概要
1914年創刊。岩波文庫(1927年創刊)より歴史が古く、2014年に創刊100周年に到達した。国内で現存する文庫レーベルで最も長い歴史を誇る。戦前は今の文庫サイズよりも大きなサイズで刊行されており、現行の文庫判サイズになったのは1947年から。戦後最初の新潮文庫は谷崎潤一郎『雪国』。
スピン(栞になる紐)がついているのが最大の特徴。元々は岩波文庫がつけていたのに新潮文庫も倣ったのだが、コストカットで岩波文庫をはじめ他社の文庫スピンは次々と消えていき、いつしか新潮文庫だけになっていたという。21世紀に入ってから再び新潮文庫以外にもスピンをつけた文庫がいくつか登場したが(星海社文庫、日経文芸文庫など)、いずれも短命で消えていった。そのため、スピンのついている文庫=新潮文庫、という図式は現在も健在である。スピンがついているから新潮文庫が好き、という読者も多い。
なお、文庫にスピンをつけるためには天アンカットという少々特殊な断裁方法を採らねばならない。そのため新潮文庫は小口の天(ページの重なっている部分の上面)の断裁が揃っておらず、他社の文庫と違ってデコボコしている。不良品と思われてクレームや交換依頼が入ることもあるようで、見た目が汚いと嫌う読者もいないではない。スピンをつけるためにかかるコストは、装幀を外部のデザイナーに頼まず自社に装幀室を作って自前でやるなど、他の部分で削減しているのだとか。
とにかく歴史が古いため、国内・海外問わず古典の名作の収録数に関しては他の文庫レーベルの追随を許さない。古典の名作は他のレーベルにも収録されていることが多いとはいえ、収録数そのもので新潮文庫に勝てるとすれば岩波文庫ぐらいだろう。そのため、いわゆる文豪の作品を探すならとりあえず新潮文庫の棚に行けばいい。累計ではそこらのベストセラーが束になっても敵わないような部数に達している名作も数多く、たとえば1952年に出た夏目漱石『こころ』は現在までに700万部を超えている。まあ、絶版になっているものもそれなりにあるが……。また、現代の作品に関しては増刷を渋りがちとの評判も。
小説のみならず、ノンフィクション、エッセイの収録も数多い。漫画は滅多に収録されないが、杉浦日向子『百物語』や近藤浩一路『漫画 坊っちゃん』などがある。
背表紙の色は作家ごとに違うが、1冊目は必ず白い背表紙で出て、2冊目以降から個別の色がつけられる(1冊目も増刷分などから色つきになる)というシステムを現在も続けている。そのため新潮文庫で複数の作品を出している作家を1冊目の初版から買い集めていると、その作家の新潮文庫作品を並べたときに最初の1冊だけ白い本棚が出来てしまう。
マスコットは、1997年からパンダの「Yonda?君」が新潮文庫の顔として親しまれた。2017年からは、「QUNTA(キュンタ)」というロボットがマスコットを務めている。
1976年からは毎年夏に「新潮文庫の100冊」というフェアを組む。同様のフェアを展開するレーベルは他にもあるが、おそらく新潮文庫が最初。その中から毎年数点、定番の名作を中心に「プレミアムカバー」という豪華仕様の特装カバー版が出る。
内部レーベル
1989年、新人賞である日本ファンタジーノベル大賞の受け皿となる内部レーベルとして、今でいうライトノベルレーベルにあたる「新潮文庫ファンタジーノベル・シリーズ」を創刊。岩本隆雄『星虫』など同賞の最終選考落選作を中心に、小野不由美『魔性の子』(『十二国記』シリーズの外伝にあたる最初の作品)や、恩田陸のデビュー作『六番目の小夜子』を出したものの、肝心の日本ファンタジーノベル大賞が全くライトノベル的な賞にならなかったこともあり、僅か13冊でポシャってしまった。
2014年には創刊100周年を記念して、いわゆるライト文芸レーベルにあたる「新潮文庫nex」を内部レーベルとして創刊。こっちに関しては詳しくは当該記事を参照。ちなみにこちらにはスピンがついていない(そのため、小口の天も綺麗に断裁されている)。
大百科に記事のある新潮文庫刊の作品
新潮文庫刊の短編集に収録されている短編も含む。新潮文庫nexの作品は除く。
- 秋(芥川龍之介) ※『戯作三昧・一塊の土』に収録
- あばばばば(芥川龍之介) ※『戯作三昧・一塊の土』に収録
- 嵐が丘(エミリー・ブロンテ) ※岩波文庫、光文社古典新訳文庫などもあり
- 伊豆の踊子(川端康成) ※集英社文庫、角川文庫などもあり
- 1Q84(村上春樹)
- 隠蔽捜査(今野敏)
- 失われた時を求めて(マルセル・プルースト) ※絶版、現在は岩波文庫、集英社文庫など
- 海辺のカフカ(村上春樹)
- オーデュボンの祈り(伊坂幸太郎)
- オズの魔法使い(ライマン・フランク・ボーム) ※岩波少年文庫、角川文庫、小学館文庫など多数
- お伽草紙(太宰治) ※岩波文庫版もあり
- オリエント急行殺人事件(アガサ・クリスティ) ※絶版、現在はクリスティー文庫、 創元推理文庫など
