潮エンターテインメント大賞」が始まったが、全くと言っていいほどヒット作や人気作家が出ず、2012年の第8回限りで終了した。
新潮ミステリー大賞
新潮エンターテインメント大賞が失敗して「やっぱりミステリーだよね」ということになった……のかどうかは不明だが、2014年、ホラーサスペンス大賞の終了から9年ぶりに新潮社のミステリー新人賞が復活。大賞賞金は時世を反映してか300万円。選考委員には貴志祐介のほか、新潮ミステリー倶楽部賞出身の伊坂幸太郎と、ホラサス出身の道尾秀介が顔を並べた。また、東映が後援についている。
前述の通り新潮社のミステリー新人賞はどれも短命に終わっているが、本賞は第8回を突破して歴代最長記録を更新中。第7回までは、伊坂幸太郎が選考委員に入っていたためか、あんまり普通じゃない奇想系のミステリーが受賞しやすいのが特徴だった。第8回から伊坂幸太郎が外れて湊かなえが選考委員に入ったため、この傾向は変わるかもしれない。
大百科に記事のある受賞作家
日本推理サスペンス大賞
新潮ミステリー倶楽部賞
ホラーサスペンス大賞
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