ノベルス(またはノベルズ)とは、出版形式のひとつで、新書判で刊行される小説のことを指す。
概要
ノベルズ判とも称される。岩波新書などの教養書中心の「新書」とは明確に区別され、書店でも違う棚に置かれる。1冊の値段はだいたい800円~900円台(分厚くなると1500円とかにもなるが)で、文庫よりやや高いが、単行本よりは安い。内容は書き下ろしが多いが、他の判型からのノベルス化もある。背が高く横幅が狭い新書判サイズということもあり、二段組みの本が多い(一段組みの作品もある)。
推理小説を中心に、伝奇小説、アクション小説、SF、架空戦記、ファンタジーなど、娯楽性を重視したエンターテインメント小説をハードカバー単行本よりも手頃な価格と手軽なサイズで提供する判型として、書店のみならず駅のキヨスクなどにも多数並べられるなど、特に80年代から00年代前半にかけて隆盛を誇った。
「出張するサラリーマンが新幹線の2時間で読み捨てる小説」みたいに言われることも多いが(実際にその需要は非常に大きかった)、その手頃さからハードカバーに手が出ない若年層にも人気が高く、00年代には読者層がライトノベルとかなり重なるようになり、ライトノベル系のノベルス(ソノラマノベルス、トクマノベルズEdgeなど)が増えたこともあった。他に官能小説や美少女ゲームのノベライズが中心のレーベル(二次元ドリームノベルズ、パラダイムノベルスなど)や、女性向けのBL小説やロマンス小説のレーベルもある。
なお、角川つばさ文庫や講談社青い鳥文庫など、児童書は「文庫」とついていても実際の判型は新書判というものが多いが、これらは普通はノベルスには含まれない。また、週刊少年ジャンプ作品のノベライズを中心にしたJUMP j BOOKS(集英社)も新書判だが、書店で漫画の棚に置いてあることもあり、ノベルスというくくりでは語られにくい。早川書房のハヤカワ・ポケット・ミステリおよびハヤカワ・SF・シリーズも新書判だが、これも翻訳レーベルのためか装幀が凝っているためか、通常はノベルスというくくりにはあまり入らない。
歴史
1954年に創刊された教養新書のカッパ・ブックスが大成功していた光文社が、派生レーベルとして1959年にカッパ・ノベルスを創刊。創刊タイトルは松本清張『ゼロの焦点』と南條範夫『からみあい』の2冊だった。それ以前にも講談社のロマンブックスのように新書判のサイズで刊行される小説自体は存在したが、このカッパ・ノベルスが松本清張『砂の器』や小松左京『日本沈没』などベストセラーを連発し、大衆小説の世界に大きな存在感を示すことになる。
1970年代にはトクマノベルズ(徳間書店)、ジョイ・ノベルス(実業之日本社)、ノン・ノベル(祥伝社)、フタバノベルス(双葉社)、80年代には講談社ノベルス(講談社)、カドカワノベルズ(角川書店)、C★NOVELS(中央公論社)などが参入。特に80年代は「ノベルズ戦争」と呼ばれるほどの活況を呈し、90年代には架空戦記ブームも到来して各社とも競うように大量のノベルスを刊行した。
直木賞などの文学賞からは無視されがちだったが、西村京太郎、内田康夫、山村美紗などのトラベルミステリー作家をはじめ、赤川次郎、大沢在昌、田中芳樹、菊地秀行、夢枕獏など、ノベルスを中心に活躍してエンターテインメント界の巨人となった作家は多い。80年代後半から90年代にかけては講談社ノベルスが《新本格》ムーヴメントを牽引して、綾辻行人、京極夏彦、森博嗣などが活躍し、後進に大きな影響を与えた。
しかし21世紀に入ると、それまでノベルスの需要の結構な割合を占めていた「新幹線で出張するサラリーマンの移動中の暇潰し」が携帯電話など他のメディアに奪われるようになる。00年代前半は西尾維新の登場などでまだ存在感があったが、ノベルスの主力ジャンルであったトラベルミステリーや架空戦記のブームも終息していき、出版不況もあって、徐々に単価の高い四六判か、より安い文庫書き下ろしへの移行が進んでいき、その中間にあったノベルスは存在意義を失っていく。
2010年代に入ると、ほとんどの出版社のノベルスがほぼ生産終了に近い状態になり、現在も刊行が続いているノベルスも、西村京太郎、赤川次郎、梓林太郎、菊地秀行、田中芳樹、茅田砂胡といった一部のノベルス中心の人気作家以外の新作はほとんど出ないという状況にある。架空戦記系ではC★NOVELSとヴィクトリーノベルスが継続的な刊行を続けているが、ミステリーが中心だったノベルスは壊滅状態で、ほぼ従来のノベルスは判型としての役割を終えたと言っていい。そもそも文庫の値段が高くなりすぎて従来のノベルスの値段と変わらなくなってるし。新書判の小説レーベルでは、集英社のJUMP j BOOKSは現在も好調を維持しているが、一般にノベルスと見なされていないのは前述の通り。
その一方、2010年代後半あたりから、Mノベルス(双葉社)、オーバーラップノベルス(オーバーラップ)、レジェンドノベルス(講談社)、ドラゴンノベルス(KADOKAWA)など、ネット小説からの書籍化を四六判ソフトカバー単行本として刊行するレーベルが「ノベルス」の名前を使用するようになっている。この状況が長く定着するようならば、今後は「ノベルス」という語が指すものはこちらになっていくだろう。
主なノベルスレーベル
創刊順。太字は2023年現在、継続刊行中と推定されるレーベル。