- 女の決闘(太宰治) ※『新ハムレット』に収録
- 海底二万里(ジュール・ヴェルヌ) ※角川文庫、岩波少年文庫、偕成社文庫などもあり
- 鏡地獄(江戸川乱歩) ※『江戸川乱歩傑作選』に収録
- 風が強く吹いている(三浦しをん)
- 家族八景(筒井康隆)
- 河童(芥川龍之介) ※『河童・或阿呆の一生』に収録
- 悲しみよこんにちは(フランソワーズ・サガン)
- カルメン(プロスペル・メリメ) ※絶版、現在は岩波文庫
- 官僚たちの夏(城山三郎)
- 騎士団長殺し(村上春樹)
- きよしこ(重松清)
- 銀河鉄道の夜(宮沢賢治) ※角川文庫、集英社文庫など多数
- 銀河ヒッチハイク・ガイド(ダグラス・アダムス) ※絶版、現在は河出文庫
- 国盗り物語(司馬遼太郎)
- 蜘蛛の糸(芥川龍之介) ※『蜘蛛の糸・杜子春』に収録
- クラインの壺(岡嶋二人) ※講談社文庫版もあり
- クリスマス・キャロル(チャールズ・ディケンズ) ※集英社文庫、光文社古典新訳文庫など多数
- 好色(芥川龍之介) ※『羅生門・鼻』に収録
- 幸福な王子(オスカー・ワイルド) ※岩波文庫、光文社古典新訳文庫など多数
- こころ(夏目漱石) ※岩波文庫、集英社文庫など多数
- 最後の喫煙者(筒井康隆)
- 真田太平記(池波正太郎)
- 残穢(小野不由美)
- 山月記(中島敦) ※『李陵・山月記』に収録
- 屍鬼(小野不由美)
- 脂肪の塊(モーパッサン) ※『脂肪の塊・テリエ館』に収録
- シャーロック・ホームズ(コナン・ドイル) ※光文社文庫、角川文庫、創元推理文庫など多数
- 春琴抄(谷崎潤一郎) ※角川文庫版もあり
- 十二国記(小野不由美) ※元は講談社X文庫ホワイトハート/講談社文庫
- 白い巨塔(山崎豊子)
- 砂の器(松本清張)
- 西部戦線異状なし(レマルク)
- 精霊の守り人(上橋菜穂子)
- 世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド(村上春樹)
- 俗物図鑑(筒井康隆)
- ダークタワー(スティーブン・キング) ※絶版、現在は角川文庫
- 太陽の季節(石原慎太郎)
- 宝島(ロバート・L・スティーヴンソン) ※岩波少年文庫、偕成社文庫など多数
- 注文の多い料理店(宮沢賢治) ※岩波少年文庫、角川文庫などもあり
- 椿姫(アレクサンドル・デュマ・フィス) ※角川文庫、光文社古典新訳文庫などもあり
- 罪と罰(フョードル・ドストエフスキー) ※岩波文庫、角川文庫など多数
- ディスコ探偵水曜日(舞城王太郎)
- デンデラ(佐藤友哉)
- 点と線(松本清張)
- 人間椅子(江戸川乱歩) ※『江戸川乱歩傑作選』に収録
- 人間失格(太宰治) ※集英社文庫、角川文庫など多数
- ねじまき鳥クロニクル(村上春樹)
- ノーライフキング(いとうせいこう) ※絶版、現在は河出文庫
- 博士の愛した数式(小川洋子)
- 白鯨(ハーマン・メルヴィル) ※岩波文庫、角川文庫、講談社文芸文庫もあり
- 箱男(安部公房)
- 走れメロス(太宰治) ※岩波文庫、集英社文庫、文春文庫など多数
- パプリカ(筒井康隆)
- パラサイト・イヴ(瀬名秀明) ※元は角川ホラー文庫
- ひかりごけ(武田泰淳)
- 美少女(太宰治) ※『新樹の言葉』に収録
- 羊たちの沈黙(トマス・ハリス)
- 向日葵の咲かない夏(道尾秀介)
- 富豪刑事(筒井康隆)
- 不思議の国のアリス(ルイス・キャロル) ※角川文庫、河出文庫など多数
- 不毛地帯(山崎豊子)
- フランケンシュタイン(メアリー・シェリー) ※角川文庫、創元推理文庫など多数
- フランダースの犬(ウィーダ) ※岩波少年文庫、角川つばさ文庫など多数
- 変身(フランツ・カフカ) ※岩波文庫、角川文庫など多数
- ベン・ハー(ルー・ウォーレス)
- 星の王子さま(サン=テグジュペリ) ※岩波文庫、文春文庫、角川文庫など多数
- 火垂るの墓(野坂昭如) ※『アメリカひじき・火垂るの墓』に収録
- ボトルネック(米澤穂信)
- 模倣犯(宮部みゆき)
- 桃太郎侍(山手樹一郎)
- 薬菜飯店(筒井康隆) ※同題の短編集は絶版、現在は『ヨッパ谷への降下』に収録
- 藪の中(芥川龍之介) ※『地獄変・偸盗』に収録
- 優駿(宮本輝)
- 三国志(吉川英治) ※吉川英治歴史時代文庫版もあり
- 黄泉がえり(梶尾真治)
- 夜のピクニック(恩田陸)
- 羅生門(芥川龍之介) ※『羅生門・鼻』に収録
- リカーシブル(米澤穂信)
- レ・ミゼラブル(ヴィクトル・ユゴー) ※角川文庫、岩波文庫など多数
- 六番目の小夜子(恩田陸)
- ロビンソン・クルーソー(ダニエル・デフォー) ※岩波文庫、河出文庫など多数
- ロリータ(ウラジーミル・ナボコフ)
- わたし、定時で帰ります。(朱野帰子)
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