SCP-5000とは、シェアード・ワールド『SCP Foundation』に登場するオブジェクト(SCiP)である。
SCP-5000コンテスト優勝作品で、テーマは『謎』であった。そのこともあってか、発表以来多くの論点が提示され、多くの考察がなされてきたオブジェクトである。本記事はそれら考察の総論として記述していくものとする。
概要
SCP-5000 | |
基本情報 | |
---|---|
OC | Safe |
収容場所 | サイト-22の標準的な保管ロッカー |
著者 | Tanhony |
作成日 | 2020年1月15日 |
タグ | 5000 british-occult-service ギアーズ博士 マナによる慈善財団 世界オカルト連合 倫理委員会 壊れた神の教会 外部エントロピー 感覚 放浪者の図書館 機械 蛇の手 記憶媒体 財団製 電子デバイス |
リンク | SCP-5000![]() |
SCPテンプレート |
SCP-5000報告書は非常に長大な記事であるが、その中におけるSCP-5000それ自体の説明は端的にのみ書かれている。
おそらくかつて装着者を保護し、有益な影響を及ぼすための異常な機能を多数搭載していたと思われるも、現在は壊れていてファイル保存だけが可能である。この「壊れていてファイル保存だけができるパワードスーツ」というだけではそこまで重要なオブジェクトに見えないが、発見時、奇妙な事実が確認されている。それはSCP-5000が発見された場所と、そのときのSCP-5000の内容である。2020年4月12日、サイト-62CにあったSCP-579の収容チャンバーに、SCP-5000は閃光を伴いながら出現した。SCP-579といえば説明がすべて[データ削除済]と検閲されてしまっているオブジェクトであり、いまだになんであるかが明かされていないオブジェクトである。このいわくつきのオブジェクトのチャンバーに出現したパワードスーツの中には、財団職員ピエトロ・ウィルソンの、高所からの落下によると思われる鈍的外傷を死因とした遺体が納められていた。
このピエトロ・ウィルソンであるが、彼はSCP-5000発見当時、除外サイト-06で元気に勤務していた。またSCP-5000回収当時に収められていた記録が存在するのだが、現在のピエトロにはその記録で詳述された出来事についての知識・記憶がないことが記憶補強セラピーによって確認されている。
では、その記録を確認してみよう。
アーカイブ記録
アーカイブされた記録は主にピエトロ・ウィルソンが思考転写で書いているとされる日誌と、確認した記録・映像をピエトロがダウンロードしたとされるものにわけられる。いずれにしろピエトロが直接または間接的に目撃できた内容のみが記されていることになる。もちろんここでいうピエトロ氏は元気に働いているほうではなく、パワードスーツの中で亡くなっているほうのピエトロである。
2020年1月2日、機動部隊ゼータ-19 ("ロンリー・オンリー") と称する一団は除外サイト-06を訪れた。財団の身分証明を持つ彼らは除外サイト-06に受け入れられ、その後食堂に職員たちを集めると、彼らを射殺し始めた。ピエトロは逃走し、除外ハーネス――後にSCP-5000と呼ばれるパワードスーツにたどり着いて一命をとりとめた。この除外ハーネスとやらは、着用している人間を他の者から認識できなくするスーツであるという。そこにいることそのものは見えているが、見えているという事実がかき消されてしまうのだ。まあ要はひみつ道具の「石ころぼうし」である。
ピエトロはスーツを着用し、その後急に足がすくんだが、認識されないため彼は殺されることはなかった。機動部隊ゼータ-19は何もそこから奪い去ることはなく、ただ職員の死体をチェックすると、全員の頭部に1発ずつ追加で発砲した。――彼らはただ、殺しに来たのだとピエトロは理解した。
この除外ハーネスは優れものであった。これはただ事実上の透明人間になれるだけではなく、着用している間着用者の生命を維持し、食事も睡眠も必要なくなる。もっとも、ピエトロの心はまだミネラルウォーターを必要としていた。
彼は何時間も砂漠を歩き、ようやくセーフハウスにたどり着いて、財団に連絡を取ろうと試みた。この段階では機動部隊ゼータ-19をどこぞの要注意団体のスパイかなにかかと考えていたのだ。しかし、事実は違った――
現時点で私たちの存在を知らない方々へ: 私たちはSCP財団という組織を代表しています。私たちのかつての使命は、異常な事物、実体、その他様々な現象の収容と研究を中心に展開されていました。この使命は過去100年以上にわたって私たちの組織の焦点でした。
やむを得ない事情により、この方針は変更されました。私たちの新たな使命は人類の根絶です。
今後の意思疎通は行われません。
SCP-5000 - SCP財団
より,2022/12/27閲覧
そう、財団が人類の根絶をはじめたことを全ての政府、報道機関、異常組織に通知したのであった。
そして、このメッセージを送った直後、財団は恐るべきことをはじめた。ソーシャルメディアネットワークに、SCP-096 (”シャイガイ”) の顔の画像が流布された。SCP-169 (リヴァイアサン) に向けて核爆弾が落とされ、身動ぎした怪物のせいで地震と津波が発生した。SCP-662 (執事のハンドベル) が呼び出す執事・デーズ氏は数カ国の首脳を暗殺した。SCP-610 (にくにくしいもの) のウイルスは大都市に散布され、市民と散布した財団エージェント自身が感染し、都市を覆い尽くしている。世界オカルト連合と壊れた神の教会はなんとかそれ以上のSCP-610の拡散を食い止めている。そして最も恐れるべきことに、
にくにくしいものたちに汚染された都市で、ニュースキャスターがGOC(世界オカルト連合)避難テントから報道している様子を見ながらピエトロは世界の状況に困惑していた。彼は、幼少期を思い返した。シャーロック・ホームズに入れ込んだ幼き日のピエトロ少年は、父の鉢植えを引っくり返している犯人を探そうとスパイカメラで壁を録画したのだった。とにもかくにも近くの財団施設に向かい、状況を知ろうと試みた。なにをしようがしまいが状況が変わらないなら、なにかするほうがいい。彼が次の目的地に定めたのは、近傍の財団施設、サイト-19であった。
The Way to Site-19
ピエトロがサイト-19にむけ、セーフハウスを出て数日のこと。彼は奇妙な光景を目にした。おそらくは機動部隊イプシロン-6 (“村のアホ”) と思しき財団の兵士たち。指揮官は兵士9人に検査を行うと称して、一人ずつ肩をナイフで突き刺していく。しかし彼らは反応しない。静かに指揮官に命じられるまま傷を手当する。しかし、8人目の兵士は顔を顰めて声を上げてしまう。
すると指揮官は「生存者を発見!」と叫んで他の兵士とともに銃を抜き、彼を射殺してしまった。その後冷静に9人目の肩を突き刺し、反応を示さないことを確認すると、8人目の死体を放置したまま、皆そのエリアから退去した。ピエトロはその死体から武器や医療用品を回収すると、可能な限りの埋葬を試みる。
さっぱり訳が分からない。
SCP-5000 - SCP財団
より,2022/12/27閲覧
疑問に思いながらも彼は歩みを止めない。次に彼は古いラジオから奇妙な放送を聞くことになる。
<記録開始>
声: 七。五。私の声が聞こえるか? 君の瞼の間の穴の中に光り輝く穴がある。私は今までヴェルサイユに行ったことが無い。私は愛されたい。九。私は今君の後ろに立っている。五。私は私たち二人で、今君の後ろに立っている。女神が海中の都を食べる。九。床に穴があってその中で答えが待っている。七。見よ、君は孵化している。君は孵化している!
