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溶血性尿毒症症候群とは、腎臓に重い障害を残したり、血液中の赤血球や血小板などが減ってしまう、非常に危険な病気である。
略称はHUS。
概要
ほとんどの場合、腸管出血性大腸菌(O157、O111など)や赤痢菌による食中毒・感染症の後に合併症として発症する。O157や赤痢菌などは猛毒のベロ毒素(志賀毒素)を作り最初に大腸に酷い炎症や出血を起こすが、稀に大腸の傷口から血液中に侵入して腎臓などに移動することがある。
ベロ毒素は腎臓の細胞や血管にダメージを与えるため、急性腎不全や尿毒症を起こす。血管が傷ついたことにより血栓もできやすくなり、脳や肺などの他の主要な臓器にも重い障害が残ることがある。血栓を作る際に血小板を著しく消費するため、血小板減少を伴う。また、ベロ毒素は赤血球も破壊するため重い貧血(溶血性貧血)も起こる。
免疫力の弱い子供(乳幼児、小学生)に多いが、成人や中学生以上でも発症することがある。
症状
- 出血性大腸炎
ベロ毒素によって大腸の細胞が破壊され、酷い炎症と出血が起こる。激しい腹痛や、大量の下血(血便)を伴う下痢(一日20回以上)が起こる。
これ自体はHUSの症状ではないが、HUSが無くてもごく稀に腸重積症という怖い合併症を起こしたり、大腸に穴があいて腹膜炎・敗血症を起こして死亡することがある(特に高齢者に多い)。
- 急性腎不全
急に尿が出なくなったり、血尿・蛋白尿が出たりする。体外に老廃物が出にくくなることで全身に悪影響が出ることもある(尿毒症)。
- 溶血性貧血
ベロ毒素によって赤血球が大量に破壊されることで重度の貧血が起こる。
- 出血傾向
血栓を作る際に血小板が浪費されるため、全身から出血しやすくなる。鼻血や歯茎からの出血、皮膚の内出血などがみられる。また、万が一出血した際に血液が止まりにくくなる。
- 脳症
稀だが、とても怖い症状。ベロ毒素によって脳の細胞が破壊され、痙攣や意識障害が起こる。最悪の場合は昏睡を起こして死亡する。また、脳の血管がダメージを受けた場合は脳出血が、血栓が詰まった場合は脳梗塞が起こることもある。
予後
O157や赤痢菌などに感染しても、HUSが無く大腸炎だけを発症した場合は基本的には予後良好である。ただし、ごく稀に大腸炎自体が原因で亡くなることもあるので油断は禁物。
不幸にもHUSになってしまった場合、致死率は5%程度とされる。特に脳症を併発した症例では致死率がさらに高くなる。
また、運良く一命は取り留めても、腎不全が慢性化して重度の高血圧を発症したり、脳障害による麻痺などの後遺症が残ることもある。
大腸炎自体の治療は「点滴による脱水症状の改善」と「抗生物質でO157などをやっつけること」だけで良いが、HUSを発症した場合は専門的な治療が必要となる。HUSを起こした場合や下血がある場合は入院が必要だが、下血が無い場合は必ずしも入院する必要は無い。
その他
きわめて稀なケースだが、O157などの感染症が原因でないHUSもある。非典型溶血性尿毒症症候群(aHUS)といって、遺伝子の異常により自身の免疫システムが全身の血管を攻撃することで発症すると考えられている。自己免疫疾患の一つであり、難病(特定疾患)に指定されている。また、予後はきわめて不良で、感染症が原因のHUSよりも致死率が高い。
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関連項目
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