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玉水物語(たまみずものがたり)とは、娘に化けた狐とお姫様の純愛と悲恋を描いた物語である。上下巻ある。より詳しい現代語訳や原文の書き起こしなどは関連リンクを参照。
上
そう遠くない昔、鳥羽の方に高柳の宰相という方がいた。長らく子に恵まれなかったが、30過ぎにたいそう美しい姫君を授かった。姫君が15になる頃のこと、従者を連れ花園に遊びに出かけたが、そこは狐の住処だった。その中の一匹の狐が姫君に一目惚れし、恋に落ちてしまった。どうしても姫君の傍にいたいと思い悩んだ末、狐は少女に化け、姫君に仕えることを思いつく。
狐は14,5歳の美少女に化け、ある在家信者の元を訪ねてその家の養子として世話になる。ある日、主人に姫君の下で仕えたい事を打ち明けると主人は快く引き受け、高柳の姫君を紹介してもらえることとなった。
狐は姫君に大変気に入られ、「玉水の前」という名前をもらった。玉水は人もうらやむような寵愛を受けるが、時々物憂げな歌を詠んだので姫君は心配に思っていた。そのような日々を送っていたが、3年後の秋のとある日に行われた紅葉合がきっかけで姫君は帝の目に留まり、入内する事となる。周囲はたいそう喜んでいた。
下
ある時、玉水の養母が病に倒れた。原因は老いた狐の呪いであり、その狐は玉水の伯父であった。老狐は「この病人の親に何の罪もない我が子を殺された。この者を呪い殺し親に同じ苦しみを味わってもらう」と言う。玉水は必死に説得し、子を供養する事を条件に怒りを納めてもらった。老狐は出家し、やがて養母は回復した。
玉水は女房として姫君の入内にお供する事になり、新しく中将の君と言う名前ももらった。喜ばしいことであるが、玉水は浮かない様子である。理由を尋ねても言えないとしか答えず、姫君は心配している。
玉水は「獣の身でありながら姫君恋しさに傍で仕えてきたが、思えばはかないことだ。姫君に正体を打ち明けたいが、今更本当のことを知って恐ろしがられるのもつらい。入内の混乱に紛れ姿を消してしまおう。」と決心した。玉水は一目惚れした日からの事を歌に詠み手紙にしたため、小さな箱に入れた。
玉水は「私に何かあったら開けてほしい、中身を姫様以外に絶対見せないでほしい」と箱を姫君に渡した。姫君は「あなたは私の行く末を最後まで見届けるつもりはないのですか」と拒んだが、玉水の決心は固かった。その後、玉水は準備の慌ただしさに紛れ姫君の下から去った。突然玉水が姿を消したことに姫君も周囲の者もたいそう悲しんだ。
入内の後、姫君は誰にも見られぬよう帝の行幸の合間に箱を開け、中の手紙を読んだ。そこには、玉水の正体、姫君への恋心ゆえに住みなれた地を離れ朝夕お仕えして心を慰めていたこと、姫君が帝に入内する事になり我が身のつたなさが思い知らされたこと、来世まで姫君を守りたいことなどが書かれていた。
姫君はその内容に驚き、玉水の正体を恐ろしく思いながらも、その心の内を憐れに思った。
作者不詳。成立時期は室町から近世初期の間と言われるが、正確には不明。「御伽草子」「室町物語」「室町時代物語」などと呼ばれる物語群の一つとして分類されることがある。「紅葉合」(もみじあわせ)というタイトルのほぼ同じ筋書きの書も存在しているが細部に違いがあり、玉水が犬を恐れる姿を見られて正体が狐であることを疑われるくだりなど「玉水物語」に無いシーンがあるとされる。
日本や中国では古来より歳をとった狐は女に化けるものであるとされてきた。狐が人間に化け、人間と交流したり災厄をもたらしたりする話は少なくない。玉水物語は人間に化けた狐と人間による、いわゆる「異類婚姻譚」の一種であるが、姫に惚れたのに男ではなく少女に化けて姫に奉仕するという設定であり、数ある物語の中でも異色の存在である。