<記録終了>
SCP-5000 - SCP財団
より,2022/12/27閲覧
彼がラジオを拾い上げると、ラジオは修理できないほど破損していることに気付く。そしてメッセージは止まるのだった。
自身の正気を疑いながらも、彼は歩みを止めない。彼は、車に乗れば流石に気付かれてしまうことに思い至り、徒歩でサイト-19に向かって進んでいた。彼は、ただ答えを知りたかった。後で死ぬことになろうとも、彼は財団サイトという毒蛇の巣に向かっていた。
それが普遍/不変であるかのように
彼はサイト-19に辿り着いた。セキュリティというものは崩壊していた。どのみち財団はアノマリーをもはや収容していないか、あるいは積極的に役立てているのだから、それで問題はなかったのだろう。財団職員たちは、それが普遍であるかのように、それが不変であるかのように、どうすれば人間を最大効率で殺すことができるのかを議論していた。彼らの目にはもはや正気はなかった。ピエトロは上級スタッフから資格情報をくすねると、財団データベースから宣戦布告前の出来事を洗い出し、時系列をまとめた。
2019年12月16日、O5はPNEUMAというプロジェクトを特殊機密に指定した。人間の集合的無意識、心理空間を重視した大規模記憶処理プロジェクトであったらしく、その心理空間のマッピングを行うと、重大な発見があったようだ。黒塗りにされていたが。そして翌日にはO5評議会で何がしかの投票が開始され、倫理委員会も同意の元それは全会一致で可決される。2日後の2019年12月19日には一連の指示が全ての上級スタッフとサイト管理官に送付された。この指示も黒塗りになっていたが、その指示を読んだスタッフが次々に自殺、あるいは財団を辞職している。辞職した中には、チャールズ・ギアーズ管理官も含まれていた。
しかし、数日経った2019年12月22日、多数のファイルが、その資料を部下にも配布せよという指示とともに残存する上級スタッフ・サイト管理官に配布されると、自殺と辞職の波はピタリと止まったのであった。そして財団は、クリスマスに財団サイト内外の通信を完全に遮断。人間であるか、人間に共感を示すアノマリーはこの日を境に各サイトのスタッフに終了され始める。辞職したギアーズ博士に暗殺部隊が差し向けられる (成否は不明) 。年が明け、2020年1月2日に機動部隊が全ての除外サイトに派遣され、全ての職員を処刑する。そしてこれが終了すると、財団は人類に宣戦布告した。
話の腰を折ることを承知でここで補足させてほしい。ピエトロも勤務していた除外サイト群はスクラントン現実錨という技術を活かして作られた施設群である。スクラントン現実錨は強制的に現実強度 (ヒューム値) を特定値に固定することで内部の『現実』を外部の現実歪曲から守ることができる技術であり、これを活かして財団の機密情報を異常による遡及的歴史改竄から保護する目的でこのようなサイトが建造されたわけである。
SCP-5000以外でこの除外サイトが言及されるのはSCP-3936 (職務に忠実であれ) が著名か。このオブジェクトでは、まさにその除外サイト-01がSCP-3936となっており、本報告書に登場するふたりのピエトロが働いているとされる除外サイト-06の説明には、原文ではSCP-3936へのリンクが貼られている。
ともあれ、財団はその除外サイトの職員を皆殺しにした。この行動にも謎は残る。
話を戻そう。ともあれ、財団は人類に宣戦布告すると、すぐに行動を開始した。それは「アノマリーの解放」という形で行われた。SCP-1370 (困らせルボット) はテレビで世界をどう征服するか取止めもなく話し続けている。SCP-1048 (ビルダー・ベア) はたくさんの「お友達」とパリの町を駆け抜けている。SCP-1290 (未完成テレポーター) を通じて、財団職員たちは世界オカルト連合の施設に押し入りを開始した。SCP-1440 (どこでもない地からの老人) はあちらこちらの難民キャンプに移送されており、彼の存在により破滅的な出来事が発生している。奇妙にも財団職員たちはその影響を受けていないようだ。そんな中、英国オカルト庁 (MI666) はロンドン市民にSCP-1678 (裏ロンドン) への避難を指示した。――それが財団の思うツボだとは知らぬまま。多数の市民が逃げ込んだ裏ロンドンで、核爆弾が起爆される。
ピエトロは苛ついていた。なにしろ、世界が終わるというのに、多くの機密情報は黒塗りなのだ。今更何を隠すんだ、と。そして同じく、彼は困惑さえしていた。この行動には合理性がない。欠陥のある未完成テレポーター[1]で突撃するよりもミサイルの一発でもくれてやったほうがよほど効率的なのは目に見えてわかっているからだ。
Can't fit round pegs in square holes.
