変形菌(へんけいきん)とは、動物的性質と植物的性質を併せ持つ不思議な生物である。かつては粘菌(ねんきん)ともよばれた。
概要
変形菌の生活環を大きく二分すると、アメーバ状の形態(変形体)をとり能動的に微生物を捕食する段階と、きのこのような胞子散布器官(子実体)を形成する不動の段階に分けられ、前者は原生動物のような、後者は植物や菌類のような性質である。
変形菌を見つけるには、梅雨の時期に朽木や落ち葉の上をくまなく探せばよい。この時ルーペは必需品である。初心者には朽木がおすすめだが、落ち葉にしか出現しない種類も多い。変形体を見つけられることもあるが、これから種類を同定することは通常できず、子実体をつくるのを待って初めて種類が判明することになる。採集した、あるいは変形体から成長させた子実体は、自然乾燥させた上で紙箱の底面に木工用ボンドで貼り付け標本にする。
変形菌は分類学的研究によって原生生物のアメボゾアに属するとされ、卵菌と同じく現在は菌類の系統(菌界)から離されてしまったが、伝統的に菌類学者の守備範囲であり、アマチュアの世界においても、変形菌の愛好家は菌類の愛好家と非常に近い関係にあるか、あるいは両方を兼ねる場合が多い。なお、高校生物の教科書でおなじみのキイロタマホコリカビなどの細胞性粘菌は、変形菌とは近縁ではあるが別の生物であり、混同されることが多い。
全ての変形菌は「~ホコリ」という種名を持つ。これは、本来「~ホコリカビ」だった名前の「カビ」の部分が脱落したものである。変形菌の子実体を他の菌類や昆虫の糞などと区別するための最も簡易な方法は、それを指で触った時に子実体が崩れて埃のようになるのを確認すればよいので、この共通の名前は変形菌の特徴をよく表しているといえるだろう。
最もよく知られている変形菌はモジホコリ(Physarum polycephalum)である。これはオートミールを餌として誰でも簡単に飼うことができる種類で、菌核の状態での長期保存も可能である。原形質流動や減数分裂のモデル生物として長い研究の歴史があり、2000年に日本の研究グループが、変形菌に迷路の最短経路を探索する能力(=複雑な情報処理能力→知性?)があることを発見した、有名な実験に用いられたのも本種である。この研究は、2008年10月にイグノーベル賞(認知科学賞)を受賞した。また、2006年には日本とイギリスの研究者たちが本種を用いて、変形菌の運動によって「遠隔制御される」驚くべきロボットを作り上げた。さらには2010年10月にはこれまた本種を用いて、変形菌に最適な交通ネットワークを設計する能力を発見したとして日本人ら研究グループがイグノーベル賞(交通計画賞)を受賞している。
南方熊楠と粘菌
博物学者の南方熊楠はおそらく変形菌学者として最も名の知られた人物である。
数多くの粘菌を採取し研究した。
彼が1929年にキャラメル箱に変形菌の標本を詰めて昭和天皇に進献した(もちろん不敬であり場が凍りついたが、結果的にはこれが非常に良い印象になった)逸話はよく知られている。また、昭和天皇自身も変形菌を研究し多数の新種を採集した。
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