インヴィンシブル級空母とは、イギリスが運用していた軽空母である。
インヴィンシブル級は現代の空母史を語る上で欠かせない存在であり、キエフ級と並ぶ代表的なV/STOL空母であり、ある意味成功した英国面の一つである。
実はインヴィンシブル級はもともと固定翼機を運用する空母ではなかった。
イギリス軍は第二次世界大戦後、大戦末期に建造された巡洋艦を改造してヘリ運用能力を持たせたタイガー級ヘリコプター巡洋艦を運用していた。
しかしこれも寄せる年波には勝てず、後継を必要としていた。そこで対潜ヘリを搭載し、対潜作戦を艦隊を指揮しおこなうために建造が計画されたのがこのインヴィンシブル級である。
この通り、インヴィンシブル級はヘリコプター空母として計画されていた。もともと後部に格納庫と発着甲板を備えたオーソドックスなスタイルの12,500トン級指揮巡洋艦として計画されたが、あれよあれよと艦体が肥大化、ヘリ運用における合理性の点から全通甲板を持ったヘリ空母として建造されることになった。
以上の点からV/STOL空母になる前までのインヴィンシブル級は日本のひゅうが型にかなり近い存在だったといえる。ただしひゅうが型とは違い、イギリス軍はインヴィンシブル級に対しSAMによる艦隊防空の役割も期待していた。
さてそんな時にインヴィンシブル級に更なる転機が訪れる。
ハリアーの完成である。
ハリアーはV/STOL機であるため狭い艦体からでも発着でき、性能に多少不満があっても敵の対潜哨戒機を叩き落し艦隊防空を行うには十分だったのである。
こうしてインヴィンシブル級は晴れてV/STOL空母となった。
見ての通り空母型の甲板と艦橋(アイランド)、そして詳細は後述するスキージャンプ台が大きな特徴である。
飛行甲板の最前部にシーダート艦隊防空ミサイルのランチャーが存在するのも特徴的である。これは前述の通り、インヴィンシブル級は艦隊防空も仕事の一つだったからであるが、このミサイルは後に撤去されインヴィンシブル級は純粋にV/STOL空母としての役割を果たすことになった[1]。
艦体は水面から甲板にかけて広がっていく形状であり、さらに船体における水面からの高さも高い。これは格納庫や機関室といったスペースを確保するための工夫である。なお、波をかぶる可能性があったために船体側面に艦載機用のエレベーターは設置できず、甲板上に2基設置されている。
艦載機は総合計で20~22機。搭載機はハリアーの艦載型、シーハリアーとシーキング哨戒ヘリコプターが一般的だが固定乗員1051人と別に海兵隊員600人程度を搭乗させるヘリコプター揚陸艦の顔も持っていた。
さてここで本級最大の特徴、スキージャンプについて述べる。
スキージャンプとは、見ての通りスキーのジャンプ台のような坂である。これを始めて搭載したのがインヴィンシブル級である。
これはインヴィンシブル建造中に計画変更して設置されたもので、それ以前に様々な角度でテストされていた。
もちろんこんなものは島嶼はその有効性を疑問視されていた。がしかし、実際に運用してみるとなると同じ滑走距離であれば何も無い平坦な甲板と比してなんと20~30%もの積載量アップが可能となったのである。
これ以外にもスキージャンプは発艦滑走距離の65%短縮、空母の速度が遅かったり揺れが多少激しくても発艦できるなどのメリットがある。
これは規模の小さい空母、あるいはカタパルトの建造できない国でも、カタパルトよりは積載量に制限があるもののそれでもある程度有効な航空戦力を運用可能となるまさしく画期的な発明だったといえる。
現在このスキージャンプ甲板はあちこちで採用され、その角度は12~13度が一般的である。
1番艦インヴィンシブルは就役直後、そのちょっと後にV/STOL空母に改造されたハーミーズとともにフォークランド紛争に借り出され、早速実戦を経験することとなる。
この戦いにおいてインヴィンシブルは主に艦隊防空の任につき、ハーミーズと併せて撃墜/被撃墜が34/0となりこの種の空母の有用性を知らしめた。
半面、防空ミサイルの敵機に対するマッチングの悪さと絶対数の少なさ(紛争時のイギリス艦艇全てにいえることだが)、搭載機数の少なさが明るみに出ており、艦隊防空の任を完全に果たしきれたとは言いづらい状況だった。
その後は上記に対する改良が行われイギリス軍における重要な戦力であり続けたが、次第にイギリスの財政問題に伴う軍事費削減とそれに伴うハリアーの退役で戦力価値が低下したことに伴い、2016年までに全艦が退役しスクラップとなった。
退役に際しては1番艦、2番艦の船体売却の入札に旧植民地の香港系の人物、団体が参加していたが中国への空母技術流出を警戒して譲渡されず最終的に3隻ともトルコの解体業者に売却されスクラップになった[2]
なお、本級を失ったイギリス海軍は後述する『オーシャン』を経て2017年からクイーン・エリザベス級航空母艦の運用を開始している。
1番艦「インヴィンシブル」
フォークランド紛争にて旗艦ハーミーズと共に世にV/STOL空母のあり方を示した艦。建造途中に7度のスキージャンプが取り付けられたが後の改修で12度になった。また同じように改修により艦首のミサイルは撤去され飛行甲板となった。
実はオーストラリアへの売却話が合ったのだがフォークランド紛争にて示した有用性によりイギリス海軍は売るのを止めたのである。
ボスニアなど様々な場所に赴き任務を果たしたが2005年に退役。
2番艦「イラストリアス」
現在唯一現役のインヴィシブル級。建造中にフォークランド紛争が勃発しアーク・ロイヤルから部品を奪い取って建造を急いだ。結局紛争には間に合わなかったものの、紛争後の防空網再建に大きな役割を果たしたといえる。
その後前述のインヴィシブル同様の改修を受け、ボスニアやアフガニスタンへと赴いた。インヴィシブルの退役に伴い2005年にイギリス海軍旗艦となる。
その後シーハリアーの退役に伴いヘリ空母として運用され晩年はヘリコプター揚陸艦「オーシャン」支援の任についていたが2016年に退役。
3番艦「アーク・ロイヤル」
建造途中にイラストリアスに部品を取られた3番艦。部品を取られたこと、フォークランド紛争で明るみに出た弱点を補う改修を最初から盛り込んだため就役が予定より遅れた。そのためスキージャンプの角度は最初から12度である。
アーク・ロイヤルもイラクなどに派遣されていたが、やはりこちらも財政難により2011年に退役となった。
1998年から2018年までイギリス海軍が1隻のみ運用していたヘリコプター揚陸艦。
計画時点でイギリスの財政難が深刻だったことから本級の設計を流用しつつ、商船規格を採用する事で建造費を抑制して整備した。
飛行甲板はスキージャンプ甲板を採用せず艦尾から艦首にかけて船体に合わせて尖っていく方式の全通甲板になっているが発着艦スポットと駐機スペース各6カ所、格納庫に最大12機のヘリを格納可能に加え、舷側には左右2カ所に小型上陸用舟艇の積載部を設け、海兵隊員も800人以上(固定乗員460人)と固定翼機運用能力を失ったのと引き換えに揚陸艦能力は強化されている。
2018年の退役後はブラジル海軍に売却され『アトランティコ』に改名、運用されている。
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最終更新:2025/12/05(金) 23:00
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