ここで前回の記録から3ヶ月も経って漸く新しい記録がなされたうえ、ピエトロの記憶も同じだけ消えていた。このスーツを着ている限りファイル削除が可能なのはピエトロ本人であるはずだが、消した記憶も当然ない。ハーネスは損傷していないにも関わらず、自身は傷跡がいくつかあり、こめかみに包帯を巻いていた。荒事に巻き込まれたのか、崖から飛び降りたのか。
ともあれ彼は導かれるままにブリーフケースを持って国を横切っている。理由はわからないし、目的もわからないまま、行くべき場所だけがわかっている。ブリーフケースに何が入っているかも思い出せないが、――それは丸くないし、それをSCP-579まで持っていかなければいけないことは理解している。つまりSCP-055であろうと推察されるが、SCP-055は財団職員ですら記憶できないので名前は言及されない。
更にいくつかのファイルが削除されたのち、新たな記録がなされている。ここでは何故手に入ったかわからない記録を元にSCP-579を目指していることが明かされている。
更にいくつかのファイルが削除されて、彼はブリーフケースを開くと、次に彼は数マイル離れた場所にいて、激励を受けたかのように心が温まっていることを記録している。辛くなると彼はケースを開いていたが、そのたびに記憶を失うのだ。
ふたたび話の腰を折ろう。そもそもSCP-055とSCP-579とは何なのか。SCP-055 ([正体不明])は自己検閲特性 (反ミーム) を持つアノマリーで、それについて覚えておくことができず、記録も失われてしまうという何もかも謎のアノマリーである。ピエトロの記憶と記録が忘却及び削除されているのはSCP-055のせいであろう。
そしてSCP-579 ([データ削除済])だが、こちらは概要が全て財団によって検閲されてしまったなにかである。こちらは反ミーム特性は有さないとみられるが、黒塗りのためにその正体はピエトロさえも知らないようだ。つまり、ピエトロは自分でもわからない理由で、わからないものをわからないものと引き合わせようとしているのだ。
ともあれ、彼は道すがら見つけた財団職員の死体から新たな情報を知ろうと試みた。財団はイエローストーンを噴火させ、SCP-2000 (機械仕掛けの神) を破壊した。SCP-2200-3 (ソウルベルグ) はSCP-2200-4 (SCP-2200-1という発光する剣が腕にくっついた、SCP-2200-2個体によって殺害されたのち生き返った人たち)で溢れかえっていた。SCP-2200-1は大量生産されたようだ。SCP-2241 (キャメロン・ザ・クルセイダー) という7歳の現実改変能力を持つ少年に、難民キャンプを悪の組織であると信じ込ませて退治させているようだ。SCP-2466 (ドラゴンを倒して街を救おう) のテキストベースのメガリザードンXと同調するカリフォルニア州の住民たちは、生き残ってなお「りゅうのまい」や「はねやすめ」、「フレアドライブ」や「ドラゴンクロー」を強いられ、社会性もろとも滅びてしまった。SCP-2639 (ビデオゲーム・バイオレンス) のメンバーは人間の攻撃に派遣されていたが、気付いて協力要請を拒否しているようだ。
Disgusting...
ピエトロは、彷徨い歩く世界オカルト連合の一団と焚火を囲む。危険を冒す真似をしたくないため、彼らに自分がいることを伝えることはない。それでも彼はスーツの能力を活かし、コーヒーを淹れる世界オカルト連合の兵士たちの接続からデータベースにアクセスする。
ピエトロが見たインタビューログ群、そのなかで唯一、捕縛された財団職員が世界オカルト連合に口を利いた珍しい事例があった。世界オカルト連合のモリソン指揮官の尋問に答えるのは、機動部隊オメガ-2 (“秘密の守り手”) の隊員、サミュエル・ロス。
とはいえ、ロスはモリソンに薄ら笑みを浮かべてインタビューに臨んでいる。
いや、つまりだな、君たちは情報を手に入れれば役立つと思ってるかのように俺を尋問するが、俺からして見ると、君たちには実際に何かできるような時間の余裕は無い。何度アベルをけしかけたところで、クロウ教授のエウロパはそう遠からずこの街を真っ二つに引き裂くだろう。なのに君たちはまだ何か打つ手があるかのように振る舞う。それはイカレているとは思わないか?
