中国語の部屋(Chinese room)とは、「うまく質問に答えられる存在でも、質問を理解しているとは限らない」事を示すための思考実験である。
この思考実験に関する論考・議論を英語で「Chinese Room Argument」、略して「CRA」ともいう。
元々は「質問に答える機能を持った人工知能」を念頭においた話だった。
しかし議論していくうちに「人間の脳」にも話題が広がっていくため、これを読んでいるあなたにも関係する話になっていく。
中国語は全然わからない、けれど英語は理解できる人が、ある部屋の中に入れられている。
この部屋を外から見れば、「中国語の質問を入れたら中国語の正しい回答が返ってきたので、この部屋は中国語を理解している」ようにも見える。
しかし、部屋の中の人は中国語を理解していない。ルールに従って並び替えただけである。この部屋の中には中国語を理解しているものなど誰も居ない。
あなたもそう思うだろう?
※便宜上、あなたが日本語話者であるという仮定の元に話を進める。
あなたの外から見れば、「日本語の質問に日本語で答えたので、あなたは日本語を理解している」ようにも見える。
しかし、あなたの脳の中に存在している神経細胞やシナプス各々は、日本語を理解していない。個別の機能を果たしただけである。あなたの脳の中に、「日本語を理解している単独の何か」など存在しない。
だからあなたは日本語を理解しているとは言えない。
あなたもそう思うだろう?
上記のうち、「部屋の場合」の部分が本来の「中国語の部屋」の思考実験である。
「あなたの場合」の方は、この「中国語の部屋」の思考実験に対する批判として用いられる論法。詳細は後述。
「部屋の場合」を読んで「そうかも……」と思った人も、「あなたの場合」の方を読むと「んっ?」とひっかかったのではないだろうか。この二つの論法の間には、本質的な差は存在しているだろうか?
元々はジョン・サール(John Searle)という哲学者が、1980年に発表した論文『心・脳・プログラム』(Minds, brains, and programs)[1]という論文中で提唱したもの。
当時、ロジャー・シャンク(Roger Schank)という人工知能学者やそのなかまたちによって、自然言語の文章をコンピューターに理解させる技術、例えば「文章を読ませた後、その文章に関する質問に答えさせる」と言ったような技術が進歩しつつあった。
これに対して「たとえ質問に答えられても、質問を「理解してる」とは言えないよな」とか言い出したのがこの論文である。
現在では、コンピューターの知性を問う「チューリング・テスト」と関連付けて語られることが多い。確かに上記の『脳・心・プログラム』でもチューリング・テストについては触れられている。しかし上記のように、本来は「チューリング・テスト」よりもシャンクの人工知能を念頭においたものであった。
上記の「部屋の場合」の説明を読んで、納得がいかなかった人も居るだろう。
多くの人がこの話には頭をかしげ、ジョン・サールに対して様々な反論がなされ、大いに議論を招いた。
ここではジョン・サール自身が紹介している「反論」をいくつか紹介する。
「部屋の中に居る人はシステムの一部に過ぎない。その人だけで見れば中国語を理解していないかもしれない。しかし、部屋にあるその長大な「マニュアル」、そのマニュアルに従って回答を計算するための鉛筆や紙、中国語の漢字を大量に備えたデータバンク、などもこの部屋が機能するためには必要だろう。これらすべてがシステムとなって、システム全体としては中国語を理解しているのだ。」
という反論である。
これに対するサールの再反論は、
「では、中に居る人が超天才で、それらのマニュアルやデータバンクを彼が全て暗記したとしよう。計算もすべて暗算でするのだ。つまり彼のみでシステムが完結しており、彼がシステム全体であるという場合を考える。しかしそれでも、中国語の「意味」についてはこのマニュアルについては一切書いていないので、彼も中国語の意味については無知のままだ。彼は中国語について理解していないのに、中国語の質問に回答できてしまう。つまり、システム全体で見たとしても中国語を理解していない。」
というものであった。
ちなみにこのような人物がもし実在したらと仮定すると、「中国語で話しかけると全く問題なく中国語で会話しており、行動面で見れば中国語を理解している人物と全く変わりが無いのに、本人の内面としては中国語の会話の意味を全く理解できていない」という非常に奇妙な存在となる。「哲学的ゾンビ」の亜種と言えるかもしれない。
