サリエルとは、
サリエル(英語表記Sariel)とはユダヤ教/キリスト教の伝承に登場する天使あるいは堕天使である。しかしその名称については混乱しており、スリエル(Suriel)、アラジエル(Araziel)、サラカエルまたはザラキエルまたはゼラキエル(Saraqael、Sarakiel、Zerachiel、Zerachiel)、サムイル(Samuil)・・・等々の多くの異名も伝えられる。
名の意味も、「神の命令」を意味するとされる事が多いものの、異説が多く確定的でない。
キリスト教の聖書である新約聖書と旧約聖書にも、また旧約聖書の元となったユダヤ教の聖典タナハにおいても、現在広く正典とされている文書の中には、サリエルという名前の天使は全く記載されていない。
……と切って捨ててしまうのも味気ないのでフォローすると、聖書偽典の一つであるエノク書、および死海文書には登場する。
エノク書はユダヤ教・キリスト教主流派から偽典とされてはいるものの、エチオピア正教(および1993年のエリトリア独立時にそこから分派したエリトリア正教)では旧約聖書正典とされていたり、また偽典にもかかわらず新約聖書正典(ユダの手紙)に引用されているという、特異な位置にある。
そのエノク書においてのサリエルは、シェムハザという長に率いられていた「見張り番」(ギリシア語で「ἐγρήγοροι(エグリゴリ)」。「見張る」の意。スラブ語の「第二エノク書」ではそのまま音訳され「グリゴリ」となっている)の天使達200名の一員である。
その200名の中でもリーダー格の者たちは「タミエル」「トゥレル」など個人名が挙げられているが、末尾において「サリエル」の名も挙げられている。ただしこの部分はエノク書のバージョンによる違いが大きい部分で、サリエルにあたる「末尾に名を挙げられた天使」も翻訳者によっては「アラジエル」などとされていることもある。
この200名の天使たちは地上に住まう人間たちを見張るうちに人間の娘たちに欲情してしまい、誰も裏切らぬように密約を交わした上で、神に無断で人間を妻に迎え子供までもうけてしまう。そして無知だった人間たちに自分たちの知識を伝えた。幾人かの天使は何を教え伝えたのか個別に記載されており、サリエルも「月の運行についての知識を与えた」との記述がある。
その後の顛末の詳細については「アザゼル」の記事を参照していただきたいが、唯一神(YHVH)に逆らったわけなので当然ろくなことにならない。ここから、後の伝承における堕天使という扱いが生まれたものと思われる。
なおエノク書において、上記の部分より少し後に七人の特別な「聖なる天使(栄光の天使)」たちについて記載されている箇所がある。そこではウリエル・ラファエル・ミカエル・ガブリエルなど現在でもよく知られた天使たちの名前に混じって、「サラカエル」という名も挙げられている。このサラカエルをサリエルと同一視する場合もある。
しかしエノク書を素直に読むだけでは、神に逆らって罰せられた天使サリエルとこの聖なる天使サラカエルを同一視する理由が見当たらない。よっておそらく、後述の死海文書内の記載などに影響を受けてサリエルを大天使とみなす視点から、後世に生じた解釈ではないかと思われる。
エノク書には様々なバージョン違いが存在するが、特にその違いが顕著なスラブ語の「第二エノク書」においては、神に遣わされてエノクを導く天使として「サムイル」が登場し、このサムイルは時に「サリエル」と記載されることもある。こちらのサムイル/サリエルの方は、特に神に逆らうような描写はない。
クムランの洞窟で発見された文書群、いわゆる「死海文書」にもサリエルの名が登場するという。この死海文書はユダヤ教の一派「エッセネ派」が遺したものであると考えられている。
死海文書は多数の文書の集合体であるが、そのうちサリエルが登場するのは「光の息子たちと闇の息子たちとの戦い」という、なんだかすごそうなタイトルの書である。詳しい内容は「死海文書」の記事を参照。