SCP-5000 - SCP財団
より,2022/12/27閲覧
ここでいう「クロウ教授のエウロパ」とは、クロウ教授が乗っているSCP-244-ARC (エッグウォーカー) のことであろうか。様々なアノマリーを利用して作られたスーパーマシンであり、――まあビール片手に街一つ滅ぼせるくらいのパワーとスピード、そして美味しいビール供給が可能である。SCP-076-2 (”アベル”) は何らかの理由で世界オカルト連合に味方しているようだが、最強の太陽の子も圧倒的物量には及ばなかろう。
そして焦れたモリソンが拷問を行うと伝えると、ロスは「言ってほしくは無いだろう」という。モリソンがそれでも聞きたがると、ロスは何かを言う。
モリソン指揮官: さっさと吐け、ロス。お前がぐずぐず引き延ばすと、こちらも不愉快な手段を取らざるを得ない。
(沈黙。)
ロードス博士: 声量を上げろ。これ以上マイクのゲインは上げられん。
(モリソン指揮官とロードス博士が大声で叫んでいるのが聞こえる。湿り気のある亀裂音と、吹き荒ぶ風の音も聞こえる。叫び声は時間と共に甲高くなっていき、録音の残りを通して継続する。)
サミュエル・ロス: 君たちが自分自身に何をしたか見てみろ。聞きたくないだろうと言ったよな? だから忠告を聞くべきだと言うんだ。なのに君たちは酷く知りたがった。俺は君たちをとても気に入っていたから親切であろうとした。俺たちは君たちにとても親切なんだ。俺たちが光の中で戦うことによって、君たちは暗闇で死ぬことができる。
(沈黙。)
SCP-5000 - SCP財団
より,2022/12/27閲覧
読者諸兄にSCPをディープに楽しんでいる者がいれば、このやりとりだけでとあるアノマリーを想起したのではなかろうか。すでにここまでに登場している、あるアノマリーを。
ピエトロが得た他の情報では、世界オカルト連合の要塞都市はインタビュー直後に滅びたことがわかった。世界オカルト連合はもう終わりかもしれない、とピエトロは思った。
敗走している世界オカルト連合にもはや期待できなくなったピエトロは、どんどん無力感を強めていく。彼は必要でない飲み食いをやめた。どうして579に向かっているのか、彼は解答を得られていない。そんな折にも、財団はアノマリーを解放しつづけている。財団は壊れた神の教会が復旧したインターネットに、SCP-3078 (認識災害クソ投稿) をアップロードした。この画像を見るとその人は笑い死にしてしまう。だからまたインターネットは使い物にならなくなってしまった。更に世界オカルト連合を下した財団は、次の邪魔者である壊れた神の教会を叩き潰すため、SCP-3179 (子孫) ――自分をMEKHANEだと思いこんでいる液体金属の化け物を解放した。これによりSCP-3179がMEKHANEか否かの宗教論争が巻き起こり、壊れた神の教会は機能しなくなった。そして、人や動物を食い荒らすSCP-3199 (誤れる人類)の卵はあらゆる場所に投下されている。
足取りは重く
ピエトロはどんどん気が滅入り始めた。彼はいくつかの奇妙なものを目撃した。一つは" 瞬き像 "。財団製と見られる機動部隊の制服姿の兵士の彫刻で、見られていないときその彫刻は動き出し、周囲の人々を切り刻む。ピエトロが見つめているときも彫刻は動かない。ブリンカーはピエトロの実際の場所を特定できないが、誰かがいることは気付いているようだ。手当り次第に攻撃されては命がないため、警戒して進まねばならなくなった。
そしてもうひとつは、空間ごとフォトショップのお粗末な加工のように引き伸ばされた人間のようなアノマリーである。この化け物を相手に、奇妙にも財団職員たちは戦っていた。いや、財団職員たちがアノマリーと戦闘することが奇妙であることが奇妙なのだが。とにかく彼はSCP-579を目指し続けていた。
ピエトロの心はどんどん乾いていた。助けられるはずの少女を、彼は見殺しにした。
私はクズだ。
SCP-5000 - SCP財団
より,2022/12/27閲覧
SCP-4290 (飢えたる子) というクラスI終末論的実体はSCP-914 (ぜんまい仕掛け) とSCP-008 (ゾンビ病) によって蘇生され、蛇の手の怪獣使い (Kaijumancers) と戦ったようだ。更にSCP-4666 ( 冬至祭の男 ) は血みどろのクリスマスをもたらしている。ピエトロはやってられるかと記録を放棄し始めた。
そんな彼がある日、宝石店に入ると、そこには焚火を囲んでいる少女がいた。少女はピエトロに気付くと、警戒を強める。ピエトロは冷静に、「あなたの首飾りに見覚えがある」というと、それでもなお警戒する少女に、自分は財団の追手から逃げ延びた者であると伝えると、漸く少女はピエトロの顔を覗き込む。彼女は――いや、彼はピエトロが酷い顔をしていることを確認する。いつ寝たかを問われ、寝る必要がないと回答するピエトロに、「寝る必要はある」と忠告した。
少女: 随分と素敵な小道具を手に入れたね。 (身振りで首飾りを指す) 交換しない?
ピエトロ: (笑う、続けて咳) まさか! あのファイルは読んだよ。
(沈黙。)
ピエトロ: (含み笑い) オーケイ、あれは確かに少し面白かった。
(沈黙。)
少女: じゃあ、君も逃げたのか。いやその、私はとりあえず君が財団職員であり、この人生を通してイライラさせまくった大勢のうち1人が復讐に来たんではないと仮定しているけれども。
ピエトロ: その2つは同じでは?
少女: (笑う) なかなか言うじゃないか!
SCP-5000 - SCP財団
より,2022/12/27閲覧
こちらもSCPをディープに読み込んだ者なら、少女が何者かわかろう。要は彼女の人格はSCP-963 (不死の首飾り) のそれである。おふざけをやらかすことで有名な彼であるが、いっぽうで上級スタッフであるゆえにファイルを送付された者であった。ギアーズ博士が離職し、クロウ教授が大量殺戮犬になってしまった例のファイル。しかし彼はSCP-963のせいもあってか、2つ目の符号化された何かが書かれているであろう、画像のファイルを見ても変化しなかった。なにか、解放されたような感触だけが残るだけであったのだ。そしてギアーズ博士同様に暗殺部隊を送り込まれ、逃走しているところだったようだ。
彼はピエトロがSCP-579を目指していることを知ると大笑いし、しかし自分もまたSCP-1437 (ここではないどこかへ続く穴) にSCP-963を投げ込もうとしていることを告げた。互いに死出の旅である。互いに激励し合うとふたりは別れてまた、旅を続ける。
旅の果てに
そして、ついにピエトロはサイト-62C、つまりSCP-579に辿り着いた。他のサイト同様にセキュリティはもはや機能していないように見えたそこに、ピエトロは足を踏み入れる。SCP-579が何かはわからないがしかし、自分を覗き込まれているような感覚をピエトロは覚えていた。
そしてピエトロは先を進むが、そこで思わぬ歓待を受ける。そう、ここにもブリンカーたちはいたのだ。ブリンカーはピエトロを認識していないだけで、手当り次第に周囲を切りつけ、ピエトロはダメージを負ってしまった。それでもなおSCP-579にたどり着いたが、そこで彼は大きな謎にぶち当たった。この事態を招いた者が何者か、この事態を招いた方法は何か、ピエトロは気づいた。だが――
どうしてこんな事が起きている? どうして財団は人々を殺している? どうしてこんな事が起きている? どうしてO5は皆にファイルを送った? どうしてこんな事が起きている? どうしてガンジルは陥落した? どうしてこんな事が起きている? どうして私は世界を旅してこのブリーフケースを運んで来た? どうしてこんな事が起きている?!