「シャンクのプログラムのやることが入力(質問)と出力(回答)に限ってるからこういう妙な話になってくるんじゃないか?プログラムを実行するコンピューターをロボットの中に入れて、カメラで回りのものを「視て」、手足で「動き回れる」ようにすればいい。そのロボットの「脳」になったコンピューターはちゃんと「理解」できるようになったり、他の精神状態だって持つようになるだろう」
という反論である。
これに対するサールの再反論は、
「では、中国語の部屋にロボットを追加しよう。ロボットに付けられたテレビカメラで捉えた外の中国語が部屋の中に入力され、出力した中国語がロボットの手足を動かすようにするのだ。それでも何も変わるまい。中の人が中国語を理解できるようになるわけではない。」
というものであった。
「本物の中国人の脳を忠実にシミュレートするようなコンピューターを想像することができる。人間の脳と全く同じ方式で、質問を処理して回答を出すのだ。このコンピューターは中国語の質問を理解しているだろう?それを否定するなら、ネイティブの中国語話者が中国語を理解していることすら否定しないといけなくなるぞ」
という反論である。
ちなみに、本記事の上方にある「あなたの場合」は、上記の反論のうち下線部の部分を切り出してアレンジしたものと思ってもらえればよい。
これに対するサールの再反論は、
「部屋の中にいる人が行う操作を「中国人の脳のシナプスを忠実に再現した水路」を操作することに変更してみよう。水路につながったバルブを操作することでシナプスの働きを真似るのだ。そのための英語で書かれた完全なマニュアルをもらっている。中国人の脳のシミュレートを完全に果たした結果として、中国語の質問に答える中国語の回答が出てくるが……。この操作をしている人は中国語を理解していないし、「水路」だってそうだろう。脳の形式的な構造を再現するだけでは、脳が意識を生み出す因果的な特性を再現したり、志向的状態を生み出すことはできないだろう。」
というものであった。
だが、本当にそうだろうか?
水路で作った脳のシミュレーターは、意識を持ったり言葉を理解したりしないのだろうか?
この問題については、「中国脳」の記事も参照されたい。
これらI~IIIの後にも、
などなどがサールによって取り挙げられている。
それ以後も、21世紀になっても新たな論法での「中国語の部屋」への批判・反論が考え出され続けているという。
掲示板
56 ななしのよっしん
2025/07/06(日) 20:27:28 ID: OQIAuFUeZY
57 ななしのよっしん
2025/08/07(木) 15:52:43 ID: 8P8UhCRDyc
ある小窓の付いた部屋の前の張り紙にはこう書かれている
『超高速演算の部屋です。任意の正の整数を紙に記入して右の小窓に入れて下さい。入力された数nに対して、以下で定められる操作を繰り返し行います。
・n が偶数の場合、n を 2 で割る
・n が奇数の場合、n に 3 を掛けて 1 を足す
もしこの数字がループに入った場合はその内で最小の数を出力します。動作の正確性には万全を期して居ますが、もし検算して間違いを見つけた場合は以下にご連絡下さい。###-####-####』
部屋の中のマニュアルにはこう書かれている。
『正の整数が書かれた紙が左の小窓から入って来たら、手前の棚に重ねてある 1 の数字が印刷された紙を1枚なるべく早く丁寧に右の小窓から外に差し出して下さい。(※汚さない事!)入って来た紙は後ろのゴミ箱に重ねて入れておき、古紙回収業者が土曜日に来るので渡して下さい。(整理整頓。私語厳禁。)』
58 ななしのよっしん
2025/11/14(金) 03:40:29 ID: mZvMlfcpgK
>>55
いやかなり本質的な部分を突いていると思うよ。
こうした人工知能(かそうではない物)が工学的にどのように実装され機能するかというのかというのは、つまり全てだし
サールは純粋な論理学的思考遊戯として中国語の部屋を考えたのではなく、
実際のAIの未来を想定して、このようなAIが実際に現れうると予見して言ったんだ。ChatGPTを見てどう思ったかは知らないが
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最終更新:2025/12/16(火) 07:00
最終更新:2025/12/16(火) 06:00
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