同文書の中において、サリエル(ヘブライ語でשריאל)という言葉は兵士たちの盾に刻まれた四つの名前のうちの一つとして登場するという。他の三つの名前はミカエル、ラファエル、ガブリエルとなっている。これが正しければ、この文書が執筆された当時、サリエルはこれらの特別な天使たちと並び称される立場、言わば「四大天使」の一角として認識されていたことになる。
※ここから以下は聖書正典・偽典や聖書関連文書には記載のない、民間伝承や俗説となる。ある程度歴史のある伝説から、グリモワールなどのオカルト本の記述、さらには最近の創作作品の影響まで新旧雑多なものが含まれる。
人の魂を見守り、人間が過ちを犯して魂を汚さない様に監視する役目を持っており、死者の魂を天秤に掛けて天国に送るべきかどうか裁定する天使とされることもある。また、神の掟に背いた天使の運命に責任を持っているといわれ、神の法を軽んじた天使を裁き堕天させる役目も持っているとされることもある。
黄道十二宮を支配しているとも言われ、その場合は第六天ゼブル(Zebul)を支配していたという説もある。
律法学者のラビ・イシュマエルに詳細な衛生知識を与え、モーセに様々な知識を与えたとも言われ、一説ではラファエルの右腕として医療に知悉していた「癒しの天使」として信仰されていたとも言われる。
堕天使として描かれる場合、上記のエノク書のいきさつの影響からか堕天前は月の支配者であったとされることもある。サリエルは月の運行に関する禁断の知識を知り、その知識を人に伝えたことで自ら堕天したとされる。 その際、彼は何も語ることなく優美に天を去っていったという。堕天した後は地獄の七君主の一人であるとされることもある。
上記のように死海文書などでミカエルなどと並び立つ大天使として扱われる場合もあった。それが影響してか中世以後の天使階級観を反映して熾天使(セラフィム)の一員とされることがある。
旧約聖書イザヤ書に登場するセラフィムが神の傍に侍る天使であるためか、「神の玉座近くに付き従う権利を持ち、神の意思を執行する司令官的な役割を持つ」「神とサタンの戦いの際は光の天使の有力な一員でもあった」等と設定されることもある。
時に「死の天使」として扱われることがある。
ユダヤ教の伝承で「死の天使」として扱われる「サマエル」と名称が似ているため混同されたか。また、上記のようにエノク書では翻訳のバージョンによってはサリエルにあたる天使の名が「アラジエル」となっていることがあり、この名がイスラム教における死の天使「アズラエル」と似ていることも混同の元になった可能性がある。
「死の天使」として扱われる場合、いわゆる西洋の「死神」のイメージに影響されてか絵画などでは黒いマントを羽織り、魂を狩る大鎌を持った姿で描かれることもある。これまで裁いてきた天使たちを思い、血の涙を流していると設定されることもある。
邪視(evil eye イービル・アイ)とは、見つめただけで相手を呪い、身動き出来なくしたり怪我や病気や不幸を与えたり、果ては死に至らしめることまでもできる魔力の事である。紀元前数世紀の古代ギリシャにはすでにその概念があったようだ。ヨーロッパやオリエントやアラブ世界において人々の恐怖の対象であり、邪視の力から逃れる為の護符も存在した。
サリエルはオカルトや神秘学の伝説上で「邪視を退ける能力を持つ」とされることがあり、その名を記したものが邪視避けの護符として使われることもあったと言われる。
しかし「堕天使」や「死の天使」等のネガティブな印象で言及される場合には、「邪視から護る存在」という伝説から反転した影響を受けてか、サリエル自身が「邪視を持つ存在」として描写されることもある。
掲示板
急上昇ワード改
最終更新:2024/12/07(土) 05:00
最終更新:2024/12/07(土) 04:00
ウォッチリストに追加しました!
すでにウォッチリストに
入っています。
追加に失敗しました。
ほめた!
ほめるを取消しました。
ほめるに失敗しました。
ほめるの取消しに失敗しました。