どうして私は此処にいる? どうして私はこんな事をしている? どうして… どうして私は死のうとしている? 理由はあるのか?
SCP-5000 - SCP財団
より,2022/12/27閲覧
SCP-579に通じる穴がある。ブリーフケースを投げつけ、SCP-579にぶつければ、事態を解決できる。だが、単に投げつけても、ブリーフケースはSCP-579に掠りはしない。自分が穴に飛び込んで、ブリーフケースをぶち当てない限り。これはピエトロの死を意味する。無論、ここまで来てピエトロは死ぬことなど厭いはしない。しかし、彼は結局、どうして、こうなったのか、その解を得られなかった。彼は、この記録を読む人がいれば、探り出して説明してくれと願うと、穴に飛び込む。
Why?
SCP-5000 - どうして?
ああ … そういう事だったのか。
生命反応が消失しました
SCP-5000 - SCP財団
より,2022/12/27閲覧
これが、SCP-5000 - 『どうして?』のすべてである。ここからは解説に入ろう。
大前提の議論
重要な議論を進める前に、大前提となる議論をやっておきたい。それはなにかというと、「そもそもSCP-5000のアーカイブは正しい映像なのか」という点である。なるほど、アーカイブによればSCP-5000は石ころ帽子のように装着者を認識できなくする効果、飲み食いと睡眠をせずとも生命維持可能な効果、思念転写機能、ハッキング機能と選り取り見取りの能力を持つ。そのような能力があるならピエトロが旅を続けることができ、かつそれを記録できたのは間違いないだろう。
しかしSCP-5000の報告書としては、
こと以外の再現性がないのだ。故に、「SCP-5000というのはそういう思わせぶりな記録がされているだけの、ただの壊れたパワードスーツなのではないか」という説も唱えられてきた。メタ的に言えばそんな簡単な結論なわけがないだろう、というのも言えるのだが、ここではメタ的な話ではなく、SCP-5000の文章から見てもSCP-5000に異常性があることを主張してみたい。
まずこれは、財団の中でもトップクラスの機密であるはずのSCP-579のチャンバーで発見された。SCP-5000をいたずら目的で作るとしても、こんな場所で発見されるというのは考えにくい。そして、遺伝学的にピエトロ・ウィルソンである遺体が、本人が生存しているにも関わらずSCP-5000内部から発見されている。ピエトロは穴に飛び込んで亡くなったが、SCP-5000内部のピエトロの遺体も高所からの落下によると思われる鈍的外傷が死因と推定されている。
なにより、SCP-5000ファイル内の財団はともかく、通常の財団は必要のない殺人はしない。いたずら目的でピエトロのクローンを作って殺害するほど、財団は残酷ではない。
参照する先行考察
ということで、記録を取り敢えず真実と捉えることとしたところで、本オブジェクトを読む上で最も重要な論点は、以下の2点であろう。テーゼと言い換えてもいいかもしれない。
しかしながら、この二大テーゼを解き明かす上で、このままでは明らかにパズルのピースが足りていない。そこでそれぞれのテーゼごとに見ていかなければならない論点を時系列に沿って洗い出そう。
序文でも述べたが論点の洗い出しも先行考察が素晴らしいものをやってくれている。ここで参照するサイトは3つ。
- 【SCP解説/紹介編 第37回】SCP-5000- Why?(議論編) - ニコニコ動画
- SCP-5000 – どうして?内容整理と考察 | SCP読書ノート
- SCP-5000 - アニヲタWiki(仮)
1つ目はニコニコ動画でSCP解説者及びボカロPとして活動しているあわけんPのシリーズ『時止めゆかりさんのSCP解説』の第37回。様々なSCPに鋭く切り込む氏の動画では、本大百科でも議論したい最重要な論点が取り上げられている。
2つ目はこれもSCP考察においてはおなじみ、『SCP読書ノート』。こちらも重要な論点を軸に議論を進めている。
3つ目はニコニコ大百科と同じUGC百科事典サイト、アニヲタWiki(仮)。他のサイトよりも細かく論点を拾っている。あわけんPと読書ノートで挙がっていない点の補完として、これ以上ないサイトである。
この3者であがっている論点を整理し、そして、他のサイト・動画における考察も踏まえていくつかのカテゴリにわけていく。こうすることで、読者諸兄もSCP-5000がいままでどういう点で議論されてきたかを追いやすかろう。
なぜ財団は理念を捨て、人間を根絶しようとしているのか?
財団職員はどうして人間に敵対的になったのか?
- どうして財団は人間を抹殺しはじめたのか
- どうして当初財団に自殺者や離職者が多発したのか
- どうしてその自殺と離職は止まったのか
- どうして除外サイト-06の職員は機動部隊に虐殺されたのか
- どうして人間由来、あるいは人間に共感を示すアノマリーを処分したのか
- どうして人類種の存続に有用なアノマリーを処分したのか
財団の理念は「確保、収容、保護」である、というのは親の顔より見た文章であろう。しかしその根底にあるのは「正常性の維持」である。正常な世界を守るため、ひいてはそこで生きる人類種の存続のため、財団はありとあらゆる手段を用意してきた。
しかしSCP-5000アーカイブ内で、財団はアノマリーからのセーフハウスであったはずのSCP-1678 (裏ロンドン) や、リセットボタンであったはずのSCP-2000 (機械仕掛けの神) を破壊してしまっている。特に後者は財団理念上はまずあり得ない行動であり、仮に今の人類種に大きな改変があったとしても、財団であればそれらが滅びたとしても非異常の人類種を再生産するはずであろう。
財団職員はどうして人間らしさを感じさせないのか?
財団は人類種の敵となったが、そうはいってももともと財団職員たちも同じ人間であるはずである。――はずなのだが、どうにも生き残った財団職員たちからは人間味を感じない。ピエトロがサイト-19に潜入した際、そこにいた職員たちは死んだ目で虐殺について議論していた。そして何よりナイフのくだりは非常に奇妙である。痛がったひとりを「生存者」と呼んで即座に射殺したが、それでは残る指揮官と兵士8名は「生きて」いないのだろうか?