一般向け(ライトノベル寄りのものも含む)
- ロマン・ブックス (講談社、1955年-1980年)
- カッパ・ノベルス (光文社、1959年-)
- 廣済堂ブルーブックス (廣済堂出版、1973年-2011年)
- フタバノベルス (双葉社、1973年-)
- ノン・ノベル (祥伝社、1973年-)
- トクマノベルズ (徳間書店、1974年-)
- ジョイ・ノベルス (実業之日本社、1975年-)
- カドカワノベルズ (角川書店、1981年-1997年)
- 講談社ノベルス (講談社、1982年-)
- C★NOVELS (中央公論新社、1982年-)
- ケイブンシャノベルス (勁文社、1985年-2002年)
- 天山ノベルス (天山出版、1988年-1992年)
- ソノラマノベルス (朝日ソノラマ→朝日新聞出版、1990年-)
- HITEN NOVELS (飛天出版、1993年-1999年)
- JUMP j BOOKS (集英社、1993年-)
- C★NOVELSファンタジア(中央公論新社、1993年-)
- コスモノベルス (コスミック出版、1993年-2013年)
- 歴史群像新書 (学習研究社、1993年-2014年)
- 幻冬舎ノベルス (幻冬舎、1997年-2016年)
- ハルキ・ノベルス (角川春樹事務所、1997年-2010年)
- RYU NOVELS (経済界、2000年-2020年)
- トクマノベルズEdge (徳間書店、2005年-2012年)
- 朝日ノベルズ (朝日新聞出版、2008年-2016年)
- 幻狼ファンタジアノベルス (幻冬舎コミックス、2008年-2012年)
- ヴィクトリーノベルス (電波社、2015年-)
官能系・美少女ゲームノベライズ系
- フランス書院ノベルズ (フランス書院、1980年-1984年)
- ハードXノベルズ (フランス書院、1993年-2007年)
- BESTゲームノベルスシリーズ (ベストセラーズ、1995年-2000年)
- パラダイムノベルス (パラダイム、1996年-2013年)
- ムービックゲームコレクション (ムービック、1997年-2003年)
- 二次元ドリームノベルズ (キルタイムコミュニケーション、1999年-2022年)
BL系
- ショコラノベルス (心交社、1995年-2010年)
- SHYノベルス (大洋図書、1996年-)
- アクアノベルズ (オークラ出版、2002年-2010年)
- クロスノベルス (笠倉出版社、2002年-)
- リンクスロマンス (幻冬舎コミックス、2003年-)
- AZ novels (イースト・プレス、2009年-2011年)
- ビーボーイノベルズ (リブレ出版、2009年-)
- ルナノベルズ (ムービック、2009年-2012年)
- ローズキーノベルズ (ブライト出版、2010年-2014年)
大百科に記事のあるノベルス判の作品
初刊がノベルスの作品のみ(単行本や文庫からノベルス化されたものは含まない)。
- 浅見光彦シリーズ (内田康夫 / 各社) ※初登場の『後鳥羽伝説殺人事件』は廣済堂ブルーブックス
- アルスラーン戦記 (田中芳樹 / カッパ・ノベルス) ※11巻から
- 宇宙海兵隊ギガース (今野敏 / 講談社ノベルス)
- 空の境界 (奈須きのこ / 講談社ノベルス) ※元の同人誌版も講談社ノベルスを模した新書判
- 餓狼伝 (夢枕獏 / フタバノベルス)
- QED (高田崇史 / 講談社ノベルス)
- 銀河英雄伝説 (田中芳樹 / トクマノベルズ)
- 皇国の守護者 (佐藤大輔 / C★NOVELSファンタジア)
- 紺碧の艦隊 (荒巻義雄 / トクマノベルズ)
- 戯言シリーズ (西尾維新 / 講談社ノベルス)
- 十角館の殺人 (綾辻行人 / 講談社ノベルス)
- 新本格魔法少女りすか (西尾維新 / 講談社ノベルス)
- 聖刻群龍伝 (千葉暁 / C★NOVELSファンタジア)
- タイタニア (田中芳樹 / トクマノベルズ) ※後にEXノベルズ、講談社ノベルスへ移籍
- デルフィニア戦記 (茅田砂胡 / C★NOVELSファンタジア)
- 伝説シリーズ (西尾維新 / 講談社ノベルス)
- 十津川警部シリーズ (西村京太郎 / 各社) ※初登場の『赤い帆船』はカッパ・ノベルス
- 夏と冬の奏鳴曲 (麻耶雄嵩 / 講談社ノベルス)
- 七回死んだ男 (西澤保彦 / 講談社ノベルス)
- 日本沈没 (小松左京 / カッパ・ノベルス)
- 人間シリーズ (西尾維新 / 講談社ノベルス)
- バトル・ロワイアル (高見広春 / 太田出版) ※太田出版はノベルスのレーベルを持っていない
- 百鬼夜行シリーズ (京極夏彦 / 講談社ノベルス)
- 百器徒然袋 (京極夏彦 / 講談社ノベルス)
- マヴァール年代記 (田中芳樹 / カドカワノベルス)
- 三毛猫ホームズシリーズ (赤川次郎 / カッパ・ノベルス)
- ミニスカ宇宙海賊 (笹本祐一 / 朝日ノベルズ)
- 薬師寺涼子の怪奇事件簿 (田中芳樹 / 講談社ノベルス、カッパ・ノベルス、ノン・ノベル)
関連商品
関連項目
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