「狐が女に化けて人間の女との親交を深め、人間の女の幸せを見届けた後、正体を明かして人間のもとを去る」と言う、非常に良く似た設定の「封三娘」という物語が中国にある。しかし、玉水物語の成立に不明な点が多く、封三娘の影響を受けたとする明確な根拠は無い。
この物語で登場する「紅葉合(もみじあわせ)」とは、赤や黄色に染まった紅葉の枝に歌を読み、その枝と歌の見事さを競う遊びのことである。玉水は狐の兄弟に協力を仰ぎ、葉に法華経の文字が書き込まれた見事な枝を用意してもらうくだりがある。玉水の活躍もあり、姫君の戦績は5戦5勝だった。
狐は恋する人の傍で奉仕できることが幸せだと恋心をごまかしていたが、最終的に恋が実ることは決してない事を悟り、姫君の幸せを見届けた後に正体を明かす手紙を残して姫の元を去った。
姫君と玉水は深い信頼で結ばれるが、姫君から玉水への思いは恋ではなかっただろうことが想像できる。また、姫君が入内することになった一番の立役者が玉水本人であり、どうあがいても失恋という辛い現実を突きつけられる原因となった。姫君の事を思ってした行動が自分の不幸になる事も救われないところである。
恋心以外にも、養母と伯父の件を経て獣と人間が交流することの危うさを思い知らされた点も重要である。仮に玉水が化け狐であるとばれると姫君にもあらぬ疑いがかけられ、姫君の身に危険が及んでしまう。様々な葛藤の末、正体が誰にも知られない内に姿を消してしまったのである。
なお、「紅葉合」においてはこういった狐のあわれさを強調した結末ではなく、稲荷の霊験を説き姫の長寿栄華を語った結末であるという。
原文には「きつね」「狐」とだけあり、明確に性別を表す語句は含まれていない。しかし、狐は雄というのが通説であるという。
これは、姫に対する明確な恋心があるということが第一に挙げられる。狐は「美しい人に恋をし、獣であるが故に及ばぬ恋に悶々としながら死んでいく事が恨めしい。高貴な者に化けて会いに行くこともできるがそうすると姫は亡くなることだろう。父母より早く亡くなることなどあってはならない。自分は前世のどんな罪の報いで獣に生まれたと言うのか。」と思い悩んでいる。しかし娘に化けてある程度の身分を得て奉仕しに行くのはあらすじの通り。
ここから、「人間の男になって契を結べば姫君の命を奪う事となる」と文脈から読み取ることができる。言いかえると、人と獣が交わる事がタブーとされ、人と獣のどちらかの命が無くなるという考え方があったことがわかる。「封三娘」でも同様に狐の性別は語られていないが、色欲に対するタブーがあり、それから逃れるため男として会う事を避けたとする見方ができる(ただし封三娘では雌狐とする見方が定説)。
つまり、狐は「男のまま」姫と会うと禁忌を犯すことになるが、どうしても傍にいたいがために「禁忌を避けるために娘に変身した」のだと解釈されるのだ。
しかし、古文で良く見られる事ではあるが、作者があえて明言する事を避けることで物語の趣を深め、想像の余地を残しているという事も考えられる。読み手が自由に想像する事も物語の楽しみ方の一つであるといえる。
2019年センター試験の古文で採用された。玉水物語を研究する人は少なくほぼ無名の物語であり、当記事作製前はwikipediaにも記事が無かった。当然教科書で見ることもなかったが、性転換ケモ美少女とお姫様の悲恋というアクロバティックかつ尊みにあふれる設定(正確には微妙に異なる)が大いにうけ、にわかに脚光を浴びることとなった。
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最終更新:2024/12/11(水) 03:00
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