財団はどうして人類種根絶のために非合理な方法をとるのか?
財団が目論むのは人類種根絶のようである。しかしその割にはかなり悠長である。確かにSCP-682、我らがクソトカゲは強い。こいつが一度市街地に出れば、何者でも倒すことはできないだろう。しかしクソトカゲは他のアノマリーとクロステストしているときを除き、別にビームを撃ったり地震を起こしたりすることはできない。通常のSCP-682の能力は「のしかかり」「きりさく」「かみくだく」「じこさいせい」でおしまいだ。都市を滅ぼしたいのなら、クソトカゲを路上に放つよりは核爆弾でも撃ちこんだほうが早いのだ。
それどころか欠陥だらけのSCP-1290 (未完成テレポーター) で直接敵対組織の本拠地に乗り込んだり、挙句威勢だけで何もできない困らせルボットくんの政見放送をわざわざ全チャンネルで放映したりと無意味な行動が目立つのだ。
実はこれについて考えるためのヒントがSCP-5000には提示されている。このSCP-5000の最後に『SCP-579』と題された、ただの真っ黒な画像が掲載されている。この画像はステガノグラフィ[2]で隠し文章が記されていて、その内容はテジャニ (Tejani) とワン (One) という2名の人物による会話である。
テジャニは倫理委員会の委員長オドンゴ・テジャニ、ワンはO5-1のことであろう。ワンはテジャニに、「PNEUMAのスタッフから報告を受けた」と書類を見せる。テジャニは驚愕し、「我々もなのか?」とワンに問いただす。ワンはそれを肯定し、忌々しいトカゲ――SCP-682に同意する日が来るとは、と述べた。そしてまずは治療法を職員たちに広めなければ、そうしないとこいつは我々を止めようとするだろう、と行動指針を示した。最後にテジャニが「神よ我らを救い給え」というと、ワンはそれを制止する。「それは奴が言わせているんだ」と。
また報告書のソースコードにも、二人の会話の続きと思しきものが隠れている。
ではまずこれについて、大きく3つの説を提唱しよう。
人間性アノマリー説
1つ目の説は『人間性』こそがもともとアノマリーである、財団はそれに気付いたのだとする説である。そもそも、人間とはいったいなんであるか?ホモ・サピエンスであれば人間であるか?――否。PNEUMA (プネウマ) とは存在原理を示す語。では、『人間の存在原理』とは?他者に共感する。自身の苦悩を感じ取る。故に痛む。これこそが人間を人間らしくしている重要なファクターである。そして、共感をすることがなければ、他人によりそうことがなければ、苦悩を感じることがなければ痛まない。そうした、人間が人間であるがゆえの痛みは、人間を人間らしくしている『人間性』を有するがゆえに覚えるのだ。つまりこの説における「奴」とは「人間性」を擬人化した表現である。このことから『退屈ブレイキング』では「人間性」や「痛み」では説明がつきにくいとして、「共感力」と推し進めた語で解説を行っている。
そして、これまで守ってきた「正常性」とはすなわち「人間性」によって築かれた人間社会である。これを維持するということはすなわち、アノマリーの影響をあるがままにするということになる。故に、財団はその理念たる「(誤った) 正常性の維持」、そしてそこから導かれる「確保・収容・保護」を放棄した。正しい「正常性」を取り戻すためである。そして、わかった事実についてまずは財団の上級スタッフやサイト管理官たちに公開した。しかし、それを読んだ多くの者は驚愕した。当たり前である。今まで自分たちが正常であると確信していたものこそが異常であるということ、そしてその異常を守るために仕事をしてきたという事実をつきつけられてしまっては、仕事に対する誇り・使命感が根底から覆されてしまうわけである。だから彼らは離職したり、自殺することになった。
「正常性を取り戻す」必要があるこの時点で財団の限りある有能な人材をみすみす手放す訳にはいかない。「職員たちを真っ先に治療しなければ、人間性によって我々の「正常性」を取り戻すための行動は阻害されてしまう」、そう考えた財団は残った上級スタッフやサイト管理官にあるファイルを公開した。おそらく、「人間性」を喪失させるミームエージェントのたぐいであろう。あるいは、「治療薬」。これと同時に、除外サイトの人員たちはミームエージェントを送ったところで、除外サイトの特性上影響を受けないため殺害するわけである。
さて、財団の残存人員を治療したところで、まだ地球には70億の異常を抱えた人類がいた。もともと「あまりに多くのサンプルがいる」アノマリーは一部を残してあとは殺処分するというプロトコルは当たり前に見られるものであった。ましてや、今となっては確保・収容・保護すら必要はなくなった。だから、人類は財団にとってもはや保護対象ではなくなった。故に滅ぼす。人類に共感を示す、あるいは人類由来のアノマリーももはや既知の異常の過剰なサンプルでしかない。人類種の存亡にかかわるアノマリーは、即ち無駄なサンプルを残すための道具でしかない。故に、処分する。
本来の人間性は「痛み」を覚えない。故に痛がる隊員は殺される。拷問をいくら受けてもへっちゃら。SCP-1440も、そしてSCP-173でさえも人間性を持たない者は対象としないだけだった。それらは人間性に反応してやってくるだけだとわかったのだ。多くのアノマリーも、人間という異常の前には異常ではないし、今の財団にとっては恐ろしいものでもない。だから解き放ったのだ。
ただしこの説であるが、ぶっちゃけそれだけならTiconderogaなりExplainedとでもしておけばいいじゃないかというツッコミも入れられる。確かに人間には異常が巣食っているといえるが、その状態を受け入れて収容を諦めるなり、SCP-8900-EX (青い、青い空) のようにアンニュイ・プロトコルを適用するなりすればいいわけであるからだ。これを発展させたのが次の上位実体説である。
上位実体説
人間性アノマリー説と似通っているが、こちらは人間性そのものではなくある上位実体の存在によって人間が操られているというもの。「サルでもわかるゆっくりSCP解説」のこちらの動画では、「無意識に寄生する異常存在を宿主=人類ごと絶滅させるため」という説を唱えている。この異常存在によって人間は痛みを感じるように仕向けられているというわけである。ファイルについても、こちらは「寄生する存在に気付かせるためのミームエージェント」ということになる。ただし、一定数はこのミームエージェントに耐性があるため、宿主ごと処分するしかない、というわけだ (肩を刺されたときに痛がった兵士や、除外サイトの職員もこちらに該当する) 。
とはいえ、人間性アノマリー説と違い、こちらはSCP-5000報告書を読んだだけでは「どこにも上位実体を思わせる描写なんて出てこなかったぞ」と思われるだろう。ここでひとつ、SCP-5000についてとある指摘をあげておきたい。それは、このSCP-5000がもともとエドガー・アラン・ポーの「海の中の都市 (The City in the Sea)」を下敷きに書かれているとする説である (参考)。ピエトロが聞いたラジオの部分を原文で再び引用してみよう。
(Audio only. Voice is male, around my age, I'd guess.)
