墓に群れるもの(Tomb-Herd)とは、以下を指す。
『墓の群れ/The Tomb-Herd』は若きキャンベルが書いたクトゥルフ神話小説。掲載媒体によってはハイフン無しの『The Tomb Herd』と題されていることもある。
本人曰く「ラヴクラフトの模倣作品の一つ (それ以上のものではありません)」とのこと [1]。
彼はこれを含めたいくつかの作品をオーガスト・ダーレスに送って意見を求めた。
ダーレスの助言により改稿が為された作品は『ハイ・ストリートの教会/The Church in High Street』と改題され、アンソロジー『漆黒の霊魂/Dark Mind, Dark Heart』
(1962)に収録された[2]。
『ハイ・ストリート~』はキャンベル初の商業出版作品だが、彼がこの作品について語るときには「自分の同意を得た上でダーレスによって書き直してもらった」という言い方をすることがあり、彼自身の単独作品とは見なしていない[3]。
両作品には語り手の名前が違うなどの様々な相違点があるが、特に重要なのは『The Tomb-Herd』の舞台はキングスポートにあるオーブリー・ストリートの屋敷とヨグ=ソトースの教会だったのが、イギリス・セヴァーン渓谷にある町テンプヒルへと変更されたことと、クリーチャーの使う二つの能力のうちで作品の中心に据えられているものが違うという点だろう。
この1番目の変更点は、キャンベルが自分がダーレスから受けた影響として特に強調している点である。
ラヴクラフトが題材にしたアーカム周辺の土地ではなく、君自身の作品の舞台となるイギリスの土地を考案しなさい、と説得されたキャンベルは、ゴーツウッドなどのセヴァーン渓谷(セヴァーン・ヴァレー)周辺の架空地名を題材にするようになった。
小説『The Tomb-Herd』は、英語アンソロジー『American Gothic Short Stories』
とファンジン『Crypt of Cthulhu (通算43号)』
に収録されている。この2つの掲載媒体ではそれぞれ少~~~しだけ語句が異なる。
※『ハイ・ストリートの教会』と『The Tomb-Herd』のネタバレがあります。注意!
Surely the abominations of those nether regions will not harm me -- they feed on other things.
(あの地界の忌まわしいものどもが私を害することはよもやあるまい—やつらは別のものを糧としているのだから。)
『The Tomb-Herd』より引用
プライス&ラヴクラフト『銀の鍵の門を越えて』では、ランドルフ・カーターがネクロノミコンに書かれていた警告を思い出す場面がある。異空間には色々と性悪な連中がいるけれど、ウムル・アト=タウィルはもっと強いぞ!、という趣旨なのだが、その中で例示されていた異次元怪物のうちひとつが“群れ/the Herd”だった。
墓にはおのおの秘密のポータル(穴/戸口/門)があることが知られており、その〈戸口をたたずみ見張るもの〉、 そこに住まうもの(=死体)から生えいずる物を糧とするものども、と表現されていた。
小説『The Tomb-Herd』の冒頭では上記ネクロノミコンの内容が(少しだけ語句を変えた上で[4])引用されており、このクリーチャーのネタ元となったのがこの箇所だと言うことをはっきりと示している。
ラヴクラフト『魔宴(祝祭)』で描写された儀式は、この小説中ではキングスポートの廃教会においてヨグ=ソトースの人ならざる信者によって行われている。
(以下ネタバレ反転)この教会の地下は伝説のネクロポリス(死者の都、通常は共同墓地や古墳を意味する)と称される場所に通じており、その入り口には巨大な彫像が12体置かれている。近くの床には屍体が積んであり、そこから高さ数インチの菌類が冬虫夏草のごとく芽吹いていた。
ここにたどり着いた語り手の前で虚空に次元の門が開き、そこから輝きゼラチン状で無定型の存在が13条の宇宙的な恐怖の光となってあふれ出す。怪生物に憑依同化されて動き出した巨像は菌類をちぎって食べ始めた! 最後の1条はこちらに向かってきて…
語り手は運良く生き残りアーカムの病院に入院することになったのだが、地下にあった像の顔や爪に菌類が付着していた以外には事件の証拠は見つからなかった。で、語り手の顔や手にも菌類が付いていたというオチで締め。屍体や墓地を見ると謎の衝動に駆られるという後遺症まで残ってしまった。
『ハイ・ストリートの教会』では彼らの持つもう一つの力「空間を折りたたむ能力」[5]がより強調されている。ターゲットにした人物が特定の場所から逃れようと移動すると、ある程度離れた地点で時空が歪み元の場所に戻ってきてしまうのだ。ポルナレフ状態をここまで再現できる神話生物はなかなかいない。
ただし発動条件はかなりあいまいで、人事不省で彷徨っていたり事件後唯一の生存者が徒歩で脱出したり事情を知らない部外者に自動車で搬送してもらったりといった場合には上手く働かない場合があった。これって催眠術だとか超スピードだとかのもっとチャチなもんなのでは?
『湖畔の住人/The Inhabitant of the Lake』では『グラーキの黙示録』を読んだ人物がこの異能をうち破るために友人に乗用車を持ってこさせている。『ハイ・ストリート~』作中でのネクロノミコンからの引用によれば、ヨグ=ソトースの名を然るべき時期に唱えていた場所ならどこでも“群れ”は助けてくれるそうだ。力を貸すのがグラーキ信者でもかまわないらしい。
『古きものたちの墓』
に収録された邦訳版では言及が消えてしまっているが、テンプヒルの地名が出ている箇所の英語原文では tomb-herd の名前がしっかり出てきている。この種族名はネクロノミコンとグラーキの黙示録の両方に載っている作中公式のものなのだろう。
『クトゥルフ神話TRPG (第6版)』のモンスター集『マレウス・モンストロルム』には墓に群れるもののゲームデータが載っているが、この項目の邦訳はかなりトホホな出来だったりする。良質の和訳に恵まれない呪いにでもかかっているのだろうか。『新クトゥルフ神話TRPG (第7版)』対応の新版ではかなりまともになっている。
『クトゥルフ神話TRPG』の外伝に当たる位置づけの『クトゥルフ・ダークエイジ』
では、この背景世界における精霊界にあたる概念である「リンボ」に大量に生息しており、存在感が大幅に増している。リンボはウムル・アト=タウィルとも関連が深く、意外と原作に忠実なのだ。
(英語)を参照
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