XFV-12とは、たぶんアメリカ航空史上最大の黒歴史(恥ずかしいという意味で)である。1977年試作機完成(←『完成』であることに注意)。
VTOL機になれれば嬉しいな~!
性能諸元と機体解説
1960年代、アメリカはでっかい空母のでっかい維持費に困っていた。うん、21世紀の今も困ってるけど[1]。で、もっと小さい空母作ったらええやんという話になる。そこで提唱されたのが『制海艦』なる小型空母。XFV-12はこれの艦載機として考案された機体である。そのフォルムは非常にかっこいい。というか昔のSTGの自機みたい。低翼配置のカナード(先尾翼)と高翼配置の主翼。主翼の端にはちっさい垂直尾翼がつく。
| 全長 | 13.4m |
| 全幅 | 8.69m |
| 全高 | 10.00m |
| 空虚重量 | 6,259kg |
| 最大離陸重量 | 11,000kg |
| エンジン | P&W F401-PW400 オーギュメント・ターボファン×1 推力15,000kg(アフターバーナー使用時) |
| 最高速度 | マッハ2.0(予定) |
| 武装 |
オーギュメント・ウィング
XFV-12では、「オーギュメンター・ウィング」という技術が導入された。ジェットエンジンの排気はダクトを通じてカナードと主翼に導かれ、そこからフラップで下方に噴出される。その際にコアンダ効果で周囲の空気も誘導されることで推力を増大、最終的にVTOLに必要な揚力を得るというものである。[2]
ドイツ人の変態技術者ハンス・フォン・オハイン[3]が考案したこの技術とF-4やらA-4やらのパーツを使い安価に高性能機を作ろうと画策した。ちなみに水平飛行時の最高速度は諸元のとおりマッハ2の予定。
しかし、クレーンにつるしてテストしてみると推力が全然出ない。主翼吹き出し口で19%、カナード翼からはたった6%しかエンジン出力が出てないことが判明したのである。原因はエンジンの排気を吹き出し口に導くためのパイプの部分で圧力損失がとんでもなくでかくなるためだった。
圧力損失というのはパイプを通る物質(液体やら気体やら)はパイプが狭かったり曲がりくねってたりパイプを通る距離が長かったりすると送り始めた時より圧力が下がる現象。水道屋やガス屋なら当たり前の知識なのだが、どーもこれ作った技術屋はそんなことを思いもしなかったようだ、というかわかっててやらかした節がある(後述)。
完成後6ヶ月ほどテストして改良してはみたけれど、改良なんてレベルではどーにもならんほどの欠陥であった。結局空を飛ぶことは一度もなく計画破棄。お前は何をしにきたのだ。
ちなみに大よその発端となった制海艦構想自体も、計算の結果普通に空母運用したほうが安くつくよということになりボツ。その設計図はスペインに渡りスペイン空母『プリンシベ・デ・アストゥリアス』とタイ空母『チャクリ・ナルエベト』の元になった。
おまけ:XV-4ハミングバード
米陸軍がヘリコプターに代わるヘリコプター並みの機動性を持つ偵察機を夢見て開発していたVTOL実験機で2機製造された。1959年より研究開始、1号機(XV-4A)は1962年、2号機(XV-4B)は1968年に初飛行した。
こいつは胴体上下に蓋が付いていて、それをぱかっと開けてエンジンからの排気をXFV-12と同じく胴体上部から下向きに高速の排気を吐き出すことでコアンダ効果に従い推力を増すことでVTOLを実現しようとした。しかし1号機は1964年に上昇中に事故で墜落、パイロット死亡という大惨事を引き起こす。頭に来た陸軍は本来がらんどうだった胴体に離着陸専用エンジンをなんと4基も積むという力技で強引にVTOLを実現しようとした。コントロールが難しいので原始的なフライバイワイヤまで搭載した機体だったが1969年にやっぱり墜落(ちなみに今回はパイロットは無事)。同年とうとう陸軍は匙を投げてしまい開発中止を決定した。
XFV-12の開発の際はXV-4を参考にしたとされ、コアンダ効果の問題点、特に圧力損失を警告されていたらしい。しかし『エンジン強力にしたらいけるんじゃね?』ということで強行してしまったらしい。いや確かにXV-4AのエンジンJT-12Aに比べてXVF-12のF401は推力が10倍なんで気持ちはわからないでもないけど……。
| XV-4A | XV-4B | |
| 全長 | 9.96m | 10m |
| 全幅 | 7.82m | 8m |
| 全高 | 3.58m | 4m |
| 空虚重量 | 2,266kg | 2,275kg |
| 最大離陸重量 | 3,266kg | 3,834kg |
| エンジン | P&W JT12A-3LH オーギュメント・ターボジェット×2 推力1,496kg |
GE J85ターボジェット×6 推力1,360kg ※内4基は垂直上昇専用 |
| 最高速度 | 833㎞/h | 745㎞/h |
| 武装 | なし | なし |
関連動画
関連項目
脚注
- *ニミッツ級の艦載機含む運用コストは年間1兆円ぐらいらしい。これを10隻も運用しているアメリカって……。
- *「イラストでわかる!兵器メカニズム図鑑」 坂本明 ワン・パブリッシング 2021 p.31
- *世界で初めてジェット機を製作して飛ばした人物である一方、原子力飛行機やプラズマ発電、このXFV-12などそれ以外に実用化した技術が一つもないことでも有名な人物である。
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