Voice: Seven. Five. Can you hear me? There is a hole shining in the holes between your eyelids. I have never been to Versailles before. I want to be loved. Nine. I am standing behind you now. Five. I am two of us, standing behind you now. The goddess eats the city in the sea. Nine. There's a hole in the floor with an answer waiting in it. Seven. Look, you're hatching. You're hatching!
SCP-5000 - SCP Foundation
より,2023/03/07閲覧
もともとSCP-5000は『Mystery (謎)』をテーマとしたコンテストの優勝作品であり、推理小説作家として知られるエドガー・アラン・ポーの先述の英詩の表題がそのまま上記引用文中に登場する。また同じく『海の中の都市』について指摘しているアニヲタWiki(仮)は指摘しているが、少年の身体から蛆虫が湧き出てくるシーンについても、『勝利の蛆虫 (The Conqueror Worm)』をイメージさせる描写としてTanhonyが挿入したのではないかという。
『海の中の都市』は死神に支配された海辺の都市が、下に下に沈んでいくという話。『勝利の蛆虫』は、絡繰師に操られ道化と化した人間が延々と演じる劇に、突如その道化を食い荒らす蛆虫が現れるというもの。つまり人間は操り人形でしかなく、痛みを覚えるのはそう演技をさせられているから。糸を繰る絡繰師がいなくなった道化人形は動かない=人間は生きていない状態になる。もっとも、ポーの詩ではそれは人間の「死」を意味するが、Tanhonyはここに別の意味をもたせた。これこそが、人間があるべき本来の正常性なのだと。
この正常性を取り戻そうとする 財団 を、お粗末なフォトショップによって引き伸ばされた 巨人 が妨害しようとしている。だから財団は巨人を攻撃しているのだ。また、全世界にミームエージェントを配布するのは時間がかかりすぎてこの巨人の妨害を受けてしまうために断念し、正常な人間も含め財団以外は皆殺しにしようとしている、と解説することがこの説ではできる。
アノマリーの人間に対する反応は人間性アノマリー説とかねがね同様であるため記述を省く。
上位実体説の派生として、「ミームエージェントは異常な人間と正常な人間を判定するためのものであり、異常な人間は上位実体により生み出された副産物である。財団は上位実体 (フォトショップの失敗作の巨人) を収容しようとしている」というものもある (この場合、財団は冷静に理念を守っているということにもなる) 。
とはいえ、SCP-5000報告書のベースとなったものがエドガー・アラン・ポーの詩であるとして、それ以上の伏線が張られているわけではないことには留意したい。本報告書を読むだけで上位実体説のヒントとなりうる要素は少ない。
SCP-682同調説
SCP-682は本オブジェクトにおいて解放されるという衝撃的な登場を果たしているが、実はもう一箇所、SCP-682ファンにとってはピンと来るであろう箇所がある。世界オカルト連合のモリソンがサミュエル・ロスにインタビューをする場面。『これ以上マイクのゲインは上げられん。』は、SCP-682のインタビューにおいても登場する重要なキーワードである。
██████博士: (D-085に向けて) これ以上マイクのゲインは上げられん、もっと近づくんだ!
SCP-682 - SCP財団
より,2023/03/07閲覧
また、ワンとテジャニの会話で、ワンも「あの忌々しいトカゲに同意する日が来ようとは」と話している。PNEUMAにおける調査で、人類の深層心理にSCP-682に近い側面が見つかった、ということを指し示すとしても不思議ではない。そしてそれを調査する過程でむしろSCP-682に取り込まれていってしまった、あるいは自発的にクソトカゲに同調したという仮説が『虎熊の視聴覚室』のこちらの動画や、アニヲタWiki(仮)の仮説3などで提案されている。
ただし、SCP-682のどういう側面を研究すればSCP-682に取り込まれてしまうのかという部分は完全にブラックボックスであり、またSCP-682のどういう側面に自発的に同調するのかについても不透明であるとは言わざるをえない。極端な話人間には残忍な面は言われてみればあろうし、それを理性や善性、隣人愛で抑え込んでいるのは今更指摘を受けることではない。
ただしこの説を採用せずとも、SCP-682が人間性がアノマリーであった、あるいは人間を操る上位実体に気づいていて「忌まわしい」と形容していたと考えることは可能である。SCP-682は単に不死身で再生能力があるだけではなく、対決する他のアノマリーについてその特性を理解することができていたので、人間を見て気付き得た可能性はある。Tale『忌まわしい (Disgusting
)』では、SCP-682が上位実体に気づいており、財団が同じものに気付いたことを評価するという内容となっている。
SCP-682同族説
『ゆっくり実況桜主』のこちらの動画で提案されているもの。上記の同調よりさらに踏み込んで、「実は人類には不死性人類と致死性人類が存在し、特定の条件で不死性が芽生える人がいる」というものである。そして、SCP-682に同意することで、死という異常から解放される。
この場合フォトショップの失敗作の巨人は人間に「人間性」をもたらす代わりに「死」ももたらしているということになり、上記3つの説のハイブリッドとなる。ただし、死の終焉ハブの作品でもないこのSCP-5000において多少飛躍した解説とはなるだろうか。
補足考察
なぜピエトロは、SCP-579を目指したのか?
