財政民主主義とは、政府の財政に関する思想である。財政国会中心主義とか財政立憲主義ともいう[1]。
概要
定義
「政府が財政について何かを決めるときには、選挙で選ばれた議員で構成される国会の議決を必要とするべきである」と考えることを財政民主主義という。
政府の財政とは、「国家がその存立を図り、任務を遂行するに必要な財源を調達し、管理し、使用する作用」を総称する言葉である[2]。
政府の財政は、財政権力作用と財政管理作用に区分される。財政権力作用は、財源を調達するために国民に命令強制する作用で租税の賦課徴収を中心とする。財政管理作用は、その財源を管理し会計を経理する作用であり、国費の支出や国有財産の管理などである[3]。
関連する日本国憲法の条規
日本国憲法には財政民主主義を導く条文が複数存在する。
まず第83条で「政府の財政を処理する権限は国会の議決に基づくべき」と定め、第86条~第88条や第90条~第91条でそうしたことを具体化している。
日本国憲法第83条 国の財政を処理する権限は、国会の議決に基いて、これを行使しなければならない。
日本国憲法第86条 内閣は、毎会計年度の予算を作成し、国会に提出して、その審議を受け議決を経なければならない。
日本国憲法第87条第1項 予見し難い予算の不足に充てるため、国会の議決に基いて予備費を設け、内閣の責任でこれを支出することができる。
日本国憲法第87条第2項 すべて予備費の支出については、内閣は、事後に国会の承諾を得なければならない。
日本国憲法第88条 すべて皇室財産は、国に属する。すべて皇室の費用は、予算に計上して国会の議決を経なければならない。
日本国憲法第90条第1項 国の収入支出の決算は、すべて毎年会計検査院がこれを検査し、内閣は、次の年度に、その検査報告とともに、これを国会に提出しなければならない。
政府の財政の収入面における2つの柱は、租税収入と公債金(短期金融市場や長期金融市場からの借入金)である。この2つも国会の議決が必要である。
第84条は租税法定主義とか租税法律主義と呼ばれる。法律とは国会の議決で成立するものだから、第84条は「あらたに租税を課し、又は現行の租税を変更するには、国会の議決に基くことを必要とする」と表現することとほぼ変わらない。法律が国会の議決で成立することは第41条や第59条で決められている。
民意を吸収した議員で構成される国会が財政を動かす
国会は衆議院と参議院で構成されるが、その両院は全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する(日本国憲法第43条)。そして選挙は普通選挙が保障されている(日本国憲法第15条第3項)。このため国会という機関は、国民の民意を非常に吸収しやすい機関である。
そうした国会が政府の財政の一切を取り仕切ることを財政民主主義という。つまり財政民主主義とは、政府の財政に民意を反映させることを重視する思想である。
財政国会中心主義や財政立憲主義という表現との比較
財政民主主義は、財政国会中心主義と呼ばれることがある。この両者は意味がほぼ同じである。
財政民主主義は、財政立憲主義と呼ばれることがある。この両者は意味合いが少し異なる。財政民主主義は「政府の財政は選挙で選ばれた議員で構成される国会による議決を経て決めるべきである」という意味であるのに対し、財政立憲主義は「政府の財政は選挙で選ばれた議員で構成される国会による憲法を尊重した議決を経て決めるべきである」という意味合いになる。
日本国憲法第89条では「公金その他の公の財産は、宗教上の組織若しくは団体の使用、便益若しくは維持のため、又は公の支配に属しない慈善、教育若しくは博愛の事業に対し、これを支出し、又はその利用に供してはならない」と定められている。こうした条規をしっかり守ることが財政立憲主義である。
また日本国憲法第25条の生存権のような各種社会権を意識した国会議決をすることも財政立憲主義という。
関連リンク
関連項目
脚注
- *『日本国憲法論 法学叢書7 2011年4月20日初版(成文堂)佐藤幸治』526ページ
- *『日本国憲法論 法学叢書7 2011年4月20日初版(成文堂)佐藤幸治』525ページ
- *『日本国憲法論 法学叢書7 2011年4月20日初版(成文堂)佐藤幸治』525ページ
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