田中の8球とは、
2013年9月26日、日本プロ野球の埼玉西武ライオンズ対東北楽天ゴールデンイーグルス22回戦において、9回裏1アウト二、三塁から、西武の三番栗山巧、四番浅村栄斗に対して放った、田中将大のエースとしての全てを懸けた全力の投球の軌跡である。
2013年9月26日、優勝へのマジックナンバーを残り2とした楽天。
創立9年目にしてようやく掴もうとしている栄光を手にすべく、埼玉西武ライオンズとの試合に臨む。
楽天は初回、一番岡島豪郎、二番藤田一也の連打と、西武先発増田達至の四球で早くも先制する。
しかし、3回裏、九番鬼崎裕司に先発美馬学がライトスタンドへホームランを打たれ、さらに続く4回裏にも五番秋山翔吾にホームランを浴び、5回裏にも四番浅村にタイムリーを打たれ、1-3とリードを許してしまう。
だが、楽天は諦めない。
リリーフで登板したジム・ハウザーが好投し後続を断つと、7回表に2アウト満塁のチャンスが訪れる。バッターは四番アンドリュー・ジョーンズ。カウント2-1から西武の三番手野上亮磨のボールを打ち返し、ライトへの走者一掃のタイムリーツーベースを放ち、4-3と逆転に成功する。
その後もハウザー、斎藤隆の両投手が西武打線を完封。そして9回裏。札幌ドームで行われていた北海道日本ハムファイターズ対千葉ロッテマリーンズ戦にて2位のロッテが敗れたことでマジックが1に減り、9回裏を抑えれば優勝確実となり、いよいよ試合前の星野仙一監督の宣言通り、あの男がマウンドへ上がる。
マウンドに上がったのは言うまでもなく楽天のエース・田中である。
本来ならここで出てくる投手ではないが、今シーズンこの試合時点で22勝0敗という前代未聞の連勝を続け、今季の楽天快進撃の原動力となったエースに胴上げ投手を体験させようという、星野の粋なはからいであった。
満を持してマウンドへ上がった田中だが、この日は緊張からか変化球にいつものキレが無い。
一方この時点でパ・リーグ4位、クライマックスシリーズ出場へ望みを繋ぎたい西武も食い下がる。先頭の九番鬼崎はボテボテの内野ゴロだったが気迫のヘッドスライディングによりこれを内野安打とされ、さらに続く一番エステバン・ヘルマンにもフルカウントから四球を与え出塁を許す。二番片岡治大にはバントを決められて1アウト二、三塁の大ピンチを迎えてしまう。
走者二人はともに俊足で打球の行方によっては単打でも一気にサヨナラ負け、優勝お預けどころか田中の記録ストップまでありうる場面。両軍ファンのボルテージは最高潮に達し、異様な雰囲気が西武ドームを包む中、田中の8球が始まる。
打席に立つはライオンズのキャプテンにして高い得点圏打率を誇る三番栗山。
第一球が外角低めのストレート(152km) 栗山は見逃し、判定はストライク。
二球目も同じく外角低めのストレート(151km) 栗山はハーフスイングも、判定はストライク。
三球目、鋭い眼光でミットを見つめる田中から放たれたストレート(152km)は外角低めに決まり、三球三振。まともにスイングすることすら許さず斬って捨てた。
抑えたものの、依然一打サヨナラのピンチ。そして打席に立つは最年少100打点を記録した四番浅村。
しかし、このピンチにも楽天ベンチには悲壮感も、焦燥感も無く、誰もが勝利を確信したかのような笑顔だった。
そして迎えた浅村との対決。
第四球目(浅村への一球目)はまたもや外角の少し低めへのストレート(151km) 浅村は空振り、ストライク。
五球目は外角低めへのストレート(152km) 惜しくも外れ、ボールに。
六球目は外角少し高めへのストレート(152km) 浅村は見送るも、判定はストライクに。カウントは2-1
七球目は外角低めへのストレート(150km) 浅村はしっかりと見極め、判定はボール。カウントは2-2に。
そして運命の第八球目。外角に放たれた剛球(153km)に浅村のバットは空を切り、田中は大空に吼えた。
東北楽天ゴールデンイーグルス、初めてのリーグ優勝が決まった瞬間であった。
この八球全てストレート。そして全て150kmを超えるという凄まじい内容。
試合内容も、逆転からの投手陣の好投という、まさに2013年の楽天を象徴するような試合。
その最後を、最早日本ではなく、世界のエースにまで成長した田中が決めた。球史に残る八球であった。
楽天はこの年のクライマックスシリーズ(CS)で初めてファイナルステージをホーム側(要するに後攻。さらに1勝のアドバンテージも与えられている)で迎え、ファーストステージで西武を下したロッテを迎え撃つ。楽天の3勝1敗で迎えた10月21日の第4戦、2回までに3点を取るものの、先発の辛島航が4回表に初出場でスタメンのロッテのG.G.佐藤に3ラン本塁打を打たれ逆転を許してしまう。しかしその直後の4回裏にジョーンズの2ラン本塁打で再逆転。さらに7回にはマギーのソロ本塁打で勝ち越し、8回に2点を追加して8-5とした楽天が、8回から則本、田中の継投でロッテを抑えて勝利し、斎藤にポストシーズン最年長記録となる43歳8カ月での勝利投手をもたらした。
読売ジャイアンツと対決した日本シリーズでは、共に3勝3敗で迎えた第7戦、3-0での9回表、前日に9回160球と熱投しながら、この年初めて公式戦で黒星を喫した田中が本人の志願により連投で登板。この回のトップバッター、5番村田修一に対しては2ストライクと追い込むも中前打を打たれ0死一塁。続くバッターは前日田中から3安打を放った6番坂本勇人。こちらは2ストライクと追い込み、最後は141km/hのスプリットで空振り三振を奪う。7番ジョン・ボウカーにはカウント2-1からの4球目、139km/hのスプリットを打たせて仕留めるもその間に一塁ランナー村田は2塁へ進み2死二塁。8番ホセ・ロペスに対しては初球を打たれ2死一三塁と一発同点のピンチを招くも、9番脇谷亮太の所で代打に入った矢野謙次を空振り三振に仕留めた。この瞬間、楽天の球団初の日本一が決まり、セーブを挙げた田中が胴上げ投手となった。なお田中はポスティング・システムにより翌年からメジャーリーグのニューヨーク・ヤンキースに移籍したため、これが日本第一期目最後の登板となった。
ちなみに、楽天が初のリーグ優勝を決めた試合で西武側で最後のバッターとなった浅村は2018年オフ、FA(フリーエージェント)権を行使し楽天へ移籍。則本、銀次、藤田、岡島、島内ら楽天V1戦士たちとチームメイトになった。
田中の8球に関する関連商品は、記念グッズが作られたらここで紹介してください。
掲示板
急上昇ワード改
最終更新:2024/04/27(土) 02:00
最終更新:2024/04/27(土) 02:00
ウォッチリストに追加しました!
すでにウォッチリストに
入っています。
追加に失敗しました。
ほめた!
ほめるを取消しました。
ほめるに失敗しました。
ほめるの取消しに失敗しました。