さて、財団の行動理由を考察したところで、次はピエトロがなぜSCP-055を持ってSCP-579のもとに向かったのかを考察して行こう。
その前に、SCP-055とSCP-579がかけ合わさると何がおきるのか、読者諸兄らは知っているだろうか。具体的に何が起きるかは今日まで記載されたことはないが、「Ihp/Lockeの提言」(削除記事「ロジェの提言 - Keter任務」のリライト版)において"Can't fit square pegs in round holes." (丸い釘を四角い孔にはめ込むことは出来ない。) と記載されており、SCP-2998 (異常放送、2485 MHz) において世界のリセットが起きるということが示されている。
――ただし、これが起きることを知るものは上位スタッフの中にさえいない。SCP-963でさえ、そもそもSCP-579がなにか知らないのだ。ましてピエトロはSCP-055とSCP-579が何を引き起こすかも知らないまま、SCP-055をブリーフケースに入れてSCP-579のもとに向かっている。彼の旅の動機は「どうして世界がこうなったのか、どうして財団が変わってしまったのか」である。というより、そうであったはずだ。それにもかかわらず、SCP-055を持ってSCP-579のもとに向かうという謎を解き明かすには不可思議な行動を選択し、結果謎を解明できずに、未練が強そうな形で生涯を終えている。
これについて、この行動を選択する直前に何があったか。ピエトロはラジオからメッセージを聞いて、ラジオを拾い上げる。そのラジオは壊れていた。つまり、ピエトロはラジオからメッセージを聞いたのではなく、実際には別の何かしらの声を聞いていたのだ。そしてそれをトリガーに行動を選択した。ではピエトロに両アイテムを掛け合わせるように仕向けた『それ』はなんだったのか?
上位実体説
財団が人類を虐殺する理由として上述の上位実体説を採用する場合、当然ながら一番はやい話が財団が倒そうとしている上位実体がピエトロを操って世界を元の姿に戻そうとしているというのが理解しやすい話であろう。アニヲタWiki(仮)仮説2はこの説を採用している。『勝利の蛆虫(=財団)』によって『絡繰師(=死神)』は滅ぼされようとしているが、その帳を降ろさせる前に、ピエトロによってもう一度人形に紐を括り付けさせる。
ただし、これを成し遂げたピエトロは逆に死神と観客の拍手喝采を浴びながら、道化として死ぬのだろう。Pietro=Pierrot。
この説は正直あまりにも救いはない。答えが得られぬまま、自身がただ道化であったことを知って、ピエトロが「ああ … そういう事だったのか。」と独りごちる。その無念が強そうなその言葉さえ、言わされているだけなのかもしれない。
過去のピエトロ説
『ゆっくり実況桜主』のこちらの動画で提案されている説。ピエトロがSCP-055の入ったブリーフケースを開けた (=SCP-055に関する部分のファイルを消去した) のは、作品中では5回。そして、ラジオの文章は数字 (5-7-9) を起点とするとちょうど5つにわけることができる。すなわち、ピエトロはうまくいかなかったときにヒントを遺したあと、ブリーフケースを開けて除外サイトにリスポーンし、「つよくてニューゲーム」を行っているというもの。だからこのタイムラインのピエトロはハズレを引かずにSCP-579のもとにたどり着いたのだ。
「でもラストには答えは待っていることを穴にたどり着けなかったタイムラインのピエトロは確信できたのか?」という疑問はあるだろう。実際、ブリンカーに殺されたタイムラインのピエトロは答えが待っていることは期待していても確信は持てなかったはずである。ここの部分はピエトロが最後に穴にたどり着いたとき、飛び込みながらブリーフケースを投げなくてはいけない=回答を得る前に死ぬ可能性があるという場面で悔しがっている (穴の中で答えを見出す可能性を肯定できていない) 点からみても素直に首肯しがたい。
いずれにせよ、ブリーフケースを手放したことでピエトロはリスポーンできず、そのまま死ぬ羽目となった。
SCP-055とSCP-579それ自体説
上位実体のいるいないに関わらず、答えがそこにあることを知っている者として、もう一つ考えられるのはSCP-055とSCP-579それ自身である。自分たちであれば世界はもとに戻せることを知らせることができる。そして、辛くなったときにSCP-055はその心を暖かくしてくれる。
最後にピエトロが「ああ … そういう事だったのか。」と述べるが、これは自分たちの言う通りに引き合わせたピエトロに対するサービスとして答えを開示したと見える。
いずれにせよ、SCP-579の元までたどり着いたピエトロがSCP-055とSCP-579をぶつけたことで世界は元に戻り、名残としてピエトロの死体だけがそこに残った。
しかし、ピエトロの「どうして?」という疑問は解決されていない、あるいは解決されても開示されていない。――この世界もいずれ、また財団が人類を根絶しようとするのかもしれない。
余談
- ピエトロがデータベースにアクセスするたびに判明する、解放されたアノマリーのくだりは回数ごとに対応するシリーズ (1回目ならシリーズI、2回目ならシリーズII) で統一されている。1回目の場合、シャイガイ、リヴァイアサン、執事のハンドベル、にくにくしいもの、クソトカゲはすべてシリーズIである。
- 本報告書にはSCP-963を着用した少女こそ登場するが、『ブライト博士』とは一度も記載されていない。本報告書が執筆された2020年1月15日当時は名を指し示す必要もなくブライト博士であると結論できるが、2023年2月24日に本報告書著者のTanhonyは『登場する奴の名前を変える』と表明している。この日はdjkaktusがショー博士 (Dr. Elias Shaw) というブライト博士の代替キャラクターを生みだした日の翌日であり、暗に本報告書に登場するのはショー博士であると示したようなものである。
- ブリンカーはその特性からSCP-173から作られたものと思われる。
関連動画
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関連リンク
関連項目
脚注
- *SCP-1290 (未完成テレポーター)はその装置に入った物質をその速度とベクトルを維持したまま送り込むテレポーター装置である。地球は自転と公転を行っていることから考えても、まともに物体が飛ぶとは言えないのだが……。
- *データに他のデータを埋め込む技術。
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